アラビアの夜の種族 III (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 115
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043636051

作品紹介・あらすじ

栄光の都に迫る敵軍に、エジプト部隊は恐慌を来し遁走した。『災厄の書』の譚りおろしはまにあうのか。奴隷アイユーブは毎夜、語り部の許に通い続ける。記憶と異界を交差しながら譚りつむがれる年代記。「暴虐の魔王が征伐される。だが地下阿房宮の夢はとどまらない-」。闇から生まれた物語は呪詛を胎み、術計は独走し、尋常ならざる事態が出来する!書物はナポレオンの野望を打ち砕くのか??怒涛の物語、第三部完結篇。

感想・レビュー・書評

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  • 「読み終えたのに、読み終えた感じがしない」※個人の感想です。

    三人の主人公の話が繋がり、混沌とした展開が続く。そして現実世界はジリジリと追い込まれていく…

    「語ること」によってつながっていく物語の姿と、読むことによって自分の身体に取り入れて変容していく感覚などについて考える。

    物語が紡がれて浮かび上がるもう一人の主人公…

    真夜中に読み終えて、朝起きた時
    「読み終えたんだよね?」と夢から覚めた様な…なんだか落ち着かず。
    続編があるとかではなく、なんだかまだ続いている気分。

    何故かはわからないけど「私達は物語の断片にしか触れることはできない」という言葉が頭に浮かんだ。

  • なんて熱量の高い奇書。翻訳小説、ファンタジー小説、歴史小説、時代小説、娯楽小説といった、様々な「物語」的要素が虚実とともに渾然一体となり、凄まじいエネルギーの塊へと化けて読み手の思考を凌駕して奪ってきます。
    そして迎える、予想外の結末。

    ヨーロッパ世界において、フランスはナポレオンが覇権を握った時代。彼は対イギリス政策もあり、エジプト遠征を開始する。
    迎え撃つイスラムのエジプト勢は、宗主国オスマン・トルコの弱体化に伴って諸勢力が乱立して一枚岩ではなく、軍の近代化もヨーロッパ勢に比して著しく遅れている。

    そんな中の秘策として、エジプト側に与する奴隷青年アイユーブは、読んだ人間を破滅に追い込むとされる伝説の書「災厄の書」をナポレオンに献上するため、主君の許可を経て翻訳作業に取り組むのだけど…。

    謎多き語り手が、夜毎に少しずつ、作業者たちに授ける災厄の書の物語は、生まれた時代や空間を異にしながらも、やがては交わった三人の青年たちの物語。
    淀みなく語られていく、それぞれの数奇な人生におけるむき出しの劣等感、鬱屈、孤独、執着性、凶暴性、はたまた、それらと表裏一体とでもいうように現れる不思議と陽性な感情は、なんだかじわじわと読者を捕食していくような危うい感覚に陥らせるのに、それでも、読み進めずにはいられない。
    そして、四人目の青年の物語も。

    読みきるのにかなりのエネルギーが必要だし、文体も古川さんらしく少し独特なので、好みは分かれそう。
    でも、その壮大な世界にどっぷり浸かってみたい方にはおすすめ。
    (ネタバレしてしまうと面白くないタイプの作品だと思うので、どうにも言葉足らずなレビューになってしまい、魅力が伝わらなかったかもしれません。けれど、個人的には、とても没頭、というか、災厄の書の聞き手さながらに耽溺できた作品でした)

  • 著者の古川日出男さんが中東旅行で発見した本を翻訳したとばかり思っていたら、書評家の豊崎由美さんのお話によると、「偽書もの」のスタイルを取っているのだそうで、すっかり騙されてしまいました!アイユーブの物語が始まるところで終わり、ゾクッとさせられました。面白いのに何故か数行で寝落ちる不思議な文体!

  • ナポレオンどうなったのか、不完全燃焼だが。
    そんな違和感はどっかいっちゃうくらい、この作品はすごかった。
    最初から最後まで、ずっと引き込まれっぱなし。作者の文章がかなり特徴的だったのが、私はツボった。好みは分かれるだろうけど、テクスト的に非常に面白く、読書で非日常の世界にヒューンと連れて行ってくれるような文章力。
    そして、この作品を作り上げた筆力。圧倒されました。

  • いやあ長かったなあ、というのが全編を通しての印象。そして、肩透かしを食ったようなあっけないラストに消化不良感が残った。

    第3巻では、魔王サフィアーン(サフィアーンとアーダムの人格が同居し、片方が眠ると片方が覚醒する、そして石室の守護者たる巨竜をも宿している)と魔術師ファラーが対決する。ここまでは結構盛り上がっていたのだが、その後、サフィアーンが竜を説得してあっさりと石室を脱出、パワーアップしたファラーと再度対決した魔王サフィアーンの中のアーダムがあっさり敗北を悟り、サフィアーンとファラーが力を合わせて蛇神ジンニーアをこれもあっさり退治。ファラーの説得によりアーダムもあっさり消滅、と夢物語は呆気なく一気に終息してしまう。

    そして、「災厄の書」の本当の役割(狙い)が明らかとなって、現実世界の物語も終了となる。こちらは捻りが効いていて、ちょっと予想外の結末ではあった。

  • 文庫本によって三分割された物語は読者の手によって一冊に綴られる。
    読み終えた者は一冊の書となる。邂逅された『空白』を語るのは読者の割持ち。
    夜が朝(あした)に代わり、朝(あした)が夜に代わる。

    さあ_

  • 最後まで読んでやっとわかった。面白いのだけど読みにくいし、ちょっと表現が何度もくどいと思いながら読んでいた。翻訳だから仕方ないかと思い、あとがきまで読んで、ちょっと待て、でも。カテゴリーをSFに変えました。(空想科学小説 科学がちょっと違うか、、、)そう言えば文庫本のカバーまでアラビア的で、、完全に、、、された。

  • はぁぁあ、、

    久しぶりにこんなに読書に耽溺しました。
    なかなかアラビアの世界から出られなくなる幸せ。
    大団円と、最後の一文に驚く。
    構造や文体にも脱帽です。
    いやー、すっかり騙された!

  • 読み切った!長かったー。
    1巻は不思議な世界観に引き込まれ、アーダムの人生を夢中で読み、
    2巻はファラーとサフィアーンの物語に分かれたせいか少しだれて、
    3巻は主人公3人がついに相見えるあたりから一気に読めた。
    ナポレオンが攻めてくるという現実の歴史と、ファンタジーのMIXに、アラビアが独特な世界観。
    災いの書のほうは、途中はどうなることかと思ったけど、最後は大団円中の大団円で意外だった。
    アイユーブは裏切るかなと思ってたら、さらにひとひねりあった。

  • 気づかぬうちに災いの書の虜になってしまい、家事をする気も、何をする気も失せ、寝食も忘れて没入して読みふけってしまった。

    ズームルッドの語る物語を最後まで味わえて満悦!と放心してしまったイスマイールベイ同様、読後、自身も、壮大な砂の年代記を読み終えた充足感に心満たされ、現実に目を向ける気がおきず、1日ぼんやり夢うつつで過ごしてしまった。

    陰のアーダム、暗のファラー、陽のサフィアーン、それぞれが実に魅力的だった。

    サフィアーンの身体に憑依したアーダムが眠りに落ちるとサフィアーンが目覚め、サフィアーンが寝入るとアーダムが目覚め、の繰り返しが喜劇的で面白かった。

    また、森の夢の石室に閉じ込められた状況を悲観して眠りに逃げてしまったアーダムに対して、サフィアーンは状況をよく知るために冷静に探索し、ありのままを受け止めることで、森と共生し、森の守護者と共鳴し、石室を出る方法を見出すこととなった、逆境においても陽!という前向きに物事を捉える爽やかさな姿がイケメンだと感服した、!

    サフィアーンを利用してアーダムを打ち取り、その手柄を独り占めしたファラーはなんて卑怯なんだ!と腹が立ったが、ジンニスタンの消滅を防ぐため、一人ジンニスタンに残る決断をしたのは、引き際鮮やかで有終の美を飾ったなと拍手でした。

    蛇のジンニーアの言葉があまりにも下品であけすけなのがドン引きだったけど。。。

    文末にはあとがきとして、翻訳の元になった本との出会いについて書かれていたので、この作品は翻訳本なんだ、とすっかり騙されてしまった。

    読後に、先達から、「最初から最後まで全部壮大な虚構なんだよ」と教わり、アイユーブの仕組んだ策略以上に驚かされた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。著作に『13』『沈黙』『アビシニアン』『アラビアの夜の種族』『中国行きのスロウ・ボートRMX』『サウンドトラック』『ボディ・アンド・ソウル』『gift』『ベルカ、吠えないのか?』『LOVE』『ロックンロール七部作』『ルート350』『僕たちは歩かない』『サマーバケーションEP』『ハル、ハル、ハル』『ゴッドスター』『聖家族』『MUSIC』『4444』『ノン+フィクション』『TYOゴシック』。対談集に『フルカワヒデオスピークス!』。CD作品にフルカワヒデオプラス『MUSIC:無謀の季節』the coffee group『ワンコインからワンドリップ』がある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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