芙蓉千里

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
4.04
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048739658

感想・レビュー・書評

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  • 女郎として買われたタエと、自ら志願してついてきたフミ。
    ふたりの少女が、明治時代の満州ハルビンの地で生きていく。

    大河小説的な時代小説。

    女郎暮らしは過酷だけれど、酔芙蓉で働く女性たちはたくましく、陰鬱ではなかった。

    特に、フミのたくましさはぬきん出ている。

    子どもらしい無邪気さと元気が光る、前半。
    さまざまな経験を経て、大人の深みと芯の強さが光る、後半。

    タエとの友情、秘めた恋心など、読み応えがあった。

  • 遊郭物はかなり読んできたので、時代によっての遊郭の在り方もかなり把握した上での長編芙蓉千里。
    舞台は日本ではなく哈爾濱(ハルビン)へ渡った、少女フミの物語。時は明治40年。
    時代背景の部分は私の知識が足りず難しくはあったが、逆に勉強になった。
    当時の日本、ロシア、中国などの状況も深く描かれ、それに沿ってフミの成長や恋物語が。
    幼い時から恋してた山村とのラストスパート、そこに現れるパトロン黒谷、切なさ覚悟が強く感じられる箇所だった。姉女郎の死も心に残る。
    遊郭小説と言っていいのな、今まで読み込んできた物とはかなり違う印象。
    この続きが気になるので、北の舞姫 芙蓉千里IIに突入してみよう。またもや長編だ!

  • さすが須賀さん!表紙も好き。

  • 異国の地で大陸一の女郎を目指す、少女。

    旅芸人として育ち、唯一の身寄りも失った少女、フミ。
    日本人の経営するロシア娼館へ売り込み、大陸一の女郎(花魁)になろうと野望に燃える。

    時代は第一次大戦期。娼館の少女らは身売りされ、働かざるを得ない環境の中、フミの心意気が環境にそぐわず違和感を覚えた。
    その疑問は読み進めていくうちに、「故郷」に対する考え方の違いだと思うようになった。
    多くの少女は確固たる所属があり、そこから一人離されより低位の環境での生活を嘆いている。
    けれど、根無し草であったフミは「故郷」と呼べる場所がない。日本でさえも郷愁を呼び起こさない。

    人は失いたくないものがあると弱くなる、というが、諸刃の剣だと思う。
    失うもののない強さと、守るものがある強さは別物のようだ。
    酔芙蓉を「故郷」のように思えるようになったフミは、弱さを自覚した。けれど、同時に自信も手に入れた。

    守るべきものは何なのか。
    自分なのか、酔芙蓉なのか、周りの人々なのか。
    これから、彼女がどのように進んでいくか楽しみだ。

  • 面白い! 読みやすくて続きが気になる~☆
    あの人とまた、出逢えるのかなあ・・・。

    明治40年。売れっ子女郎目指して自ら人買いに「買われた」少女フミ。
    満州はハルビンで新しい人生がはじまる。

  • まだ未読ですが須賀しのぶというだけで絶対面白い確信があるので先に★は5つ付けておく(笑)
    つかカバーと装丁の美しさだけで★5の価値アリ。
    読了後に改めて感想書きたいです。

  • 女にとっての地獄、遊郭。この苦界に、しかも哈爾濱で「女郎になるのが夢」という少女フミの物語。
    読んでてダダ暗くなりそうなテーマだが、女性作家ならではの繊細な筆致とフミの強烈なキャラクターのお陰で、良質な映画を観ているように夢中になれる。

    日本人以外には理解されがたいが、切腹がただの自殺とは違うように、遊郭というのは世界的にみる所謂売春宿ではない。知識や概念としては知っていたが、ここまで文化としてリアルに、しかも直截的な表現控えめでエンタメとしても読めたのは初めてかも。

  • まだ、芙蓉千里は 1 しか読んでいない。この後、どう展開していくのか楽しみではあるが、この 1 だけでも結構面白い。この小説の面白さは、登場人物の「見事さ」にあると思う。
    大陸一の売れっ子女郎「お職」になりたい主人公のフミを始め、女郎屋「酔芙蓉」の女将芳子や胡蝶蘭のような蘭花ことお孝。圧倒的に華やかな牡丹のような源氏名もそのままの牡丹こと千代。嫉妬深く妹分を徹底して苛めてきたマサはフミが来てから3代目の「お職」桔梗。その他いろいろな女郎。何より覚悟はしてきたとは言え、やはり女郎には絶対なりたくないと言う、友人と言うより同志といった方がいいひとつ年上のタエ。こういった個性的な女性たちが哈爾濱は傅家旬の女郎屋「酔芙蓉」で織り成す人間模様。それが見事。

    ここにいる女たちは皆「覚悟」が出来ている。女たちの口から出る言葉一つ一つは自分を奮い立たせる強がりであり、生きていくための諦めの言葉かも知れない。せめて皮肉と自嘲は諦めた自分に対しての慰め的自傷行為。そして、女たちは異国の街で意地と矜持を持って生きていく。

    「·······好き放題やってる露西亜や日本も、いつかはここから消える。·······日本なんて国は忘れとけ」と言い放つ女将の芳子。
    宿敵「伊藤博文」が暗殺された晩に「裾が乱れないように縛って、首をひと突き。」まさしく武家の女の切腹の仕方で自害する蘭花。
    そして30半ば過ぎて10も20も老けて、無惨にも皺だらけの顔となってしまった、かつての華やかで百花の王「牡丹」のごとき千代は、「私は女郎さ。·······ここで無様に死んで、 ·······亡霊になってさまようのさ。そして、こんな店、ぶっ潰してやるんだ」と言い放つ。

    この小説、最後の方でフミの踊るシーンが良い!
    阿片で見も心もボロボロになった千代、その横に「お蘭ねえさん」の幽霊。その他の女郎、女将、女衆と男衆。みんなの前で、高みに駆け上がるように踊るフミ。タエの巧みに煽り、力を引き出してくれる謡いに合わせて。

    面白い小説とは、登場人物の「生き様」や「死に様」が「見事な」小説なんだなぁと思った。

  • 久々にあたりの小説!!!
    面白かったです!
    読ませるのが上手で飽きさせない。中弛みしそうなタイミングの少し前で、きちんと毎回見せ場を作り、世界から離さないのは流石。
    歴史の大きな転換点の昭和初期、中国に渡った女郎という角度から切り込んだエンタメ性も抜群のヒューマンドラマでした!

  • 自ら人買いについていき哈爾濱の妓楼にたどり着いた少女フミ。辻芸人として舞っていた踊りを足がかりに一流の芸妓への道を歩み出す。恋焦がれた山村との出会いと再会、娼館の女郎たち、水揚げ役となった華族・黒谷との関係…。露西亜の地で必死に生き抜く少女の熱い物語。

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著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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