話としては面白いんだけど、本当に華のない物語だと思う。
女キャラにも華はないが、何より主人公に華がない。
個性が根暗、陰謀、復習、怨嗟とそんな単語しか出てこない。
もうちょっと、勇敢だとか優しさだとか、美徳とされるような特徴が出てこないと・・・辛気臭くていけない。
どうも作者のサドッ気や歪んだ人間憎悪のようなものばかりが塗り込められているような気がしてくる。
基本、暗くても良いんだけど、もう少し華やかな展開が欲しいところ。
人間のどろどろとした暗部だけを綴る物語にはいいかげん、ちょっと辟易してきたかな。
5巻で舞台を移し、物語が一新したのだから、いつまでも暗い復習劇を引きずるのではなく、人間的に成長したオルバが英雄として活躍していく痛快活劇の方向に舵を切ってほしいと思う。
いつまでもいつまでも暗い復習劇のままなら、残念だな。
冷徹な戦略家という仮面が外れてしまうと、怨念深い激情家、血の気が多く感情的な子供、そんなネガティブな個性しか残らない。
それでいて、子供らしい優しさや温かみにも欠けている。美点が見つからない・・・。
マリレーヌの結末は面白くなかったな。途中経過も含めていまいちだった。
まず、マリレーヌの真実をハードロスに語らせたのが気に入らない。いまさら出てきて語りだすとか道化にもほどがある。
そこはやはり、オルバとの語らいの中でオルバが見抜く、という形にしないと面白くないよ。
14歳で嫁いだマリレーヌをビリーナにダブらせる、という発想は良かったんだけど、組み立て方がまずかった。
マリレーヌがオルバたちに毒酒を飲ませようとしたのも、今となっては作者が読者を煙にまこうとするためだけのエピソードだったってことになるし、そこが浅い。
仕掛けるなら、もう少し上手にだましてほしかった。
マリレーヌの髪だけ切って「王妃は死にました」ってのも無理がある。あそこまで民衆を扇動しておいて、その決着ではおさまらんよ。
ここまで物語的な歪みを出してでも「偉大な王妃」を語りたかったのなら、変に読者を欺くようなまねはせずに真っ向から正統に書けば良かったと思う。
正面からマリレーヌの物語を綴っていても面白くなったと思うし、その方が無理のない組み立てにもなったと思う。
ここまで読んできて、初めて「失敗したな」という感想を持つ巻になった。
読んで失敗した、ではなく、物語の組み立てに失敗したな、という意味で。
ちなみに「14歳で嫁いできた」という設定が語られる初期の段階で、可能性のひとつとしてこの落ちは予想できていた。
だから余計に陳腐に思えた。もう少し上手く語るか、もう少し上手くだましてほしかった。実に、残念。