ある島の可能性

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制作 : クサナギ シンペイ  Michel Houellebecq  中村 佳子 
  • 角川書店 (2007年2月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047915435

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ある島の可能性の感想・レビュー・書評

  • 意外にも、ウエルベックって誠実に精進する作家なのだなと思った。個人的な怨念を極端な形で書く人なのに、読み手からあったであろうフィードバックを受け止めている。二人の人物が交互に語る形式や人の在り方の変化という主題は『素粒子』と同じなのだけれど、最後まで目が離せない筋立てで読者を引き付けようという意志を感じたし、『素粒子』に感じた未来部分のとってつけた感じがほとんどない。次の『地図と領土』が楽しみ。

    こんな風にすぐ次作に頭が行ってしまったのは、このスタイルの行き詰まりを感じたから。主人公はいつものウエルベックキャラだけれど、前作より一段と人間らしくなり、でもその分、リアリティを離れすぎた振る舞いをさせることが難しくて、視界が狭いおじさんのありふれた話になってしまった。そこから新しいヒトの在り方を展開しようとした結果、個人的には驚異成分がいまひとつ足りなかったような気がする。やっぱりウエルベックは真面目な人なのかも。もっと卓袱台返し的な結末でもいいのに。

  • 構成にしてもエピソードの一つ一つにしてもアイロニカルでキッチュ。揶揄しているのかクソ真面目なのか『愛』についての思索を理屈っぽい語り口で執拗に書き連ねていて、鬱陶しいことこの上ない。にも関わらず後半はページを繰る手が止まらなかった。
    古代ギリシャの時代の「神からの最高の恩恵は『死』である」というようなペシミスティックな人生観、老や、性についての身も蓋もない事実を情け容赦なく書き尽くしている。衰えを感じ始めた中年以降の人のための自戒の書としても読めそうだ。

    「愛を実現する機械」犬だけがこの世の救いだということはこの小説に於いて、かなり重要なキーワードだと思う。そのぐらい犬について、その愛について繰り返し語られている。
    愛犬家には大いに頷ける部分があるだろう。 ダニエル25が飼い犬のフォックスを失うシーンは『百万回生きた猫』を思い出した。猫じゃなくて犬だけど!

  • つらい。ウェルベックというのは皆がキャッキャウフフと雪合戦を楽しんでる中1人鉛入りの玉を無言かつ全力で投げ付けてくる様な、身も蓋もなさが本当に凄まじい作家だ。高度資本主義と科学技術と現代宗教、生と性への欲望三点締めのアングルから描かれるダニエルの生き様は未来からの注釈で一層悲哀を増し、誰もが老いと死から逃れられない現実を無慈悲なまでに突き付ける。人間とは所詮粘液に塗れ朽ちるだけの生物なのだろうか。否、それでも人は愛や美を求めようとする。それは愚かさなのかもしれないが、ウェルベックは決して否定しなかった。

  • クローン技術が発達すれば生殖行為は必要なくなるだろう。『素粒子』の続編という位置づけかもしれない。未来の世界が描かれてはいるけれども、これはSFではなく、クローン技術もカルト宗教も、いまの全世界の人類にはずいぶん身近な話題で、読者に馴染みのある現代が描かれている。あまりにも具体的な固有名詞が多すぎて、誰かに訴えられそうなくらいだ。
    ウェルベックの作品に脈々と一貫している思想である、生きていくことへの疑問、性欲の強迫観念、さらに今回は加齢の恐怖が追加。小説に出てくる宗教団体は、おそらくラエリアン・ムーブメントという実在するカルト宗教がモデル。どこの宗教も基本的には似通っている構造であることよ。
    なぜ書くのか、そのウェルベックの信念が主人公ダニエル1とシンクロする。読者は未来の世界を見つめることができるだろう。この物語は、いったいどうやって終わるのかなと思ったら、最後の最後まで、ある世界が丁寧に描かれていて、うーん脱帽。

  • 衝撃的な作品だ。世間的な価値観にとらわれず、クールで個人主義を貫く、ダニエルの愛の物語。現在のダニエルとクローン複製された未来のダニエルが、人生とは何か?愛とは何か?老いとは何か?文明とは何か?を交互に語り継いでいく。ジャンルとしては、SFの範疇に入るのかも知れないが、セックスもせず、交わりもせず、ある意味で仏教でいう悟りの境地に達した未来人(ネオ・ヒューマン)が人間存在とは何かについて考察するという設定が、僕たちが、普段、見過ごしてしまっている人間の本質について問いかけてくる。425頁のボリュームの随所に哲学的な思索が散りばめられ、いたるところに日本語としては馴染みのない卑猥な文章描写があるので、一部の読者にはかなり読むのに抵抗があるかもしれない。

    だけど、ダニエルの愛に対する苦悩には圧倒される。売れっ子コメディアンの彼は、美しく知性に富む女性雑誌の編集長イザベルと恋に落ちる。イザベルは性的快感に身をまかせることができない。年齢を重ねるにつれ、自分の肉体美を維持できないことが彼女の心をしだいに蝕み、いつしか二人の間には性的な関係はなくなる。愛は性的な関係なしに存在し続けるものなのだろうか?ダニエルは感じる。『性行為がなくなると、相手の体が、なんとなく敵対しているものに思えてくる。それがたてる物音、その動き、その匂いが気になるようになる。そして、もはや触れることもできず、交渉を通して聖化することもできない相手の体は、少しずつわずらわしいものになっていく。・・・エロチシズムの消失にはもれなく愛情の消失がついてくる。鈍化された関係なんて存在しない。高度な魂の結びつきなんて存在しない。・・・肉体的な愛が消えたときに、すべてが消える』

    ダニエルにとっては男女の関係のみが人間関係の全てだ。ダニエルは、『一定の年齢を超えたふたりの男にしっかりと話し合えるテーマなんてあるだろうか』と男同士の人間関係に懐疑的だ。肉体が老衰し、性的魅力が失われていくと共に、人生の意味や喜びが徐々に消えていく。誰もが愛のために死ぬというより愛の欠如のために死ぬのだ。イザベルとの離婚後に、ダニエルは若くて、最高にセクシーな女優エステルと交際するようになる。エステルは、ダニエルに最高の性的満足を与えるが彼女は愛を知らない。ダニエルは次第に奔放に生きるエステルの恋の奴隷となっていく。『愛とは、弱者が強者を糾弾し、強者生来の自由と残忍さを制限するためにつくりだした虚構にすぎないだろう』『愛は個人の自由や自立の中に存在しない。あるとすれば虚構である。愛は無への、融合への、自己消滅への欲求の中にしかない』

    『結局のところ、人はひとりで生まれ、ひとりで生き、ひとりで死ぬ』

    愛とは何だろう?

  • 孤独な手記だった。

    ダニエル25が愛犬フォックスとただ旅を続け、無に近い個体性のない精神状態となっていく場面に唯一幸せを感じた。
    しかし、そんな愛の対象も失い「ただ存在しているということが、すでに不幸」なのだと自らに結論づけるのが印象的。

    本来「ただ存在するだけで、常に幸せ」という状態に達することを目指すネオ・ヒューマンだが、結局は人間(旧人類)が滅んだ後の彼らというのは、人類の晩年を永遠に生き続ける存在のように思えた。

    センチメンタルでとても正直だと言われるダニエル1に、作者が重なった。
    感受性とありふれた優しい気持ちとが文章から時々零れてきて、この作者が好きだなと思ってしまう。

  • 読後の充実感は、久しぶり

  • 村上春樹に身も蓋もない社会観察と皮肉まみれのギャグセンスを足した様な内容だった。大変面白かった。

  • すげえな。ウェルベックは。

    テーマは中年の性と老い。セックスを中心的なテーマにしている現代作家と言えば、たとえば村上春樹が思い浮かぶが、何というか、スケールのデカさが圧倒的にウェルベックの方が上。

    性が氾濫して、それに関する規範がとうに失われた現代において、愛は如何にして可能か。そうした重厚なテーマが、セックスショップ的、ワイドショー的な下世話さと全く不自然さのない形で同居していて、そのごたまぜ感を人類史/地球史的なヴィジョンへと展開させていく。

    だが、そうした思念的な強度よりも、具体的な人間臭さが実にリアルなのが、この作品の小説としての見事さであるだろう。

    若い恋人のバースディ・パーティの乱痴気っぷりの中で、必死に居場所を見出そうとする主人公の中年男の姿とか、とてもよく描けている。この場面のいたたまれさには、ホント、胸が締め付けられる思いがしたものですよ。

  • 醒めた視点の主人公からみた世界の話。それと遺伝子工学の産物であるネオヒューマンからの人類の世界の話でもある。設定的によくわからないが次第に全貌がわかってくる構成になっている。視点に突っ込み反発し同情していくのを要求される、思想を読む小説。やはりテーマは「愛」『素粒子』には及ばないなと読んでいて思ったが終わりごろになってああこれは別の凄いものを見せているなと感じた。SF小説というよりは、仕掛けや概念をSFから借りただけで、これは文学だ。

  • プリズナーNo.6と言おうか猿の惑星と言おうか、ある種、ブラッドベリの「びっくり箱」のようでもあり。
    得意な方ではないけど、久しぶりに物語を読んだ満足感があった。
    しかし、科学的、歴史的に緻密なディティールを重ねていくあたりが今どきだなあと思った。
    好みとしては、背景は大雑把でいいから予想外な部分にリアリティがあるような作品がいい。

  • 【粗筋・概要】
    2000年後の未来。クローン技術の発展により永遠の命を手に入れたネオ・ヒューマンたち。彼らは、オリジナルの遺伝子コードを厳密に複写して生み出され、オリジナルが書き残した人生記を読み、それに注釈を加えていく。この物語は、フランス人のコメディアン・ダニエル1の人生記とそのクローンであるダニエル24とダニエル25の注釈によって構成されている。

    【感想】
    初めて読んだウエルベックの小説。なかなか面白かった。この小説自体読み返そうとは思わないけれど、この作品よりも面白いと云われている『素粒子』を読んでみたいとは思った。

    「そして人間の真の目的、望みのあるかぎり人間が自発的に求めつづけてきた目的が、もっぱらセックス方面にしかないという真相は、隠しようのないものになった。」(P290)というダニエル25の注釈を読んで、確かにそうだなと思った。少なくとも、主人公のダニエル1と私に限って云えば、正しい指摘だ。

    この作品では実在の有名人が多く登場するが、エロヒム教が「アメリカのビジネス界で集中的にキャンペーンを行った結果、まずスティーブ・ジョブスが改宗した」(P319)というところが、一番ウケた。

    2008年2月26日読了

  • オリジナルと何世代かあとのクローン?が交互に語って物語りは進むのだけれど、そういう構成っておもしろいと思うし、物語の設定自体もすごくおもしろく思ったのだけれど、うーん、私にはなんか読み進み難かった。

  • 面白い話だ。ただ二冊目のミシェル ウエルベックだけど、やっぱり読んでるとちょっと嫌な気分になる。それが消えない。

  • かっこいい。

    騒々しくて賑やかな世界が行き着いた、淡々と静かな世界。自閉は進化から取り残されたのか、進化を先取りしているのか、それとも生物学的多様性の一つなのか。そんな視点で読みました。

    著者の他の本は、カッコ良さげな割にいまいち話題は下世話だったり、プロットの面白さだけで引っ張ってたりするんだけど、この本はいいとこだけ出た感じ。のってる時なのね。

  • 邦題「ある島の可能性」。僕は正直なところ、正面切って「好きな作家はウェルベックですね」なんて言う人がいたら、その人の人格を疑いたくなると思う。読むことはあっても、それをフェーバリットに挙げてくるってのはちょっと。相も変わらず、読んでいて嫌な気分になること多々。相も変わらず。主題となっていることは「性」であり「セックス」であり。それらをSF的に散りばめていくという。過激で辛辣なようでいて、特にそれは過激でも辛辣でもなく、ただただ的を射ているからこそ、読んでいて嫌な気分にさせられるわけだけど。それにしても苦しい読書だった。(07/10/13)

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ある島の可能性の作品紹介

物語は世界の終わりから始まる。喜びも、恐れも、快楽も失った人類は、ネオ・ヒューマンと呼ばれる永遠に生まれ変われる肉体を得た。過去への手がかりは祖先たちが残した人生記。ここに一人の男のそれがある。成功を手にしながら、老いに震え、女たちのなかに仔犬のように身をすくめ、愛を求めつづけたダニエル。その心の軌跡を、彼の末裔たちは辿り、夢見る。あらたな未来の到来を。命が解き放たれる日を。

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