米原万里ベストエッセイ (1) (角川文庫)

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  • KADOKAWA/角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044000752

作品紹介・あらすじ

「つくづくこの人にはかなわない」――池澤夏樹(本書解説より)

「モノ心ついてからというもの、まずなりたくなったのは紙芝居屋さん、そのあとバスの車掌さん、童話の本を読めばお姫さまになりたくなったし……」
ロシア語通訳として活躍したのち作家に転身、抜群のユーモアと毒舌で愛された米原万里。
通訳時代の悲喜こもごもで笑わせつつ、政治の堕落ぶりを一刀両断。惜しもげなく披露する下ネタには誰もが脱帽!
56歳で早逝するまでに残した珠玉のエッセイから選りすぐる、初のベスト集。

感想・レビュー・書評

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  • 米原万里さんは、沢山のエッセイを書かれていますが、本書は以下の14作品から25編を抜粋したものです。

    旅行者の朝食
    不実な美女か貞淑な醜女か
    ロシアは今日も荒れ模様
    魔女の1ダース
    真昼の星空
    ガセネッタ&シモネッタ
    真夜中の太陽
    他諺の空似
    発明マニア
    真昼の星空
    打ちのめされるようなすごい本
    ヒトのオスは飼わないの?
    パンツの面目ふんどしの沽券
    それでも私は戦争に反対します。

    通訳・翻訳の守備範囲は、人間のすることすべて、人間が関わり、そこに異なる言語間のコミュニケーションのあるところ。
    (翻訳は虚構の世界もあるが)通訳は常に生きた現実の世界。

    日本で生まれ、日本以外の社会・文化をほとんど体験せずに育ってきた自分にとって、米原さんの感性は新鮮です。

    例えば、吉永小百合は美人じゃないと言いきっちゃう凄さ。
    ヨーロッパの男がこの顔に惹かれるか?と、最初は他人事のように語っておきながら、正直に言うと「何て、醜い顔。ネズミのように見えた。」と本心を明かす。

    世界各国の常識や思想の違いを良く知っているが故のエッセイで、海外目線で日本をとらえているところが面白さの要因になっているのだと思います。

  • 米原万里のエッセイのうち、傑作を集めたベスト盤の1巻目。彼女が書いたいくつかのエッセイから選りすぐりを集めている。
    米原万里は様々な題材のエッセイを書いている。彼女の職業であった通訳に関すること、食べ物に関すること、下ネタ関係、小咄関係、ペットの猫のこと、本当にジャンルが広い。
    本エッセイ集には、面白いエッセイが沢山収載されており、好きなエッセイがいくつもあるが、そのうちの一つが「通訳=売春婦論、もう一つの根拠」だ。このエッセイの中で、米原万里は、通訳という職業の特徴と魅力を伝えようとしている。通訳は、ありとあらゆる種類の国際会議に出席する。それは、国と国との、彼女の場合には日本とソ連との首脳会談であったり事務方会議であったり、あるいは、ビジネスの契約の交渉であったり、技術的・学術的な会議であったり、本当に多様である。通訳はその都度、勉強することを求められる。例えば、国際的な原子力発電に関する会議の通訳をつとめる場合には、原子力発電に関しての基本的な知識がなくては通訳がつとまるはずがない。また、参加者の立場等も頭に置いておく必要がある。会議は、すなわち、通訳する場は、時に本音と本音のぶつかり合いで紛糾する。そのような時に、通訳の内容の一つ一つはとても重要であるし、通訳にとっても、話者の立場を代理体験したような気持になるのだと彼女は書いている、それが通訳の難しさでもあり、醍醐味でもあると。

  • 冒頭は「トルコ蜜飴の版図」、以下なつかしく何度読んでもおもしろいエッセイが続いて、一度は読んだことがある文章ばかりなのに途中でやめるのが難しい。巻末に初出/所収一覧があり、最後の「バグダッドの靴磨き」の他は単行本に収められすでにすべて文庫版になっているので、入門者は気に入ったものから芋づる式にオリジナル作品に出会える。文庫本初収の「バグダッドの靴磨き」は実話を元にした訴求力のある短編小説。救いのない話。でも米原さんの人生をかけて培われた思いがぎゅっと詰まっている。
    解説は池澤夏樹。
    この10年間、米原万里さんがいたら、いまの日本や世界の状況をどう批評するか、聞いてみたいと思わないときはなかった。

    追記:「バグダッドの靴磨き」が高校の現代文の教科書に採用されていると知って、改めて読む。この衝撃作品から米原万里に入門する子もいるのだろうか…と感慨深く。

  • こういうエッセイが読みたかったんだよ私は!
    …という内容をブログに書いた。
    http://zazamusi.blog103.fc2.com/blog-entry-1252.html
    米原万里さん没後10年も経ったのか。
    今でも生きていてどこかでシモネッタを披露してくれているような気がする。
    大好きすぎて、新しい文章をもう読めないのがツライけど、3ヶ月にいっぺんは、米原ワールドに戻りたくなって戻ってます。(笑)
    このベストエッセイは、初心者向きかもしれない。
    きっと中毒になっちゃうけどね。

  • 同時通訳の仕事がとても大変な職業であることがわかり、米原さんのあくなき好奇心と、各界のリーダーから得た感性が混ざり合い、楽しいエッセイばかり。

  • 読んだことあるのも結構あったが、やっぱりおもしろかった。取り上げる視点がおもしろいし、文章はテンポ良く読みやすいし、言葉の使い方も上手だなあと改めて実感。

  • 没後10年で、最近また注目を集めている、通訳者にして名エッセイストのベスト集。
    幾編かは既読のものもあるが、抜群のユーモアで、読者を楽しませてくれる選りすぐりばかり。
    解説でも書かれているが、「通訳は生身の人間が相手。その分だけエッセイの素材がたくさん集まり、そもから品がよくて豪放磊落な自慢話が生まれる」からだろう。

  • 本作に収録されてるバグダッドの靴磨きをNHK高校講座で聞いた。

    https://www2.nhk.or.jp/kokokoza/watch/?das_id=D0022310243_00000

    あまりにも悲しい話で泣いてしまった。

    日本人のジャーナリストが、バグダッドの靴磨きの少年アフメドから彼の身の上話を聞く。少年は30ドルをどうしても貯めたいから、話を聞くなら10ドルで、と持ちかける。

    おじさんなら30ドルくらい一月で稼げたんだけど。
    ほんとは物乞いをしたら儲かるけど足がこれだから。アメリカが作戦のための外出禁止を言い渡した日に、家族ともめて家を出たせいだ。それも叔父さんのせいなんだけど。

    といって回想、というか過去を語る。

    叔父はずっと母が好きだった。父は弟から妻への恋心にやきもきしてる。母は叔父になんか興味はないと言いつつも、満更でもなさそう。叔父がチケットを3つとって渡しにくるといつも「僕それ行きたい!」と邪魔するのがアフメドの役割だった。

    ついに父がアメリカとの戦争で徴兵され、家を出ることに。母は「あなたの愛を試すことをしてごめん。でも本当に愛してるのはあなただけ」と送り出す。父はそれ以降音信不通に。

    父は叔父を一つ屋根の下に率いるのはやめてと言っていたが、母は叔父を引き入れてしまう。でも空襲の時に、叔父が母が防空壕に降りるのを助けようと手を出したら、アフメドがすかさず妹や祖母の手を渡して邪魔するのだった。

    その後、アメリカのミサイルの誤着地によって祖母と妹が死んでしまう。消沈する母だが、叔父はアフメドに気を遣って肩を抱くこともできないでいると、母からアフメドに抱きついて泣いた。

    「僕も死んでいたら良かったね、そしたら邪魔者はみんないなくなって2人で暮らせたのに」

    そうして不貞腐れたアフメドは家を飛び出し、アメリカ兵に膝を撃ち抜かれる。そんなアフメドを助けてくれたのは叔父だった。

    でもアフメドはますます態度を硬化させ、叔父がアフメドの看病やアフメドのやってた家事をやるようになってもつらく当たる。それを見て母は悲しみ、母の悲しみはアフメドの自己嫌悪と苛立ちにつながりますます叔父につらく当たる。

    そして家にいづらくなったアフメドは、抗米戦線のビラまきを手伝うようになる。だが持ち帰ったビラがアメリカ兵に見つかってしまう。叔父はアフメドを庇い、自分が捕まる。

    「悪かった。私は君の母さんが大好きだったんだ。私はもう彼女を守れないから君が守って」

    叔父はフセイン政権時代に泣く子も黙る監獄だったところ、今では米軍の収容所に連れてかれる。そして米軍は、かつてフセイン政権がやっていたように裁判無し拷問殺害を行い叔父は無惨な死体で帰ってくる。

    母はますます塞ぎ込んでいたがアフメドを養うためにお屋敷の使用人を続けていた。ある日、その屋敷で結婚式の準備があった時に、米軍が式に突入した。両側から突入した米軍は、それぞれ自軍の発砲した音に驚いて銃撃戦を起こした。母は巻き込まれて死んだ。だがそもそもこのお屋敷に突入したこと自体がアメリカの作戦ミスだった。米兵は後に、自分が殺した一族の生き残りにケーキを手渡して「間違えちゃった」と言いにいったという…。

    アフメドは母と叔父の恋を認めず母の悲惨な晩年をますます悲惨にしてしまったことをひどく後悔するけど、でもこの時に違う態度を取れというのも無理な話だよ。母と叔父の浮気を黙認するなんて父に申し訳が立たなすぎる。父は激戦地に送られて音信不通だけど、2人の浮気を認めるなんて父の死を認めるようなもんじゃない?もし母と叔父がくっついてしまった後で父が生きて帰ってきたら、家族のことを考えて必死に戦って帰ってきた父は辛すぎる。

    この話を聞いて泣いたジャーナリストは少年に50ドルを手渡す。

    少年はこのお金でコルトと弾が買えるという。

    「僕は人は殺さないよ。僕が殺すのは侵略者だけだ」

    まあアメリカ軍もイラクの人々のこと露骨に人間扱いしてないし、虫ケラみたいに殺してるから…。

    軍事組織が大量破壊兵器を使って民間人を大量殺戮することは「紛争」と呼ばれ、なんの力もない民間人がやっと手に入れた武器で兵士を殺すと「テロ」で「極悪な犯罪」と言われるのは解せないよね。

    それに、その後のイラクの情勢を考えても、この少年がゲリラ活動やテロを行い、復讐に米兵を殺して、いつか自分も殺されるような未来よりもマシな、彼の未来を思い描くことができない。つらい。


    綿井健陽さんの撮ったイラクのドキュメンタリーを思い出した…。それでも人は生きていかなければならない

    ーーーーー

    この話の魅力的なところは、「謎」の使い方がうまくて引き込まれるところ。

    回想ベースなので、少年が一人で靴磨きしてるってことは家族は今どうしてるの?って思うし。
    叔父さんのことが端端に出てくるから、叔父さんはどうなったの?って思うし。
    そして最後に少年のいまに話が至って、目の前の彼を理解したと思い、同情して泣いたところに、「もらったお金で銃を買う」「人間は殺さない、侵略者を殺すんだ」という断絶があり、彼を表面的にしか理解できてなかったなという壁を突きつけられるような落差がある。構成が上手い。

  • 面白い。自身の経験と知識がぎゅっと詰まっている濃い本

  • それぞれの本を読みたい。おもしろい。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。作家。在プラハ・ソビエト学校で学ぶ。東京外国語大学卒、東京大学大学院露語露文学専攻修士課程修了。ロシア語会議通訳、ロシア語通訳協会会長として活躍。『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)ほか著書多数。2006年5月、逝去。

「2016年 『米原万里ベストエッセイII』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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