紫式部日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫 A 3-1 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典)

著者 :
制作 : 山本 淳子 
  • 角川学芸出版
3.93
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本棚登録 : 330
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044072049

作品紹介・あらすじ

平安時代の宮廷生活を活写する回想録。華麗な生活に溶け込めない紫式部の心境描写や、同僚女房やライバル清少納言への冷静な評価などから、当時の後宮が手に取るように読み取れる。道長一門の栄華と彰子のありさまが鑽仰の念をもって描かれ、後宮改良策など、作者が明確に意見を述べる部分もある。話しことばのような流麗な現代語訳、幅広い話題の寸評やコラムによる、『源氏物語』成立の背景を知るためにも最適の入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 秋のけはひ入りたつままに、土御門殿のありさま、いはむかたなくをかし。
    (いつの間にか忍び込んだ秋の気配が次第に色濃くなるにつれ、ここ土御門殿のたたずまいは、何とも趣を深めている。)

    時は寛弘5年秋。『紫式部日記』は、藤原道長の豪邸・土御門殿の描写から始まる。
    この邸に、紫式部が仕える中宮・彰子が出産を控え滞在中だったのだ。出産予定日は9月、陰暦では秋の最後の月。ならば秋の気配の訪れとは、中宮の出産の季節がやってきたということである。

    解説によると、紫式部が宮仕えを始めて2,3年のころに遭遇した、道長一家の将来を左右する一大事が、彰子の出産だった。紫式部はこの出来事の一部始終を記録する係に任ぜられていたようで、得意の観察眼を生かし、出産前からその当日、その後の幾つもの祝宴などで、人々の配置や装束や行動など細かいメモを取っていたものと考えられる。これをもとにして、2年後に回顧録の形にまとめられたのが『紫式部日記』というわけだ。

    『紫式部日記』を読んでて強く感じたのは、紫式部自身の感情や考えが前面に押し出されているなってこと。
    特に彰子について記された部分でそう思う。
    清少納言が定子のためだけに記した随筆『枕草子』は、辛い境遇の定子が楽しむように、そして定子の死を受けてからは、彼女がどれほど素晴らしい皇后であったのかを伝えるために記されていた。目的は定子の鎮魂であったのだろう、悲劇の皇后から理想の皇后へと、定子に対する記憶を塗り替えることが清少納言のたくらみであった。
    ところが、『紫式部日記』には、紫式部自身の鬱々とした感情や苦悩が「辛い人生」や「沈みがち」という言葉を使って、所々で挟みこまれる。この場はこんなにも華やかで晴れがましいのに、わたしは心の底から幸せではない……
    そして、そんな思いを抱いている自分でも健気な彰子の姿には、すべてを忘れるほど感動するのだと続ける。
    亡くなってもまだ定子を一途に想い続ける一条天皇、一向に懐妊の兆しがない自身、父道長、家の繁栄のための使命……孤独や不安、重圧を抱えていた彰子。それでもいつも凛として振る舞う彼女の姿に紫式部は感銘を受けていた。

    紫式部は「わたしの日記」だからこそできる、自分自身の苦悩を吐露することによって、一見華やかな世界で苦しい胸のうちを抱きながら生きる彰子の寡黙で健気な姿を引き立たせることにしたのだろう。これが紫式部のたくらみなのだろうか。
    著者は、「彰子後宮の記録を書く以上、紫式部はどうしても定子後宮文化を代表する『枕草子』のその向こうを張らなくてはならなかった。それが紫式部にしか書けない、人生のはれやかさとしめやかさ、甘さと苦さのないまぜになった個性的な宮仕え記録となったのだと」いう。

    わたしは彰子も定子も好きだ。だけど『紫式部日記』に描かれた彰子には満足できなかった。なんだか「健気」というイメージが大きくなりすぎなのだ。彰子だって嬉しいときは笑うだろうし、楽しくお喋りもするだろう、もっと女の子らしさに溢れた魅力的なところだってあるのじゃないかなぁと思ってしまうのだ。
    なんだか紫式部の清少納言への対抗心のようなものが、「幸せな定子」という虚像のような彰子を絶対作りださないぞと、むきになっているのでは……とさえ勘ぐってしまう。
    でもこの本は入門書なので、これからいろいろな資料を読み込んでいけば、また新たな発見があるかもしれない。彰子のことももっと知りたいし。

    今回一番興味を持ったのは、紫式部と藤原道長とのやり取り。
    たしかに道長とは「何かあるんじゃないの?」と思われる場面がいくつかある。
    たとえば、道長は紫式部に気づくと、庭の女郎花を一枝折り取り、彼女に差しだす。女郎花はその名前から、女性、それも戯れの恋の相手を意味することが多い花だという。
    あるときは、『源氏物語』が恋物語であることを知っている道長は、作者の紫式部を「好きものと評判」などとからかうのだけど、紫式部はうまく切り返す。このときのやり取りが何とも男心をそそるものだったらしい。
    さらに続けて、ある夜、誰かが紫式部の元に訪れたエピソードが描かれる。結局、紫式部は男性を拒むのだけど、その男性が誰だったのかはわからない。だけど、先の一件から道長では?と読者に思わせる記事の繋がりかたとなっている。
    紫式部は道長との意味ありげなやり取りを、どういうつもりで記しているのだろう。うーん、なんだか紫式部って匂わせ女子!?

    • 地球っこさん
      myjstyleさん、こんばんは。

      「聚洸の源氏物語」とても美しくて、見惚れてます。
      これは器と御菓子の芸術ですね。
      まずは美味し...
      myjstyleさん、こんばんは。

      「聚洸の源氏物語」とても美しくて、見惚れてます。
      これは器と御菓子の芸術ですね。
      まずは美味しそう……なんて感想は思い浮かびませんでした。
      え、こんなに美しいもの私には食べられない!……でした 笑

      なかでもmyjstyleさんから教えていただいた「花宴」の桜色のきんとんは、本当に可愛いo(>∀<*)o
      これこそ恋の御菓子です。
      想像していた以上の愛らしさでした。

      あと「玉鬘」の水羊羹とブループレートが綺麗でした。
      それに「幻」の紫の上を偲ぶ「おもひで」と「宿木その二」の薫が朝顔の花に託し中の君に想いを伝える場面からの「朝顔」も好きな感じです。
      これから何度もじっくりと読んで眺めたいと思います。
      教えていただき、ありがとうございました。

      「牛車で行こう!」も、まだざっと一度目を通したところなのですが面白そうです。
      こんな方向からも源氏物語や平安時代にアプローチできるとは、ちょっと驚きです。
      たしかに輦車宣旨を得た人物として、桐壺の更衣と、紫の上と書いてありました。
      「二人とも、不安定な夫婦関係の中で、ただ夫からの愛を得て、身分以上の待遇を得たことを、輦車宣旨で表現しているのである。」と書いてました。

      「和泉式部日記」、宮様に連れ出され牛車の中で結ばれるシーンですね。きゃーとなりましたo(>∀<*)o
      はい、わたしもちゃーんと感想に残してます 笑
      2021/01/16
    • myjstyleさん
      地球っ子さん こんばんは。

      喜んでもらえて嬉しい。
      器と御菓子。想像と創造です。

      「花宴」、いいでしょ!「玉鬘」、正に器と御菓...
      地球っ子さん こんばんは。

      喜んでもらえて嬉しい。
      器と御菓子。想像と創造です。

      「花宴」、いいでしょ!「玉鬘」、正に器と御菓子の協奏です。朝顔を「朝顔」で使わず「宿木」のワンシーンに使う梶裕子さんの感性!
      3週間も楽しめるとのこと賞翫あれ。

      「牛車で行こう」の筆者がなんと京楽さん!
      名前まで雅ですね。
      2021/01/16
    • 地球っこさん
      myjstyleさん、ありがとうございます♪
      雅な世界にじっくり浸りたいと思います。
      myjstyleさん、ありがとうございます♪
      雅な世界にじっくり浸りたいと思います。
      2021/01/17
  • ビギナーズ・クラシックス4冊目ともなると不思議と一冊目よりも原文が比較的すらすらと読めるようになってきました。もちろん詳しい解釈は出来ないので本書の「現代語訳」→『原文』→『解説』はスムーズな理解に大いに役に立ちました。

    日記の作者紫式部は『枕草子』の清少納言が宮仕えしていた定子時代のあとの彰子時代に宮仕えし、本書はその彰子中宮の出産前後のエピソードから始まります。
    なかなか理解しがたかった相関図や、当時の雰囲気がとても分かりやすくて、紫式部の目を通して中宮彰子や藤原道長、宮仕えの女房たち、さらには紫式部自身のこともしることができ、面白い構成や時々意地悪だったり辛辣だったりする紫式部のもの言いもとても面白かったです。

    そのことには紫式部自身は触れていないとしても、なんとなく、紫式部、道長の愛人説も有り得たかもな、プライドの高い紫式部はズバリ言わずにほんのり匂わせているのかも、と思いを巡らせるのもまた楽しいものです。

    宮仕え時代には清少納言と面識はなかったようですが、清少納言の存在が紫式部の作品をさらに上質にさせたのだろうな、と思うとオリジナルエピソードだらけの今放送されている大河ドラマも素直にとても楽しく見られます。

  • 編者の選択にもよると思うが、思っていたよりお仕事小説だったのが面白かった。
    紫式部、それほど陰湿ではなかったけど、
    やっぱりちょっと面倒くさい女だな。

  • 清少納言曰く「派手好きな旦那」を持ち、華麗なる宮廷ロマンス文学を執筆した紫式部のことだから、見た目も性格も男女関係もさぞかし華やかな人物だろうと想像していた。紫式部日記を読むまでは。

    イマイチ乗り気じゃない宮仕えが、やがて自分の得意分野(物語執筆活動や出産時の記録係、彰子への漢文講義等)を活かして宮中に居場所を見つけるとともに、知識をひけらかすことなく周囲とも波風立てず穏やかな人物を装うことで時の権力者・藤原道長にも一目置かれるような唯一無二の存在となった処世術は、現代人の我々にも参考になりそうだ。 

    「マウント女子」とは対極的な紫式部。かと言って容易く周囲に流されるような頼りない性格でもない。「チーム彰子」の女官としての誇りを保ち、同僚やライバル達に対して表立っては言わないが一家言を持っている。悩み事も軽々しく口にはせず、控えめながらも内に秘めた強さを持っている女性だと感じた。

    道長と愛人関係にあったのか気になるところだが、自己顕示欲の強くない紫式部の性格からして、もしそうだったとしても後世には書き残さないんじゃないのかしら。わざわざ言及しなくても良いのに道長をあしらったエピソードを敢えて残しているところが意味深だけども。

    本書を読み終えると、土御門殿の道長が六條院の光源氏と重なって見える気がした。

  • 大変貴重な史料だった。もちろん原本は残っていないし後年の写本ではあるものの…。この時代にこんなお手軽に読めることに感謝したい。
    1000年も前に生きていた人たちの生々しい生活が垣間見える。いつの年代でも人間は本質的には変わらないんだなと(悪口言ったり意地悪する場面ね)

    世の中には清少納言好きで紫式部は性格が悪いだの友達になりたくないだの、嫌なことを言う人が多く、編集者さんも同様の人だったらどうしようと不安であったが一切そのようなことはなく、客観的なコメントをされていて安心した。

    確かに明るくはなく物憂げな感じではあるが本人としては世間に対し思うことはありながらも生き抜いたんだろうなと…。
    どちらかというと紫式部よりの人間なので気持ちがわかる気がする。

  • 同レーベル「紫式部ひとり語り」からの芋づるで興味を持った。

  • これでもかっ! という現代語訳の後に古文を配し、そして解説文が続く構成がとても良かった。源氏物語の作者として教科書でも有名な彼女の、中宮彰子に仕えた女房としての記録とエッセイと言える日記を楽しむことができた。天皇の後継者を生んだ彰子に仕える女房のあり方に対する熱い想い、そして枕草子の作者・清少納言へのライバル心が生き生きと伝わってくる。

  • 紫式部の、宮廷生活の様子などを綴った日記。
    実は彼女が「ネクラなヲタクOL」だったことは、『うた恋。』を読んで知ったので、その辺をちゃんと踏まえて読むと、なかなか興味深い。

    でも、個人的には『和泉式部日記』や『更科日記』のような日記文学が好きな自分としては、面白みには欠けると感じた。

  • 源氏物語の原作者紫式部が彰子中宮の元で宮仕えをしていた3年程の記録及び体験記とも言える「紫式部日記」の解説本です。

    原典と口語訳とを併記されておりまずはとてもわかりやすいです。
    タイトルにビギナーズ・クラッシックスと銘打ってあるだけのことはありますw
    残念ながら原典の全てが掲載されているわけではなく、日記の内容や式部が家庭の主婦から職業女房へと成長・変化してゆくさまにあわせ、3部構成になっています。

    「鬼と女は表に見えないのが良い」とされていた平安の時代、職業としての女官や女房は多くの男性に顔を晒さねばならず総じて「はしたない」「言い寄り易い」と軽視されている側面がありました。
    式部もその世論の中で生まれ育ってきたため、再三再四の宮仕えの要請にもなかなか首を立てには振らず、中宮彰子の熱烈な要望に根負けして出仕したものの、立ち居並ぶ先輩女房たちに気圧され、また冷たくあしらわれ凹み翌日から5ヶ月も家に引きこもりますw
    更に結婚して3年と言う短さで夫が亡くなりいよいよ華やかな宮中へ戻る気にもなれません。

    が、ここで式部の意識は主婦から女主人へと上昇します。
    残された我が子賢子や家司・女房たちを養うのは自分しか無い。
    それに彰子の出産日記を書くことが第一の勤めとされ決まった出仕話。中宮彰子の出産も押し迫りそうそう引きこもってもおられず宮中へ戻ります。
    式部の住む堤邸を担う大黒柱は自分しかいない、ここで働きお産日記を完成させ先輩女房にも気に入ってもらえるように立ち回らなければ!と一念発起します。
    すると女房たちからは「式部さんって思ってたのと違って本当は優しいのね」「式部さんは学がおありだから私なんかきっと叱られるんじゃないかと思ってたのよ」と意外な言葉が。
    冷たくあしらわれ逃げ帰った式部ですが、実は皆式部の学識の深さに恐れうかつなことは言うまいと警戒していただけなのです。

    中宮彰子のお産は男御子誕生と言う上々の結果、産後も母子ともに健やかで宮中は和やかな日々が続きます。
    宮中女房としての処し方も身に付き、徐々に宮中での生活にも慣れてきた式部は手紙形式の日記を書き始めます。
    これは「こんなこと内々の手紙ででも無ければ書けない話なんだけど」と前置きをし女房評・公達評を繰り広げるといったものです。
    式部の文章もくだけた表現が増え、本当に他人の手紙を垣間見してるかのように感じます。

    紫式部日記には、彰子のお産記録、お祝いの儀式の様子の記録だけではなく、中宮女房としての式部の成長日記の要素もあります。
    このビギナーズ・クラッシックのシリーズは本当に初心者に優しくわかりやすいので入門篇としては最適に思いました。

    でも出来れば田辺聖子さんに口語訳+読み物としての紫式部日記を出して欲しいところですw

    今、森谷明子さんがシリーズとして刊行している「千年の黙」「白の祝宴」「望月のあと」は紫式部を主人公としたミステリですが、これらよりも先にこの本を読んでおけば良かったなぁ、と後悔してます。
    「源氏物語」だけではなく「枕草子」の書かれた背景「むかし・あけぼの」を読んだ後だからこそ「千年の黙」が面白かったのですが、更に「紫式部日記」も読んでおけばなおよし!ですw

  • 内気で人付き合いが苦手だけど、プライドは高い。そんなリアルな紫式部の姿や、爺バカ丸出しな道長の姿が見てとれて、大変面白い一冊。

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著者プロフィール

平安時代の作家、歌人。一条天皇の中宮、彰子に仕えながら、1007~1008年頃に『源氏物語』を完成されたとされる。他の作品として『紫式部日記』『紫式部集』などが残っている。

「2018年 『源氏物語 姫君、若紫の語るお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

紫式部の作品

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