ユージニア

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048735735

作品紹介・あらすじ

ある男の遺書によって、一応の解決をみたはずの事件。町の記憶の底に埋もれた大量殺人事件が、年月を経てさまざまな視点から再構成される。

感想・レビュー・書評

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  • 注! もしかして、ややネタバレ?(^^ゞ



    『ハーシュ」の解説にあった、“ぞわぞわとした皮膚感覚が行間から立ち上がってくる”というのを読んで、「そう! そういうのが感覚を味わいたくて、ハーシュを読んだのに、全くそういう感じがないじゃん!」と、かえって不満が増した、なんてことがあったが(^^ゞ
    その“ぞわぞわとした皮膚感覚”というよりは、“読んでいて、ぞわぞわした不穏さを肌で感じる”といったら、『ユージニア』だよなぁーと思い出して。
    久しぶりに読んでみるかと、本棚から引っ張り出してきた。


    前に読んだのは、いつだったかなぁー。
    10年くらい前? いや、15年くらい前か?
    その頃は恩田陸の小説というのは、必ず結末がどっかいっちゃうから。
    「恩田陸はもう読まない!」と思ってたんだけど、たまたま回ってきたこの本を読んで、一転、大ファンになった(^^ゞ

    とはいえ、これって、ぶっちゃけ、いかにも恩田陸らしい、思わせぶりな、ワケわかんない話なんだよね(^^ゞ
    あえて読者を惑わすようなことも書かれているけど、読んでシンプルに感じたそれこそが(自分は)真相だと思う。

    ていうか、そこは恩田陸だから(爆)
    これを書く前、頭の中で基本のストーリーをつくって。その基本のストーリーを書きながら、その場その場で思いついたエピソードを「章」として付け加えていったんじゃないのかな?
    そんな風に書いたら、ストーリー全体に整合性がとれない部分が出てきそうなもんだけど。
    というか、整合性がとれていない部分があるんだけど、それが取れていないことで、読者は「この事件」の実像のあちこちが霧に隠されているように感じて。
    事件の全体像が見えてこないことで、読者はその霧の向こうにあるものを勝手にどんどん想像していってしまう。
    でも、それは読者の勝手な想像であって、真相ではないから。
    読者はそこに不安を覚え、その不安がなんとも言い難い不穏さを醸成していく。
    『ユージニア』の魅力って、たぶんそういうことだと思うのだ。

    いや。著者はそれを狙って、これを書いたのかはわからない。
    というのも、これを書いたのは恩田陸だからだ(^^ゞ
    これを読んで、「いかにも恩田陸らしい、思いつくままに書いて、書いて。書いた挙げ句に結末(とも思えない結末w)をつけて、終わらしちゃった話」と言ってしまうなら、まさにその通りなのだ(爆)

    ネットを見ると、この『ユージニア』を考察している人もいるみたいだけど。
    自分としては、ここに書かれてある全てのことが整合性がとれた「真相」は、恩田陸の頭の中にだって存在しないと思う(^^ゞ
    緋沙子と満喜子がまるで相似形になっているようにも描かれてもいるが、それも、たぶん著者の遊びで。ストーリー上の意味はないと思う。

    ただ、繰り返すようだけど。
    この『ユージニア』に関しては、そこがいい…、というよりも、だからいい!んだと思う。
    「恩田陸らしく、思いつくままに書いて書いて。書いた挙げ句に結末(とも思えない結末w)をつけて終わらしちゃった」ことで、マジックが発生しちゃった……。
    そういうことのように思うのだ。


    この『ユージニア』同じような形式で書かれた小説としては、(自分は)宮部みゆきの『理由』が近いと思うのだが。
    いや、もちろん『理由』も優れた小説(というか傑作!)だと思うし。
    また、あれもかなりの不穏さを纏った小説だと思うのだが、でも、この『ユージニア』を読んでいる時に感じる、独特のゾワッと感はない。
    というか、あっちは宮部みゆきだけに、全体がキッチリと作り込まれているがゆえに、読者は自分が読んでいる文章の向こうにある(かもしれない)ことを想像しないから、不安をそれほど意識しないんだと思う。
    (というか。宮部みゆきは『理由』を敢えて説明過多に書いているような気がする)

    というわけで。
    偶然の産物なのか、狙って書いたのかはわからないけれど、★は文句なく5つのとにかく傑作!(^^)/

  • K県の風情ある街並みの残る街で、代々医者をしている家の主の誕生日を祝う日、その家には毒の入った酒とジュースが届けられた。家族はじめ近所の子供や祝いに来ていた客人たちに振舞われたそれは、華やかな祝宴を一瞬で地獄絵図へと塗り替えた。
    幼いころ、この事件に関わった少女は、大学生になりこの事件の関係者に話をしてもらってまわり、一冊の本を出すことになる。本は話題となりまたあの事件に光があたった。犯人の自殺という終わりを迎えたこの事件はいくつかの謎を残し、そしてたった一人の生き残りである少女の目が見えなかったために、彼女はまるで悲劇のヒロインのように街の人間の中に残った。
    本が発売され、話題となってからまた時間が過ぎ、作者の女性、彼女とともにあの家の異常を発見した兄、下の兄、毒を飲みながらも飲み込んだ量の関係で生き残った使用人の女性の娘、事件を追っていた刑事、犯人の男と面識のあった少年。インタビューの形をとり、またはその人の思い出として語られる事件のあらまし。この聞き手は誰なのか、なんのためにまたこの事件を掘り起こそうとしているのか。そしてみんなが神のように語る生き残りの盲目の少女緋沙子はいったい何を“視て”いたのか。

    生き残ったもう一人の使用人をしていた女性が、刑事からの折り鶴を受け取って泣き崩れた時に「違うんです」といった真相は、緋紗子とその母親との関係を知っていたからなのか。どうして本の作者である満希子の幼いころの章でだけ緋紗子は久代と書かれているんだろう。こうだったのかも、ああだったのかもと、読み終わってしばらく舞台となった町を歩きながら考えを巡らせているような気分で考え続けていた。

    気になって気になって、ネットで何人かの考察を読んで納得。三章(久代)は【忘れられた祝祭】の一部抜粋だったのか。なるほど。そういう仕掛けがすごく好き。そう思って読むと、意味深な章だなぁ。

  • これは文庫でなく、単行本で読むことが出来て良かった!
    内容は元より装丁が素晴らしい。
    すごく凝ってます。
    贅沢。
    ほんの少しの違和感が不安や不穏に繋がり、物語にぴたっとはまってます。
    デザイナーは祖父江慎。
    さすがです。
    物語は帝銀事件にも例えられる毒物による大量殺人事件を、当時その場に出くわした少女が大人になって回想しているもの。
    卒論も兼ねて取材し、語る人物により全貌が明らかになる、ようなならないような。
    登場人物、誰も幸せではない気がして、切ない事件。
    もちろん惨い悲惨な事件だけど。

  • 綺麗だと思ったんです。すごく綺麗な世界。
    素敵な邸宅、非の打ち所の無いお嬢様、端正な青年、夏の風景、嵐の描写までも。
    空気がどっと溢れて、目の前に広がっていくような、自分がそこにいるかのような感覚でした。

    でも怖かった。
    一章ごとに語り手が変わる、という構成で、インタビュー形式だったり、小説のような語り口だったり、様々な語り方で事件そのものを描いているんですが、その事件のイメージがどんどん鮮明になっていくんです。

    読み終わったときの何とも言えない脱力感、そして事件の収束を感じた充実感、その両方を感じました。


    祖父江さんの装丁も素晴らしい。
    ジャケットの紙裏印刷も気が利いているし、
    プロローグの、紙のサイズが少しずつ大きくなって本文の紙サイズになる仕組みで物語に引き込まれ、
    さらに本文組は全て垂直に見て少し、本の僅か斜めに組まれている。物語の独特の世界観を表現しているようでした。


    なんだかすごい本に出会ってしまった、そんな感じです。

  • 何度、読み返したことだろうか。大好きな大切なミステリー小説です。
    いろいろな視点からじわじわと真相に迫る感じ。
    恐らく犯人はこの人だろうと分かっている。
    でも、もしかしてあの人?とも思う。間接的な意味で。
    ハッキリとした結論がないだけに、想像力を掻き立てられるのです。

  • 25年前
    K市でおきた、素封家一族 大量毒殺事件
    たったひとり生き残ったのは、盲目の美少女

    犯人死亡のまま終わった謎多きこの事件
    本当の真相は・・・

    多くの人間の語りによって少しずつわかってくる事実
    そして薄紙1枚謎の残ったままの結末

    もやもやするけど、美しい1冊

  • モヤっと感が残る作品。
    後味は村上春樹の読後と同じ。
    この作品で何を言いたかったのか、読者何を考えさせたかったのか曖昧。
    もっとスッキリする小説が読みたくなった。

  • 好き。
    結局現実って、こんな風に核心は見えない。
    色んな人が、いろんな角度から見たものが、モザイクみたいにボンヤリと真相を浮かび上がらせる…様な気がするだけ。
    ホントのホントはどうだったかって、絶対に見えないものなんだもの。

  • ある街の名家で起きた大量毒殺事件と、生き残った盲目の美少女をめぐる物語。

    恩田陸さんの小説読むといつも思うけれど、とにかく不思議な感覚というか、従来のミステリ小説とは違って犯人もはっきりこの人って特定されないし、敷かれた伏線が回収されたのか謎が残る部分もけっこうあるし、いわゆる推理が主体ではない。
    人間の深層心理だとか、人間模様だとか、おそらくそっちが主体。
    だからすっきりと「犯人はこの人でどういう動機でトリックはこうで」というミステリ小説を求めてる人にはおすすめできないけれど、私はこういう想像力を掻きたてられるような小説好きです。

    王道ではないかもしれないけれど、これが“本当のミステリ”なのかなって気もする。
    実際現実で起こる殺人事件だって、真実を知るのは、当の本人である殺した人間だけ。
    完全な俯瞰で物事を見る“天の目”みたいな存在は現実には絶対ありえないから、事件の真実なんて他人が知れるわけもないまま、いつしか時間と共に流れていってしまう。そういう意味で恩田陸さんのミステリってすごくリアルだと思う。

    物語の内容もさることながら、ノスタルジックで美しい文章を楽しめるところもいい。読み手をその世界にぐいぐい引き込むような文章だと思う。
    とても読み応えのある小説です。

  • 恩田さんの作品は夜のピクニック以来二作目。もうほとんど細部を覚えていませんが、きれいな文体、きれいなお話、きれいな人物、だったような気がする。そんなきれいな作風のひとだと思っていたので、この小説の不安定さ、鬱々しさには意表を突かれてとても楽しめました。楽しむ、というお話ではないんですがね。うまく言えないけど。
    でもやっぱり夜のピクニックの時にも感じたきれいな文体っていうのはそのまんま、彼女の文章ってほんと感覚的で美しいなあと思いました。青い部屋、白い花、色の描写がほんときれいで引き込まれます。緋紗子のミステリアスな雰囲気も、満喜子の掴みどころのなさも、描写が緻密でとても魅力的でした。風景も人物も、それそのものではなくて、むしろそれに纏う空気を描いているみたい。実体がないという意味ではなくて、実体まるごと空気と一緒に真空パックにいれて保存して、それひとパックで一事象として扱うというか。
    こんなふうに物事を書けるひとって、普段どんなふうに物事を捉えているんでしょう。あたまのなかを覗いてみたいような、覗きたくないような。語り手が変わるところも、今の語り手でちょこっとだけ出てきた人が次の語り手になってまた新たな展開を開いていく、お話が二転三転、真相が少しずつ少しずつ明らかになっていく構成力もお見事でした。でも決して真相全部は見せてくれない、明らかにしない。うーん、すごい。お話がちゃんと一点に落ち着かないのも当初はおおう?!としましたが、これこそが狙いだったのかもと画策させてくれます。もう一度時期をおいて読み返したいなあ。装丁もすごくきれいでどきどきしました。表紙を裏返すと出てくる写真、これはどの場面のつもりなんだろう。書きおきを模した最初のプロローグも凝ってて素敵。でもやっぱりハードカバーは重いので、読み返すなら電子書籍買っちゃうだろうなあ。
    まあなんだかんだいいつつ、お話そのものよりも、わたしはこの小説の雰囲気の描写そのものを楽しんでました。ストーリー自体はまあ、賛否両論、やっぱりわたしも少し腑に落ちないところあり。でもそんなことどうでもよくなるくらい、このひとの文章がわたし好みでとてもお腹いっぱいです。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

恩田陸の作品

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