- Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048740012
感想・レビュー・書評
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Fという人物にまつわる四つの物語。
自由と孤独、愛情と束縛は一枚のコインの表裏のようで。
第三話までミステリアスに描かれてきたFは最終話で実体を結ぶ。
意外と普通の人で拍子抜け、だけど、案外そんなものかもしれない。
記憶の中の誰かはいつも、現実よりも鮮やかな色彩を放つものだ。
最終話でのFの変化は、年齢を考えるととてもリアル。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
名前は、ただのF。40歳をすぎた同級生の胸にまだ棲みついている。
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名前も思い出せず、顔もおぼろげなのに、ふと気がつくと思い出す同級生の「F」。かつて同級生だった3人の心には、あの日以来ずっと「F」が棲みついている。そして、40歳を過ぎた今、「F」が彼らの人生を動かす―
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Fこと中谷晶は、小学校の学芸会の劇の際、手違いでひとりだけ役がなく、間に合わせで作られた被り物をかぶったFという役を与えられて以来、みんなからFと呼ばれるようになり、次第に本名は忘れ去られていったのだった。40代になり、あのころFをイジメたり関わったりした者たちの人生にトラブルが起きたとき、彼らはどういうわけかFのことを思い出し、彼の影に脅えるようになるのである。結局実際に、Fは彼らに何かを仕掛けることもなく、平穏や親密さとは縁のない人生を送っていたのだが、最後によりどころとも言える存在に出会うことができたのだろう。そして、かつての同級生たちは、Fの影を感じることで勝手に自らのうしろめたさにとらわれ続けることになるのだろう。記憶の底しれなさを思わされる一冊である。 -
2014/9/27図書館から借りてきた。
人それぞれの、人の印象、影響が不思議なことだ。 -
社会の歪みに焦点をあてた連作短編小説。吉永さんは商店街に纏わる事件に支点を置いているようです。街の小売業の生活の中での出来事を、人間模様に絡ませて描いて見せてくれます。
「F」が学友に与えたトラウマを軸に物語が語られています。
最後の物語で、「F」自身が登場してハッピーエンドに為ります。ギャップが有りすぎのようにも感じられるが、作家の優しさが出ています。 -
「F」というイニシャルでしか呼ばれなかった少年が、何人かの人々に強い記憶と残していったものを追う4編のサスペンス・ドラマ。針金のように痩せて、くしゃくしゃした縮れ毛と片方だけ吊りあがった眉と目。強い印象を残す外観にも係わらず、誰の記憶の中にも本名が浮かび上がらない奇妙な少年。それが「F」だ。 冒頭に置かれた「右手」と題するストーリーは、初出時の掲載誌(「野性時代」)を考慮しても暴力描写が強烈で、とてもこれまでの知的でほのぼのとした吉永作品とは異なった印象。いわば、これまでと違う路線を狙ってみたというところだろうが、意外な一面を見せてもらった気分。まるで男性作家のような書きっぷりだ。最後の一編で、「F」のその後が描かれる。
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Fというあだ名しか覚えていない男と関わった3人の短編3話+本人の短編と言う構成。最初の話は暴力的で萎えかけたけど徐々に上向き、最後の本人の話で救われました。
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「根本的なところで優しくない人間なんているんですか?」という
台詞が印象強い不思議な作品でしたね。
Fという男を記憶を濃厚に残した
人間たちの現在を描く3編と、そのF自身を描いた1編から
なる連作。
このFなる人物の現在が、それぞれ過去の記憶を引きずって
生きてきた3人の印象と離れているような気がします。
拍子抜けとは言いませんが、Fなる人物がどういった人間だったのか。
そして彼等の記憶にあるFはなぜ、それほどまでに記憶に
残っているのか...。その部分がイマイチ伝わりにくかっただけ
消化不良気味。不思議でそれなりに面白かったんですが...。