「愛」と「性」の文化史 (角川選書)

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著者 : 佐伯順子
  • KADOKAWA/角川学芸出版 (2008年11月10日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047034310

「愛」と「性」の文化史 (角川選書)の感想・レビュー・書評

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  • 文学や芸術の中に、「愛」と「性」にまつわる日本人の心性史をたどる試みです。

    著者はまず、近世における春画や人情本についての分析をおこない、近代以前の「色事」に「現世離脱欲」というスピリチュアルな含意があったことを明らかにしていきます。次に、一夫一婦制が倫理的とされるようになった近代日本へと議論の舞台は移され、与謝野晶子や谷崎潤一郎らの作品を取り上げ、「恋愛」と「性欲」という観念が果たした規範的役割についての考察が展開されています。さらに、やや簡潔ではありますが、心中や貞操、老人と性といった現代的なテーマについても触れられています。

    『遊女の文化史』(中公新書)や『恋愛の起源』(日本経済新聞社)といったこれまでの著者の作品に比べると、テーマを広げすぎてやや散漫な印象があります。現代における貞操や老人の性といった問題は個人的にも関心がありますが、著者自身がどのような社会学視点を採用しているのかはっきりしないため、どうもすっきりとした見通しが得られないように感じてしまいました。

  • 芸術・文学作品内での表現を中心に、古代(一応)~現代までの色恋について分析されている。が、メインは江戸から明治にかけての「愛」と「性」の分離について。

  • 分割されていく恋愛-『「愛」と「性」の文化史』
    http://d.hatena.ne.jp/kojitya/20100601/1275422507

  • 著者:佐伯順子(角川選書・1575円)評者:張競 
    2009年1月25日(日) 今週の本棚より

    サブタイトル:「恋愛」と「色事」の上下関係を転覆



    「愛」と「性」。
    重たい、テーマである。

    先日「ロシア文学の食卓」の書評の書評でも書いたとおり、性・食・眠は
    生き物としての三大欲求である。

    その一角を為す「性」。
    更にそれと緊密な(表裏といってもよいかもしれない)関係となる「愛」。

    その二つを扱うのだから、このテーマが軽かろう筈がない。


    そして、その二つを論じることは、間違いなく人間学に通低することになる。

    人という存在が、どこから来て、どこに行くのか。

    その答えは、問うた人の数だけ、場合によってはそれ以上に存在するが、
    「愛」と「性」とは何か?という、人の動物的情動の根源を担う二つの
    在り様を問う質問についても、先の人としての原点を問う質問と同じ
    ことが言えるだろう。


    評者は、冒頭でまず、昨今ネットを騒がせたアメリカにおける自らの処女を
    オークションに掛けた女子学生(正確には大学院生)を取り上げる。

    評者は、アメリカを性開放の先進国として捉え、そのアメリカにおいて
    でさえも貞操という観念に驚くべき高額が付けられたことに驚嘆してみせる。

    そもそも、アメリカが性解放の先進国という認識自体、本当に妥当なのか?
    という疑問はあるが。

    イギリス有数のタブロイド紙 The Daily Mailの2008年12月2日版
    によれば、48カ国の1万4000人以上に行ったアンケートの結果として、
    もっとも性解放が進んでいる国はフィンランド。以下、ニュージーランド、
    スロベニアと続き、アメリカは意外に慎ましやかな22位。ちなみに日本は
    43位である。

    まあ逆手に取れば、性解放が進んでいないからこそ、貞操をオークション
    販売することに世間の耳目が集まるとも言えるが。



    まあ評者のアメリカ感の是非はともかくとして。
    この貞操という言葉をとりかかりに、評者はこの本の中へと滑り込んでいく。
    作者は、与謝野晶子の著作(というかコラム)である「貞操は道徳以上に
    尊貴である」に示されるような貞操感を、明治時代の女性抑圧的な社会
    風潮に結局は組み込まれているもの、と指摘する。

    このことを皮切りに、江戸時代以降の様々な文学作品を俎上に上げ、
    その中に描かれた「愛」と「性」の観念を丹念に分析していくことにより、
    ついには現在巷で敷衍している貞操感が、明治以降の文明開化の洗礼を
    受けた人々が生み出した強迫観念に過ぎないと喝破する。

    そして、その対抗軸として、近世に見られた性風習(本書では、「色事」という
    表現を為されている)が、ただ単に欲望の充足的な側面に着目するのでは
    なく、もっと大らかな精神愛に近いようなものが根底にあるのではないか、
    と示唆する。

    それでは、現代に生きる僕達は、どちらを精神の機軸とすればよいのか?

    それについては、作者は一考の余地がある、といった程度で筆を措いている。

    確かに、観念というものは、二極対立をするような性格のものではなく、
    時代の変遷とともに移り行くものとすれば、貞操に代表される禁欲的な
    観念も、祭りの夜の夜這いといった開放的な観念も、ともに参考にこそなれ
    そのまま現代に受け入れるかどうかは別問題であろう。

    今の時代を読み解くということの困難さを考えれば、そこで論旨が止まって
    しまったことは致し方ない側面もある。
    あるがしかし、そこにこそ踏み込んで、時代のトレンドが意味するものを
    掴み取り、作者の主張として打ち出して欲しかった思いがある。

    特に昨今、自分的に気になっていることとして、こうした観念が循環性を
    持つか否か、という命題がある中では、非常に作者の見解が気になる
    ところである。

    余談であるが、最近知人と論議をした際に、IT技術の革新は人と人の
    関係性にどのような影響を及ぼすのか?という話で盛り上がったことが
    あった。

    知人は、従来より新たな技術の発展を踏まえて人類は対処をしてきた
    という歴史がある。それを思えばIT技術といっても、特段に気にするような
    性格のものではない、とするスタンス。

    僕はといえば、IT技術は、万人が情報発信者足りえる状況をもたらした
    こと。その擬似匿名性から、人間の中の攻撃性が容易に刺激されやすい
    ことなどから、この進歩はコミュニケーションに従来の延長とは捉えられない
    ただならぬ影響をもたらすというスタンス。

    議論は平行線のまま終わったが、そうした人間の本質に関わる部分の
    変化がサイクリックなものか、不可逆的なものか。
    どう捉えるかにより、対象に対する認識は大きく変わる。

    そのためにも、本件に対する作者の思いを、是非聞きたかったところで
    ある。

    (この稿、了)

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「愛」と「性」の文化史 (角川選書)の作品紹介

私たちが現在使っている「愛」や「性」という言葉の概念は昔から同じような意味で使われていたものではない。現代の日本人が「愛」や「性」に抱くイメージは、どのような軌跡をたどり形成されてきたのだろうか?その変容を文学や絵画などに描かれたさまざまな表現に焦点をあてて考察。時代や男女の違いによって異なる多様な恋愛観、結婚観、性愛観の文化史的意味を探る。

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