異常気象と人類の選択 (角川SSC新書)

著者 :
  • 角川マガジンズ
3.32
  • (2)
  • (8)
  • (8)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 78
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047316225

作品紹介・あらすじ

相次ぐ異常気象と温暖化の関係はもちろん、温暖化の科学についての誤解を解説。3・11以降の正確かつ冷静な温暖化の論じ方、そして人類の選択を多方面から検証する。持続可能な人類の将来を考える提案の書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 自然科学者らしく、エビデンスに基づいて地球雨温暖化がどの程度進んでいるのか?何が確からしくて何が不確かなのか?様々な要素が絡んでの結果としての気候なので、予測は困難を極めるが、それでもどの程度の確率なのか?を前提に確実に人為的要素によって地球は温まりつつあるというのが理解できる書籍。

  • 慎重に温暖化について議論をしている良著だと思った。

  • 温暖化と異常気象の関係が論じられているほか、主要な懐疑論への回答がまとめられている。

    熱中症による平年の国内の死亡者数は200〜400人だったが、2007年は900人を超え、2010年には1700人を超えた。温暖化によって大雨が降りやすくなるが、雨の日の日数は減少している。亜熱帯域では上空が高温になって大気が安定したり、相対湿度が低くなるため、雨が降りにくくなる地域がある。2011年にIPCCが発表した極端現象に関する特別報告書によると、人為起源の温暖化による可能性が高い影響は、高温の増加、低温の減少、高潮の増加くらいで、異常気象と温暖化の関連は認められない。夏に北極海の海氷が少なくなると、低気圧が北極よりの経路を通るため、冬にシベリア高気圧が発達しやすく、日本の冬が寒くなりやすい。

    水蒸気の変化は気候システムの内部の過程なので、外部要因には含めない。気温の変化がCO2濃度の変化に先行しているとの指摘については、CO2の増加が原因で気温が上がり、その結果として陸上生態系がCO2を吸収しにくくなり、気温上昇を増幅すると説明している。太陽活動の変動によって地球に降り注ぐ銀河宇宙線が増減し、雲の形成に影響を与える説については、20世紀後半に銀河宇宙線が弱まっていないこと、CERNの実験で銀河宇宙線が雲の形成にもたらす効果は限定的という結論が得られていること、マウンダー極小期の気温低下が0.5℃という推定値が今後予想される温暖化に比べて小さいことをあげている。最近15年間、気温上昇が止まっていることについては、海の持つエネルギーの観測データや海面上昇が続いていることから、温室効果によるエネルギーは海の深層に吸収されていると考えられ、太陽活動が弱まっていることも要因としてあげている。ただし、気候モデルに与えている外部要因や、外部要因に対する気温の応答を大きく見積もり過ぎている可能性にも言及している。IPCC第4次報告書の間違いについては、確かに1〜2か所あったが、3000ページの報告書全体が疑わしいと考えるのは大げさだと主張する。

    産業化前を基準に2℃を超えないためには、温室効果ガスの排出を炭素換算で1兆トンを上限にすることになる。すでにおよそ半分を排出しており、現在の排出量が続くと40年で許される排出量に達してしまう。積極派は2℃のフレームワーク、慎重派は経済価値のフレームワークで考えるため、両陣営の議論は平行線になる。

  • 慎重にして謙虚。温暖化の議論は本書読了を前提に始めるべき、というくらい、俯瞰的で網羅的で中立を保っている。バランスの取れた良書。結論を出せるだけの材料と頭脳を持ちながら、断定を避けて「確からしい」を積上げている。それだけに、第2章の終わり「陰謀論の泥仕合」は実に読む価値がある。

  • 地球温暖化論が間違っているという証拠はいまのところない。積極対策、慎重派どちらもリスクがある。賭けるに値する人類の選択は何か、市民には意見形成が求められている。

    科学はんぶん、政治と社会はんぶん、全体のフレームが示されています。夏休みの宿題が手つかずあと3日、寝ないでがんばっても終わるかも、の状況‥なのですね。

  • IPCC第五次報告書が2013年9月から出始めましたが、その執筆にもかかわり気候変動の進行の深刻さを知る著者が、日本国内の議論を前に進めていくために書いた野心的な一冊。

    第一部では、最新の気候変動科学の知見を平易に解説。また、代表的な懐疑論へ丁寧に反論し、真剣な気候変動対策をじわじわと妨げ、先延ばしさせる懐疑論を一蹴している。

    第二部は、本書の特に読むべきところであるが、第一部の科学的な事実を前提とした上で、いかに今後の対策の選択のプロセスについて科学技術社会論と絡めて次のように提案している。
    著者は、気候変動対策についてのこれまでの議論が進まない要因として、積極派と慎重派のフレーミングの違いを指摘する。積極派は「産業化以後2℃未満」、慎重派は「経済価値の最適化」が前提であり、両者それぞれがもうひと回り大きいフレーミングで議論をしていく必要性を説く。そして、専門家の持つ専門知識と市民の持つ価値判断をうまく融合させたうえで、最終的な決定は政治が責任をもって行うことを著者の理想として紹介している。


    感想としては、平易な書きぶりの新書だが、極めて本質的な内容だと思う。科学者として対策論のところは一線と画してきたが、プロセスについてそろそろ言いたいことを言わせてもらうといった感じだろうか。

    もう世界平均気温の温度上昇は人為起源であることには疑う余地がなく、さらに産業化前を基準として2℃未満に温度上昇を留めるのはほぼ無理な段階まで事態は進行している。いまだに、日本では2ちゃんなど匿名のネット右翼に留まらずあの田原総一朗さんまでもが懐疑論に引きづられていたりと、いわゆる文系の人びとの理解がかなり遅れている。安井至先生は「最近、科学的な推論には不確実性があるということが必要以上に強調されている」と主張されているが、全くそのとおり(それは精度よく範囲の分かっている誤差に過ぎない)で、日本もそんな段階は早く卒業しないといけない。(本書でも導入される、リスクの概念も文系の人にはなかなか理解を得られない。)
    http://www.yasuienv.net/LimitPrediction.htm
    http://www.yasuienv.net/AR5IPCC.htm


    個人的には、CCSや気候変動工学の信頼性も国民はフォローしていくべきだと思う。ウルトラCが存在しないことに自覚的になることで、今の病気の進行具合をより真剣に考えるきっかけになると思うので。仕事で、宇宙工学をやっている技術者の人の話を聞いたのですが、人類は地球の重力にあわせて体ができているので他の星に移住して長く暮らすことは困難だと言っていました。この地球を捨てるという選択肢は(anthropocentricの立場だとしても)今のところ考えないほうがいい。そうしたら、あとは100年後の世代にどういう地球を残すべきかと、そこまでにいかに社会的にソフトランディングさせるかという方法をみんなで真剣に考え、実行していかなければならない。

    現状の正確な認識は戦略的に対策を決定し、実行していくための大前提。そして、気候変動対策においては、社会的な合意を作りあげる過程で、価値観の問題(本書でいう共通のフレーミング作り)を避けては通れない。今の日本は、それを議論せずに官僚が審議会の委員選びやスケジュール調整で、前提や議論の方向性をもう作っていて、気づいたら重要な政策が国民の知らぬところでどんどん決まって(或いは先送りされて)いく。自民党政権で衆参のねじれが解消されてからは、その傾向は強まっている。
    後世代にどう見られるかは今の国民一人ひとりの価値判断にかかっている。そして、気候変動は国内にとどまらない地球規模の問題であり、日本人の科学リテラシーと気候変動対策への本気度がまさに国際社会から問われている。そろそろ真剣な議論をはじめよう。

    気候変動は本当に大きくて複雑で難しい問題であるが、本書はその導入として最適だと思う。

  • 地球温暖化についての解説を主とした第一部よりも、著者の提案が読める第二部の方が面白く感じた。できるだけ中立的な立場に立って、冷静に地球温暖化という問題を捉えて論じる著者の姿勢に好感が持てた。
    本書を読むと、自分の身の周りのことしか考えてこなかったと痛感する。自分が死んだ後の世界のあり方なんて、まったく考えたことがなかった。もっと視野を広げたい。
    また、議論に耐えうる自分の意見を形作るには、本当にいろいろなことを勉強しなければならないとも思った。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2021年より地球システム領域 副領域長。
社会対話・協働推進室長(Twitter @taiwa_kankyo)。
東京大学 総合文化研究科 客員教授。専門は気候科学。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。
著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」「温暖化論のホンネ」等。

「2021年 『最近、地球が暑くてクマってます。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

江守正多の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×