福音の少年 (角川文庫 あ 42-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043721078

作品紹介・あらすじ

16歳の明帆は同級生の藍子と付き合っている。だが二人はすれ違ってばかりで、明帆は藍子の幼なじみの少年・陽に近づいていく。ある日、藍子のアパートが火事で全焼し、藍子も焼死体で発見される。不可解さを感じ、真相を探る明帆と陽だが-。「死んでほしゅうない。おまえに生きていてほしい。おれは、おまえを失いたくないんや」友情でもなく、同情でもなく、仲間意識でもない。少年たちの絆と闇に迫る、著者渾身の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 高校の図書室の雰囲気とか、友だちとの何気ない会話とか、当たり前と思ってた過去のものが描かれてて懐かしくなりました。柏木陽の色気にやられました。かっこいいんだよなあ、声がかっこいい人っていいよね。終わり方もよかったし、『薄桃色の一瞬に』がかなりグッときました

  • 明帆と陽の関係性がすごく曖昧だ。友達でもない、同情でもない、仲間意識でもない。明帆は陽がこれからどう生きていくか、どう死んでいくかをそばで見ていきたいし、陽は明帆に生きていてほしい、自分の両親や藍子のように失いたくないと思っている。
    私はこの関係性に名前を付けることができない。多分恋とか愛とかでもないし、相棒というくくりでもないだろう。
    事件とか、真実とかは二の次で、ただ似ている性質を持った2人の少年が、藍子という少女を介して複雑に絡み合ってしまっただけ。その瞬間を、その部分だけを作者はこの本に記しただけなんだろうなと思う。
    この2人が事件によって絡まっていく様を、私はただ見ているだけ。読み終わってしまった今、この2人の交わりはどうなるのか、だれにも分からない。
    個人的にはこれからもこの関係性を続けてほしいけれど、あのラストでもしかしたら交わりは断ち切れ、片方にだけ絡まった痕跡を残して、2人の交流は終わるのかもしれない。それとも2人共が相手に自分を残して、徐々に絡まりは解けていくのかもしれない。ひょっとしたら、私の望んでる以上の関係になっているかもしれない。
    私は高校生の頃、この少年少女と同じ年頃のときに読み、全然彼らの心情が分からなかった。ただ面白かったし、少年、特に陽に心惹かれた。かっこよかった。斜に構えた雰囲気、魅力的と言われる声、明帆への他人へ向けるのとは違う感情。
    それから10年以上経ち、オーディブルの朗読でこの本を聴いている。声が付くことで印象は変わったし、あの頃より理解が出来る気もする。けれどやっぱり分からない事も多い。でも一つ分かったのは、あの少年少女は今の私よりも大人だったということ。
    高校生らしさもあるけれど、根本的な考え方、物事の読み取り方、考えていることがとても深い。それは彼らにとって良いことなのか私には分からないけれど、でも今、私はこの歳になってもこの少年たちに魅力を感じてしまうのだ。

  • 言うまでもなく「バッテリー」で名を広めた著者なので、児童書というイメージがある方もいらっしゃるかもしれない。
    実際、あさのあつこはたくさんの児童書を書いている。
    でも、児童書を書くと同時に大人向けの物語も書くのがあさのあつこ。
    バッテリーとはもちろん違った文体だけれど、弥勒の月ともまた違った文体で。
    七色に変わる文章がたまらなく好き。
    そしてこの「福音の少年」の世界観というか、細かな描写にそそられ(すぎ)た。これはすごい。好みすぎてやばいです。
    「夜と山の織り成す闇が存在していた。目を凝らせば、闇にも濃淡があると知れる。風に木々がしなる度に、闇の密度が変化する。」
    こういう表現とか、たまらない。くすぐられます。

    あと、柏木陽の声。

    "「大人なら、人を殺しても冗談ですむのかよ」
    美しい声だった。艶がある。巧妙な愛撫のような声だ。
    おとなならひとをころしてもじょうだんですむのかよ。
    声に誘惑されている気がした。"

    "「すっげえ、お邪魔なタイミングやな。悪ぃ」
    美しい声だった。美しいという形容は、必ずしも適切ではないのだけれど、それより他に形容する言葉が浮かばないような声だ。未知の音、名も知らぬ異国の楽器が奏でる旋律。特異な声だ、確かに。"

    こんな描写されたら、一度耳元で囁かれてみたいと思ってしまいます。

    著者自身が「一番書きたかった作品」と語る本書、だからこそ手にとった。
    うん、満足。
    綺麗な、巧みな、時に爽やかで、時にはダークな、この文章だけで十分楽しめると思う。

    ストーリーとラストについてはもちろん賛否両論あるだろうと思うけど…(正直ラストは物足りない)

  • ひとつ前に本棚に登録した畠中恵著《百万の手》を読んでからしばらくして出合い共通項の多さにセットで記憶に残った作品だった。しかし《百万の手》は読後数年を経ても覚えていたにもかかわらずこちらの《福音の少年》はうろ覚えでレビューのために手にとってみた。そうだった。こういう物語だった。読み出してすぐに思い出した。でもやめられずに結局、最後まで再読してしまった。二人の少年と一人の少女の物語だ。危うい、思春期というにはもっと駆け足でその先へたどり着いてしまった、青春というには哀しい時間のなかで足掻いている彼らの一人が死に、遺された二人は彼女の真実を追う。誰にとって誰が福音の少年だったのか。幾重にも読むことができるだろう。ラストで少年の一人、秋帆はまるでそのいのちを脅かされているように読める。そして殺し屋がいう、罰だと。罰などではない。たしかに彼一人で犯人と、さらには犯人に雇われた殺し屋と会うなど無謀だ。一人にすれば死ぬと警告してくれる大人もいたというのに。しかし、私は彼の生存を信じる。絶望したわけではないという殺し屋の言質もその根拠のひとつだ。殺し屋がそういう以上、この先に殺し屋と秋帆の再びの接点が予言されている。だが、最大の根拠は秋帆を失いたくないと強く願う者の存在にある。頽れ、倒れ三日月をその手に掴もうとした秋帆にはそう強く願う者がいる。それは必ず生への楔となる。ほんの微かにでも歩む角度が違っていれば人殺しとなっても不思議はないと思わせる少年だ。しかし彼は、殺し屋の誘惑を自らの意志ではね除けた。そんな彼が殺し屋に屈し、安易にいのちを捨てるわけはない。だが、結末は物語のなかで明確に語られることはなく、幕を閉じる。著者がそれ以上を物語ることなく沈黙するのならば読者は唯々諾々と従うまでだ。けれど私は信じる。彼の明日を。彼を失わぬ未来を。

    ちなみにバッテリー、NO.6未読。本作が初あさのあつこ作品。

  • こういう目に見えないエネルギーの爆発に共感できないくらい年をとってしまったのかな、とさみしくも眩しくも思う。
    ただ、回収されない謎が多過ぎて、消化不良… 何かがじゃりじゃりと残るような読後感。

  • 2007年10月21日読了。

    どっちの少年が主人公なんだろうと思う。優等生の永見明帆と、独特な声の柏木陽。明帆が、あまり好きでないけど陽の声に惹かれるシーンが多々ある。明帆と付き合っていた陽の幼馴染、藍子。その友人、陽に憧れる絵美は「声が好き」と言った。なので福音の少年とは陽のことで、良い声を持つ、といった意味に取ってたのだけど、【福音】=喜ばしい知らせ らしい。とはいえこの話の中で実際あまり喜ばしいことはなかったんだけど。

    今まで、透明で純粋な少年少女たちのイメージがあさの作品にはあった。だが今回のはかなり違ってる。事件があり、事故があり、いろいろ大変な話、見たくないシーンいっぱい。なのに読み続けてしまったのは、やはりこの少年たちが気になるから。

    主人公はふたり、という解釈で良いのかな。

  • あさのさんらしい終わり方でした。どうなったんだろうと思いを馳せながら、あの子達はどうなったんだろうと読者の心に跡を残していく物語。2人の少年の友達とも家族とも言えない関係、恋にも似た執着が不思議だった。何から解き放たれたとき、人は自由を手にするのだろう。死んだ後だって結局その人を思っていた人々がその思いで魂を縛り付けている気がしてならない。自由なんてあるのだろうか。そんな事を考えた一冊でした。

  • 彼女の身に起きたこと。
    大人として考えて行動する事が出来ず、子供に依存気味だと嫌われそいだよな。
    逃げ出すことが出来なかったのだろうが、終わる日の事を思うと不安もあっただろうな。

  • 明帆、陽、藍子、それぞれが闇を抱えている。彼らがなぜそんな闇を抱えているのかはわからない。それぞれの親に問題があるようにも思えない。どんな人も実は自分でも気がつかない闇を抱えているのかもしれない。でも、彼らはそれを自覚している。いいとか悪いとか、正しいとか正しくないとか、幸せとか不幸せとかの問題でもないのかもしれない。でも、オイラには彼らが健全とは思えない。藍子はそれを取り戻そうとしたんじゃないかな。明帆に振り向いてもらえないとわかっていても。明帆は失ってはじめてなにかに気がついたのかもしれない。オイラは明帆の親父さんみたいになりたい。子どもに対してちゃんと大人の役割を果たそうとする姿に惹かれる。オイラにできるだろうか。都合よく子供っぽくなったりしている気がする。無条件に子どもたちを守る親でいるだろうか。大切な人を全力で守れる人が大人なのかもしれない。だから大人って年齢に関係なくなっているのかもしれない。

  • どこか似ていて、それでも相反する二人の少年。あさのあつこの得意?な線引きのできない人間関係が惜しみなく書き綴られている。

    永見も柏木も人間として欠落した部分があるように描かれている。そのことに関して、柏木のほうが箍が外れてるんじゃないかと思っていたけれど、むしろ「自分は人とずれている」ことに対して重荷に感じている柏木は人間らしさがあった。あらすじにもある「おまえを失いたくない」という台詞はもしかすると自分を自分として留めたい気持ちから発言したのかなあ、とも。

    ラストシーン、永見に柏木の声はどう届いたのか。タイトルに『福音』が使われていることからも、永見にとって柏木の叫びは、自分を留めるための救いになったのだと信じたい。

    永見も柏木もどこか似た雰囲気の少年だ。性質に欠落のある少年同士。
    決定的に堕ちてしまう危うさを持ちながらも、互いに互いを留め合う、唯一の関係なのだろう。

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著者プロフィール

岡山県生まれ。1997年、『バッテリー』(教育画劇)で第35回野間児童文芸賞、2005年、『バッテリー』全6巻で第54回小学館児童出版文化賞を受賞。著書に『テレパシー少女「蘭」事件ノート』シリーズ、『THE MANZAI』シリーズ、『白兎』シリーズなど多数。児童小説から時代劇まで意欲的な執筆活動で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『NO.6〔ナンバーシックス〕(8)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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