DIVE!! 上 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043791033

作品紹介・あらすじ

高さ10メートルの飛込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛込み競技。その一瞬に魅了された少年たちの通う弱小ダイビングクラブ存続の条件は、なんとオリンピック出場だった!女コーチのやり方に戸惑い反発しながらも、今、平凡な少年のすべてをかけた、青春の熱い戦いが始まる-。大人たちのおしつけを越えて、自分らしくあるために、飛べ。

感想・レビュー・書評

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  • 東京オリンピックは『また』幻になるのでしょうか?2020年3月24日、今夏開催予定だった東京オリンピックは、一年程度延期されました。遡ること80年前、1940年9月21日から開催される予定だった東京オリンピックは日中戦争の勃発により幻と終わりました。複数回出場を果たす人もいる一方で、年齢的なピークに左右される競技は、その一回に全てをかけるしかありません。その人の人生をかけた一大イベント。もちろん出場枠は限られ、出場できても活躍できる保証は全くありません。でもチャレンジできるならまだ納得はできるでしょう。でも、その前にその目標が露と消えたなら、幻と消えたなら、それを目標にしていた人たちは何を思うのでしょうか。

    『一流の選手は台に立った瞬間から人を惹きつける。要一を見ているとこの言葉の意味がよくわかる』という要一は、『大手スポーツメーカー「ミズキ」の直営するミズキダイビングクラブ(MDC)』のエース。そんなクラブに通う中学生の知季、レイジ、そして陵。赤字経営により存続の危機がささやかれる中、他のクラブに引き抜かれたコーチの後任として麻木夏陽子という女性が現れます。素性不明の彼女。『飛込みをはじめて五年ちょっと』という知季の担当となったものの知季には不信感が拭えません。『あんた、うちのクラブをつぶしに来たのか? 』と問う知季に、『つぶしに来たんじゃないわ。守りに来たのよ』と答える夏陽子。そんな知季に『毎朝の自主トレメニュー』を課す夏陽子。『頂点をめざしなさい。そこにはあなたにしか見ることのできない風景があるわ』という夏陽子に心を開き『これでいいのか。今どきこんなスポコンでいいのか』と自問しながらも自主トレを続ける知季。『不安に駆られながらも続けたのは、努力すればするだけの成果を実感することができたからだ』という知季。一方で夏陽子は、青森から連れてきた『とっておきのおみやげ』、飛沫を知季に紹介します。『あなたのライバルよ』とMDCに加入したその少年・飛沫のジャンプを見た知季は『なんだこりゃあ』と仰天するのでした。そして、夏陽子は語ります。知季が目標を『日本選手権で優勝?』と問うのに対し『私たちがめざすのは、オリンピックよ』と答える夏陽子。『1999年、春。MDCの彼らは翌年のシドニーへむけ、最初の一歩を踏みだそう』としていきます。

    元々四冊だったものを上下巻にしたこともあって上巻内で大きく二部に分けて構成されるこの作品。そのそれぞれに〈CONCENTRATE DRAGON〉とか、〈SO I ENVY YOU〉と言ったそれぞれ11と12の英語の章題にさらに分かれ、独特なリズム感と、ある種の『かっこよさ』を醸し出しながら展開していきます。そして、全体として感じるのが、とにかくひらがな、圧倒的なひらがなの多さです。そのために、要一、知季、飛沫、夏陽子という登場人物の一捻りされた名前が逆にページの中からふっと浮かび上がってくる不思議感にも囚われました。また、「カラフル」同様に、森さんの圧巻の表現にも魅了されます。この作品では、オリンピック競技の中でも決してメジャーとは言えない『飛込み』という種目に光をあてていますが、メジャーな種目と違ってなかなか文字だけでは競技のシーンをイメージしづらいということはあります。これを森さんは『知季はくいっとあごを上げ、鳥を追う猫のように助走を駆けぬけると、ふわりと宙に浮きたった。重力を感じさせない跳躍…』と、とてもリアルに躍動感を感じさせる記述で描写していきます。『「スポ根」青春小説』とされるこの作品。2003年には児童書籍を対象にした『小学館児童出版文化賞』を受賞しています。実際、途中までは、10代の方が読むのにもいいなぁと思っていたのですが、後半になって若干雲行きが怪しくなります。『二人はそれまでどおり抱きあって眠り』『女とセックスにふけってた』『女の部屋に避妊具を置いていく』という表現が出てきた時にはかなりドキッとすると同時に、違和感・異物感を感じました。ストーリー展開としては違和感はないのですが、個人的にはこの大人な表現は避けて欲しかったな、と感じました。ただ一方で飛沫という高校生の素顔を見れた感もありこの描写はやむをえないのかなとも思いました。

    幻に終わった1940年の東京オリンピック。『また』幻に終わることのないよう2020東京オリンピックが無事に開催されることを願ってやみません。一方で、この作品の主人公たちが目指したオリンピックは2000年に開催されたシドニーオリンピックです。そう、幻になどならず歴史に刻まれたオリンピックです。作品はそのオリンピックの舞台へ向けて『下巻』へと進みます。『はたしてその最高の舞台で飛込み台の頂きに立つことができるのはだれなのか?』色んな期待が駆け巡ります。

    私の大好きな「カラフル」や「永遠の出口」と同じ地平に立ち、眩しい少年の瞳の輝きの中に、青春時代特有の苦悩と葛藤が丁寧に描き出される森絵都さんの絶品。う〜ん、『下巻』もとても楽しみです!

  • 文庫本の上巻の表紙に描かれている絵が何なのか全く分からなかった。「DIVE!!」という題名の意味も知らなかった。読んでみて、DIVEはダイビング、すなわち、飛び込みというスポーツ種目のことであり、文庫本の表紙の絵は、競技に使われる飛び込み台であることが分かった。
    たしかに、「飛び込み」という種目はある。しかし、それはマイナー競技であり、私自身も、オリンピックの「今日の結果」的なダイジェストで観る以外に観たことはなかった。国内、あるいは、国際的な競技会ももちろん開催されているのであろうが、それが放映されているテレビを観たこともない。
    「飛び込み」という競技をほとんど知らないのは、私だけではないはずだ。読者のほとんどがそれを知らない。それを小説のテーマにして読ませる、すなわち、知らないことを文章で理解させるというのは、かなりの力技だと思うが、この作品ではそれが成功している。オリンピックを目指す中学、高校の飛び込み選手を描いた小説であるが、ストーリーの中に、日本における競技の位置づけ(要するにマイナー競技であること)、競技場に関すること、飛び込みのルールに関すること、競技の進行と採点についてのルールなどが、さりげなく織り込まれており、読者は、「飛び込み」という競技がどういうものかを読んでいるうちに理解できるようになっている。

    私が上巻の中で一番好きだったのは、オリンピックを目指す選手の一人である沖津飛沫が、競技会で敗れ、今後どうするかを考えるために故郷の津軽に戻り、恋人と過ごす場面(場面というには長いが)である。全般的に、割合と軽いタッチで描かれている小説の中で、この部分だけは、沖津飛沫の心を投影してか、重く描かれている。彼の悩みと、そして、その悩みの解消がよく描かれているような気がした。
    これから下巻を読む。

  • スポーツ 友情 家族 恋愛 師弟

    飛び込みというスポーツを知らなくても、とても惹き込まれました。1部、2部と主人公が変わりそれぞれの成長や心の変化が描かれています。
    場面の映像が自然と浮かんでくるのは、作者の表現が美しいからだろうなと。

  • 下巻に感想はまとめて記載。

  • 飛び込みがテーマの、森絵都のスポ根小説。
    活気に満ちてさわやか、すっきりした文体でとにかくわかりやすく、一気に引き込まれました。
    ごく普通の家庭で育った中学生の知季が飛び込みに魅せられ、大した欲もなかったのが、コーチに才能を見い出されます。
    クラブ存続の危機に親会社を説得するため、新コーチの女性は所属選手の中からオリンピック選手を出すという条件を出します。
    一番有望な高校生の要一は知季の憧れ。
    もう一人、地方からきたのが沖津飛沫。
    崖から海に飛び込んでいた彼は、体格の良い野性派で、年上の彼女がいる大人っぽい奴。
    この3人のライバルの成長と葛藤、友情が描かれます。
    オリンピックを目指すとなったらいよいよ他のことをする暇がないので友達も出来ず恋も上手くいかない、ライバルしか身近にいないわけですね。
    いったんトップになった要一がスランプに陥り…さてどうなるか?
    さわやかな青春小説なんていうと、かえって正体がわからなくなるけど〜そうだからしょうがない?スポーツ漫画やスポーツ鑑賞が好きな人にはぜひオススメです。

    • さてさてさん
      sanaさん、こんにちは!
      DIVE!!の上巻がすっかり気に入ってレビューを眺めていたらsanaさんの感想を見つけたのでコメントさせていた...
      sanaさん、こんにちは!
      DIVE!!の上巻がすっかり気に入ってレビューを眺めていたらsanaさんの感想を見つけたのでコメントさせていただきました。たくさんお読みになられているので、私の最近の読書でもレビューでお名前を拝見することが多く、sanaさんのこの本の評価が高いのにもなんだか安心しました。上巻を読んで私もさわなやか青春小説という点同意です。これから読む下巻もとても楽しみです。
      今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/08
    • sanaさん
      さてさてさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。
      最近よくレビュー拝読してます~。いつも丁寧な文章で、読んでいない本のことも、...
      さてさてさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。
      最近よくレビュー拝読してます~。いつも丁寧な文章で、読んでいない本のことも、内容も読んでいる気分もよくわかる印象あります。
      飛び込みは姿勢が美しく緊張感があって、興味がある種目のひとつでもありました。
      このさわやかさ!読んでいる間は夢中で青春している気分、読み終わると森絵都さんは上手だなあ…と改めて思ったものです。
      下巻も面白いに決まってますよね?
      こちらこそ、よろしくお願いいたします^^
      2020/05/10
  • 昨日、京都へ初詣に行ったのだけど、朝の京都はすっぽり朝靄に包まれていて、しばし本を読む手を止めて、その眺めに見入ってしまいました。
    そうした行き帰りだけでは読みきれなくて、家に帰ってから速攻で読了。
    飛込みって結構面白い競技なのに、オリンピックの時ぐらいしか見る機会がないので残念ですよね。
    全体の感想は下巻を読んでからとして、取りあえず一言、麻木夏陽子にならなきゃなぁって。
    『ピンチとは克服の快感を味わうためにある』とか『足の重い日ほど早めに家をでる』なんて、まあ確かにこっちはお嬢さん育ちとは違いますけど、並のサラリーマンには言えないよね。(その内書く下巻の感想に続く)

  • 3.8
    →スッキリとした青春小説で読みやすかったです。
    飛び込みという競技の事をほとんど知らず、大きなリスクがある事などに驚きました。どの登場人物にも魅力がありました!

  • スポーツを題材にした児童文学の中でも、ダントツで好きな本。

    森絵都さんの一般小説も好きだけれど、やっぱり青春小説のほうが、きらめく何かがあるなぁと感じた。
    分厚いし、下巻のほうが断然盛り上がるけれど、「大事な部分」を外していないところがすごい!
    きっと、誰もが子ども時代に感じたことのある感情が詰め込まれているから、だから、引き込まれる。

  • 話に引き込まれる!ハマると抜けられない!

  • みんな色んな思いで飛び込みをしている。順調でキラキラしている時もある、苦しくて立ち止まる時もある、順調だけど苦しい時もある。他の人が羨ましい時もある、だけどその人だって苦しんでいる。

    勝つ度に独りぼっちになっていく。強くなる為に色んなものを犠牲にする。それでも得るものがあるから飛び込みを続ける。辞める人もいる。

    映画版を観る前に読もうと手にした本。
    当然の事だが、本の方が色んな人のストーリーが書かれていて面白い。映画の方が飛び込みの迫力に感動する。

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著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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