ともだち同盟

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
3.53
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本棚登録 : 206
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048740722

作品紹介・あらすじ

千里、朝日、弥刀はある誓いを交わし"ともだち"になった。しかし、「同盟」は朝日が弥刀に告白したことでゆらぎ…。数日後、千里は駅のホームから落ちて死んだ!「忘れ物をしてしまいました。近いうちにお迎えにあがります」葬儀から数日後、千里からのありえない電話が誓いを試す-。

感想・レビュー・書評

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  • 距離感と価値観は、きっと一本ずつの線路が結んでくれる。

    筆者は2010年代も半ばからは「小説家になろう」系統の作品を多く世に送り出され『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』に代表されるヒット作も多く生み出されている方です。
    ただしこちらは帯にある通りビターダークな雰囲気を全面に押し出すなど初期作寄りといえるでしょう。

    京阪神地域を舞台とした作品を得意とされるほか、どこか読者を煙に巻く心地よい不安、それすらも武器にする女性のしたたかさと怖さ、美しさを染み込ませる風情、「森田季節」先生の筆致をご賞味あれ。
    物語は不思議な三角関係、そしてプロローグ「JR西日本 関西本線 大河原駅」からはじはじまる六つの章題からもわかる通りに線路――沿線をなぞるように展開します。

    また、本作はミステリとしての側面を持ちます。よってこのレビューも謎めいた言葉でお送りします。
    見せ方としては全面的に押し出すわけではない一方、少年少女の心理がぶつかり合う「青春ミステリ」、ネタバレ排除の企図から詳細は省きますが「鉄道ミステリ」としての側面も垣間見せます。

    付け加えるなら鉄道に関する事前知識がない読者向けにしっかり情報も提示されているので、けしてアンフェアにはなっていません。そちらの観点は理解の助けにはなっても本質でないかもしれませんけどね。

    時に。三角関係を形作るには三人の登場人物が必要、というわけで簡潔に触れておきます。
    ちなみに、劇中からは端役が一切合切排されており、注目し突き詰めていくべき点はこの三人へと絞り込まれています。

    ひとりは中性的、揺蕩うような内観から自身のことを見つめる少年「大神弥刀」。
    ひとりは現実的、時に弱々しくも力強さも持ち合わせる普通の少女「芝宮朝日」。
    そうして、そのふたりを繋ぐひとりが魔女を自称する毒吐きの少女「細川千里」。

    彼ら――、彼女たち三人の誰に注目すべきかはお任せします。現実と幻想のどちらにも寄った作中の浮き立つ雰囲気を演出する上で、三角関係とはシンプルであるからこそ奥深いのだなと思ったりもしました。

    まず視点を担うという意味での主人公・弥刀は現と幻に似たふたりの少女の間を翻弄されるということを受け入れ理解しているのですが、先立つのは自分が男になりきれないという自意識だったりもします。

    ひるがえってその隣に立つ少女ふたりは、かたや「女」、かたや「魔女」。
    いずれにしても女であることからは逃れられないふたりなのかも。
    ……謎めいた言葉は、いったんこの辺で置き去りにしておきましょうか。

    ここで最初のアドバイス。
    まずは帯をつけたままで一読ください。それから、イラストレーター「シライシユウコ」先生:画のどこか死を思わせる背景の最中にあって、並び立つ三者をご覧ください。
    中心にいる千里がふたりの手を取り合っていても、指の絡ませ方が異なり見ている方向もきっと違う。

    そういったわけでまず、この物語を語る上で逃げられないのが千里という女の子と、その言葉です。
    千里は本書の冒頭で提示され、本作の題をなす「ともだち同盟」なる胡乱なつながりを提示した張本人であり、自分を含めた三角関係を作った張本人、そして壊した当の本人であったりもします。

    奇しくも「ともだち同盟」は「嘘」、「秘密」というたった二点の禁止事項を軸にした「約束」という三点で構成された簡素な紳士協定だったりしますね、
    この辺にはなにか作為的なものを感じますが、いいえ必然だったのかも。

    いずれにしても魔女を自称する千里はこの作品のすべてを貫くだけの魔力を秘めています。
    「毒舌」なんてひとまとまりの言葉で片づけてしまえれば楽なので、その言葉はほどきますね。
    悪口を少しだけ気取った言い方をするわけでもなく、悪意と害意をそのままに文字通り体と心をむしばんで差し出したくなってしまう、千里の毒ある言葉が実に、魅力的なのです。

    陳腐な物言いをするなら胡乱で蠱惑的、わかっていて破滅に飛び込んでみたくなる、無意識の願望に身を委ねたくなる。――きっと、誰も彼も、彼女も死にたくなる。

    と、言うわけで男くささを感じさせない少年・弥刀と、ふたりの少女の間はそれから等間隔を保ったまま、恋愛に至ったとしてもそのままの関係を紡いでいくのかと思いきや、その均衡を崩すのはやはり千里でした。

    点から線、そして面。三点であり三線。
    図形として成立する最小限で構成されるだけあって、きっと三角関係ほどに不安定な図形はありません。
    三角がその一点の欠けという形でほどけてしまったならば二つの点は一線上になって重なり合うだけ。

    三角関係は千里の死という転機を迎えることで「物理的」に崩れます。
    でも千里の言葉は根付いていて弥刀は「心理的」に取り残されます。この時点では図形はほどけたまま。
    しかし、弥刀の手を現実(リアル)の方に引き寄せようとする朝日の努力をあざ笑うかのように、ここまで澱のように降り積もった千里の毒ある言葉は、物語を一気に、ファンタジーに引き寄せてきます。

    千里がふたりを生と死の狭間にいる自分の領域に呼び寄せるという形で。

    生と死を挟んだ程度で三角関係がほどけるか、どうか? 
    結論、そんな無茶な前提を納得させ、読者に呑み込ませるくらいにはここまで積み重なってきた千里の言葉が強かったというしかなく……お見事といわざるを得ません。
    もちろん納得できない方もいらっしゃるとは思われます。私は魔女の言葉に溺れたい性質なのかも。

    境目といえば。
    男と女を挟まなければ三角関係は成り立つか、どうか?
    本作のジャンル、ないしカテゴライズ、ラベリングを難しくする要素をクライマックスにかけて千里はさらに投げ込んでくるのだから恐れ入ります。

    森田季節先生のセールスジャンルのひとつ「百合」とみる上では、千里と朝日の関係は相当に重く、双方が一方的で痛々しく哀しい関係性であったりもするので絶対に外してはいなかったりするのですけどね。

    それと、このレビューではあえて省きましたが、朝日の、この作品における存在感もけして千里は元より弥刀に押し負けるものではないのだと申し上げておきます。
    彼女は強い。本書のラストエピソードは彼女の視点から締めくくられるのがその証左なのですから。

    二年とあまりのそののち、朝日が有することになったその名を冠した力強きヒロインが同じく森田季節先生の筆からこぼれ生まれることになるのだと思えば、これは感傷でしょうか。
    今はただ、偶然ではないと信じたいところです。

    ここで最後にアドバイス。
    帯を解いて、ジャケット(ブックカバー)を脱がせて、袖を合わせる(正確には折り重ねる)のは読み終えてからのほうがよいですよ。

    裸にしなければわからないといえばいささか趣がないようですが、それ以前に一目瞭然だったりします。彼女たちが誰を見ているかの答えは見た瞬間にご理解いただけると思いますから。
    ご覧になられ、悟った瞬間の感動はきっと、知った上で何度でも折り返したくなる鉄道に似ています。

    もっとも、本当に折り目をつけてしまえばそれもまた取り返しがつかずに、苦い味を楽しめるのかも。

  • ■ 18107.
    <読破期間>
    2016/12/25~2016/12/30

  • 新刊JP
    <a href="http://www.sinkan.jp/radio/radio_1210.html">
    http://www.sinkan.jp/radio/radio_1210.html
    </a>

    のオススメ紹介から探索。

    面白かった!
    久しぶりの物語だったけど、不思議なホラー(?)モノ。

    主な登場人物は、

    ・大神弥刀(おおがみ みと):
    女の子みたいな自分が嫌いな高校生。
    これまでずっと、友達がいなかった男の子

    ・細川千里(ほそかわ ちさと):
    感情の「喜怒哀楽」は、全て「喜喜喜喜」になってしまう。
    発言もいつも毒舌の自称魔女。おさげ髪の女子高生。

    ・芝宮朝日(しばみや あさひ):
    弥刀とは、同じ剣道部の活発な女の子。
    千里とは、高校前からのともだち。いつも千里に手を握られている。

    の3人。


    高校1年のあるときから、「ともだち同盟」として、過ごしてきた3人。

    この3人を結びつける「ともだち同盟」とは、
    ・秘密をばらすこと
    ・ウソをつかないこと
    の2つのルールが課せられている(弥刀いわく)ゆるいつながり。


    ずっと3人仲良くやっていくと考えていた弥刀は、あるとき朝日から
    「好きなの。付き合って。」
    と言われて。。。

    。。。ジャンルは、ライトサスペンス?
    3人の関係は、最後でどうなるのか?!

    ライトノベル好きな人には、面白いんじゃないかな。

  • 予約中

  • しんどかった…(´・_・`)
    めっちゃ胸焼けした。
    若者はこういうのが好きなのか?

  • 少年少女の不可思議で不安定な友情を描いた青春ミステリ。キャラクターが非常に魅力的。自らを魔女と名乗り、数々の毒舌を吐く千里のキャラがなんとも好みです。
    思いがけない展開から訪れる、三人の関係性の破局。そしてさらに訪れるまさかの展開。ホラーというか完全にダークファンタジーなので好みは分かれそうですが。この雰囲気は非常に好き。そして「ともだち同盟」の言葉が胸にしんみりと残りました。

  • タイトルと表紙イラストから、キラッキラの青春&成長物語かと思っていたら、ダークなファンタジック・ミステリーとでも申しましょうか、病んでると申しましょうか、思わぬ方向に進んで行きましたが怖・面白かったです。非常にクセのある女の子・千里の手のひらの上で弄ばれたような出来事でしたが、朝日だってなかなかの食わせ者で強かです。一見、千里が勝者のようですが、思い出を背負って生きる覚悟のできた朝日だって負けてないと思うのです。

  • 気持ち悪いくらい面白くない

  • 好みかと云えば好みではないんだけど、これはなかなかに凄いものを読んだ感が。

    兎にも角にも魔女を自称する千里がたいへん魅力的だったです。

  • 思っていたのとは違ったというのが第一印象。表紙買いをしたので特に後悔はないのですが。
    初めて読むタイプだったので展開には戸惑いました。

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著者プロフィール

森田 季節(もりた・きせつ)
『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』(MF文庫J)にてデビュー。
ほか『きれいな黒髪の高階さん(無職)と付き合うことになった』(GA文庫)、『不戦無敵の影殺師』(ガガガ文庫)、
『お前のご奉仕はその程度か?』、『伊達エルフ政宗』(GA文庫)等。

「2020年 『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました14』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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