決定版 辺境警備 第1巻 月夜の銀青草 (あすかコミックスDX)
- KADOKAWA (1997年4月28日発売)
- Amazon.co.jp ・マンガ (191ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048528061
感想・レビュー・書評
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<最終巻までのネタバレを含みます>
花の都エンディミラ・オラムから、はるばる国境付近のド田舎へと左遷されてきた「元」エリート軍人サウル・カダフと、彼を取り巻く辺境の愉快な仲間たちとの交流を描いた、笑いあり涙ありの人情活劇ファンタジー。と、言いきってしまうのは簡単だが、その実人生を楽しく生きていくためのヒントに満ちた物語でもある。
とはいえ、もちろん幸せな話ばかりではない。シリーズ後半に展開される、本作の男ヒロイン(?)神官さんの出自を巡るエピソードは重く、彼が自らのトラウマを克服していくまでの経緯には、数多くの血が流れ、人々が傷つき涙する。それでも、必要以上に深刻になりすぎないのが何よりこの物語の素晴らしいところだ。不安や恐怖に人々の心が砕かれてしまう時も、「隊長さん」であるサウル・カダフの少し気の抜けたアドバイスにより、みんながハッと目を覚まして再び平凡な日常を享受する喜びへと立ち返っていく。抱え込んでいた肩の荷を下ろして、ほっと一息つく安心に再び身を任せていくことができる。
とにかく、全編通してこの隊長さんのキャラが最高なのである。酒飲み・女好き・博打好きと三拍子揃った遊び人で、娯楽の少ないド田舎に飛ばされた我が身を毎日のように嘆きながらも、悠々と構えて人生を楽しむ余裕を忘れない。真面目な神官さんをからかい、純朴な兵隊さんたちに叱られ、日々を勝手気ままに生きているだけにしか見えない彼も、しかし肝心な時には「もうちょっと力を抜きなさいよ」と若者の肩をポンと叩いてくれる包容力を持っている。子どもの頃はいまいちピンと来なかったが、大人になった今読み返してみると、改めてしみじみと感じられる。この人は本当の「大人」なのだ。もちろん(一応中年の頃合いに片足をかけた、「おじさん」呼ばわりされる人物ではあるが)年齢的なことではなく、酸いも甘いも経験し尽くした、それは成熟した大人の男なのだという意味で。
自分もまた大人になった今だからこそ、そんな隊長さんの優しさが本当に深く心に沁みて、その度何度も救われる。神官さんもそうだったんだろうなぁ、苦悩のどつぼにはまり込みそうになる度、後ろからポンと肩を叩かれて、いつものあの飄々とした笑顔で「神官さん、もっと楽に行きなさい」。そう言われて知らず知らずのうちに救われてきたんだろうなぁと思うと、この物語もまた違った視点から読むことができるような気がする。
個人的に(外伝的扱いの7巻を除いた)最終巻に収録されている作者の後書きが好きで今でもよく読み返すのだけれど、そこに「当初目指していた夢を諦めて、漫画家を志した自分にとっては、隊長さんという人はひとつの理想像だった」というようなことが書いてあって、それを初めて目にした時は妙に納得した気持ちになったことを思い出した。自らの完璧主義や、周囲の人々に対する思いやりによって、すぐにでもがんじがらめにとらわれてしまう神官さんと違い、隊長さんはどれほど辛い憂き目にあっても、その中からささやかな楽しみを見つけ出して、まるでワルツでも踊るかのように軽快に世の中を渡って行く。それは時に傍から見ていい加減なだけにしか見えないことでもあるけれど、一方でその軽やかさを身につけるために、彼がどれほどの悲喜こもごもを経てきたのかということを思えば、まさに想像を絶する半生がそこにはあるのだろう。軍人として数々の功績をあげ、裏切りと駆け引きにどっぷり浸かって歴史に名を刻んできた自らの過去を、隊長さんは決して自分から語ろうとはしない。なんたって今は田舎に住んでるんだからいいじゃん、そんな過去の栄光より若い娘と酒を飲むことの方が大事じゃん。そんなことを本気で口にしそうな彼の生き様は、子どもの頃にはただのお調子者のおじさんにしか見えなかったのが、この年になってみると本当に強い人だからこそできる芸当なのだと、かえって感動の対象にまでなってしまう。とにかく、文句なしの格好良さ。大人の頼りがいとはまさに彼のことを言うのだという確信は、他にもたくさんの大人たちを見てきた今になっても全く揺らぐことがない。
という訳で、これは大人にこそ読んでもらいたいファンタジー作品である。多分、一度読めば一生のお供となり得るような励ましをたくさん得ることができると思う。この作品に限らず、紫堂作品は皆トールキンの『指輪物語』の影響を強烈に受けているので、そうした重厚なハード・ファンタジーの類が好きな人にも間違いなくお薦め。おバカな隊長さん、生真面目な神官さん、優しい兵隊さんたちに、今思えば典型的ツンデレだったとしか思えない黒呪術師のカイル、同じ作者の他作品にも出演している不老不死の賢者さま…魅力的なキャラクターたちの交わりを通じて、心の闇を乗り越えていくこと、乗り越えられずともそれを受け入れていけることが、作者の思いやりに満ちた優しいタッチによって描き出されていく。『グラン・ローヴァ物語』とあわせて、個人的には人生の十冊に入る作品。ファンになってもう十年以上になるが、年を取るたび味わいを増す本作の魅力に、これからの人生でも何やかやとお世話になっていきたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
グランローヴァに一番影響を受けて、ブルー・インフェリアに一番心奪われたのなら、一番根底にある紫堂作品がこれ。
まあ、大半のファンはそうなのかな…?
何度読んでも心が洗われる。
でもただキレイなだけじゃないのが本当にいい。
年取ったら、隊長さんみたいな大人になりたいってずっと思ってたけど(正気か?)、なんか結構、年齢そろそろ追いつきそうで怖いね。
神官さんとカイルはもう越えたか…?
背高さんはまだ全然無理です。 -
都落ちの隊長さんと神官さまのコンビが面白い!兵隊さん達も(^^)ほのぼの系
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副題は「月夜の銀青草」
女で失敗したスケベなおっさんのサウル・カダフは辺境の警備隊長に飛ばされる。
ええかげんなこのおっさんが来たせいで兵隊さんやお堅い神官のジェニアス・ローサイは大迷惑なのだがどことなく楽しい日々で…。
読んでる方もふっと力が抜けていきます。
(2006年03月12日読了) -
「聖職と誘惑」を収録
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最近はじめて読みました。
これぞファンタジー!ってかんじ。
この人の独特な世界観がとても好きになりました。 -
辺境警備からずっと追っかけてます。隊長さんてちょっと前(今も?)はやってた、ちょい悪オヤジだったんだ〜。ギャグとシリアスの加減が好きです。
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学生時代、のめりこんだ。
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所持巻:全6巻+外伝1巻
【好き登場物】
隊長さんのかっこよさは異常
墓場まで持ってく本のひとつ。 -
持っているのは、決定版ではないのですが…。