或るろくでなしの死

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048739870

感想・レビュー・書評

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  • 7編を収めた短編集である。各編のタイトルは「或るからっぽの死」「或るごくつぶしの死」「或る嫌われ者の死」「或るはぐれ者の死」などとスタイルが統一され、さまざまな「死」が描かれる。

    肉体の死のみならず、「生きた屍」と化す精神的な「死」が描かれる場合もある。主人公が死ぬ場合もあれば、ほかの誰かが死ぬ場合もある。いずれにせよ、全編に死が満ちた短篇集なのだ。

    平山夢明のことだから、グロテスクな描写が随所にある。それは残酷さを突き抜けて乾いたユーモアすら漂うものなのだが、グロと暴力描写が苦手な向きは嫌悪感しか感じないだろう。そのうえ、人間性が欠落した壊れたキャラクターも多数登場するし。

    そんなわけで、各編ともじつに後味の悪い作品なのだが、それでも面白い。一編読めば次の作品が読んでみたくなり、たちまち読了してしまった。

    多彩なスタイルが用いられている。「或る嫌われ者の死」は近未来を舞台にしたSF。「或るろくでなしの死」は前作『ダイナー』に近いノワール小説。「或るごくつぶしの死」は、男子大学生と幼なじみの娘の関係を描いた、青春小説と呼べなくもない作品だ。

    どんなスタイルを用いても、平山印の強烈な個性で染め上げられている。
    たとえば、「或るろくでなしの死」は中年の殺し屋と不幸な少女が出会う物語で、設定だけ見れば『レオン』のようだ。しかし、中身は『レオン』とは似ても似つかない、残酷でグロテスクな物語なのである。
    「或るごくつぶしの死」も、フツーの青春小説のようなさわやかさは微塵もない、ゲスの極みのドス黒い話だ。

    私がいちばん気に入ったのは、「或る愛情の死」。
    四人家族が交通事故に巻き込まれ、障害をもった長男だけが死ぬ。それは、ガソリンの爆発から逃がれる際、夫が健康な次男を先に車から運び出し、長男を後回しにしたからだった。
    そのことで家族に深い亀裂が入り、一切の笑いが消えた家庭。そして、事故から一年後、ある事件が起きる……。

    書き方を変えれば純文学になりそうな話だが、平山夢明は世にもグロテスクで恐ろしい「愛情の死」の物語にした。ラストのとんでもない展開に度肝を抜かれた。こんな小説、ほかの誰にも書けない。

  • あぁぁ...やはり平山さんの小説だなぁと痛感。
    7編の短編で構成された「死」を死として
    のみでなく尊厳の破壊、存在の消失...様々な
    「死」をあくまでも平山氏独特の温度感で
    容赦なく書かれています。字面上ではかなり
    エグさとグロさのある表現ですが、個人的には
    この温度感が独特故、嫌悪感をさほど抱かないという
    希有な作家さんのような気がします。

    タイトル作で書き下ろしの「〜ろくでなしの死」は
    ド名作DINERに似た空気感漂う傑作で、この核で
    一作の長編にもなりそうな濃密な面白さ。
    こういった殺し屋書かせたらピカイチですね。
    心折れんばかりになった「〜ごくつぶしの死」の
    心地悪さと恐怖。
    「〜愛情の死」で描かれる常軌を逸したラストシーン。
    そして、今作を締める「〜からっぽの死」における
    何故か切なく、苦しくなるラブストーリー。

    こういった短編では一人勝ち、独壇場ですね。
    色んなバランス感覚が絶妙過ぎます。
    言葉にして言い難いですが...いい作品です。

  • 不愉快さ不条理さがハマる人にはハマる、それが平山夢明だと思う。
    とにかく一気読みするには体力が要るので、一話ずつ分けて漸く読了。
    何か言葉にしがたい気持ち悪さが胸に残る。初読はだいたい2年前だったのだが、今の今まで本について考えるときは必ずこの平山流の気持ち悪さが思い浮かぶ。ある種心に残る作品と言えるかもしれない。
    なんだか解らないけど、好きという言葉は合っている気がしないのだけれど、印象に残る一冊です。

  • これぞ短編小説の傑作! かけ値なしの絶望と論理をも飲み込む狂気のオンパレード! 偽善者どもめ、死にさらせ。
    様々な死を描いた本作は、間違いなく傑作中の傑作。序盤からぶっ飛ばしてきやがる。道路の真ん中にあって、日の熱さにドロドロに溶けちゃっててタイヤに轢かれまくったせいで地面とほぼ一体化している物体を、くっさいホームレスの主人公が救済しようと努力するが……。
    二本目は、二本目だけに日本人だ。なんかヤベェウイルスを蔓延させちまった日本人が忌み嫌われている世界が舞台。日本人が電車に挟まって瀕死にあるんだが、そいつを救おうとするレスキュー隊たちとの小さな物語。なんでこんなちっぽけな話なのに世界観や人物のディテールが施せるんだろうか? ほんと凄い。
    三本目は、浪人生とそのセフレの間に過失的に生まれた赤ん坊の死。或いは、精神的に死んだセフレを描くもの。どうしようもねえ浪人生のクズっぷりと、それに流される頭からっぽ女の描写がやっぱり上手い。この短編集の中で最も生々しく且つ現実的。ラストが美しくもある。
    四本目は、息子を見殺しにした夫を責める妻と、その家族の崩壊を見事に絶望感スーパーフルマックスで書かれる一作。百聞は一見に如かず、これに限っては是非読むべし。
    五本目は表題作、或るろくでなしの死。ハムスターを石で撲殺しまくる少女と、少女に仕事現場を見られた殺し屋の関係を描く。少女のちょっとキ印入ってる苦悩と殺し屋の妙な人間らしさが不思議で心地よい。ラストは最もエグいのでご注意。
    六本目は、クソ野郎になっちまった旧友と主人公の話だが、微エロ・グロてんこ盛りの平山さんらしい短編。猫に奉仕してもらった挙句それをブチ殺す男や、表情ひとつ変えずに指関節をズタボロにしたり眼球を埋めちゃう筋肉兄弟などが登場。個人的にはこの短編集で一番好き。
    ラストは、SFじゃないけど奇妙な病気に罹った男と、汚れ仕事をしてきた娘の恋愛物語。恋愛とかいってるけどそこは平山さん。絶望ふりかけをたっぷり掛けてある。とはいったものの、この短編集の中では異質な存在であることに疑いはなく、何故か読後感も爽やかというか切なさというか……マイルドに読了させてしまう一作なのだ。ひとつ前の話がエグかったので、これでちょっとは飽和されるんじゃないかな。

    平山さんの作品の特徴は無国籍だと思う。名前はカタカナや英語が多いし、舞台も一概に日本に限定することはできまい。
    彼は無国籍で、無関心で、理解不能な、底無しの恐怖を現代人にリアルに見せてくれる。なんて逞しい作家なんだろう。

  • 本当にキツかったのだけれど。
    何と言うか、生が内包する”死”という意味において、生が軽んじられる現代、こういった死を描く、又は読む、ということは必要だろうと感じる。

  • 相変わらず救いがない。
    突き抜けた胸糞悪さが最高にいい。

  • 一人の人間が死んでいく短編。川上未映子がエッセイで「自分の死は見ることができないので存在しないんやで」ゆうておりましたので、一人称の語りでストーリーが始まった時、自らの死をどう語るのかとても興味を惹きまして、最後なるほどと思いました。幽霊になって伝えてますなんて不誠実な結末でなくてよかったです。

  • さすがだ~♪平山夢明。なかなか言葉にし難いけど本当にスゴい小説だわ。独白する~よりはかなり普通になってるぶん、ガンとぶちのめされるワンフレーズの衝撃が大きい。みんなに言いたいけど秘密にもしておきたい作家さんNo.2。No.1は飴村行~♪関係ないけど(笑)

  • 「死」をめぐる7篇。
    切ないほどエグくて、吐き気がするほどロマンチック。
    すべての作品が読み手の心に焼き印のように痕を残す。
    特に殺し屋と少女の表題作と、赤ん坊といまどき大学生の話がもの凄い。

  • 相変わらず、超こわい。期待に通りですな。

著者プロフィール

1961(昭和36)年、神奈川県川崎市生まれ。法政大学中退。デルモンテ平山名義でZ級ホラー映画のビデオ評論を手がけた後、1993年より本格的に執筆活動を開始。実話怪談のシリーズおよび、短編小説も多数発表。短編『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社文庫)により、2006年日本推理作家協会賞を受賞。2010年『ダイナー』(ポプラ文庫)で日本冒険小説協会大賞を受賞。最新刊は『俺が公園でペリカンにした話』(光文社)。

「2023年 『「狂い」の調教 違和感を捨てない勇気が正気を保つ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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