夜明けの縁をさ迷う人々

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048737920

作品紹介・あらすじ

もしあなたが世界からこぼれ落ちても、私が両手をのばして、受け止めよう-『博士の愛した数式』『ミーナの行進』の小川洋子が世界の片隅に灯りをともす、珠玉のナイン・ストーリーズ。

感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子要素たっぷりの短編集。毒気強め。

  • 不思議な内容すぎて、途中で断念。残念

  • 死の匂いが濃厚な短編集。小川さんの小説の風変わりな登場人物たちはどんな世界でもちゃんと居場所がある。多少人と違ってもそれは意外とひっそりとした差異で受け止めてくれる人もちゃんと何処かに居るのかもしれない。

  • 9話の短編集です。

    「曲芸と野球」
    野球にはげむ男の子とそばで椅子を使った曲芸を練習する女の人のお話。
    気に入りました。

    「教授宅の留守番」
    大学教授宅の留守をまかされた女性に招かれた主人公。
    教授が大きな賞を受賞して、家にお祝いの花やら何やらが届きまくる。
    「いいの。ついこの間、同じことをやったばかりだから。この同じのこぎりで」
    最後はゾッ。
    後味の悪さが好きです。

    「イービーのかなわぬ望み」
    中華レストランのエレベーターボーイ、イービーに恋をした主人公。
    悲しい。

    「お探しの物件」
    へんてこな物件ばかりを扱う不動産や。

    「涙売り」
    (一方的な)愛は怖い。

    「パラソルチョコレート」
    表と裏側、背中合わせで「生きてる」人。
    わたしの裏側で「生きてる」人もイケメンがいいです。

    「ラ・ヴェール嬢」
    作家Mの孫であるラ・ヴェール嬢。
    彼女を施術する指圧マッサージ師。
    Mの本の淫靡な内容(を実践したこと)を語るラ・ヴェール嬢。
    オチに笑いました。
    むかし某所で読んだ仏教関連の本に、目や頭や手や体が光るだけでは二流。足の裏が光ってこそ本物だ、みたいなことが書かれていたのを思い出しました。
    以下P147、8行目~引用
    「これは、けがらわしい芥、軽蔑すべき泥、軽薄な瓦礫、むごたらしい藻屑を、踏んだことのない足だ、(略)たとえそうしたものを踏まざるを得ない時でさえ、宝石の靴を履いているかのように歩ける人だ。自分には合わない靴を決して履かず、誰の指図も受けず、ただ思うがままの方向へ気高く歩き続けた足だ」
    サウイフ足ニワタシハナリタイ。

    「銀山の狩猟小屋」
    こわい。
    こんなこと本当にありそうでこわい。
    女性が主人公なのが意外でした(途中まで男性だと思っていた)

    「再試合」
    小川洋子らしいなあというお話でした。
    再び(一方的な)愛は怖い。

  • 秀逸な表題。
    読み進めるほど、これ以外の表題は考えられない。

    登場する事物の一つ一つは知っているもののはずなのに、何もかもが違っている。

  • 短編集のせいか小川さんらしい静謐さはやや薄れ、生々しさや奇妙な味が強く出た作品。特に中ほどの短編『イービーのかなわぬ望み』『お探しの物件』『涙売り』などを読みながら、三崎亜紀さんや栗田有紀さんを思い出す。いや小川さんの方がずっと大家でしょうけど。
    いずれにせよ「浸れる物語」です。

  • ゾーッとする短編集。
    『教授宅の留守番』が1番ゾゾーっとした。
    教授に凄い入れ込んでいると思ったらそういうこと。

  • 単なる名詞の羅列でさえ美しく感じるような、儚くて詩的な文章が◎部屋の隅っこで、誰にも邪魔されず、ひっそりと読みたい作品。

  • とても久しぶりの小川洋子。わたしは中学時代、このひとの書くものが好きで好きでほとんど読破したのですが、どうして好きなのかということについてあまり自覚的ではなく、深化を遂げていく小川文学に馴染めなさを感じ、長い間離れていました。静謐な世界観、美しい文章、奇妙だけどしっくりくる比喩、あのころはわたしは小川文学のそういうところが好きなのだと思っていた。けど、それは一部分で、今振り返ればおそらく当時のわたしにとって本当に切実だったものが小川文学にあったからあんなに読んでいたのだとおもう。小川文学の大きな特徴である、世界の隅っこに打ち捨てられているようなものに対する眼差し、無垢なものが傷つけられることを怒りではなく掬い取り描くそのスタイル。いろんなものにうまく馴染めず孤独と寂寥感に苛まれ、無垢な子供時代から思春期に突入していったあのころのわたしにとって、小川文学は本当にかけがえのないものだった。当時のいろんなことが蘇ってきて、ふるえながら大事に大事に読みました。
    小川文学には、ふつうとすこしちがう、奇妙だけど無垢なひとやものが出てくる。初期はホラーテイストで、中期はそれらが残酷に打ち捨てられてしまう情景が仔細に描かれるようになり、中学時代のわたしはここまでがとても好きだった。その後、打ち捨てられてしまうだけではなく、でも下手で決定的な救済でもなく、ほんとうにすこしだけ掬い取るようなものになって、当時のわたしは離れてしまったのだけど、今ならわかる。紛れもなく小川洋子の文学は深化を目指していて、まだ過渡期かもしれないけれど違う場所に向かっていて、あるゆるものでいっぱいいっぱいだった中学時代のわたしには届かなかったけど、今のわたしはそんな小川文学を見届けたいとおもっていて、ようやく追いつけたのだと。ほんとうに、世界の淵から零れ落ちてしまいそうなひとに向かって小川洋子は静かに、でも確実に手を差し伸べているし、もうただいま、ありがとう、という想いでいっぱいになった。もう一度きちんと出会えて良かった。ありがとう。

  • 男女のさまざまな「愛」にまつわる短編集。9編収録。
    純愛のようなさわやかな話はなく、全話にわたって歪んだ一途な狂気がある。
    それを小川さんの読みやすい文面で書かれているため、つい読んでしまった。
    「舌」「骨」「網膜」など人体の部位名や「苔」「茸」「蔦」など植物もよく出てくる。好きな人にはたまらないかも。

  • 夜明けの縁とは、ある面、狂気というか日常を逸脱したところに違いない。

  • こういう本を書くから、小川洋子さんは魅力的なんだと思う。奇麗で高潔な文章で、人間の人間らしい部分を暴いている。それは時に傲慢だったり醜悪だったり、滑稽だったり美徳だったりするけれど、この矛盾さを孕んでいるのが人間だなと思ってしまう。そしてそれを一切の容赦なく記せる、鬼才だと思いますね。

  • 2時間10分

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99046865

  • こういうの、けっこうすきです。作者の長編の萌芽のような短編集

  • 少し不思議で、たまに温かく、たまにひやっとする短編集。

    「大人に内緒で何か悪事を企てているのでは、あるいは、大人に言えない悩みを抱えているのでは、などと余計な気を回さないところが、シッターさんのシッターさんらしい点だった。誰にだってその人なりの事情がある。それが彼女の信条だった。」(134ページ)

  • 小川洋子作品は異形なもの、グロテスク、フェチシズムをはじめ変態性、これらダークサイドと、胸をえぐるほどの強い人間愛やセンチメンタルを糊塗したサニーサイドの表裏のバランスが、ボーカリストで言えば百年に一人の美声のような酔わせる文体でもって描かれるのが魅力だ。
    今作はほぼ前記のダークサイドで展開される、しかし肌触りの良いファンタジー集。
     筒井康隆ばりに笑えるのもあり、どう考えても悪乗りしているものもある。

  • 夜明けの縁をさ迷う人々

  • 154:いつになく(?)ダークだな、と感じました。イービーの話が一番好きかなあ? リトル・アリョーヒンに通じるものがありますね。そして、野球の話も両方素敵です。レフトやライトに対する観察眼が小川さん的。

  • ★2008年3月20日 22冊目読了『夜明けの縁をさまよう人々』小川洋子著 評価B+

  • あまりにも真っ直ぐ過ぎると怖いですね。
    ゾクッとしちゃうようなお話でした。

  • 小川洋子さんが好きです。ラジオ番組で聴く穏やかな声、語り口調、でも少し怖い感じ。優しく穏やかな表情からたまに溢れる怖い感じ。作品にも出てます。お伽話のようで、おどろおどろしいムードもあります。私は再試合が好きです。野球好きの小川さんの球場や観客の描写が、すごく好きです。小川ワールドに浸れました。

  • 虚像なのか現実的なのか、この世なのかあの世なのか。
    大好きな、歪んでいるけど美しい小川洋子ワールドな短編集でした。
    お気に入りはEB。砂になってしまった彼は、風に乗ってエレベーター塔に行けたかな。
    小さい頃に空想し、勝手に怯えていた世界が、この本の中にいっぱいあった。

  • エレベーターボーイのイービー、私の裏側に住む老人、指圧師に淫靡な朗読をする老女、産声をあげて死んでゆくサンバカツギ。なんて狂ってるんだろう。究極は、関節カスタネットのために、痛みの涙を流す涙売り。小川洋子さんは、世界から取り残された人を拾い上げるような、どこまでも静かな物語を書くイメージがあったけど、こんなに狂気に満ちた話も書くんだな。1つ1つの短編が濃厚で、深呼吸をしたくなる。タイトルが好き。

  • 短編集9編
    たそがれ時ではなく夜明けのというところが,現実と非現実の混じり合ったかのようなあわいの時間でも,出来事に何かしら前向きな光が当たっているような気がする.切なかったり,背筋がゾッとするような怖さがあったり,微笑ましい不思議だったり,いろんな味わいのある物語.
    「イーピーのかなわぬ望み」「パラソルチョコレート」が良かった.

  • 短編集ですが妙にグロく、現実から少しずれたところを書いているといった印象。

  • ちょっと不思議な話の短編集。毒のある感じ。

  •  この世界の片隅で紡がれる日常がいつの間にかさ迷いいでて、あるはずもない非日常へとたどり着く。奇妙でまさに「夜明けの縁」を覗き込んだような短編集だ。
     丁寧な描写と時折覗く淫靡さとグロテスクさは、混じりあって絡み付くような濃密さを生み、小川洋子ならではの味わいを醸し出していて、一気に読むのではなく一編づつよむのがこの本には似つかわしい。
     

  • タイトルが印象的な9つの短編集です。
    金色のタイトル文字がとてもきれい。
    エッチングのような装画/挿画は磯良一さん。

    9作とも”夜明けの縁をさ迷う人々”、現実では生きてないような不思議な人々のお話です。

    『曲芸と野球』
    右利きの野球少年は三塁側で曲芸の練習をしている女性に球が当たらないように流し打ちが得意になった、という告白から始まります。曲芸師と野球少年の交流が淡々と語られ、生涯唯一のヒットはしみじみとしています。

    『教授宅の留守番』
    海外赴任の教授宅に住むことになった大学食堂のおばさん。そのお家を訪問する私は、家やおばさんに奇妙な感じを受けます。少しミステリー要素が入っていて、怖くて、面白いです。

    『イービーのかなわぬ望み』
    イービーはエレベーターボーイ(E.B.)のことで、中華料理屋のエレベーターで生まれて、そのエレベーターで暮らす男の子です。育てのおばあさんが亡くなり、途中で成長が止まり、大人になってもエレベーター仕様の体です。ある日、中華料理屋が取り壊されることになり。。悲しい結末は胸が痛みます。生きる世界が決まっている、ここでしか生きられない、という幸せと不幸せに共感する人は多いと思います。

    『お探しの物件』
    人が求めている物件を紹介するのではなく、物件が求めている人を探す不動産屋さんの話です。たとえば、瓢簞アーティストが住んでいた瓢簞屋敷は、瓢簞の手入れを怠らないことが条件とか。瓢簞アーティストが受粉させる描写が艶かしく描写されています。江戸川乱歩の人間椅子のような好きな雰囲気です。

    『涙売り』
    自分の流した涙を塗ると楽器の音がよくなるという「涙売り」の女性のお話。女性は関節を使って音を出す関節カスタネットの男性に恋をして、彼の楽団の専属になります。彼の関節に涙を塗り込む描写がエロティックです。結末はグロテスクな方向に進みます。アンデルセンの履くと踊り続ける「赤い靴」みたいな怖さがありました。

    『パラソルチョコレート』
    パラソルチョコレートが好きな女の子のお話。弟とともにシッターの女性に預けられるのですが、チェスをひとりで打っている過去のあるシッターさんが魅力的です。女の子の裏側の世界に住むおじいさんが出てくるのもユーモラスです。

    『ラ・ヴェール嬢』
    あからさまにエロティシズムが漂う作品です。ラ・ヴェール嬢って貴族みたいですが、実はラ・ヴェールというアパートに住むばあさんの話です。そこに週1で通う足裏指圧師は、遺品としてラ・ヴェール嬢の所有していた作家M氏の全集を譲り受けます。肉欲を追求し続けたM氏の孫であるというラ・ヴェール嬢は、M氏の倒錯したファンにより彼女が体験したグロテスクな性体験を指圧師に語り聞かせます。結末に嘘か誠かという、狐につままれた雰囲気が漂います。

    『銀山の狩猟小屋』
    この中で一番気になった、好きなお話かも知れません。銀山の狩猟小屋を見に行った作家と秘書が、そこを管理しているという隣に住む奇形の男性(ロートレックのような人を想像)に出会います。男性はサンバカツギという謎の動物の話をします。サンバカツギの名前の由来は、死ぬときに赤ちゃんの泣き声を発するため、産婆をかつぐ(だます)から。小屋に閉じ込められた二人は赤ちゃんの泣き声を聞きながら、血のにおいがする部屋で密着します。最後、どう解釈したらよいのかよくわかりませんでした。。狩猟小屋が子宮の中ということなのか・・・。
    『注文の多い料理店』みたいな怖さもあります。

    『再試合』
    76年ぶりに甲子園に出場する高校に通う女生徒のお話です。いつもレフトの彼を切り株から見守っていた女生徒は、甲子園でも高校の応援席をはずれてレフトで応援します。彼女はレフトのすばらしさを克明に描写します。そして、レフトが相手チームのヒットを差したことで、再試合が永遠に続く・・・という彼女の幻惑のような物語に変貌し、現実と非現実の曖昧さが描かれています。
    最後に「もし彼が世界の縁からこぼれ落ちそうになったら、私が受け止める」という描写があります。世界の縁からこぼれ落ちていたのは当の本人なのに・・・。

    読んでない人に説明するのが難しい話ばかりでしたが、文章も世界もものすごく心地よかったです。世界に入り込まないと読みづらいので集中力がいりましたが、とっても満足。

  • 不思議なお話。ちょっと暗めのお話が多い印象

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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