巷説百物語 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 463
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  • Amazon.co.jp ・本 (530ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043620029

感想・レビュー・書評

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  • 僕に読書の楽しさを教えてくれた運命の1冊。
    今回で読むのは3度目だけれど、読むたびに初めて出会った大学2回生(2004年)の夏を思い出す。
    あの頃この本に巡りあっていなければ、今の自分はなかったと思う。

    第130回直木賞を受賞した『巷説』シリーズのいちばんのおもしろみは、御行の又市一味が、江戸にはびこる悪事を妖怪がらみの大仕掛けで解決していくという時代小説風の凝ったストーリーにある。
    しかし僕はそれ以上に、京極さんの言葉の使い方に魅了された。
    圧巻は、「小豆洗い」でおぎんにさせているような一人語りだ。
    1人の人物に対話者の発言や質問を代弁させ、それによってただ1人の言葉だけで会話を進行させていくというその手法を初めて知ったとき、僕は本当に感動した。
    一方で、啖呵を切るようにまくしたてる又市のセリフも小気味よい。
    小説家って言葉を操る人なんだなって思った。

    1つ1つの文をなるべく短くすることにより、文が絶対にページをまたぐことがないよう編集されているのも意匠化である作者に似つかわしく、すばらしい(こういう美しさが僕は大好きなんだなあ)。
    カバーの装丁も含めて、この本は1つの芸術作品であると僕は思っている。

    シリーズで一貫して書かれているテーマは、人の世の悲しさだ。
    恨み、妬み、嫉み、憎悪、あるいは想いが届かぬ苦悩。
    理屈では割り切れない、ましてやお金では解決することができない人間の負の感情を丸く収めるべく、又市は悪を斬り、大掛かりな仕掛けをくり出す。
    生きていくっていうのはこんなにも悲しいことなんだと、又市の背中は読者に訴えかけてくるようだ。

    これからの人生で何百冊の小説を読んだとしても、この『巷説百物語』はきっと自分の中で「好きな小説トップ5」に入り続けているだろうな。

  • 伏線の張られ方、後始末の仕方・・・
    又市ほか、影のある仲間たちの魅力。
    引き込まれます。

  • 一つ目の物語を読み終えた時点で、「あ、やばい」とは思っていた。
    「これ、だめなやつだ」とも。
    それでも何とか耐えてきたのに、最後の最後、「帷子辻」でもう、限界を超えてしまったらしい。
    京極先生、私、ファンになります。

    もう、「すげぇ」なんて阿呆みたいな言葉しか出てこない。
    元々こういう話が好きというのもあるが、話の根底に流れているものが、好みど真ん中。
    「帷子辻」の又市の語りには、もう首を縦に振ることしかできなかった。

    怪力乱神を語らず、とは流石に君子ではないので言い切れないが、私自身、自分の目で見た事のない「あの世」は信じない性質だ。
    いや、というより、稲田殿と同じように、「いちゃもんの通じないものを求めるからこそいちゃもんつけるタイプ」とでも言うべきか。
    そんな私にとって、又市の言葉は、自分のかねてからの思いを代弁してくれたようなものだった。
    それは、「御行為奉――」の時だけではなく、物語の最後の台詞も含めて。
    上手く言えないけれど、心のどこかで、やっぱり、変わらないもの、終わらないもの、そういう何かを信じたい気持ちもある。
    けれど、生きていくには、信じてばかりいられないのだ。
    だからこそ、否定することで自分を納得させようとしているのかもしれない。
    そういう思いを、どこか又市と共有したような気持ちになった。
    だからこそ、「ドンピシャ」なのだ。

    というわけで、ちょっと続編探してくる。

  • 一番好きなのは最終話。<br>考えさせられるけれども、答えは見つからず。

  • 巷説百物語シリーズの始まり、やはり御大は面白い…。

    『妖怪の宴 妖怪の匣』とかで顕著なんだけど、御大は妖怪の存在自体を信じてはいない。いない側の立ち位置なんだけど、いないのに巷説で語られてきたことにむしろ強く興味を持っている(もちろん、神秘否定というわけではなく、道理が成り立たないからいないとしているに過ぎないのが御大の面白い部分なんだけど)。
    つまり妖怪が成り立つ理屈というか、何故そんなものが受け入れられたのか?ということに主題がある。

    だから本書は一貫して”妖怪の実在を肯定していない”。けれど、妖怪の仕業とした方が収まりが良いように構成されている。芝右衛門狸なんて特にそうだし、柳女は加害者がその仕組みを利用した形だな。
    冥界も妖怪も無いけれど、それを突き詰めていけば破滅しかない。
    兎角渡世は生き辛く、故に妖怪/冥界(ブラックボックス)が必要とされる。説明されないことが救いになることもあるってことだな。

    御大の妖怪観に馴染んでいると3倍くらい楽しい。思わずシリーズ全館買ってしまった。オススメです

  • 再読

    音読でするする進む文章。
    節回しが愉しい。

  • 諸国に伝わる怪異伝説を集めて行脚する考え物の百介。この純朴な青年が出くわす魑魅魍魎どもは、妖怪よりもっともっと恐ろしい存在である。

    怪談話と思いきやそれだけではない。謎解きの要素が濃い。
    そして、劇場型とでもいうような鮮やかな騙しのテクニック。騙されるのは悪党。懲悪の気持ちよさもある。

    登場人物の特異な風貌のせいでキャラクターも想像しやすく、人物がある程度固定されることで読みやすい。また物語の中で自然の風景がたてる音、鈴がなる音、動物が走る音などが効果的に使われていてぐいぐい読んでしまう。
    ふっと我にかえり背筋が寒くなることもある。

    続きの何冊か、読みたい。

  • やはり、良いよねぇ。
    又さんかっこいい。

    読み返すのは
    “小豆洗い”
    「この先はおやめなせぇ」

    江戸っ子訛りがうつりそうです。
    あんなにかっこよく話せたら気持ちよいでしょう。

    今年、最終巻が出ます。

  • 先生のファッション好きっすよ!

  • ハードカバーからの再読。以前ハードカバーで読んだときは初の京極夏彦で、旧字体や京極夏彦独特の文体に、読むのに時間を要したが、再読までの間の時間に、いくつか京極さんの本を読んだおかげか、比較的すらすら読むことができた。妖怪話をもとに、人間の住まう『現実』を明らかにする、御行又市とその仲間たちご一行の活躍には目を見張るものがある。そしてこの作品を読んで一言。「やはり一番怖ろしいものは人間である」。

著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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