裁縫師

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048737753

感想・レビュー・書評

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  • 小池昌代の短篇には物語がない。それは散文でもなくかといって小説でもない。強いて言うならば切り取られた風景画に対するキャプションのような趣きのある。あるいは語られたできごとに対するあれこれの思いの吐露、といったところであろうか。何故か、自分には小池昌代が語っているプロットが動いているようには思えず、1コマ1コマゆっくりと進む映像を辿っているような印象が残るのである。焦点は物語ではなく、思いに寄っている。

    それを詩人特有の視線のせいである、と言い切ってしまうのは余りに簡単なのであるが、果たして本当にそのようなことなのであろうか? 何か決定的にスムーズな話の展開を維持することを拒む特徴がこの詩人にはあるような気がするのである。

    一方で、紡ぎ出される言葉の滑らかさ、そして湿度は相変わらずだ。時に湿度は過剰に鋭敏であり、不意打ちでもあるのだが、切り取られた映像の指し示す理(ことわり)を無視して読むものに迫ってくる。その為に小池昌代の文章を好む人が出てきてしまうのではないか、などという実に意味のない心配を撒き散らしながら。

    収められた短篇の中では「空港」と題された文章に、鮮やかなエピローグが添えられているのだが、その展開の手に届きそうで指先からすっと逃げていく感じに小池昌代の小説家としての可能性を感じた。後は、ただひたすらに「詩人」である小池昌代なのであった。勿論、それは決して悪いことではない。

  • 不思議な世界観。でも、私の中にもありそうな感覚。ソフトに官能的。

  • 世界、他者との感応を得てそこから更に独り静かで開けた孤独に沈んでいく人達の話が多かったように思う。
    個人的には「空港」と「野ばら」が好き。
    空港を旅に出る・帰る人々が立ち寄る場所としででなく帰って来る人を「待つ」場所としてとらえたのは面白かった。

    ただ、世界との接触が心へ沈み込んでいくような描写がどれも似通ってるしくどい。細かいことを言えばやたら句読点も多くて気になった。

  • きれいな文章の、孤独な話。
    9歳のときに裁縫師と出会って、生涯独身の女性、母親に捨てられた小学生、女神と呼ばれる薬剤師に魅入られた男性。
    裁縫師の服装の描写はとても好き。

  • 現実と隣接する異空間。記憶の再構築。読んでる間、何度か自分の中で忘れ去られていた記憶が蘇った。胸がちくっと痛んだ。

  • 不思議な感じがする短編集。

  • 短編

    家の近くにいた有名な裁縫師に洋服を作ってもらうことになった
    幼かった私の、短い時の凝縮された淡い記憶。

    静かな町に引っ越し、そこの薬剤師にひきよせられた思い。

    叔父を空港に迎えにいった待つばかりの人生。

    交通事故の後遺症故か、左腕がもげて現実か夢か定かではなくなった。

    家出する父、仕事が忙しい母、しゃべらなくなった兄
    一人分のお茶をいつもいれて飲む私、自由になるまでの期間。

    まあ、普通)^o^(

  • 空気感のある短編集。
    表題作の「裁縫師」が一番好きだった。いや実際にはそら犯罪だろうとかすかに思わないでもないのですが。
    どの作品も、迷路にふと入り込んだような、目眩みたいな感覚があって面白い。
    主人公たちはみんな孤独で自由。でも誰かとつながりたいと思うから、そこに物語がうまれる。
    さびしくはないけど、なにやらひんやりする読後感でした。

  • 表題作のあらすじに惹かれて、ずっと読みたかった本。文庫化を待つつもりだったけど、短編集とは知らなかったから借りて来て正解だったかも。内容は期待通り、実際に読んでみてこの世界観には惚れた。

  • 短編集。
    最初の「裁縫師」以外は、人によっては難解だと感じるかもしれない。
    が、すべての短編に流れる独特の世界感が好き。

    特に表題作「裁縫師」はとても好き。

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著者プロフィール

小池 昌代(こいけ まさよ)
詩人、小説家。
1959年東京都江東区生まれ。
津田塾大学国際関係学科卒業。
詩集に『永遠に来ないバス』(現代詩花椿賞)、『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『夜明け前十分』、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)、『野笑 Noemi』、『赤牛と質量』など。
小説集に『感光生活』、『裁縫師』、『タタド』(表題作で川端康成文学賞)、『ことば汁』、『怪訝山』、『黒蜜』、『弦と響』、『自虐蒲団』、『悪事』、『厩橋』、『たまもの』(泉鏡花文学賞)、『幼年 水の町』、『影を歩く』、『かきがら』など。
エッセイ集に『屋上への誘惑』(講談社エッセイ賞)、『産屋』、『井戸の底に落ちた星』、『詩についての小さなスケッチ』、『黒雲の下で卵をあたためる』など。
絵本に『あの子 THAT BOY』など。
編者として詩のアンソロジー『通勤電車でよむ詩集』、『おめでとう』、『恋愛詩集』など。
『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集02』「百人一首」の現代語訳と解説、『ときめき百人一首』なども。

「2023年 『くたかけ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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