愚者のエンドロール (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.64
  • (691)
  • (1602)
  • (1708)
  • (209)
  • (28)
本棚登録 : 13239
感想 : 1112
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044271022

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 夏休みも終盤に差し掛かり、神山高校は文化祭に向けての準備中。
    文集『氷菓』を出品するために集まった古典部の四人、奉太郎、里志、伊原、千反田は、二年F組の制作した映画の試写会に誘われる。
    山奥の廃墟にある劇場で、密室殺人事件が起きるという未完のミステリー映画の結末は?犯人は?その方法は?

    ビデオ映画の中の出来事なのに、ほんとうに殺人事件が起こったかのような緊迫した雰囲気で、ほんとに高校生?と思うような個性的な先輩ばかり出てくる。
    「女帝」という渾名の入須先輩に翻弄され、知らず知らずに他人事に巻き込まれた感はあるけれど、奉太郎の「力」で映画は無事完成。

    奉太郎の謎解きもさることながら、里志の巾着袋から出てくる小道具や、タロットやシャーロックホームズの短編集の知識が散りばめられていて楽しかった。
    ウイスキーボンボンで酔っぱらったり、人の亡くなる話はきらいだという千反田のキャラクターは、ほっとさせてくれる。

    里志と伊原、千反田と奉太郎の関係も気になるので、この後も続けて読んでいきたいと思う。

  • 2年生の入須冬実からの依頼で、文化祭に出展予定の自主映画を観た古典部メンバー。しかし、その映画は廃屋の密室で少年が殺されている場面までしか撮影されておらず…。奉太郎たちは結末を推理することになったのだが──。青春ミステリ「古典部」シリーズ第二弾。

    映画の試写会へ招かれたら、作品が未完成!病に伏した脚本家・本郷真由が考えていた結末を推理しろと言われた──何を言っているかわからねーと思うが(略)状態。そこに千反田えるがいるのだから「わたし、気になります」と言うに決まっているという。奉太郎はえるや入須に巻き込まれたり乗せられたりしながら、その結末を推理していく。手がかりは途中まで撮影された映画、脚本、参考にした本に加え、先輩たちが考えた推理も交差!多重解決が本作の主軸になっている。

    「別にいいじゃない、鍵ぐらい」
    密室殺人の推理大会に登場するこの一言はまさに至言(笑) これで済めば探偵はいらないんだよなあ。こういうコミカルな推理と、シニカルな奉太郎や里志の思考が入り混じるのが楽しい。ただ、そう笑っていられるのも中盤まで。奉太郎が導き出した結論から、すべては始まる。これはミステリであり、青春小説でもあるのだと。奉太郎の心境の描き方が憎らしいほどビター。噛み締めるには苦すぎる。自分の存在意義とは?という部分が照らし出されて、浮かび上がった光と影に絡め取られる。

    「誰でも自分を自覚すべきだ」
    反射して眩しく跳ね返る入須の言葉。ここから発展して「誰でも自分一人ではできないことがあると自覚すべきだ」と作品で伝えたいのかなとぼくは思った。その手段としてタロットや多重解決的な手法を取り入れたというか。解くべきものは、事件の謎か、人の心か。

  • 古典部シリーズ2作目。
    文化祭での出し物として途中まで制作されたミステリーのトリックと犯人に関して依頼された古典部。面白かった。奉太郎の推理も見事だし、それに対する他のメンバーの切り口も良かった。奉太郎の姉の掴めない凄さにも驚いた。

  • 古典部シリーズ第2弾。これはタイトル買いしてしましました。(笑)
    コージーミステリーだが、一応、「殺人事件」の謎解きがメインです。
    登場人物はお馴染みのメンバーで、新たにクセのある「女帝」が加わります。もう少しキャラだちしていても良かったかな。(笑)
    「女帝」の振る舞いと脚本家がずっと登場しなかったので、まあ先が読める部分もありましたが、推理合戦の様相がお気軽に楽しめる作品だったと思います。舞台設定が大掛かりな割にはお手軽な感じだったので、もう少し雰囲気を出しても良かったかもしれない。構成はがっちり型にはまったようでもありキレイだが、キレイ過ぎるところで安心感があり今一つ盛り上がらなかった感じ。解答のひねり具合が少し難しい。

  • 〈古典部シリーズ〉2冊目読破!
    今回は前作『氷菓』のような1冊でいくつかの事件を解決するのではなく、1冊でひとつの事件を解決するという長編の構成でした。

    今作は奉太郎の推理が2段階あって、1回目の推理もだいぶ終盤に差し掛かった頃に筋が通ったものがきたのでこれが結末かなと思っていたら、2回目の推理まで来てかなり楽しくて最後はページをめくる手が止まりませんでした。
    一般のクラスメイトの推理は割と私たちと思考レベルが似ていたのもあって、なんだか親しみやすかったです(^^)

    今回は奉太郎が自分の技術を自覚する過程のシーンが印象的でした。
    「誰でも自分を自覚するべきだ。でないと。...見ている側が馬鹿馬鹿しい」(本文より)
    この言葉で入須先輩いいこと言う...と思ったのも束の間最後の最後に『女帝』を見せつけられ、なんとも言えない気持ちになりました( ̄▽ ̄;)

    ホームズネタが結構出てきたので、やっぱりミステリーを嗜むならコナン・ドイルさんのホームズシリーズも読んどかないとな〜としみじみ思います。

  • 古典部シリーズ第2弾

    この4人の関係が好きだなー。

    今回はホータローの「省エネ」スタイルが崩されて、迷い悩みながらも自分から結果を見つけに行くところがよかった。

    《誰でも自分を自覚するべきだ》って
    入須に誘導された感もあるけど。

    里志が ホータローを「タロットの《力》だ」と言ってたところ。

    《力》内面の強さ、絆を表す
    にも納得したけど、(ホータローは全然納得してなかったけど笑)

    でもねホータロー
    《力》の逆位置の意味には
    無気力、人任せ、下卑
    って意味もあるらしいよ!

    ちなみにタイトルの《愚者》は
    自由、無邪気、型にはまらない、発想力
    だそう。
    千反田にピッタリだ。

  • 今回も題名から内容を推測して読み始めた。愚者は何を意味するのか私には想像がつかない。エンドロールは映画の最後に出てくるやつだろう。
    ただ、英語で書かれた題名がついている。直訳すると彼女はなぜエバに依頼しなかったのか?
    謎の題名である。

    2年F組が文化祭用に撮った映画を2年の入須が古典部に見て欲しいと依頼するところから始まる。その映画は劇中で鍵のかかった部屋で殺されているところで終わっている。なぜなら、脚本を書いた本郷が病んでしまったからで、その後の続きを推理して欲しいというのが入須の依頼であった。

    登場人物は前作の4人に、2年生の入須、連絡役の江波・エバだ!、撮影班かつ助監督の中城、小道具班の羽場、広報担当の沢木口など。
    この作品はミステリーらしさがある。そして、ミステリーを否定している点も面白さがある。いろんな点で不自然さは否めないが、折木らしさが際立つことと、折木奉太郎の気持ちの変化が上手く表現されている。
    折木奉太郎のこれまでの言動自体がミスリードになっている。題名が最後にものを言う。

    Why Didn’t She Ask Eva?

    キーワードは叙述トリックである。
    答えは次作のあとがきに書かれている。誰でも自分を理解すべきである。愚者はタロットの暗示なのか?
    次も読まなければ、スッキリしない。

  • 古典部シリーズ2作目にして、早くもホータロー以外の古典部メンバー影が薄くない?
    がっつり長編なのに。

    1巻後の高1の夏休み。
    2年F組の未完成ビデオ映画の結末を推理するという内容。
    依頼してくる先輩も、推理を披露する先輩たちも個性が際立ってて、この高校どんだけ人材豊富なんでしょ。

    人が死なない日常の謎系のミステリーが、古典的密室殺人仕立てになって、また違った味わいで楽しめました。
    ミステリファンには分かるいろいろ小ネタがあったんだろうなぁ。

    しかし、最終的な結末はちょっと後味悪いものでしたな。
    入須先輩なー、計算高いが悪い人ではないんだろうけど。
    奉太郎が翻弄されてちょっと強くなったかなぁって印象です。

  • 天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずという。また、天はニ物を与えず、とも。
    これらの警句が妥当だとするなら、天の綱紀は粛正されねばならないだろう。

    とシニカルな独白で登場し、天才の活躍を羨んだり、自分にも何か才能が・・・
    などと思うのは虚しいと、冒頭で言い切る奉太郎が
    その信念を「女帝」入須冬実にいいように揺り動かされた挙句に味わうほろ苦さ!
    まさに米澤穂信ワールドです。

    「データベースは結論を出せないんだ」と、密かに淡い絶望を抱えつつ
    才能を持ちながら省エネを貫く奉太郎を複雑な思いで見守る里志と
    里志の知識の広範さを誰よりも理解し、彼の自己評価の低さに首を捻る奉太郎の
    なにげない会話の中に、才能の浪費や無自覚、人それぞれの器など
    作品のテーマに繋がるエッセンスを散りばめる、熟練の筆致。

    「女帝」入須に奉太郎が抱いた第一印象が、
    マリー・アントワネットをはじめとして娘たちを次々に敵国に花嫁として送り込んで
    冷徹なまでに自国を守った「テレジア」であったことの
    あまりに正鵠を射た運命の皮肉(?!)に、
    思わず奉太郎をよしよししてあげたくなってしまう。。。

    そして、奉太郎には「力」、里志には「魔術師」、
    千反田さんには「愚者」、摩耶花には「正義」のタロットカードを配し
    古典部にはなんの関係もない上級生の映画に纏わる謎で
    4人の輪郭をくっきりと浮かび上がらせてしまった
    米澤穂信さんの筆の冴えに思わず唸ってしまう、古典部シリーズ第2弾。

  • 途中で終わってしまったミステリーの結末をみんなで考えよう。途中までと矛盾がなければなんでもOKだよ!……っていう面白い切り口の作品。

    人が死なない系学園青春ミステリーで嫌な気持ちにならずに読める、読後も爽やか。
    それでいてしっかりミステリーとしての側面も持っている、良い作品。
    ☆3.6

著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

米澤穂信の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×