- Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043822010
作品紹介・あらすじ
南の島、異国の子供たちと暮らすマリコ。研究者の僕に日本を脱け出し、彼女を追う生き方ができるだろうか(「マリコ/マリキータ」)?前人未踏の遺跡を探検した僕とピエールは、静謐のなか忘我の日々を過ごした。でも僕には、そこにとどまり現世と訣別する道は選べなかった(「帰ってきた男」)。夜に混じり合う情熱の記憶。肌にしみわたる旅の芳香。深く澄んだ水の味わい、5篇の珠玉の短篇集。
感想・レビュー・書評
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日本との時差は1時間、わずか3時間のフライトで行くことのできるグアム。手軽な南国のリゾートであり、また小さなアメリカを体験できる島。その手軽さからか、古くから多くの日本人が最初に訪れる海外のひとつでもあったし、現地の観光スポットでは日本語が通じることも多い。そんな身近なグアムなのに、実はグアムを舞台にした小説や映画やドラマというものが、あまりないことに気付きます。
この本は、日本においてグアムを舞台に書かれた貴重な小説のひとつ。しかも作者はあの「ハワイイ紀行」の池澤夏樹というから、これは旅ゴコロのまえにまず読書ゴコロをそそられるではありませんか。マリコは南の島で異国の子どもたちと暮らす女性で、現地では「マリキータ」と呼ばれている。一方、研究者の「僕」はある意味で典型的な日本人。そんな僕は日本を抜け出して彼女を追う生き方などできるだろうか…。ほかに「帰ってきた男」など5篇を収録した珠玉の短編集です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
池澤夏樹読んでみたいなと思って一番最初に買った本。
小説というより日記みたいで読みやすい!
小難しい男性の女々しさ、、、嫌いじゃない。
マリコ・マリキータ、とても好きな話になりました。 -
「梯子の森と滑空する兄」収録されている五編の中では一番短くて地味かもしれないけど、私は一番印象に残った。主人公は歯医者の待合室という狭い空間から動かないのに、読んでいるとなんとなく解放されたような気分になる話。「身近な人にあって自分にないもの」を表現するときに、羨望とかそういう感情を抜きにして、淡々と書いているのがいい。私自身が「兄」のように色んなものを手放して生きられるタイプではないから、「ぼく」から見た「兄」がすがすがしく思えたのかもしれない。
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感性が良い。新鮮だ。
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「マリコ・マリキータ」は切ない。その切なさを味わいたくて何度も読んでしまう。
「帰ってきた男」も大好きな話。なんとなく「やがてヒトに与えられた〜」に近いものを感じる。
この遺跡に立ってみたい。この風景を見てみたい。 -
池澤さんの小説の登場人物はほんとに気持ちのいい性格をしてる。
繕ったりすることもなく、自分を自由に表現していて清々しく思う。
彼は理系的な表現を良くするんだけども、一方で人間が理解できないもの、どうにも出来ないものの存在も信じ、大事にしていて、その二つの融合が独特の味を出していると思います。
本書もそのような短編が揃っています。「帰ってきた男」はちょっとイメージでは描けないような幻想的なイメージの作品です。この本の中では異色。 -
それぞれ、内容は違うけど、「旅」をする人が見える話が5つ入っています。
池澤さんのお話って、いつも思うのですが、「こういう人が身近にいれば、わたしの人生が少しだけ変わりそうな気がする」人が出てくることが多くて、何となく自分もそんな人になりたいな、などと思ってしまいます。
あまり表ざたにはしませんが、池澤さんも、スピリチュアリティの高いひとだと思います。
3篇目「アップリンク」、5編目「帰ってきた男」を読んで、特にそれを感じました。 -
内容(「BOOK」データベースより)
南の島、異国の子供たちと暮らすマリコ。研究者の僕に日本を脱け出し、彼女を追う生き方ができるだろうか(「マリコ/マリキータ」)?前人未踏の遺跡を探検した僕とピエールは、静謐のなか忘我の日々を過ごした。でも僕には、そこにとどまり現世と訣別する道は選べなかった(「帰ってきた男」)。夜に混じり合う情熱の記憶。肌にしみわたる旅の芳香。深く澄んだ水の味わい、5篇の珠玉の短篇集。
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何年ぶりかの再読。この本の再読はつらくなるほど切ない。そう分かっているのに、再読せずにはいられなくなる時がある。そして再読し…、堪えきれないほどの寂寥感に苛まれるのだ。
池澤夏樹の短編の中では、表題作が一番好きだ。ごく短い短編なのに、マリコという魅力的な女性を鮮やかに描ききっている。職も住むところも転々とし、世界中どんなところにいってもそこでしっかりと生き続けることができる、さわやかで自立した個性であるマリコ。いわば、いつまでも軽やかに変化し続けることができる女性。かつての漂泊詩人のように放浪作家のように、一か所にとどまることを良しとせず、常に旅をし、旅に生き、旅に死することもいとわないような人生。それは自由で優雅かもしれないし、孤独で過酷なのかもしれない。ただ、あまりにも魅力的に描かれている。
まぶしいばかりのマリコに想いを寄せる主人公は文化人類学者。定住し、蓄積し、貯蓄し、さまざまな人間関係の中にがんじがらめになっている。所詮、マリコのようなノマド民族とは相容れないのだろう。無理に一緒になれば必ずどちらかが不幸になる。
籠の中の鳥と大空を飛ぶ鳥との短い恋とでもいうのか。
主人公はマリコの生き方に惹かれ、その人生を美しく思い、憧れてもいる。しかし、「急げば間に合うと思いながら、いつになっても足が動かなかった」というラストの一文に、絶望的にどうしようもうない現実とやらが、主人公を打ちのめす。
こうして、主人公はかけがえのないものを失った。何もかもかなぐり捨てて追い求めるべきだと頭で分かっていながら、結局何もできないまま、残りの人生を圧倒的な喪失感と自責の念に責められながら抜け殻のように生きていくしかない。地球上のどこかにいるマリコ…そしてそこにいる自分…を妄想しつつ、もう決して手に入らないものを狂おしいほど求めつつ。
届かぬ想いに、落涙するほかない。 -
やはり面白い。