不自由な心 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043720026

感想・レビュー・書評

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  • 究極の男性像の描写。男の「性」の追求。真面目な顔して会議で発言するおっさんも美人の女子社員を前にすると理屈抜きに本性が露わになってしまう。男って何て単純で不完全なんだろう。どんなに年齢を重ねても「自我」が確立されない。露わにならない。

    女性の視点から見ると本書で描かれてる男性像は到底理解し難いものだろう。男のわたしでさえ嫌悪する部分があるくらいだから。
    白石さんが小説を通じて伝えようとしているメッセージを抜きにすれば、男尊女卑の肯定かという考えさえ脳裏を過る。
    だが、白石さんが小説に託す想いには並々ならぬものが感じられる。それこそが、彼の描く人物像(総じて不完全で不器用、ナルシズムの塊である場合も少なくない)に対して時折共感だったり、哀れみだったりを私達に思わせる。

    「浮気」する男がいる。勿論、女の中にもいる。
    彼らは皆ふつうの生活をしている。妻、子がいて傍目には順風満帆の人生に見える。彼らの心の矢を別の誰かに向かわせるきっかけは何なのか。多々あるだろうけれど、やはり人間の弱さこそが決定的な理由と言えるのであろう。
    私たちは弱い。圧倒的に弱い。
    助けが必要でぬくもりや潤いがなければ生きていくことは難しい。

    「死」を意識するほどの状況に陥った時思い浮かべるのは誰か。その時必要な人は誰か。
    この小説の中では、死を目前にした男たちが、最期の時を目前に控え、妻ではない他の女性を強く想う様が描かれる。
    結局愛というのは変化の激しいものなのだろうか。それとも人間の性質が私たちの考えている以上に荒々しく、波間を揺さぶる地平線のごとく安定しないものなのか。
    やれやれ。まだ若造の私には難しすぎるテーマである。でもたとえ年齢を重ねても分からないのかもな。

    私が思うに白石さんが不倫している男性(皆一様に悪気がない)を頻繁に描くのには、人間存在の不可思議や男と女の愛の終着点など、とにかく様々な事柄に言及したいとの理由からなのだろう。そういう観点から見ると、白石さんの小説の中では人の「弱さ」や「意地」がハッキリと映し出される場面に何度も遭遇する。こちらが恥ずかしくなってしまうような屁理屈に屁理屈を上乗せした論理。大人だからこそ素直になれないのが人間の性。

    何年かしたらもう一度読み返してみようと思う。何かが掴める気がする。

  • この話を読み終わってからあとがきの「小説の役割」を読むと、
    なるほど自分が小説に求めていたものがずばり書いてあって納得。

    肝心の小説の内容については、
    「まぁ男の人ってこんな人も多いよね。共存してる女も女だけど。」
    と言ったところかな。
    何だかんだで、みんなしたたかに生きてるんですよね、実は。

  • 短編のすべてに「不倫」という題材が組み込まれているが、嫌悪よりも人間らしい愛情が描かれていることを感じ、深く響いた。
    例えばもう二度と繋がることの出来ない相手でも(今現在傍らにいる人であれば尚いいが)、心の中に優しい傷となって生き続ける。
    自分の中で記憶が形を変えながら死を迎えるその日まで共に歩み続ける。そんな愛情の素晴らしさに触れた作品だった。
    この作品を読んでいると己にあった既存の常識が少し砕け破壊されたように思う。
    個体で生まれて個体で死んでいくのには変わりがないが、胸の中を覗けば無数の物語があり、それらに時に苦しめられ時に励まされている。
    そんなふうにして今日もやっと呼吸して、酸素を二酸化炭素に変えて、食料を血と肉に変えて自分は生きているんだと思った。
    抗えない運命に絶望するなんて最終手段で、どんなふうにでも自分も変われるんだと思いたくなった。
    時が経てば平凡な愛情と日常は刺激のないつまらないものに思えてしまうが、そうじゃなくて自分の捉え方感じ方一つで
    同じ相手と無数に枝分かれが出来る。
    白石さんが書いたこの小説は苦しいほど哀しいが私はそう信じたい。

  • タイトルに惹かれて購入した一冊。

    人は何のために人を愛するのか?その愛とは?
    幸福とは?死とは何なのか?

    明晰な視線で人間存在の根元を見つめ、緊張感溢れる文体で綴られた作品集です。

    「本当に自分の愛する者を失くしたとき、この世界の他のすべての価値は色あせ、人は生への執着からはじめて離れることができる。」

    此の一文を読んだ時、じーんときました。
    色色と考えさせられる作品。

  • 『不自由な心』白石一文

    5作品の短編?中編?作品集。

    どうして私は白石一文の作品にこんなに吸い込まれてしまうのだろうといつも思う。

    本作は特に。

    「家族を蔑ろにし、不倫を繰り返す、仕事のできる男」たちの物語。
    言ってしまえばただそれだけ。
    不倫男がうだうだと言い訳を繰り返しながら周りを振りまわし傷つけるだけのお話。にも見えてしまうのに。

    共感でもないし同情でもないし、なんだろうな少しだけ共感性羞恥のような。
    もちろん不倫が美化されているわけでもない。

    主人公が全員頭が良いので、ロジカルに自分の行動を分析できていて、不倫もデキる男の嗜み、くらいに思っていたはずなのに、突然「真実の愛」のようなものに目覚めてしまい、ぐるぐる論理破綻していく。
    それを認められない様が一周回って可愛く見えてくる。
    理性的なはずだったのに、欲望に囚われてだんだん身動きが取れなくなっていく。
    とにかく読み進める手が止まらない。
    人間はエゴの塊です。

    でもやっぱり主人公の不倫男全員自分勝手すぎて子どもすぎてムカつく。叫び出したくなる。



    ■天気雨
    これは流石に胸糞悪かった。
    ストーリーとしてはちょうどいい、ハッピーエンドというかハッピーな未来を予感させる感じで終わってるけどしんどすぎるよね何これ舐めとんのか

    「自分の心に真っ正直になる」ことを守り通す覚悟、それはわかる。ぜひそうしてほしい。
    「どうしても恵理を失うわけには行かなかった。」それもわかる。

    でもこの物語に描かれていない未来で、野島はきっと今までみたいに奥さんと恵理とどっちつかずでうだうだするんだろうなと思う。
    野島の言うこともわかるよ。とてもよくわかる。
    でも恵理に感情移入してしまうとしんどい。


    ■卵の夢
    これはなんかちょっと切なかった。

    所詮、一人きり平凡に生きていくだけ。


    ■夢の空
    「私、ずっと待ってるから。ずっとずっと待ってるから」

    墜落しそうな飛行機の中から、昔の不倫相手に電話をかける話。

    死の間際に云々、というのはある意味身勝手だなと思ったりした。


    ■水の年輪
    余命を宣告されて、仕事も家族も捨てて、昔好きだった人に会いに行くお話。
    結局会えないのだけれど。

    自分に酔いすぎな感じもしたけれど、ラストは嫌いじゃない。

    しかし絵に描いたようなお金持ちホテル暮らしで笑う。白石一文あるある


    ■不自由な心

    最後の娘婿、啓介を叱責するシーン痛々しかったな。
    啓介は啓介ですごかったけど。

    「どうして愛し合ってもいないのに一緒に暮らさなきゃいけないんだよ。どうしてそんな相手と子供作らなきゃいけないんだよ。」
    「人間はもっと自由だよ。真から惚れた人のためなら何だって捨てられるんだよ。」

  • すごい自己中で身勝手なおっさんたちの話ばかりで、世の中こんな奴ばかりなの?こんな奴らが社会を回してるの?なんて考えながら読んだ。不倫相手の女も、わりとあっさりしてて、こんなもんなのか〜とか思ったり。
    自分のせいで自殺未遂した女に対して、自分を縛り付ける卑劣な奴と思うなんて、なんなの?とか思ったり。

    でも、作者のあとがきを読んでスッキリした。自分の肯定と生への模索の材料、どうすれば真剣に生きられるかの模索、その手段方法としての小説があると言われると、確かに登場人物の考え方も参考になるなと思った。彼らも彼らなりに自己肯定や生の模索をしていたんだなと。彼らのように自分の人生を解釈したりできるだろうか?死について考えられるだろうか?などと、読後に振り返ってみた。

  • この作者さんの考え方というか、なんというか、割とすきなかんじ。


    「さみしさで、人間は壊れてしまうわ」

    「よく分からないけれど、こうやって抱かれてすっかり馬鹿みたいに安心している、赤ちゃんみたいな自分って本当の自分だと思う。…」

    「…結婚を餌に女漁るのは外道のすることだろう。…」

    「…どれほど深入りしてみたところで、女なんて結局は糞の役にも立たない代物さ。もたれかかっておぶさって、あれもしてくれこれもしてくれ、ただそれだけだ。…」

  • 直木賞受賞作 人の心の不可解さを書いているようだけど、願望が強すぎるように感じる。人を好きになることよりももっと大事なことがあるのではないだろうか、と思うけど、そこがポスト・モダニズム的な二項対立の世界の次のステップの自分探しをしているところが時代の空気を反映しているのだろうか。

  • マスコミの影響を受けてしまっているせいなのか、どうしても不倫する男の話に感情移入できず…
    ひと昔前のトレンディドラマを見たときのような興醒め感が残ってしまった。

  • 読書会のお題が 「異性がわからなくなった」本は?
    そんなの、考えたこともなかったーーだって、そもそも異性って異物じゃないか?
    わかるんか??
    困り果てた挙句に、初期白石作品=男の身勝手本だよ という情報を得て、表題作のみ読んでみた。

    なるほど、わからんわ(笑)
    まさに男の身勝手本。
    身勝手な上に、この主人公は自分のことすらわからずにぐらぐらし続けてるだけなんじゃないか?

    そこそこの会社に勤める35歳の男性が主人公。
    彼の妹が離婚するんだと言ってくるところから話がはじまる。
    妹の夫は、主人公が紹介した彼の5歳下の部下。
    離婚なんて冗談じゃない、と腹を立てるのだけれど、ご本人は結婚してからも次々に会社の女の子をつまみぐい。
    それが原因で妻は自殺未遂で半身付随になっているのに、自分は運が悪かったと思っているーーーで、子も妻もなくして、後を追うように死んだ友達を理想化しちゃってる。
    挙句の果てに、妹の夫を追いんで、ごつぅ暴力ふるって「でも、急所ははずしてやったぜ」ヲレ、いい奴だよね、か?

    こういう男にひっかかる女って、いるんだ .....

    主人公が九州出身の男であるのに対して、妹の夫が都心の私立でエスカレーターのぼんぼんという対比が、たぶん、主人公の ”結婚とはいったん籍を入れたら離婚さえしなきゃカッコがつくもの”というガチガチかつボロい固定観念=不自由な心 を浮かび上がらせる装置になっているのだろう ...... と、途中までは思ったが、暴力締め/しかも自己満足。

    要するに子供の頃はそこそこデキが良くて、都会にでてきたはいいが、ただの人だったという事実と向き合えないガキじゃん、という感じ。

    なにが人間の心の深淵だか?
    まぁ、たしかに 評判通りの身勝手な話でした。

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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