本日は大安なり

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048741743

感想・レビュー・書評

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  • 久々辻村さん(「名前探し(略)」以来読んでいなかった)。
    幸せで華やかそうなタイトルと装幀の色遣いだが、中心にいる女性はなぜかちょっと翳があり冷めた目をしている。本文を読み進めていくうちにこの来る神の女性が思い浮かんだ。あるホテルで繰り広げられる4つの結婚式を中心にしたヒューマンドラマ。
    作者の転換期に書かれた作品といった印象。

    あらすじ;
    女性が憧れる結婚式会場の上位に選ばれる、ホテル・アールマティ。大安のこの日は結婚式の予定でびっしりだ。
    結婚式を行う妹・妃美香と姉の双子ゆえのやっかいな問題、ウェディングプランナー多香子の過去、彼女が担当する玲奈の挙式、伯母の結婚式を心から祝えない真空少年、曖昧な態度をとってきたせいで結婚式を挙げる羽目になってしまったことを後悔する陸男。
    それぞれが各々の親族やホテルの従業員を巻き込んで歪なドラマを展開させ、それはホテル全体を包んでゆく。
    大きな買い物となる結婚式は大安に行っても果たして本当に掛け値なしに幸せなものなのか――。結婚に問題を抱える人々や関係者の気持ちが左右する。

    初めの方に書いた通り、作家辻村深月のキャリアの中でも転換期に書かれた印象がある。結構普通の人たちが多いし、ズレた美人や王子様的イケメン、超能力も出てこないんだもの。双子ちゃんたちはやはり辻村さんと言った感じで少し笑えたけどね。
    多香子の嫌々感は嫌な客だからという理由以上にマイナスなイメージだったが、とある事実が打ち消してくれるのは巧い。こういった後々に響く伏線というのがいくつかでてくる度に、小さな驚きを与えてくれる。これは推理小説作家としてデビューし、数々の作品を生み出してきた彼女の手腕が輝いてるからだ。
    それぞれの人物たちが関わる式について少々。
    玲奈:この手の客って多いんじゃないかと思ってしまう。玲奈の性格は決して褒められたものではないし、振り回されるたびに腹が立ってしまう気がするがどこか憎めない。いるよいるよ。一方で多香子には嫌いなら嫌いと言え、と「いい子ちゃん」な内心に少し反発を…。玲奈と多香子の事情で難産になった結婚式だが、多香子のマリアヴェールのエピソードなどを交え、何か信頼関係が築かれていく過程に微笑を浮かべてしまった。困難を乗り越えた時の達成感はやはりいいものだ。
    双子ちゃん:一番いないだろうな、というのがこの二人だった。ここまで「ややこしい」人たちはなかなかいないだろうに。姉の執着は恐ろしいほどだ。想像しやすい展開だが、やはり面白い。
    真空君:伯母さんの結婚に反対している理由は、東君は本当はちがうからだ、というもの。少年の思考回路は想像がつくが、それに起因しているのは――。幸せな結婚式を迎えるためにはやはり両親や親族からの祝福っていうのは最上位事項だ。真空少年の思考まではいかなくても、周りの人の話を聞いて影響を受けることはある。結婚という一大イベントを舞台に、核心的なところにも触れている。
    陸男:ダメ男参上。ミステリ的な展開と陸男の不穏な計画。馬鹿じゃないのか、と何度心の中で罵倒したことか…。馬鹿な陸男だからこそその後の展開にはやれやれといった微笑ましさも付きまとうのだが。馬鹿野郎よかったじゃないか! 大切にしろよ!

    デビューからは少年少女の繊細な心理描写が評価されていた作者だが、大人が読んで放たして楽しいのだろうか、という疑問を抱いていた。ところが数年前からより幅広い世代へのアピールを続けているなという気がしてきた。私自身は彼女の作品から「卒業」してしまってからは数年間、読んでいなかったのだが大きくなっているだろう予感と装幀に惹かれて本書を手に取ってみた。
    辻村さんは確かに成長していたと思う。
    美少女や美少年や超能力や殺人なんて起きないけれど、繊細さからなにか骨太さそして温かさがある。この本ではまだ少しもがいている感じがしたけど。
    万人に受けるストーリーを丁寧に編んできたからこそ、直木賞受賞までつながったんだろう。そんな感じ。

  • ホテル・アールマティのウェディングサロン。
    ここで働くウェディングプランナー。
    そして、大安のその日、式を挙げる4組のカップルたちの群像劇。

    お互いを意識しすぎている双子の姉妹。
    クレーマーでトラブルメイカーの新婦。
    疑惑の新郎と白雪姫の新婦。
    どうしても式を挙げたくない新郎。

    結婚式ってただでさえ大変なものなのに、ここに集まったカップルたちはややこしい人たちだらけ。
    幸せなハレの日のはずなのに、溢れ出す色んな負の感情。
    怒り、苛立ち、疑惑、嫉妬…。


    双子姉妹と映一さんの物語が好きでした。彼女たちよりもややこしいって彼には一体何があったのでしょう…(笑)
    後日談で彼女たちのこりない様子を読んだ時には、映一さん以上にこっちが「勘弁してよ」でしたが。


    色々あったけれど、結婚式ってちょっといいなぁと思いました。
    2人は来てくれる招待客のことを思って大変な準備をして、お金もかかって。招待客たちは2人の幸せを祈って…。


    お客さまたちは、料理や飲み物にお金を出してるわけじゃない。自分の満足や、これからの誓いをこめて、目の見えない「縁起」に払っているんだ。
    高価なドレスも豪華な料理も節目の儀式だから。それが慶事にかける人間の願いだから。
    というプランナーの言葉に、確かにそうかもなぁと思った。

  • 図書館で借りました。タイトルと装丁に惹かれて。久しぶりに、心から面白いと思える本に出会いました、これはもう本当に、文句なしに面白かった。わたし自身は独身で結婚の大変さは友達から聞くぐらいしか分からないけど。でも、それでも、ああなんか分かる、と共感してしまうところもあった。ウエディングプランナーさんもすごく大変な仕事なんだなあと。でもそのぶん、貰うものも大きいんだろうなあ。このお話に出てくるそれぞれの人たちがみんな良い。うまい具合にそれぞれが重なって、触れ合って、また離れて、最後にはきちんと絡まっていく。プランナーの山井さんと玲奈のエピソードには思わず涙目。山井さんに感情移入。こんなんされたら泣く。玲奈はどうしようもない女の子だと思ったけど、結構良い子。ワガママだけど、そのぶんちゃんと自分を持ってる。そして映一さんがすごく素敵だ。もう、映一さんにきゅんきゅん。わたしが映一さんと結婚したいわ!と心の中で叫ぶ。最初はどうしようもなくてなんだこいつって思うキャラクターに、ちゃんと救いを与えてくれて良かった。なんだよそういうことか!ってほくほく。陸雄くんにはほんとがっかりしたけど、ちゃんと罪を償ったようで良かった。2年後のエピソードが素敵。山井さんと岬くんにもほっこり。これ映画にしたら絶対面白い!と思ったけど、もうドラマ化してたのかな?キャスト見たけどわたしのイメージには合いませんでした(笑)しかもオリジナル入れちゃってる。ダメすぎる。もっとちゃんと映画化すべきだよこれは。ドラマで何週もやるより、時系列でいっきにやるべき。そんなことを妄想しながら読んでました。とにかく面白かった。面白くて2日ぐらいで読みました。

  • エピローグできれいにまとめたけど、幼稚な人間だらけ。盛りすぎで胸やけの結婚狂想曲。

  • いい夫婦の日の日曜日。
    かつ大安の日に行われる4つの結婚式。

    ・相馬家・加賀山家
    美人双子姉妹の結婚式。
    はじめは、姉の結婚相手が好きだったんだなと思っていたら、まさかのドンデン返し。妹が新婦の結婚式に姉が新婦役として演じていた。妹の結婚条件は、"鞠香ではなく、どうしても、私でなければダメだという人"。それを見抜くために、結婚式当日に実行し、勝ちを確信していた姉妹。だが、"ややこしい子が好きだ"と話す、新郎の映一さんは見抜いていた。火事のおかげで、もう一度本当の結婚式をやり直せたのも素晴らしいオチだった。

    ・十倉家・大崎家
    ワガママ女王の結婚式。
    担当のウェディングプランナーは、自身の結婚が直前で破談となった。その原因の浮気相手が大崎ワガママ女王だった。一番憎くて、一番祝いたくもない相手を担当することになり逃げ出しそうになりながらも、プロとしてやり切った彼女の強さに感心した。また、大崎は大切な一日に火事が起き披露宴が中断した件を許した。"結婚式"を通じて大人になった大崎の成長を見れた。

    ・東家・白須家
    白雪姫のりえちゃん。
    口数が少なくて周りから勘違いされやすい東さん。実はりえちゃんを守るために自分の悪口を言われても言い返さなかった。最後までりえちゃんを尊重して大切にしていた。真空くんは、幼いのに周りをよく見ていて、白須家の中で一番りえちゃんの幸せを祈っていることがわかった。今は一番年齢が小さいが、東さんとりえちゃんの一番大きな味方。

    鈴木家・三田家
    放火犯。
    既婚者なのに、自己肯定感とプライドが高く不倫。不倫相手の女の子とは別れようと思っていたが、ストッパーがなかったと言い訳をしていたら月日が過ぎ、いつの間にか結婚式当日に。どうにか520万の結婚式をなかったことにするために放火を計画するが…。結局、貴和子の優しさと強さに救われたが、あすかさんにとっては、"かわいそう"という言葉では済まないオチだった。

    後日談で、山井さんが同僚と結婚式を挙げたのも良かった。
    本当に大安か?というぐらい色々あった1日が、最終的に導いた大安の結末。読み応えのある作品だった。

  • どうなるかと、ハラハラした場面もあったが
    結論としては、少し作り過ぎ感が否めない
    落とし所としては仕方がないとは思うが

  • とても面白かった。
    異なる主人公の視点で進んでいく群像劇。結婚という人生の節目に様々な立場・思惑が絡み合っていく感じがとても良かった。

  • 10年ぶりくらいの再読。
    いろんな事情を抱えて、いろんな人がいて
    楽しく各々の人の感情を描いている物語。
    いい話にまとめてて、明るくて読みやすいけど
    さらっと人としてマイナスの感情もあって
    それがリアルな気がする
    楽しく読める本かなと思う

  • 途中まで、話がこんがらがって、うまく読み進められなかった。後半は、いろいろ見えてきて、面白くなった。
    陸雄みたいな男は、もう少しこてんぱんにやられてほしいなー

  • なかなかのボリュームだけど続きが気になって一気に読了!最初は登場人物が多そうで覚え切れるか不安だったけど、最後には全員の顔までイメージして読んでました。結婚式って幸せなだけじゃないよね。準備も大変だし家と家のことだから、、なんて思い出しながら。最後ハラハラ、辻村深月ワールド全開でした!

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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