宇宙のみなしご (角川文庫 も 16-8)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043941087

感想・レビュー・書評

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  • 『ズル休み』、子どもの頃だけじゃなくて、大人になってもなんだか妙に心魅かれる言葉です。なんだかちょっとワルい子になってみたいという誘惑が朝に襲ってくることってないですか?何だか色んなことが急に面倒になって、ええい休んじゃえ、と決意するまでのドキドキ感。子どもの頃だと親を上手く誤魔化すために四苦八苦。そして勝ち取った自由な一日。特にそんな日の午前中の幸せ感はなんともいえないものがあります。でも、午後になるとちょっと心が陰りだし、近所の子どもが帰ってきた声が聞こえだすと憂鬱さが襲ってくる。夜になるともうなんで休んじゃったのかなあという後悔の時間。そして、翌日、学校に、職場に着くまでの地獄のような時間。時間が経つと記憶の彼方に消えてしまったそんな時間ですが、もしかしたら、今の自分にとってそれも大切な時間だったのかもしれません。

    『衝動的でせっかちな性分は、わたしが未熟児で生まれたせいかもしれない、と両親は言う。小さすぎるしわくちゃの手足が涙を誘ったらしい』と両親に心配された陽子も『物心がついたときには、わたしはすでに近所の悪ガキからも一目置かれるやんちゃ娘に化けていた。我ながらあっぱれな成長ぶりだった』と生まれの弱さを感じさせない成長ぶりの一方で、体格大きく生まれつき『人生初の試練がダイエットとなった』という対象的な弟・リン。この作品ではそんな二人を中心に物語が進んでいきます。

    ひょんなことから不登校になった陽子。『不登校をしていて一番こまるのは、わたしに不登校する理由がない、ということだった。全然、ない。刑事ドラマ風に言えば動機がたりないし、スポ根ドラマ風にいえば血と汗がたりない』何だか深刻さが感じられません。だから、『ところで、突然ながらわたしはまた学校に通いはじめた』と、ちょっとしたズル休みの長い版だったかのように学校生活に再び溶け込む陽子。でも不登校中、『陽子の不登校、ひょっとして、ぼくのせい?』と姉のことを親身に心配していたリンは姉との楽しい時間を作りたいと考えます。そんな二人が見つけたこと。

    『新しい遊び、見つけちゃったかも』というリン。『その夜、わたしたちははじめて屋根にのぼった。すっかり屋根のぼりのとりこになっていた』と深夜の屋根のぼりという楽しみを見つけた二人。知らない家の屋根に勝手にのぼる二人。『基本その一。のぼりやすい屋根を選ぶべし。基本その二。人気のない場所を選ぶべし…』と決まり事も設け、すっかり夢中になっいく二人。そんな二人を中心に、陽子のクラスメイトのキオスクと七瀬さんが絡んで物語は展開していきます。

    子どもの頃って夜に憧れるというか独特な魅力を感じることってなかったでしょうか。一方でとても怖いんだけど、何だか不思議な魅力。誰もが寝静まった真夜中。陽子とリンも『星はわたしたちのために輝いている。雲はわたしたちにむかって流れてくる。風はわたしたちのために空をめぐる。今だけはわたしたちを中心に回っている』屋根の上で感じるなんとも詩的な表現、感覚です。でも、何だかとてもわかるような気がします。

    ズル休みがちょっとしたことが原因であるように、陽子が不登校になったのもある先生がいなくなったからでした。そんな先生が語ったこと。『大人も子供もだれだって、一番しんどいときは、ひとりで切りぬけるしかないんだ、って。ひとりでやってかなきゃならないからこそ、ときどき手をつなぎあえる友達を見つけなさいって、心の休憩ができる友だちが必要なんだよ、って』何だかとても厳しい現実を突きつけられているようにも思います。それが現実だから。人が生きていくためには、最後は自分が歯を食いしばるしかない、これはそうなんだと思います。でも、そんなに気を張ってばかりだと生きていくこと自体辛くなります。気持ちを楽にすること、そしてそんな心の休憩の時間を共にできる友だちってやっぱり大切なんだと思いました。こう書いていて、私の頭の中にもある友人の顔が浮かびました。もうずっと連絡も取っていないけど、あの時代、あの瞬間に、心の内を語ったことがあった彼。自分にもいたのかもしれない、そういう友人が。なんだか色々なことがとても懐かしくなりました。

    「宇宙のみなしご」という書名。読み終えると妙に納得感がわいてきます。そして、それと同時に少し物寂しさも襲ってくる不思議な読後感です。ちょっとノスタルジック感のある、そして最後の数ページにものすごい魅力と説得力を感じた、そんな作品でした。

  • 森絵都 著

    何だか、懐かしいような 胸に痛くなるような…
    一気に中学生の頃の自分に戻れた訳ではないが、、
    あの頃、色々抱いている思いが蘇ってきたりして
    何故かちょっぴり寂しいような切ない気分にもなった。
    性格も雰囲気も違った仲間同士 何気ない事にムキになったり 感情をいつも押し殺していたり…
    多分 等身大の自分よりも ちょっと粋がって背伸びしてた
    ことなんか思い出していて、、森絵都さんの作品って 透明感のあるものの中に いきなり鋭い感情を持ってくるなぁって ドキッとしてしまう
    「宇宙のみなしご」って意味が後半になって なるほどなぁって分かってくる。
    特に 共感しちゃったのは
    「大人も子供もだれだって、一番しんどいときは、ひとりで切り抜けるしかない」
    わたしだって知っていた。
    一番しんどいときはだれでもひとりだと知っていた。
    だれにもなんとかしてもらえないことが多すぎることを知っていた。
    だから おちゃらけたり 大人っぽくクールでいたり まだまだ 中学生の子供なのに どこか粋がって 妙に強いね…って言われる度に、何か馴染めない感覚あっても、でもそう見えるんだったら それはそれでもいいじやないって半分白けた思いを引きづって ここまで生きてきた気がする。
    中学生にもなれば 何だか...子供にもなれないような難しい時期だった気がする
    森絵都さんのラストは 気持ちが一呼吸出来るような それでいて 何かに向かっているような ストンに胸に落ちてきて終わる…

  • 青春 友情 家族

    両親が忙しく、新しい遊びを見つけて過ごす姉弟が屋根上りに夢中になる。グループから仲間外れにされている女の子、いじめられっ子の男の子も加わりそれぞれの成長を描く物語。

    主人公の女の子のさばさばした感じが好き。
    季節や時間の空気感の表現がリアル。
    最後のワクワク感が子供時代に戻った感覚になりました。

  • 爽やかな読み口
    ほぼほぼ4人の登場人物で構成されたお話は
    読みやすく、何より潔い。
    「カラフル」もあとあと心に響く作品ですが、
    この作品も読む年齢で感じ方がずいぶん変わると思うので何回も読み返してみたいです。

  • もともと短い話だったことに加えて、テンポ感も良く、また登場人物たちの掛け合いが面白くて、サクサク読めてしまった。
    面白かったけど、あっと言う間に読み終えてしまったので、この作者の他の作品も今度また読んでみたいなぁ。

  • この作品にはユーモアあり、詩情あり、文章も作者の若々しいセンスに満ちています。夜の空気感や雰囲気の描写が透き通っていて綺麗ですね。夜空を見上げる心のゆとりを思い出させてくれたような。数々の賞を受賞したこの作品。ラストは爽やかで、心が洗われるような気持ち良さがあります。

  • 夜の屋根って想像するだけで不思議な世界。
    陽子とリンの屋根遊びが、人を惹きつけるのもなんだかわかる。この遊びはとても魅力的だ。わたしもやりたい。

    大人になると自分の悩みで沢山で、友達のことで悩むのはあまりない。この表現がなかなか鋭い。

  • さくさく読み進むせいか、印象の薄い本になりそう…と読んでいる間は思っていた。しかし、宇宙のみなしごという言葉がバチッと最後に印象に残る。

    物語の舞台でもある『中学校』って振り返ると恐ろしいくらいに狭い世界だけれど、なかなか必死に色々考えながら過ごしていたなぁと思い出した。

    古い友人に会いたくなる本。

  • 人は一人でいる時間も長いけど友といて友に刺激をもらって新たに何かに挑戦しながら成長するのだなと思う と同時に人に何かを与えることもできるしお互いに成長していくんだな 良き友と一緒に生きた娘はきっと幸せだったんだろうな

  • 仲の良い兄弟が新しいあそびを考えては挑戦していく。ひょんなことから同じクラスの2人も加わり、様々な葛藤を乗り越えながら成長を描く友情の物語。

    一番しんどい時は誰でも一人だと知っていた。誰にもなんとかしてもらえないこのが多すぎる。

    頭と体のつかいかたしだいで、この世界は明るいものにも寂しいものにもなるのだ、と。

著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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