しつこさの精神病理 江戸の仇をアラスカで討つ人 (角川oneテーマ21 C 181)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2010年2月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
- / ISBN・EAN: 9784047102217
作品紹介・あらすじ
恨みの呪縛で自らを不幸にするのはなぜか?恨みと復讐の念に苦しむ人へ。
感想・レビュー・書評
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文章が上手く読みやすい。様々な文学作品が症例で出てくるのでとても分かり安い。
「苦笑」が大事。確かに不思議な感情だ「苦笑」は。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最終章の苦笑の効用が拾い物。ついつい人を恨んだり、憎んだり、問題点を周囲のせいにしてしまう。するとそのうちに自分が不幸になっていくことは経験上感じる。人を呪わば穴二つということです。
そうした気持ちに陥りそうになったとき、”釈然としない気持ちと引換に自分の脆さや厄介さを「苦笑を交えつつ」眺めるための「練習をしている」と心得ること。”、憎しみや恨みを苦笑という形に変換することで、自分の気持ちを客観的に眺め、昇華させるということかなと。
敵討ちを通じた心の変遷を描いた「恩讐の彼方に」や、古今東西の人の恨みや憎しみを扱った作品の引用がたくさんありました。 -
2022/06/02
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強迫スペクトラムの文献を探してたら目があって。
全然違うテーマだったけど面白くて一気読み。さすが春日氏。 -
第五章P140〈「そんなに死にたいのなら、ほら、今すぐ死んでみろよ」と言い返すわけにもいかず、(中略)とにかく相手をしなくてはならない、といったケースである。〉
P143〈自殺というのは実に陰険な仕返しということになる。自己完結しているかのようでいて、周囲へのマイナスの影響力は絶大なのである。そのあたりを直感的に見越して「死んでやる!」と喚くわけなのだろうから、まことに彼ら自殺宣言者たちは厄介な存在ということになる。〉
いずれも本文中からの引用である。
帯裏の著者略歴によれば、現役の精神科医であるらしい著者がこんなことを書いていいのか、他人事ながら心配になる。
この方の書かれた本は、もう読まない。 -
淡々とした語り口が読みやすく、想像通り精神科医って冷静・客観的なのだかなあと感じた。
実際に出会った患者や小説中の説話をふんだんに使用しているから、わかりやすい。
特に主張したい内容があるでもなく、「恨み」に関する様々な側面を照らしている本という感じ。「恨み」とは現実とフィクション、正常と異常の境界に位置するものであり、誰しもが抱くもの。たいへんシンプルなようで、単純には言い表せないもの。って感じかな。
この複雑さについての言説が興味深かった。恨みを抱く人の全てが実際的な復讐の達成を目的としているわけではなく、自己正当化を繰り返しながら現実に向き合わないでい続けるパタンもあるという。これは納得だなあと感じさせられる。恨みの形骸化は一種の自己防衛機能ともいえるんだろうな。
恨みの本質には自己愛や自尊心といったものがあり、恨みとは関係の問題のようでいて、個人の問題でしかないということが学べた。 -
前半の、妙ちきりんな事件コレクションのような章が、それ自体はものすごく不幸であるのに、同時におかしみを覚えてしまう。今の笑いは不謹慎であったかなと思いつつページを繰る。世の中はそういう不条理に満ち溢れており、だからこそ怒りや恨みをこじらせて症状として表出してしまうことが避けられない人というのは一定数存在するのだろうな。であればそれらの安全ないなし方を体得するに越したことはないよね。苦笑で済むなら安いもの。