- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044094133
作品紹介・あらすじ
靴の前後が分からない。時計が読めない。世界の左半分に気が付かない。三度の脳出血で高次脳機能障害となった著者が、戸惑いながらも、壊れた脳で生きる日常を綴る。諦めない心とユーモアに満ちた感動の手記。
感想・レビュー・書評
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整形外科医だった著者が(脳梗塞を合併する)脳卒中のために、高次脳機能障害になったことを綴る体験記かつ医学的資料(と言って差し支えないと思われます)
私は脳や神経についての専門的知識は皆無ですが、専門用語を交えつつ、しかし「それはどういうことか」を説明してくれる内容のため、容易に読み進めることができました。
数々の困難を経て、めげずに一生懸命に日々を過ごしておられる姿を察するに、著者はかなりの努力家であり、またとても聡明な人なのだろうと思います。
一般人には聞きなれない「高次脳機能障害」ですが、「高次脳」という脳の部分があるのではなく、「高次の、脳機能の、障害」ということだそうで。
どこを損傷したかによってその人の困難なことは変わってくる、ということは場合によっては言語や視覚そのもの、音の聞こえ方などにも不具合を来すということなのかなと思うと、つくづく恐ろしい病です。
リハビリテーションに携わる方にとっては、高次脳機能障害の方がどのような世界を見ているのかを知る手がかりになると思います。
特に、41頁「転落事件」から46ページ「医者のくせに」のあたりだけでも目を通しておいた方がいいかもしれません。まさに「当事者」と「傍にいてみている人」の違いというのか、医療現場で「担当者が冷たい」と言われることの根本がここにあるような気がします(素人考えですが)。
少しだけ、高次脳機能障害と認知症の共通点について書かれているところがありましたが、脳に何かトラブルがあって日常生活がままならなくなったり、問題が起こってくるという点では確かに親和性があるなぁと思うと同時に、やはり「知らない」ということが自他にとっては最大の損失を生むのかもしれないなと、考えさせられるところもありました。
そして何よりも、著者の奇跡的な生還とその後の回復の記録を目にすると「人間の生命力というのか、脳に秘められた可能性は侮れない」と感じました。
貴重な体験を分け与えてもらったような本でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
医者が自らの脳梗塞の体験を綴ったものとしては、ジル・ボルトテイラーの『奇跡の脳』がある。ジル・ボルトテイラーは、その体験をTED Talkでも語るなど世界的にも有名になっている。本書も整形外科医の著者が、脳梗塞や脳卒中(モヤモヤ病という持病のせいで何度も起こしている)の経験を綴ったもので、そういう表現をするべきではないのかもしれないが非常に面白かった。著者がある程度医学知識を持っていることから、自分の置かれた状態を制約はありながらも客観的に見て表現しているため、外から見るとわかりにくいその症状がどのようなものなのかわかりやすくなっている。著者の症状が言語障害を伴わなかったことから、こういう本が世の中に出るようになったのは、ご本人の不幸は痛ましいが、その上で素晴らしいことだと思う。周りのサポートがあり、働く場が準備されたということもきっと大きいんだろうなと思う。読んでいないが、本書はその評判の良さから漫画にもなっているようだ。
著者は、視覚が現実と結びつかなくなり、その端的な例として時計が読めなくなったり、階段の上り下りが難しくなったりするが、その描写も説得力がある。書かれていることから推測すると、集中力を極端に欠いた状態に近いのかもしれないなと思う。また、意識で処理できないものでも体が覚えていることがあるということの例として、階段歩行など想像がつくものの他に、漢字を書くことも体が覚えているというの意外な発見で興味深い。日本語が表意文字であるという特殊性がこういった場面でも出てくるのかもしれない。また、何かの行為を行うときでも、いろいろなところで機能を補っているので非常にエネルギーを使うというのも、この本で初めてわかった。
著者は、高次脳機能障害と認知症との違いを「自分が誰だか知っている」という点であると書いているが、もしかしたら認知症でも軽度の場合にはまだ「自分が誰だかを知っている」状態であったりすることもあるのではないかと思う。いずれにせよ自分自身であったり、周りの人であったりが同じような障害を持つことがいつかあるかもしれない。そのときのために、脳の機能障害であってもリハビリにより回復する可能性があり、回復はずっと続いていくものである、ということはそうなっても忘れないように心の底で覚えておきたい。また、そのときには脳機能障害によってやる気も低下しているので、むやみに「頑張れ」とか叱責とかをするべきではないというのも周りがそうなった場合には参考にしたい。
他の著作でも、AI研究者が高次脳機能障害を負った経験を書いたクラーク・エリオットの『脳はすごい』や、作家であり状況の表現がうまくて読みやすい鈴木大介の『脳が壊れた』も読んだが、同様におすすめ。脳の不思議さと意外なしぶとさを気づかせてくれる。その他にも世の中には高度脳機能障害を負った人がその体験を書いた本が実はたくさんあることに気が付いた(Amazonがおすすめしてくれる)。自分もいつかそうなるのかもしれない。そのときにこういう本に書かれたことを知っているか知っていないかでずいぶんと回復に向けてどこまで努力できるかが違うような気がするのだ。
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『奇跡の脳』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4105059319
『脳はすごい』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/479176885X
『脳が壊れた』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4106106736
医師も同じ人間なのでそういった経験をしている人は当然たくさんいて、英語では体験談がまとめられていたりもするらしい。脳の出血部位によりその影響は様々なので、色々な話があるのだろう。 -
今も医師であり(かつて整形外科医として働いていた医師であった)「モヤモヤ病」・「高次脳機能障害者」の筆者の生きる姿を自分自身で自分を語る。生きることとは、生存すること。生かすことは、はずかしがるではなく、惜しむことなく、カミングアウトすることであり、回復することであり、現状を受け入れて生きていくことである。ふとしたことから、手にすることになったのだが、淡々と読んでいくうちに、ぐいぐいと引き込まれていきそうになるのを、ぐぐっと、できるだけ、事実を読んでいこうという姿勢で読んでいくように心がけた読書であった。
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知らない事を知るために読書する。この本は障害を持ってしまった人生・心の葛藤・気持ち・を知るために大切な一冊。とても分かりやすく書かれている。
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著者の方には大変申し訳ないが、医師にして脳出血の当事者という非常に稀有な存在の人がいてくれて良かったと思わずにはいられない全脳出血当事者必読のバイブルともいうべき良書。
勇気を貰える記述が多数あった。
特に日常生活を平穏に過ごすのと回復のため、超高速にフル回転している脳のエネルギー源を補給するには糖分を取る必要がある。との記述には我が意を得た気持ちになった。 -
病気とか障害って辛いけど、
「とりあえずもう治らないから諦めて」
「どうせできないから、できる事だけ楽しんで」
「そんなにがんばらなくてもいいけど、やりたい事は諦めないで」って事だと思う。笑
とりあえず脳ってすごいなぁ。よく作れたね。奇跡?
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高次脳機能障害をもつ医者目線の話から、脳の障害に対する印象が変化したと同時に、人間の脳の可能性、すごさを知った。そして、脳に限らず障害とバリアフリー、社会について考えさせられる。
さんろく
所蔵情報:
品川図書館 493.7/Y19 -
母親の高次脳機能障害がどんなもんか知りたかったので読んだ。やっぱりうまいこと想像つかないな。また読む。
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素晴らしい、モヤモヤ病で脳出血を起こし、高次脳機能障害になった医師で母親でもある著者。
こんなに不自由でも、前向きに生きる努力をする著者に、敬服する。
本人の明るさもだが、友人や家族も素晴らしい。
環境の大切さ、そして専門職としての態度、教えてくれる。 -
#科学道100冊/脳とココロ
金沢大学附属図書館所在情報
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https://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB00702596?caller=xc-search -
著者:山田 規畝子[やまだ・きくこ](1964-) 医師。作家。
解説:山鳥 重[やまどり・あつし](1939-) 医師。神経科学者。
カバーイラスト:唐仁原 教久
カバーデザイン:芦澤 泰偉
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2009年11月25日
判型:文庫判
商品形態:文庫
ページ数:320
ISBN:9784044094133
◆高次脳機能障害の苦しみに決して諦めない心で向き合う医師の、感動の手記。
靴の前後が分からない。時計が読めない。世界の左半分に気が付かない。三度の脳出血で高次脳機能障害となった著者が、戸惑いながらも、壊れた脳で生きる日常を綴る。諦めない心とユーモアに満ちた感動の手記。
〈https://www.kadokawa.co.jp/product/200906000033/〉 -
健常者では想像しにくい高次脳機能障害という世界を当事者本人の目線で分かりやすく書いています。
本の内容から人の脳の可能性に驚きましたし、当事者さんにどういう態度で接したらいいのか参考になりました。 -
共感、共感!
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高次脳障害を持つ筆者による体験記のようなもの。
頑張って欲しい。(「頑張って」って言っちゃダメか。。)
脳卒中で倒れた人の後遺症は、人それぞれで本と同じではないけれど、必ず読むべき本だと思う。
普通の生活が最高のリハビリ。
どこがおかしいのかは、外から見てわからないが、今まで知っていたあなたとは違う。
違っていることが本人にわかっているのかどうか。
勇気を出して一度聞いてみようと思う。 -
脳の高次機能障害について、自分の症状とそのときの感覚や自分なりの理解が、著者の描写とかなり一致する部分が多く、方向性としては間違っていないんだなと思わせてくれた。
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三度の脳出血で高次脳機能障害となった、自身も整形外科医であった筆者が、その症状とはどんなものであるのか、という自身の体験を語り、また、社会や周囲が患者にどう接すべきであるか、などについて論じている。
高次脳機能障害は、盲目や認知症などと違い、症状が周囲から見て分かりづらく、ただ単に少しトロい人、で片付けられがちであるというが、そのとき、実は本人の中で何が起こっているのか、筆者の体験談を通して、その一端を理解することができた。
高次脳機能障害は、脳の機能の一部が脳出血等により働かなることにより、環境からの刺激による情報を統合して評価することができなくなるという。
すると筆者のように頭頂葉が傷ついた場合であれば、周囲の世界の空間認識・・・遠近感、凹凸などが把握できなくなり、食べた後の食器をお膳の空きスペースに置いたり、階段を降りたりといった、普通の人には何でも無い行動が、非常に困難になるらしい。
ダメージを受けた脳の部位の違いにより、人によってどんな機能が抜け落ちてしまうかというのもまちまちらしく、やっかいだ。
筆者は、治療やリハビリに関わる人には想像力が必要だと論じているが、その通りだ。
このように、自分にとてつもない変化が起こっているのに、他人事とも言えるような冷静さで症状について語る筆者がすごい。
あまつさえ、高次脳機能障害について興味を深め、自分の症状を客観的に分析し、生活の工夫に生かしている。
また、「普通の生活が最高のリハビリ」をモットーに、どんどん社会生活に飛び込んでいく姿勢も、なかなかできないことだと感じた。
(周囲の遠近感や凹凸が消え、ただ平面的なパターンだけが見え、知らずにものにぶつかったり、落ちたりしそうな世界を一人で歩こうと、私なら到底思えない。)
このように重篤な障害であれば、絶望に塞ぎ込み、戻ってこれなくなっても、いた仕方ないと思う。(実際、そういう時期もあったのだろう。)
この先、重大な病気にかかったとき、筆者の病気に対する立ち向かい方を、思い出せたらと思う。
たとえ、そうなってすぐにはそうできなくても、決して諦めず、明るく生きていく道を探したい。
しかし、脳というのは、さらりと高度な情報処理をこなしているものだ。
そして、私たちは、その脳のフィルタを通してしか、決して周囲を認識することはできないのだ。
健康であればまず認識できないが、生きていく上で必要なものは、全て持っているという当たり前の事実に驚愕する。
まさに筆者の息子さんが言うとおり、「何もできなくても生きているだけでいい」ということなのだ。 -
素晴らしく興味深く、読みやすい1冊。同テーマの「奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき」と比較してもとても分かりやすく、著者が日本人ということもあって親しみやすかった。人に薦めるならこちらを優先したい。
脳のリハビリでものすごくおなかがすくというエピソードと、半側無視を自身の視点から記述した部分が特に興味深かった。
著者の義兄の人柄には惚れ惚れする。脳に損傷を受けた人々を「生き残った勝者」とし、「勝者としての尊敬を受ける資格があるのです」と言ったスピーチにはぐっときた。 -
2014年12月新着
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「高次脳機能障害」についての本。
著者は医師である自ら脳梗塞等何度か脳内出血を起こた高次脳機能障害を持つ方である。
ある意味、医療の知識もあり、かなり恵まれた立場であると言う事で何とか社会的にも復帰し、子育てもあれているのであるが、自らの体験談は驚きの連続である。
そんな風になるのかと思う反面、聞きかじりの脳の知識を考えると、なるほどそうなるのか、とも言える。
明日は我が身かもしれない「高次脳機能障害」について知ることが出来き、またこの病気を通して脳の機能の一端を知ることが出来る本である。 -
脳梗塞により高次脳機能障害になった医師のお話。
脳の障害という観測しにくいものに対し、医師による主観の記録によって圧倒的な情報量があり、わかりやすいものになっている。
脳の一部の機能が失われることにより当たり前のことができなくなるということが脳の複雑な仕組みを示してくれている。
いろんなことを普通にできる人間とそうではない障害を持った人、ロボットの違いなどについても考えさせられることも多く、ロボットの研究者などにおすすめしたい。 -
脳が壊れてしまっても、諦めなければ生きている限り成長と回復は続く…。
脳障害を持つ当事者や家族だけではなく、ごく普通の悩める人にも勇気を与える本だと思います。
うまくいかないことばかりでも、諦めないで工夫して、懸命に生きればきっと、と。
けど、懸命に生きるっていうのが難しいんですよね…。何のために?という動機がないと。
この作者の場合は、息子の為にという動機も大きかったのかな。あとは持ち前の好奇心も回復にはとてもプラスに働いたのでしょうね。
ノンフィクションとしても良作ですが、
高次脳機能障害について知りたい、知ってもらいたい人のための気軽な医学書としても使える本だと思います。 -
自分も当事者(器質性情緒不安定性障害)で読みました。あまりに王道の高次脳の闘病記なので、今まで敬遠していましたが、症状はまるで違えど「理解る!」ということがすごく多くて思わず泣いてしまいました。
著者が尊敬するDrから言われた言葉で
ー高次脳機能障害は、揺れる病態です。(中略)患者さんはいつも揺れています。だから診るほうも、いつも揺れていないと診られないー
この箇所を読んだときに...自分にも声をかけられたような気持ちになって救われました。
そして何度も脳卒中を経験し、障害が加わりながらも自分の生きる道を探し続ける著者のパワーに勇気を貰いました。 -
これだけ脳卒中になる人が多いのに、脳卒中になった人がどのような課題にぶつかり、どのように考えているのか知る機会は驚く程少ない。そういう意味で、とても意味のある本だと思う。
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とても勉強になりました。とにかく脳自身がいろいろ発達していくのが素晴らしい。自分がそうなった時に忘れないようにしないと、可能性があることを。
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医師である著者に、ある日突然脳出血という出来事が起こる。
大きく変わる生活。そして、彼女の内的世界を、未経験の私達に教えてくれる、とても大切な一冊です。
長寿社会とは、「健康体の人々が完璧に過ごす社会」ではなくて、程度の差こそあれ、互いに何かしら欠けや抜けがある人達が集まった社会になる事なんだと、気づかされました。
絶対、読むべき本だと思います。 -
医師であり当事者でもある筆者の、高次脳機能障害についての手記。
脳が傷つくことによって、何が起こるのか。
本書はその「内側」からしか知ることのできない世界について知ることができる、貴重な内容です。
医学的見地から、ひとりの当事者としての視点から、「その時」のことと、この後の回復について、希望を感じられるような形で描かれていて、とても読みやすい一冊でした。
高次脳機能障害の方と関わりのある方々にはぜひオススメしたい内容です。
個人的には息子さんとのエピソードが涙なしには読めませんでした。
ご自身も大変な中で、それでも育児と仕事を当たり前のこととして続けていらしたところに、同じく子育て中の母親として、深く尊敬の念を抱きました。
支援者として果たすべき役割は、
当事者の方が希望を抱けるようにサポートすることと、
回復の可能性を信じること、
だと思いました。 -
当事者の視点から高次脳機能障害について説明している。
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高次脳機能障害を患った整形外科医の記録。医者として患者として二つの視点から高次脳機能障害をみる、なかなかない貴重な記録だと感じた。授業で習ったが、いまいち具体的に状態が想像できなかった失行や半側空間無視のイメージができるようになる。患者のやる気をそがない、内心を想像する。医療職を目指したいと思う。初心に立ち返りたいときは、これを読もう。。