- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043636051
作品紹介・あらすじ
栄光の都に迫る敵軍に、エジプト部隊は恐慌を来し遁走した。『災厄の書』の譚りおろしはまにあうのか。奴隷アイユーブは毎夜、語り部の許に通い続ける。記憶と異界を交差しながら譚りつむがれる年代記。「暴虐の魔王が征伐される。だが地下阿房宮の夢はとどまらない-」。闇から生まれた物語は呪詛を胎み、術計は独走し、尋常ならざる事態が出来する!書物はナポレオンの野望を打ち砕くのか??怒涛の物語、第三部完結篇。
感想・レビュー・書評
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「読み終えたのに、読み終えた感じがしない」※個人の感想です。
三人の主人公の話が繋がり、混沌とした展開が続く。そして現実世界はジリジリと追い込まれていく…
「語ること」によってつながっていく物語の姿と、読むことによって自分の身体に取り入れて変容していく感覚などについて考える。
物語が紡がれて浮かび上がるもう一人の主人公…
真夜中に読み終えて、朝起きた時
「読み終えたんだよね?」と夢から覚めた様な…なんだか落ち着かず。
続編があるとかではなく、なんだかまだ続いている気分。
何故かはわからないけど「私達は物語の断片にしか触れることはできない」という言葉が頭に浮かんだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
なんて熱量の高い奇書。翻訳小説、ファンタジー小説、歴史小説、時代小説、娯楽小説といった、様々な「物語」的要素が虚実とともに渾然一体となり、凄まじいエネルギーの塊へと化けて読み手の思考を凌駕して奪ってきます。
そして迎える、予想外の結末。
ヨーロッパ世界において、フランスはナポレオンが覇権を握った時代。彼は対イギリス政策もあり、エジプト遠征を開始する。
迎え撃つイスラムのエジプト勢は、宗主国オスマン・トルコの弱体化に伴って諸勢力が乱立して一枚岩ではなく、軍の近代化もヨーロッパ勢に比して著しく遅れている。
そんな中の秘策として、エジプト側に与する奴隷青年アイユーブは、読んだ人間を破滅に追い込むとされる伝説の書「災厄の書」をナポレオンに献上するため、主君の許可を経て翻訳作業に取り組むのだけど…。
謎多き語り手が、夜毎に少しずつ、作業者たちに授ける災厄の書の物語は、生まれた時代や空間を異にしながらも、やがては交わった三人の青年たちの物語。
淀みなく語られていく、それぞれの数奇な人生におけるむき出しの劣等感、鬱屈、孤独、執着性、凶暴性、はたまた、それらと表裏一体とでもいうように現れる不思議と陽性な感情は、なんだかじわじわと読者を捕食していくような危うい感覚に陥らせるのに、それでも、読み進めずにはいられない。
そして、四人目の青年の物語も。
読みきるのにかなりのエネルギーが必要だし、文体も古川さんらしく少し独特なので、好みは分かれそう。
でも、その壮大な世界にどっぷり浸かってみたい方にはおすすめ。
(ネタバレしてしまうと面白くないタイプの作品だと思うので、どうにも言葉足らずなレビューになってしまい、魅力が伝わらなかったかもしれません。けれど、個人的には、とても没頭、というか、災厄の書の聞き手さながらに耽溺できた作品でした) -
著者の古川日出男さんが中東旅行で発見した本を翻訳したとばかり思っていたら、書評家の豊崎由美さんのお話によると、「偽書もの」のスタイルを取っているのだそうで、すっかり騙されてしまいました!アイユーブの物語が始まるところで終わり、ゾクッとさせられました。面白いのに何故か数行で寝落ちる不思議な文体!
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ナポレオンどうなったのか、不完全燃焼だが。
そんな違和感はどっかいっちゃうくらい、この作品はすごかった。
最初から最後まで、ずっと引き込まれっぱなし。作者の文章がかなり特徴的だったのが、私はツボった。好みは分かれるだろうけど、テクスト的に非常に面白く、読書で非日常の世界にヒューンと連れて行ってくれるような文章力。
そして、この作品を作り上げた筆力。圧倒されました。 -
いやあ長かったなあ、というのが全編を通しての印象。そして、肩透かしを食ったようなあっけないラストに消化不良感が残った。
第3巻では、魔王サフィアーン(サフィアーンとアーダムの人格が同居し、片方が眠ると片方が覚醒する、そして石室の守護者たる巨竜をも宿している)と魔術師ファラーが対決する。ここまでは結構盛り上がっていたのだが、その後、サフィアーンが竜を説得してあっさりと石室を脱出、パワーアップしたファラーと再度対決した魔王サフィアーンの中のアーダムがあっさり敗北を悟り、サフィアーンとファラーが力を合わせて蛇神ジンニーアをこれもあっさり退治。ファラーの説得によりアーダムもあっさり消滅、と夢物語は呆気なく一気に終息してしまう。
そして、「災厄の書」の本当の役割(狙い)が明らかとなって、現実世界の物語も終了となる。こちらは捻りが効いていて、ちょっと予想外の結末ではあった。 -
文庫本によって三分割された物語は読者の手によって一冊に綴られる。
読み終えた者は一冊の書となる。邂逅された『空白』を語るのは読者の割持ち。
夜が朝(あした)に代わり、朝(あした)が夜に代わる。
さあ_