風車祭 下 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043647071

作品紹介・あらすじ

ある日、ニライカナイの神がこう告げた。「島を大津波が襲うだろう」。この危機の予言を、果たして島人は避けることができるのか?一方、マブイとしてさすらうピシャーマは、あの世に帰りたいと切に願う。武志とピシャーマの淡い恋に六本足の妖怪豚の横やりが入って、島も恋も大パニックに!?この涙と笑いあふれるマジックリアリズムの傑作は、直木賞候補作にもなって話題を呼んだ。

感想・レビュー・書評

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  • マブイ(魂)を落とし、
    見えない存在なはずの女性に
    恋してしまった主人公。
    そして島に災害が訪れようとしている現実。

    突拍子もないストーリーだけれど、
    沖縄だったらあり得るかも…と思えてしまう。
    沖縄ってやっぱり神の島って感じだよなぁ。
    コミカルな展開ばかりかと思いきや、
    しっかり泣かせもしてくるんだよ。
    ギーギーの件は本当切なくなってしまった。

    池上さんの沖縄を舞台にした本を
    しばらく色々堪能したいなぁと思う日々です。

  • ★私は島に残ります。(p.403)
    ■5つのポイント
    ・これほど豊穣かつ楽しくて力強く、そして切ない物語をこれまで知らなかったなんて!!
    ・沖縄という風土とは、沖縄人とは、を描こうとしているようにも見える。
    ・マブイなくし組四人と六本足妖怪ブタのギーギーは行動し、マブイだけの存在ピシャーマは成仏したがっている? 彼女には役割がないのか?
    ・大津波予知により右往左往する島の呪術師たち。でもがんばる。
    ・ほとんど人外のチーチーマーチューとターチーマーチューはマイペース。

    ■簡単なメモ
    【一行目】今日の島は朝から賑やかだ。旧暦の九月七日の始まりは、木々の無数のざわめきと、いつになく大きく鳴り響く潮騒、そして島唄と三線の微かな音色の重なりだった。

    【愛】《愛とは絶叫である。ギーギーはその声に満足した。》(上巻p.376)
    【赤嶺/あかみね】ご近所のユタ。
    【遊ぶ】《島では大人たちの方が子供よりよく遊ぶ。島社会は子供でいることが損なのである。》(下巻p.362)
    【アマミキヨ神】創世の神。
    【アラピキ橋】妖怪がたくさんいる。
    【泡】アラピキ橋の下を流れる川がときどき泡立つのはギーギーが「洗濯」をしているから。いろいろ化学変化にのっとって泡を起こし記憶を失ってすっきりして戻ってくる。
    【郁子/いくこ】玉城郁子。武志の同級生である睦子の妹。《赤毛の硬い髪。ひと月寝こんだくらいでは、色が落ちない日焼けした褐色の肌。一旦口を開いたら自己主張をやめない性格。泥と共生関係にある汚れた衣服。この娘は島の子供の典型をいくつも備えている。》(上巻p.103)。父親が医師なのでいつの間にか医術用語を覚えてしまい人形を手術して殺してしまった。美少女ヒロインに変身したい。フジに負けず劣らずキャラが強い。うっかりするとメンヘラ系。
    【石垣島】舞台は石垣島と思われる。
    【石敢當/いしがんとう】T字路に設置する魔除けのようなもの。石ころに「石敢當」と彫ってある。スーパーでも販売されている人気商品。ぼくもひとつ持ってます。同じ発想の発展形のようなものとして門に設けられる「ピーフン」という壁がある。
    【意識】《だったら魂と意識はまた別のものなのではないか。だとすれば、意識というのは肉体が生みだすちうことになる。》(上巻p.237)。《『記憶』、それだと思った。意識は昨日という過去が生みだすものなのだ。現在の自分は過去の記憶を引き継いで、明日に間違いなく渡すだけの通過点にすぎない。それを意識と呼ぶならなんと矮小な存在であろう。》(上巻p.237)
    【イシクス山】この山を崩して近代的な都市を作ったが、人口に比して大きすぎる都市には人がいない。そして、イシクス山は重要な位置づけにあったので神は島を滅ぼすことに決めた。
    【御嶽/ウタキ】七大御嶽などあるらしい。男性の立ち入りは禁止されているようだ。
    【ウマチー】旧暦二月十五日、麦の豊作を予祝する行事だが今は麦を作る農家がなくなったのでひっそりした祭りになってしまった。
    【噂】《いい加減な人物の語る噂ほど、人の心を遠ざけるものはない。》(下巻p.222)
    【沖縄人】《沖縄人の血には帰巣本能が備わっている。たとえ生まれた土地が痩せていても、海を渡って結局島に戻ってくる。》(下巻p.340)
    【お茶】沖縄の水はカルシウムを多く含みかき混ぜると泡立ち、メレンゲ状にした茶を飲むのが沖縄の茶道で王侯たちは泡立った「ブクブク茶」を愛した。
    【オバァ】オバァには三種類ある。①市民階級の中での最高位に位置する高貴な称号で世襲制ではない。成人女性。知識と経験が豊富。孤独でない。健康体であること。最重要なのは市民から好かれていること。トミなどがこれにあたる。②厚かましくて身勝手な高齢女性に対する蔑称。階級社会の最下層になる。条件はほぼ上記の高貴な称号と同じ。最重要なのは市民から嫌われていること。当然フジなどがこれにあたる。③何事にも動じなく世間の評価と関わりなく泰然自若と生きている様を表す言葉としてのオバァ。残飯オバァなどがこれにあたる。
    【思い出】《思い出があるんだろ。退屈じゃないよ》(上巻p.105)
    【風車祭/カジマヤー】《カジマヤーとは沖縄の数え九十七歳の長寿を祝う祭りである。たくさんのカラフルな風車をオープンカーに飾ってパレードをする。仲村渠のオバァはこの日のために今まで長生きしてきた。もっと厳密にいうならば、この日のためだけに生まれてきたといっても過言ではない。オバァの九十七年の間の様々な罪が許される、島をあげての祝いの日だ。》(上巻p.11)。なんか、えらい日ですね。フジのカジマヤーから話は始まる。
    【カメ】前新川首里大屋子家の直系の子孫。
    【ギーギー】沖縄の豚はブーブーではなくギーギーと鳴くことになっているので呼びかけるとき「ギーギー」と言ったりするようだ。ピシャーマといっしょにやってきた巨大で六本足の雌豚は自分がピシャーマの面倒を見ているつもりで目の見えないピシャーマを誘導する盲動豚の役を果たしているがついつい残飯などの臭いところに引き寄せられたりする。もとはただの豚だったが飼い主が成長の限界に挑戦してしまい子牛ほどになったときエンゲル係数が高すぎるので捨てられた。その後必要に迫られ乳房が変貌し二本の足が増えた。その頃から妖怪化してきたと思われる。現在は八百キロを超える体重。武志に恋をし、フジの入れ知恵で人間に変身できるようになる。《ギーギーの特技はブーイングである。これはすべての豚に備わった能力だ。》(上巻p.364)
    【ギガズン】変死者のこと。そのままではまともに葬ってもらえない。
    【北崎倫子/きたざき・のりこ】武志が好きな女優。
    【グソー】後生。あの世のことかと。
    【慶田盛のオジィ/けだもりのおじい】月のいい夜には味わい深い枯れた声で三線を弾き語りしながら散歩しているオジィ。歌は聞こえども姿を見ることはなかなかできない。三十番まである長い物語歌「マヘラチィユンタ」を好んで歌う。どうやらこの世の存在ではなく三線に取り憑いて三線から三線を渡り続けている存在のようだ。
    【言葉】《内容がわからなくても、自然と笑みが零れてしまう武志だった。》《島の言葉は暑さで伸びて相手を弛緩させる働きがあるようで、喧嘩で怒鳴り合っても平和な音にしか聞こえないから、怒る気力も萎えてくる。特に畏まった葬式のような場所で、方言でどんなに殊勝なお悔やみを述べても、葬儀に参列する人は必死で笑いを堪えて涙どころではなくなる。》《会話では笑いを、歌謡では情感を追求してきた島の言葉は、今ではほんの僅かな年寄りしか使用しない言語になってしまった。》(下巻p.368)
    【サーダカー生まれ】生まれつき霊力の高い人のことらしい。
    【残飯オバァ】残飯入れから腐る直前の美味しい上澄みを掬って食べるオバァ。彼女による残飯占いの的中率は高い。
    【刺激】《何しろ天国に近いこの島では、刺激的な日々とは無縁なのであるから、積極的に事を起こさないと、昨日も今日も明日も変化がないのである。》(上巻p.32)
    【シチの日】旧暦八月十五日。あの世の正月。各地で失われていっているが、川平(かびら)地区ではシチ祭が盛大に行われている。
    【シニマブイ】落としてから長時間を経てもう戻すことができなくなったマブイ。見つけることができたらむしろ生き生きしている。
    【十八番街】旧歓楽街。梯子に梯子を重ねて行き着く先。睦子が出没する。
    【十六日祭/ジュウルクニチ】旧暦一月十六日、島中の人間が墓場に集まりどんちゃん騒ぎや社交をする。
    【淳子】《最悪、あたしだったらいっそ死ぬね》(上巻p.441)
    【職】《彼らにとって職のないことは大したマイナス要素にはならない。職がなくても何とか生きていける風土だからだ。これに偶然、神様の思し召しで職が転がりこんだら、人生の勝利者といっていいほどだ。それで幾つか職を転々として、数十年後、結局働くことに向いていないと気がつくのが定番だ。周囲を見渡せば、皆同じことを考えているので、落伍者にはならない。》(下巻p.340)
    【植物】島の植物は旺盛な繁殖力を持ち、人間と勢力争いをしている。油断したらすぐ密林を作ってしまう。
    【精神医療】《沖縄では本土と比べてとりわけ精神病治療の遅れが目立つ。それは風土がもたらす事情が治療行為を阻むからだった。ちょっとした風変わりな言動は、神がかりとして別の治療者の手にかかることになったり、珍重されたりする。通常では入院すべき人物でも生まれが高い人間だからとか、先祖の拝みが不足しているからだとか、超常的な解釈がなされそのまま社会に受け入れられている場合が多いのである。》(上巻p.312)
    【ターチーマーチュー】飲んだくれ兄弟のひとり。つむじがふたつという意味の名前。チーチーマーチューの弟。ともにいい海人だったが親戚に騙されていたことを知り飲んだくれになった。兄の絵や弟の船の彫刻をもらうと商売繁盛するとかで商売の神のような存在になって世話を焼いてもらえ日々飲んだくれている。
    【ダートゥーダー】懲罰神。
    【だからよー】《当事者意識のない無責任な肯定または否定》(上巻p.34)のとき使う。対応する日本語はないらしい。関西弁なら「せやなあ」あたりが近いかも。ほとんどすべての受け答えがこれで可能。
    【武志/たけし】比嘉武志。商工高校に通う高校生。とっつきにくいが驚くほど素直。影響を受けやすいタイプ。さまざまな風習を知っているトミを尊敬してくれている数少ない人物の一人で、フジやハツを嫌っている。典型的な沖縄顔。《武志は確かにいい男だからねぇ。》(下巻p.332)。けっこうモテてる。バスケットボール部員。小柄だが前進バネみたいでジャンプ力がある。
    【種子取祭/タニドウル】旧暦十月立冬。
    【玉城郁子/たまき・いくこ】→郁子
    【玉城睦子/たまき・むつこ】→睦子
    【チーチーマーチュー】飲んだくれ兄弟の一人。つむじがひとつという意味の名前。ターチーマーチューの兄。彼が描いた絵を飾ると商売繁盛するのでわりとみんなから大事にされている。
    【菊酒/ちぐざぎ】重陽節。旧暦九月九日。男子の節句。
    【長寿】《不思議なことには慣れている連中ばかりだ。事実は事実として疑問を挟まずに甘受する姿勢が長寿をもたらしてきたのだ。》(下巻p.221)
    【ツカサ】二種類いる巫女のひとつ。御嶽を専門に守り島の祭祀を任されている。沖縄本島ではノロと呼ばれる。七つの役職があり《最高位のホールザーマイから順にイラビンガニ厄除け願いをするキライ、航海安全担当神職のシドゥとフンナイ、豊年、豊作と水元の願い担当の神職であるユヌヌシィ、御嶽の管理担当神職のヤマアタリと分けられている。》(上巻p.396)
    【テーテームーニー】舌っ足らずの娘。美少女ヒロイン。
    【冬至/トウンジー】旧暦十一月十一日。
    【トートーメー】先祖の位牌。
    【トミ】フジの娘。八十歳。出戻ってきて半世紀。年寄り三世代の一家の中でいちばん苦労している。母と娘にいつか天罰が下ればいいと思っている。
    【長崎御願/ながさきおがん】島の七大御嶽のひとつ。神聖とされるアラマリナー泉がある。ギーギーはピシャーマはここで出会った。
    【仲村渠家/なかんだかりけ】《こんど結婚する優子が十九歳。優子の母の美津子が四十四歳。美津子の母のハツが六十二歳。ハツの母のトミが八十歳。トミの母のフジが九十五歳……》(上巻p.102)ということで五世代が健在。
    【仲村渠フジ/なかんだかり・ふじ】→フジ
    【生ゴミ】生ゴミの腐敗臭も島の風物詩を構成するひとつなんだとか。(上巻p.216)
    【ニーニー】お兄さん。
    【ニーブイカーブイ】居眠りでうとうとしている人。悪の権化。
    【ニーラスク】全ての命が生まれる国。
    【ニライカナイの国】根の国。
    【ニライ神】ニーラスクの国からやって来る。島に命を運ぶのが役目。
    【ヌスクマーペー】恋人と別れ別れにされ石になった娘。大戦のとき島を守るためにわが身を犠牲にしすでにグソーに帰っている。
    【ハーメー】祖母。
    【ハツ】トミの娘、フジの孫。数年前出戻ってきた。六十二歳。古くからの風習を「迷信」として軽んじはじめた世代。
    【ピーフン】石敢當と同じ発想から発展した魔除け。魔物や邪気はまっすぐやっている発想から入り口に設けられた壁のようなもの。ときおり沖縄の家で見かけます。
    【比嘉武志/ひが・たけし】→武志
    【ピシャーマ】琉球王朝時代では士族の女の童名で「お嬢さん」の意。マイアラカーシナゴーヤー(前新川首里大屋子)の娘で一七五〇年に石垣島に生まれずっと生きて(?)きた。二十歳前後に見える。紅型を着ている。本人は幽霊ではないと言う。盲目のようだ。花嫁行列のときに石になりそれから二百四十六年間島にいる。石の身体は明和の大津波のときに砕け視力と声を喪った。《ずっと彼女は島の夢をみている。彼女の島は二百二十八年前の島だった。》(上巻p.109)
    【ビッチンヤマ御嶽】旧歓楽街の十八番街あたりにあるらしい。元はシーサイドの庭園のような場所だったらしいが長年の開発により海岸は遠ざかりビルに囲まれることとなった。チーチーマーチューとターチーマーチューの根城。異人が住むとされ忌避感のある神域となっている。
    【宏明/ひろあき】武志の友人でクラスメートで同じバスケットボール部員。背が高い。両親は日本人(ヤマトンチュ)らしい。睦子に気があるようだ。
    【フジ】石垣島の九十七歳。強靱な肉体と精神と食欲を持つ。虫歯もなく自前の歯が全部揃っている。カジマヤーを迎えるために生きてきた。「金も愛も権力も、そんなものは糞である」(上巻p.12)と言った。《人の幸福ならたとえ娘のものでも妬ましい》(上巻p.21)というタイプ。《安全を確保したところから、ゴタゴタを見ることを有意義としている》(上巻p.31)。《少女と中年と老婆の三つの精神を併せ持った彼女の女心は、とても複雑である。起こらないことは波風立ててでも起こそう、と決めたのだ。》(上巻p.33)。《彼女の皺で、苦労のために作られたものは一本もない。苦労すると寿命が縮まると信じているから、フジの顔はすべて笑い皺で構成されている。》(上巻p.33)。改名前の名前は「ミダグ」といい、八重山にしかない珍しい名だった。
    【フジへの質問】何か質問したらその回答には金を取る。松竹梅コースがあり、最低価格の梅は「ほとんどすべてが大嘘の煙に覆われて聞くに値しない」で、竹は「嘘も交えているが、よく考えれば納得することもある」で、松は「大きな真実の前で小嘘をついて事実を捩じ曲げる」。
    【豚】沖縄の豚は本土の狐や狸のように人を騙す動物。沖縄で妖怪と言えば化け豚。ギーギーと鳴く。
    【冬】日本本土でなら初夏くらいの感じ。過ごしやすい季節。
    【フルウチガナシ】便所の神様。なぜか、落としたマブイを探し出してくれるらしい。
    【ヘンなヤツ】《ホールザーマイは仲村渠フジといい、この兄弟といい、変な人間に瑞相が現れることを不思議に思っていた。》(下巻p.321)
    【ホールザーマイ】大阿母。最高神職の位。とっても苦労している。
    【マーペー】ピシャーマ同様、島に残された使者。
    【前新川首里大屋子/マイアラカーシナゴーヤー】ピシャーマの実家。なんとフジのひいひいお祖母さんの実家でもある。子どもの頃フジはひいひいお祖母さんに相当いじめられた。
    【マジムン】魔物のこと。
    【マゾームノーナ】妖怪火。近づいてくると臭うらしい。
    【マニアック】《いきなりマニアの世界から紹介するのがフジのやり方だ。》(上巻p.402)
    【マブイ】魂とは異なるらしい。上巻p.281から数ページ書かれているけど、解釈してみるに、マブイは個にして全、全にして個といったところか。過去からの文化や慣習を流れとして受け継ぎつつ、一瞬だけ現世にあらわれている部分が個でありマブイと呼ばれるもの。マブイを落とすというのはその流れから個が切り離されて「いまここ」にいる資格を失った状態で魂と呼ばれる状態。
    【マブイを落とす】マブイを落とすことは日常茶飯事なのだとか。落としたら探してユタにマブイ籠めしてもらう。フジは都合三十四回落としザルと呆れられた。島のユタはフジのマブイを拾うので消耗して早死にしたが、娘にもうフジの魂だけは拾うなと遺言を遺している。マブイを落とすと喉が渇く。ピシャーマと出会い、武志と郁子はマブイを落としかけている。
    【マユンガナシィ】ニライ神の使者。
    【美香】マブイを落とした女子高生。
    【三崎町】新しい歓楽街。観光客や宏明が出没する。
    【ミルク】豊穣の女神。
    【鬼餠/ムーチー】旧暦十二月八日。
    【睦子/むつこ】玉城睦子。武志の同級生で武志に気があるようだ。バスケットボール部マネージャー。胸が大きい。十六歳にして深酒をしなければ眠れない体質になっている。旧歓楽街の十八番街によく出没し泥酔し路上に転がっている。《睦子もまたこの道を覆う泥酔者の常連である。刺殺死体の現場検証さながらに、仰向けに転がった睦子は、午前六時頃にさわやかな朝を道で迎える。ぐいと背伸びをして、寝ている他の人を起こさぬよう、そっと立ち上がって制服のプリーツスカートをぱんぱんと払う。鞄からブレザーを取り出して羽織ると学校に行く時間になっている。睦子は毎日元気よく登校する善良な皆勤学生なのだ。》(上巻p.248)
    【明和の大津波】明和八年八重山諸島を襲った大津波。最大波高八十五メートルを超えるとされる。八重山だけで津波による死者千九百十三人。このとき石になったピシャーマの身体が砕けマブイが解放された。
    【ユタ】二種類いる巫女のひとつ。ツカサとは異なり日常的なさまざまを解決してくれる在野の巫女。マブイを落としてもマブイ籠めで戻してくれる。
    【六本足】ギーギーには足が六本できた。六本あるとけっこう便利なので四本の動物より進化したものと思われる。
    【ワジワジー】ムカつくよ。
    【ワン】俺。

    ■その他の沖縄語(途中までメモしてましたが…)

    【アキサミヨー】あらあら。
    【アギジャ】くそっ。
    【アギジャビヨー】おやまあ。/ひゃあ。
    【アゲーッ】この野郎。
    【アッパー】母。
    【イーバーヤサ】いい按配なんじゃない。
    【イフナー】奇妙な。
    【ウートートー】お祈り。
    【ゥワー】→豚
    【エーッ】おい。
    【カメー】食べなさい。
    【ガンマリ】嫌がらせ。
    【キッサ】今。
    【クササヨー】臭いな。
    【クスマランケー】ウンコするんじゃねえ。
    【サダリアンシタリ】花嫁行列の先導役で提灯を持っている少年。ピシャーマの花嫁行列で少年が道を間違えた。
    【シカスナー】騙すなよ。
    【シカバー】恐がり。
    【シカバサンケー】驚かすなよ。
    【シカバン】驚かない。
    【シカンダー】すごく。
    【ジョーグー】好物。
    【ターガーヤー】誰がするか。
    【ターヤミセーガ】誰でしょうかね。
    【チブラーヤッサー】賢いね。
    【チャースガー】どうしよう。
    【チュラカーギー】美人。
    【チリニンジュ】花嫁行列に参加する女友達。皆美しく着飾る。
    【ティッキヤー】昔、入れ墨を施してくれる家でサロンのようになっていた。
    【デージ】すごく。
    【トゥナサン】幼い。
    【トーッ、ナマヤサ】やった、今だ。
    【ナチブー】泣き虫。
    【ニービチ・ジュネーイ】花嫁行列。ピシャーマの花嫁行列のときトラブルが発生し彼女は石になった。
    【ヌキィカブリィ】機織り道具。
    【ハイタイグスーヨー】こんにちはみなさん。
    【ヒンギラントー】逃げよう。
    【フラー】馬鹿。
    【ベークス】いやだ。
    【ミックァー】目の不自由な人。差別用語らしい。
    【ヤーカラチャー】部屋着。
    【ヤーマーレー】ほっつき歩き。
    【ヤナカーギー】ブス。
    【ヤナファーナー】くそガキ。
    【ユクサー】嘘つき。
    【ユクシー】嘘。
    【ユタムニー】ユタみたいな言い方。
    【ワカイミー】知らない。
    【ワッター】俺たち。
    【ンメーマユンタ】賄い女の恋愛を歌った歌。婚礼歌にはふさわしくないがピシャーマの花嫁行列で友人たちが唄ってくれたのがうれしかった。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/759362

  • 2021年 79冊目

    上下巻終了。
    一見沖縄の言葉の馴染みの無いカタカナばかりでよみにくいかなぁと思ったけれど、内容はまさに真夏の夜の夢的なハチャメチャストーリーでした。

    マブイという沖縄独特の魂?を落としてしまった少年が成仏できない200年以上昔のマブイとともに一年を過ごします。

    長生きだけを生きがいに長生きしている意地悪オバァとか、酒を飲むために生きている浮浪人兄弟とか独特の世界観でごちゃごちゃしているけれど、それがまたキャラクターが立ってて面白かった。

    池永永一さんの作品はテンペストを読もうと思ってはや10年…。まだ読んでいません。でも、こちらは1997年に書かれたと言うことでテンペストよりも前なんだなぁ。

    石垣島生まれの池永さんの描く沖縄の独特な民族風習に触れることができて楽しかったです。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/759362

  • 上巻の興奮が冷めぬ内に一気に読破。本当に素晴らしい小説だ!歌、踊り、酒、祭、神、そしてマブイ。沖縄文化そのものがこの本に詰まっている。素晴らしい!

  • 久しぶりにヒットした。もの凄く面白いファンタジー。マジックリアリズムの傑作。

    この小説は一応武志が主人公にあたるはずだが、はっきり言って群像劇だ。たくさんの人々の(一見物語の本筋に関係なさそうな)エピソードが散発的に語られて、それが見事につながっていくのは魔術でも見せられている心地になる。
    いろいろと衝撃的な展開が続く中、それでもコミカルでのんびりした雰囲気が終始漂う。舞台にしている石垣島のイメージ通り。よく考えればけっこう深刻なことが起きているのに、「だからよー」で済まされてしまうような感じ。それがいい。
    それなのに、終盤はなんとも言えない切なさに胸が苦しくなる。ギーギーの流産と死、やっぱり叶わなかったピシャーマとの悲恋、最後にフジの見た自分の葬式の夢……。『テンペスト』でも思ったけれど、池上さんって容赦なく読者の心を抉りに来る。八割は軽い文章と軽い雰囲気で構成されているのに、全然軽くない衝撃を与えてくる。これはずるい。

    さてこの作品、なんと言ってもキャラクターが良い。魅力あり曲のありのキャラクター達でどんどん作品世界に引き込まれてしまう。チーチーマーチューとターチーマーチューの兄弟と、彼ら異人に対する島の人々姿勢はお気に入り。
    でもなんと言ってもMVPは仲村渠フジだろう。
    こんなに大好きになった婆キャラクターは初めてだ。悪戯好きで迷惑で人使いが荒くて災害時に略奪はするわ子どもから金を巻き上げるわ散々な人間だが、彼女が悪人ではないとどうしてもわかってしまう(善人では決してないけれど!)関わりたくないけれど、遠くから見てみたいとは思う(笑)。ギーギーとの友情が描かれた辺りから一気に彼女を好きになった。
    それにしても、長寿に固執する、この一点だけでここまで凄まじいキャラクターが出来上がるとは……。しかも普通なら命大事なキャラなら健康にすごく気を遣って事故に遭わないよう引きこもって神経質で……という風になりそうなものなのに、全く逆。こんな豪快で危険なことを進んでして、それでも命に固執することと矛盾しないなんて。「命拾い」の独自解釈は目からウロコだった。拾うんだから縁起がいい、なんて。
    それにしても最初は長寿? なんだそれって感じで読んでいたが、読み進めるうちに長寿って実はそれだけで価値のある凄いことなんだなと思うようになった。亀の甲より年の劫、経験と知識の蓄積が半端ないフジは島のことをなんでも知っている。失われた伝統も覚えている。それが良いことに使われることはほとんどないけれど(笑)。
    最後の葬式のシーン、フジは風車祭後に死んでしまうのかな、と寂しくなった。でも後300年くらいは生きそうな気もする。どっちだろう。そのうち妖怪化したりして。是非そうなってほしい。

  • わたしがこの話を興味深く感じ、書店で下巻を手にとるにいたらせたその理由は、
    明和の大津波や巨大な台風災害を、話の重要な部分で
    かなり大きく取り上げていること、
    また島の歴史や伝承、民謡、昔話や祭りなどが、
    細かに豊かに記されていることです。


    石垣島を舞台に島人が書いた空想小説。
    作者のかたの、生まれ島への愛が、
    いとしいほどに伝わってきます。

    ほんとうにこうであればなあ、と思うほど
    理想的な情景、風景がちりばめられ
    どこからか今にも三線の音が聞こえてくるようでした。

    わたしも、もし叶うのであれば
    生まれ島にはそのままの形で、ずっと平和にあり続けて欲しい。

    この話の軸には、島人への、ひいては沖縄県民への
    警鐘と問いかけがあります。
    言葉や歌といった、島独自の歴史文化全体に対する関心の薄まり
    形骸化した祭りや行事、祖先への信仰心
    拡大する海岸の埋め立て地
    歴史的・自然的価値観を無視した経済産業活動
    これらは否めようのない事実です。


    でも、わたしは最近やっと、こう、思うことができるようになりました。
    人も島も言葉も思いも、そのままであり続けることは難しい。
    四季の変化の乏しい沖縄では想像しにくいことだけれど、
    木の葉や枝や、生きる命のように、
    古いものは去り、やがて新しいものが生まれ、
    絶えず世の中は変わっていくものだと。

    その反対に、価値のあるものとして守り残す努力をすれば、伝え残すことはできる。
    祭りや伝説や御嶽のように。
    それは何がどんなふうに変わっても、
    島があり続け、人が住み続ければ、それはきっとできないことはないと。

  • 下巻。
    マブイってのはなかなか面白い概念だなあと思います。
    日本でも魂が抜けるとかいうけど抜けた魂を拾いにはいかないしな。ピシャーマは可哀想なお嬢さんなのですが彼女の恋物語に終わらない所がスゴイ。ギーギーとかフジオバァにヒロインの座は奪われているし。というか霊魂のヒロインが生きているオバアより存在感が薄いってのもすごい話でした。

    真面目に生きているのがちょっと寂しくなるけれどもフジオバアのように自由に生きられる人間ってのはなかなか居ないわけで、だからこそ彼女は風車祭まで生き延びることが出来たんだろうな。それにしてもマブイにまで嫌われているオバアはすごい。そしてギーギーは良い雌豚だ。彼女の悲劇は人間のそれも17ぐらいのガキンコに恋した事でしょうか。霊魂のオトコだったら良かったのにねえ。
    石垣島は今回はピシャーマの珊瑚礁でなんとかなりましたがあのあたりも空港が出来て埋め立てられたとか聞くとどうなっちゃうのかなあなんて思います。
    が、土地の歴史や風俗を捨てて楽な方に流れて行った日本人にあちらを批判する権利はないか。

    読んでいて声出して笑っちゃうほど面白い小説は久々でしたよ。

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著者プロフィール

池上永一
一九七〇年沖縄県那覇市生まれ、のち石垣島へ。九四年、早稲田大学在学中に『バガージマヌパナス』で第六回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。九七年刊の『風車祭』が直木賞候補に。二〇〇八年刊の『テンペスト』はベストセラーとなり、一一年の舞台化をはじめ、連続テレビドラマ、映画にもなった。一七年『ヒストリア』で第八回山田風太郎賞を受賞。他の著書に『シャングリ・ラ』『レキオス』『ぼくのキャノン』『統ばる島』『トロイメライ』『黙示録』などがある。

「2023年 『海神の島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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