ホテルジューシー

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  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048738002

感想・レビュー・書評

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  • 大学二年生の柿生(かきお)浩美が夏休みの一か月強を過ごしたアルバイト先、那覇にある安宿<ホテルジューシー>での日々を描く。

    初版は2007年、最近になって続編らしきものが出たとあってそちらを読む前に久しぶりの再読。詳細を忘れていたので読み返して良かった。

    浩美は大家族の長女とあって『貧乏性の長女体質』。おまけに正義感が強い優等生タイプでもある。
    責任を持って仕事をこなしていく優秀さの一方で、どこまでお客様の事情に突っ込むのかという線引きの難しさも感じることになる。

    夜と台風の時以外は『昼行燈』なオーナー代理の安城に、清掃担当の元気な高齢のクメばあセンばあコンビ、おおらかな調理師の比嘉はみなそれぞれ癖がある。
    最初は『みんないい加減』とイライラしていた浩美だが、最終的には『どうしようもない』『嵐に巻き込まれたと笑うしかない』という境地に至る。

    だが私の記憶と違って、客の事情は結構ハードだった。
    特に「嵐の中の旅人たち」は浩美に苦い経験として印象を残す。
    ギャルコンビの危なっかしさや米軍相手の骨とう品詐欺など可愛らしく思えるほどだ。
    また「トモダチ・プライス」ではバー経営者のヒデから『甘い上澄みだけ味わっている』『旅行』とは違う、『暮らしていく』ことについての厳しさも指摘される。

    浩美のようなタイプの人間は、ある人からは頼もしく見えるだろうが別の人間から見れば煩わしくなるだろうし、またある人からは眩しく見え、別の人間からは青くも見えるだろう。

    『ねえ。私の「正しさ」は間違ってるのかな?』
    『正しさは尺度にならないって、もう充分にわかったはずだよ』

    2007年の時点でも接客業は難しい。今はもっとだろう。どこまで客のプライバシーに突っ込むべきか、法を犯さなければ良いのか、客が危ない目に遭うのが予想できるのに知らぬふりで良いのか。
    誰にも答えは分からないし、正解はない。浩美には浩美の、オーナー代理には彼のやり方があって良いのだろう。

    浩美自身、ひと夏の<ホテル・ジューシー>での日々を経ても『身の丈にあわない物を選ぶ人間は苦手』ということは変わっていない。
    ただいろんな人がいていろんな事情があって、いろんな思いを抱えている、それが分かっただけでも『変わった』と言えるのだろう。

    結局オーナー代理の事情は分からないままだが続編で明かされるのだろうか。
    ちなみに浩美の友達・サキのアルバイトの話は「シンデレラ・ティース」という作品になっている。

    「ジューシー」とは雑炊のことらしい。様々な沖縄料理の名前も知った。
    おおらかさの一方にあるシリアスな部分、雑多な感じが沖縄という空気とマッチしていて、単なる青春ものではない感じが良い。
    オーナー代理の言葉『この適当でごちゃごちゃした感じこそが世界って気がする』という一文に集約された作品だった。

  • 怪しげな人が集うホテルで働くヒロちゃんの、ひと夏の物語。
    ホテルジューシー・・・ヒロちゃん、新たな勤め先のホテルで驚愕!
    越境者・・・ヒロちゃん、ギャルな宿泊客に振り回される。
    等価交換・・・ヒロちゃん、夜のマーケットでチャンプルー文化体験。
    嵐の中の旅人たち・・・ヒロちゃん、沖縄の台風に遭遇する。
    トモダチ・プライス・・・ヒロちゃん、沖縄への夢と苦い現実を知る。
    ≠(同じじゃない)・・・ヒロちゃん、仲睦まじい夫婦の謎に戸惑う。
            そしてホテルでの勤務が終わる。夏が終わる。
    微風・・・ヒロちゃん、大学へ戻る。その脳裏に浮かぶのは・・・。
    実はブクログ始める以前に読んだ本。
    続編が出たので、再読しました。
    だらしない人間が嫌いな、ヒロちゃん。柿生浩美。
    大きな容姿で大家族の長女で世話好きというか世話焼き。
    でも自分は、自分の考えはこのままでよいのか、悩んでもいる。
    そんな彼女が那覇のホテルで働いた、ひと夏の物語短編集です。
    一緒に働くのは、調理担当の比嘉さんに掃除担当の双子の
    クメさんとセンさんの、大らかでテーゲーであったかい女性陣。
    そして、期間限定で頼れるオーナー代理の安城幸二。
    話を彩るのは、彼らと街に息づいている、那覇の風景と日常。
    生活や文化、歴史をも漂ってくる。良いことばかりではなく、
    危ないこと、危険なことも隣り合わせだったりする。
    宿泊客も個性が強い人たちだし、出会う人も同様。
    だから事件に巻き込まれてしまうことも。
    それを見ているだけではないヒロちゃんの、正義感がムクムクと
    沸き上がり、行動を起こしちゃったりする場面も。でも、
    外見だけではわからない、人の内面の奥深さに気づかされ、
    喜怒哀楽をさらけ出し、また、自分を見直してもいる。
    オーナー代理の言葉も心に沁みるものだ。
    ほんの数か月でも、チャンプルーな人間模様から得たものは、
    余りあるということ。うん、ヒロちゃん、感じ変わったかも♪

  • 沖縄行きたくなるじゃない

  • 楽園ジューシーからの逆流だったけれど、なるほどこうやってノートが出来上がっていったのねと、伝説の柿生さんを崇拝するかの気持ちで読んだ。沖縄という開放的な気分を味わえるリゾートで暮らす人々と観光客の狭間で、ある意味優等生タイプのヒロちゃんが人間の巾みたいなものを広げていく。成長と簡単には片付けられない奥深さをとても丁寧に描いていたのがよかった。
    サキちゃんの「シンデレラ・ティース」こちらも是非とも読んでおきたいところだね。

  • 夏休みに沖縄の格安ホテルでアルバイトをする事になった女の子のお話。大家族の長女で責任感が強く、面倒見がよく、何でもしっかりしている主人公ヒロが、沖縄という土地柄かゆったり(悪く言えば適当)な場所に放り込まれ悪戦苦闘。正直、ヒロは小さな親切大きなお世話!な人間で最初はあまり好感が持てなかった。けれど、ヒロのそんな性格で人を助ける事ができたり、逆にどうにもならなくて挫けたりする姿がヒロを成長させて、最後は応援したい気持ちになった。
    後、沖縄料理が無性に食べたくなる!

    ヒロの友人の話「シンデレラティース」の方も読んでみたい。

  • 続編「楽園ジューシー」を以前読んだので、改めて1作目であるこの本を読んでみました。

    だらしない人間(まさに、オーナー代理)が苦手で正しさを大事にする性格の、主人公、浩美がホテルの従業員として少しずつ成長していく物語。

    沖縄ののんびりでいい所だけではなく、沖縄ならではの厳しさなど、いろんな沖縄が伝わってきました。こんなに沖縄要素を入れることができるのは、すごいと思います。

    ☆続編「楽園ジューシー」→https://booklog.jp/item/1/4041032105

  • 真面目で堅物な主人公が沖縄の緩さにかき回されて解けるお話。結果的には無事に解決しているけれども、起きる事件は闇深く危うい。主人公の正義感で好転するのは小説ならでは。従業員としては助かるタイプ。沖縄料理が食べたくなった。

  • 女子大学生が沖縄でホテルのアルバイトをする話。取材だけでよくここまで沖縄らしさを出せるなぁと感心した。ぱらっと読めるので、沖縄の雰囲気を知りたい人におすすめ。一緒にとなりのウチナーンチュも読んでもらいたい。

    ちょっと引っかかったのは安城さんのセリフ。
    御嶽ってそんな気軽に入っていい場所じゃなかったような‥‥?今は観光できるようになってるかもしれないけど、地元の人はそう言わないかな?

  • 去年の夏はシンデレラ・ティースを読んで、今年はこの本を。
    自分がいなくてもその場所はなんとかなるし、私じゃなきゃだめなこともない。仕事に関しては、代わりなんていくらでもいる。当たり前のことだけど、なんだか悲しい。
    だけど、いなくなった後に、私のことを良かったって思ってくれることが少しでもあれば幸せ。

  • [図書館]「シンデレラ・ティース」姉妹作。サキが今作ヒロの友人>沖縄満載♪のお話。ヒロが一夏のバイト先「ホテル・ジューシー」で出会う様々なお客との出来事。う~ん、ちょっと…主人公が大学生:若者なのに、堅物で正義感が強く見過ごせないとこが若年寄りみたいで、重い。接客業なのに奥まで首突っ込みすぎる…。客の事情は解っても口に出さないのが鉄則。昼夜2重人格のオーナー代理の人物像もイマイチ理解できず…。クメばぁ・センばぁのような沖縄独特のなんくるないさ~的なゆるさは良かった(^^)♪姉妹作の方が良さそうだ♪

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著者プロフィール

一九六九年、東京都生まれ。二〇〇二年『青空の卵』で〈覆面作家〉としてデビュー。一三年『和菓子のアン』で第二回静岡書店大賞・映像化したい文庫部門大賞を受賞。主な著書に『ワーキング・ホリデー』『ホテルジューシー』『大きな音が聞こえるか』『肉小説集』『鶏小説集』『女子的生活』など。

「2022年 『おいしい旅 初めて編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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