不夜城 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043442010

作品紹介・あらすじ

アジア屈指の歓楽街・新宿歌舞伎町の中国人黒社会を器用に生き抜く劉健一。だが、上海マフィアのボスの片腕を殺し逃亡していたかつての相棒・呉富春が町に戻り、事態は変わった――。衝撃のデビュー作!!

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに夢中になれる本が読みたくなった。深く没頭して、気づいたら残り30ページになっているような、そんな本が読みたくなった。

    そこで手に取ったのが「不夜城」。作者は馳星周さん。

    とても評価が高いようで、強い期待感を持って読み始めた。

    果たして、一気読みの読書体験。あまりにも夢中になれた。

    舞台は新宿。時代は昭和後期? 台湾流民が歌舞伎町を支配してた時代は過ぎ去り、上海、北京、香港、マレーシア…という群雄割拠の時代が到来。

    そんな歌舞伎町で、主人公の健一は半々(日本人と台湾人の混血)としてのアイデンティティに苦しみ、孤高の処世術を身に着けていく。

    新宿の描写はとても色濃く、少し前にこんな時代があったのかと驚く。自分が過ごしてた裏側ではこんな抗争があったのかと。好奇心の強い読書家ならば、一気に引き込まれてしまう。

    どこまでが史実でどこからがフィクションなのか。境目が分からなくなるほどの描写力。

    そんな風に最初の100ページは、設定と世界観で読み手を惹きつける。

    それから「夏美」という名古屋からやってきた女性が健一に助けを求めるところから物語は動き出す。

    夏美の正体と目的が徐々に明らかになっていくさまは、さながら良質なミステリー小説。


    健一の過去の回想もまた良い。彼の人生が孤独と哀しみの一本道であったことが分かっていき、読者はその痛切感の虜になってしまう。

    中盤以降、物語はその加速度を増していき、気がつけば残り50ページ。

    健一と小蓮(夏美)が安寧を手に入れてほしいと強く願いつつも、それは難しいかもしれないという諦念もある。最後まで確信に至らない。作者は生粋のストーリーテラー。

    そして結末は、あまりにも哀しい。世界でたった一人、自分と同じ目をした人間と出会うことができた健一。だけど、その性質ゆえにあのような結末に至ってしまった。

    突き放されて、たった一人で路上に立ち尽くすような読後感。でもその孤独はどこか気分がいい。純度の高い孤独は独特の陶酔を持つのだということを教えてくれる小説。

    久しぶりに全てを忘れて没頭することができた。設定で惹きつけ、ストーリーで蹂躙する。文句なしに星5つ。大作であり傑作。読書家として、この小説に出会えて良かった。

    (書評ブログの方も宜しくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E8%A8%AD%E5%AE%9A%E3%81%A7%E6%83%B9%E3%81%8D%E3%81%A4%E3%81%91%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%A7%E8%B9%82%E8%BA%99%E3%81%99%E3%82%8B_%E4%B8%8D%E5%A4%9C%E5%9F%8E_%E9%A6%B3%E6%98%9F

  • 闇社会を描くハードボイルド。淡々と進む時間の中に、気づいたら引き込まれてました。ラストはハラハラドキドキでした。

  • 最近読んだ小説の中で、トップクラスに壮絶な描写、そしてラストでした。謀略&バイオレンス&セックスのどストレートなノワール+ハードボイルドサスペンスと思って読み進めていたら、ラストでこんな感情になるとは思いもしませんでした。

    小説の舞台となるのは歌舞伎町。中国や台湾のマフィアが暗躍するなか、繰り広げられる追走劇と策略。

    主人公となる劉健一は、自身の生き残りをかけてかつての相棒を探し出し、組織に差し出さなければならなくなる。そこに謎の夏美と名乗る謎多き美女が絡んできて、話はどんどん加速していきます。

    健一と夏美。互いに孤独を抱え惹かれあいながらも、一方でこれまで育ってきた境遇や、そしてそれぞれの事情ゆえに、相手を信じ切れず常に疑心暗鬼の状態。しかし健一は夏美を切り捨てた方が楽と、頭では理解しつつも夏美の孤独を自分に重ね、切り捨てられない。

    二人の関係性は自分の中では、ルパンと峰不二子に近いものがあったような気がします。この女性にこれ以上関わらない方がいい、と頭では理解しつつも惹かれざるを得ない。ルパンの場合はそれがコミカルに描かれているけど、この不夜城はそれがより壮絶に、より切なく、より狂おしく描かれている印象です。

    性描写がけっこうキツイ部分が多く、今までの自分はあまりそういうのは好きではなかったけど、この小説に関してはそれに意味が感じられた気がします。

    激しく、オーバーな描写はこの手の小説ならではの、読者へのサービスかとはじめは思っていました。しかしその激しさが、魂のぶつかりあいであり、健一と夏美、お互いがそれぞれを渇望する、その感情、情欲の強さを表しているように、後半は思えてきました。単に体の関係を超えた、精神の強い結びつきがここで表現されています。

    想い人であり、命を預けあう相棒、パートナーでありながら、一方で常に裏切られるのではないかという不安が付きまとう二人。そんな二人に迫るマフィアたちとタイムリミット。二人が迎える運命は……

    それまでの性描写であったり、バイオレンスな部分であったり、そしてラストの展開と、なかなかに忘れがたい作品になりそうです。

  • ひたすら暴力と裏切りが続く。ラストも個人的にはまさかの展開で、救いは無かった。
    が、ぐいぐい引き込まれて、ほぼ一気に読んだ。
    新宿には昔から縁がないが、ますます足が遠のきそうだ。

  •  彼らは互いの「決して人を信用しない」ことを信頼し、それをもって深く通じ合っていたのだと思う。

  • 何度読んでも面白い!

  • 愛されたことも愛したこともない、誰も信じられない健一。何かのためではなく、ただ生きるために生きていく。金と権力、覇権争い。裏切りが当たり前の健一の生きる世界は、ざらついて渇いているのにギラついていて、そしてどうしようもなく切なく寂しい。

    夏美に対して大きく括れば、それは愛だったのだと思う。けれど、健一も夏美も愛よりも生を優先する、ただそれだけだっただけなのだろう。分身。それがまさにしっくりくる。
    こんな場所ではなく、もっと別な場所だったなら、きっと。でも、そんな場所では決して出会うことはなかっただろうし、出会えたならもっと別の人生を歩んでいるでしょうしね。

  • これがデビュー作とは到底信じられない完成度の高さに只々驚くばかり。少しずつ読み進めるつもりが、思わず一気読みしてしまった。昨今、歌舞伎町や裏社会を舞台とする作品は随分と増えてきたものの、おいそれと今作を凌駕するのは困難であろうし、国産ノワール最高峰とも呼ばれている所以も堪能出来た。最悪の事態を切り抜けるべく謀略の限りを尽くす主人公・健一が抱く猛烈な生存本能は彼の抱える空虚な諦念と表裏一体なのだろうか。極限状態で惹かれ合う健一と夏美だが、あまりにも似た者同士だったため、悲劇的な結末を導くのは何とも皮肉的だ。

  • しばらくぶりの再読。映画を見て、こりゃ別物だな、と思った記憶と、全員悪人、全員滅亡的な話で印象、主人公はクールでクレバーでタフみたいなうっすらとした印象しか残っていなかった。が、再読して、主人公健一は、最初から最後まで焦燥感に駆られて、追われて、誰も信じられなくて、保険の保険の保険までかけて、その保険の一画が崩れて、追い詰められて、最後は、自分と同じ匂いがすると、生涯初めて愛したかもしれない女を自分の手で殺す羽目になり、そう踊らせた、そう仕向けた、最後は深い虚脱にとらわれつつ、養父楊偉民を深く深く憎むところまでが描かれる。/「親も兄弟も関係ない。おれ以外の人間は、みんな他人だ」/「おまえはおれが自由にできる女なのか。知らなかったな」/崔健「一無所有」「南泥湾」が聞きたくなる。台湾のポップスが聞きたくなる。

  • すごいなこれは。悪人しか出てこない。強烈なインパクト。
    早速続編を注文しました(笑)

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著者プロフィール

1965年北海道生まれ。横浜市立大学卒業。出版社勤務を経てフリーライターになる。96年『不夜城』で小説家としてデビュー。翌年に同作品で第18回吉川英治文学新人賞、98年に『鎮魂歌(レクイエム)不夜城2』で第51回日本推理作家協会賞、99年に『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。2020年、『少年と犬』で第163回直木賞受賞した。著者多数。

「2022年 『煉獄の使徒 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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