「生存者」と呼ばれる子どもたち 児童虐待を生き抜いて

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048850599

作品紹介・あらすじ

長崎県の情緒障害児短期治療施設・大村椿の森学園。ここには壮絶な児童虐待からかろうじて生き延びてきた子どもたちが集まっている。見捨てられ、傷ついた子どもたちと、その再生を願い苦闘する学園の人々の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 10年以上前の本になるのだが、いまだに虐待の被害を受けている子供がいる以上は、この本に描かれている事もまだまだリアルな話なのだろう。
    冒頭から残酷すぎる虐待の事例から始まる。それから身体的虐待、重度なネグレクト、性的虐待、心理的虐待で心身ともに大きく傷つけられた子供の事例が描かれている。どれも残酷すぎて現実なのかと目を逸らしたくなるようなものばかり。そして傷ついた子供だちの異常な行動(奇声を上げる、暴力、自傷行為)を目の当たりにすると、虐待さえ受けていなければこうならなかったのにと心が痛む。虐待が子供を変えてしまったのだ。そしてその子供達と必死で向き合う著者をはじめ施設の職員の方々には頭が下がる思いだ。夜逃げや暴力、時には自殺を試みる子供達に対して子供も職員も毎日命をかけて生活している。回復に向かった子供もいれば、半ば途中で施設を出てしまった子もいる。施設の基準上、いずれは子供も社会に出なければならない。そのためにも自力で生きていけるような先を見据えた支援をしている。傷ついた子供達にどのような支援をしているのかも具体的に書かれていた。
    そして、後半はなぜ虐待を起こしてしまうのかについて書かれている。虐待する親のタイプの分析もついている。虐待は特別な人がするのではなく一見普通の人や誰でも引き起こす可能性がある。今後虐待を引き起こさないためにどうしたら良いか書かれていて、自分も気をつけなければならないと気付かされた。
    しかし、この本を読み終わって何より切ないのは、治療が終わっても終わらなくても、心身に大きな傷を抱えながら社会に出て自分でどうにかしていかなければならないと言う事だ。本人は何も悪くないのに生きづらさを持ったまま残りの人生を送る事になる。もちろん支援先はあるだろうが施設のような所はないだろう。もちろん虐待がなくなる事が先決なのだが、『サバイバー』にこの先も救いがあるような社会になって欲しい。
    子供に関わる人だけでなく、多くの人に読んでもらいたい本だった。

  • 筆者は、長崎の情緒障害児短期治療施設「大村椿の森学園」園長かつ子どもたちの治療にあたる主任医師である。
    この、略して情短という施設は、虐待などにより親と暮らせない子どもが共同生活をおくる児童養護施設に、治療という機能を加えた施設である。なんとなく児童養護施設にその機能があるものと思っていたのだが、明確に違うらしい。
    筆者が勤務するこの施設に入所してきた子どもたちの実例を紹介しながら、虐待がいかに子どもの心身を深く傷つけ、治療に困難が伴うかを訴えたのが本書だ。

    登場する子どもたちは、どの子もあまりにいたいけで不憫。このような状況で生きてこなければならなかった彼らを思うと心底胸が痛むが、実はこの学園に入所できただけでも運が良かったといえるのかもしれない。発見されずに、今も生死をかけたギリギリの暮らしを余儀なくさせられている子どもが、もっといるに違いない。
    虐待の最も厄介なところは、その発見されにくさ、介入の難しさだろう。
    それでも、たとえ一部であったとしても、こうして専門家の治療を受け、時間がかかっても少しずつ良くなっている事例を知ると、少し心が救われる。諦めなくていいんだと思えるのが嬉しい。
    必ずしも登場する全ての子どもが、筆者の下で改善を見せて退所していくわけではないのが切ないが。

    退所後の子どもたちのその後がわかるともっとよかったとは思うが、致し方ないのだろう。
    情短のような施設がもっとできて、発見されずに苦しむ子どもたちが減って、ひとりでも多くの子どもが辛い壮絶な生活から抜け出し、当たり前に得るべき幸せな毎日を手に入れることを願ってやまない。

  • 実際に施設で働く職員が、そこで出会った子供達のことをつづった本。

    子供にとって、親の存在はとても大きい。
    親の接し方や心の持ち方ひとつで、子供の心や人生に大きな影響を与えるということを、はっと思い出させる。
    しつけ方や受験云々の問題以前に、
    親が子供を愛することが一番大切だと思います(´・ω・`)

  • 「児童虐待」とは…現状を知るための入門書。
    とはいえ…10年以上前に発刊された本書
    しかし、児童虐待を取り巻く環境は今も変わらないのでは…と思うような事件が度々メディアに取り上げられていますね。
    施設名など、用語の変化はあれど、内容的には今にも繋がるところが多いはず。

  • 369.4著者は情緒障害児短期治療施設「大村椿の森学園」園長
    be smile project

  • 大人は覚悟さえ決めればいろいろと選択肢があるが、子供にはそれがない。子供は親を頼るしかないのに、その親を選べないのだ。酷な話だと思う。著者が勤める「情緒障害児短期治療施設」は、心を病んでしまった子どもたちの生活の場であり、治療の場でもあるのだけれど、本当はそこまで行く前に、手を差し伸べるべきなのだ。何かいい方法はないのだろうか。

  • 子供支援と子育て支援は違う 173

    まずは、よくここにきてくれたね、とねぎらう。198
    支援して「あげる」ではなく。
    回復する力があると信じる。202

    看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、これらを活かして用いること、また食事内容を適切に選択し適切に与えることーこういったことのすべてを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えること、を意味すべきである。
    ーナイチンゲール『看護覚書』
    203

    精神科医は心の専門家ではあるが
    生活の専門家ではない。203

  • 2007年度に全国の児童相談所がうけた児童虐待の相談は40639件。六年で1.75倍も増えた。

    情緒障害児短期治療施設、通称情短

    施設内虐待

    自らが癒しを必要とする"ケアする人"

    BLIND
    洗脳
    損失
    隔離
    未覚醒
    死の恐怖

    愛着障害

  • NHKスペシャルで取材されていた情短。博士論文の調査の下準備として読了。入所児の家庭の約9割が貧困家庭など(pp.44-45)、資料として使える部分もある。

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著者プロフィール

1968年生まれ。精神科医。長崎大学医学部卒業。現在、医療法人カメリア大村共立病院副院長と大村椿の森学園主任医師を兼務。主に児童思春期の子どもたちの治療に携わる。著書に『やっかいな子どもや大人との接し方マニュアル』『「生存者」と呼ばれる子どもたち』などがある。

「2018年 『子どもの人権をまもるために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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