新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙 (電撃文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048923569

作品紹介・あらすじ

『狼と香辛料』、ついに新シリーズ開幕!
ホロとロレンスの娘ミューリの旅の物語。

聖職者になる夢を志す青年コルは、恩人のロレンスが営む湯屋『狼と香辛料亭』を旅立つ。ウィンフィール王国の王子に誘われ、教会の不正を正す手伝いをするのだ。そんなコルの荷物には、狼の耳と尻尾を有した美しい娘ミューリが潜んでおり――?
かつて賢狼ホロと行商人ロレンスの旅路に付き添った放浪少年コルは青年となり、二人の娘ミューリと兄妹のように暮らしていた。そしてコルの旅立ちを知ったお転婆なミューリは、こっそり荷物に紛れ込んで家出を企てたのだ。
『狼』と『羊皮紙』。いつの日にか世界を変える、二人の旅が幕を開ける!

感想・レビュー・書評

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  • あの世界が返ってきたよ!
    うん、面白かったあ。

    本作は『狼と香辛料』のいわば正当な続編。
    青年になったコルと、ホロとロレンスの娘ミューリの物語。

    なんていうか、こういうの好きなんだよね。
    一度終わった物語の、その後。
    物語は終わっても、彼らはその後も生きているわけで。
    もちろん物語によっては蛇足になってしまうこともあるのだけど、この物語は全然そうじゃない。
    それは主人公が次の世代であることもあるのだろう。
    (いやまあホロとロレンスの物語でも全然いいのだけど。)
    こんなその後の物語が読めるなんて、とても幸せ。
    実に嬉しい。

    物語的には、イギリス国教会やプロテスタントの事績をモデルに宗教と国家の争いというなかなか壮大なテーマ。
    行商人ロレンスを主人公にある意味経済物語でもあった前シリーズとは違って、これはまさしく神学徒コルが主人公の話ならではと言える。

    コルは予想通りちょっと真面目すぎる青年に育っていたわけだけど、ホロの娘ミューリの方も、いやもう、予想通りすぎて愉しくなってくる。
    明るくてお転婆で、それでいてちょっと寂しがり屋で、そのくせ大人よりも聡く度胸もある。
    コルもたじたじだ。
    それでも、ホロとロレンスの互いに丁々発止としたやり取りに比べ、コルとミューリのやり取りには兄と妹の家族の絆や思いやりが強く感じられてなんとも優しい気持ちになる。
    それにミューリは大人顔負けの聡さだけど、恋する少女の部分のなんという可愛いさ!
    自分の恋心を告げる場面とか、そのあとの照れた様とか。
    その言葉を聞く前に「たとえ困ったとしても解決してみせます」と誓ったコルは、やっぱり責任を取って結婚するべきでは?(笑)
    挙げ句の果てにコルに勘違いさせてキスさせようとするミューリの、いや、もういたずら好きと言うかしたたかというか。
    さすがホロの娘だな。

    まだ若いミューリにはホロのような影の部分(喪失への怖れ)がないだけに、二人の旅はもっと明るいものになりそうだ。
    新たな旅が楽しみ。

  • 【感想】
    ・本来宗教は素朴なもののはずで、宗教家なんてものは不要かもしれへんと思うんやけど、結局のところ、いい商売になるから生まれた職業なんやとは思う。そういうプロ宗教家にコルが感じた歪みは当然なんやけど、コルはコルで真っ直ぐすぎるいびつさがあるかもね。それを調整するのがミューリの役目かと。

    【一行目】
     暖かい季節の雨は、少しだけ甘い。頬を伝う滴を舐めて、そう思った。

    【内容】
    ・宗教の道に進むため、ついにコルがニョッヒラを出ていく。と、ホロとロレンスの娘ミューリが隠れてついてきた。「私も旅に連れていって!」
    ・教会の歪みを正したいコルはウィンフィール王国の王族ハイランドに乞われ協力する。そして大司教とハイランドの息詰まる駆け引きが始まる。政治とか宗教とかにそういう駆け引きが生じること自体が根本的な問題やと思うけど。

    狼と香辛料と羊皮紙についての簡単なメモ(香辛料9巻~11巻、21巻と羊皮紙1巻より)

    【諦める】《なにかのためになにかを諦めるなんてのは、本当は正しくないのだから。》香辛料21巻p.192
    【新しい村】人々をまとめる強力ななにかが欠けていることが多い。
    【アティフ】港町。北方の海賊たちからの防衛の拠点でもある。
    【アラム】セリムの兄。真の姿は狼。傭兵などをしていたが聖女伝説のある旅籠を営むことになった。
    【ウィンフィール王国】教会と仲が悪い。
    【エーブ】やり手で剣呑な女商人。すべてを憎んでいるようなところがある。元はウィーフィール王国の貴族で本名はフルール。
    【狼と香辛料亭】温泉郷ニョッヒラにある評判のいい湯屋。主人はロレンスという行商人上がりの男。おかみさんはホロといういつまでも若く美しい少女のような女性。
    【オーラー】エーブに商売の手ほどきをしてくれた商人。没落前からの知己であり、エーブの夫となった男の部下でもあった。
    【絵画】宝石を砕いて絵の具にして描くような代物。要するに高額。
    【キーマン】ルド・キーマン。ローエン商業組合在ケルーベ商館別館を預かる貿易商。
    【教会文字】教会で用いられる特殊な文字。ロレンスにも一部しか読めない。
    【教皇】なんか欲にかられてとち狂ったらしい。と外見上は見えている。税をかけまくっている。
    【ケルーベ】北と南が対立している町。
    【コル】トート・コル。羊皮紙では主人公。ホロ、ロレンスとともに旅することになった賢く素直で健気な少年。皆が弟子にしたがるが本人的には将来は聖職者。後に湯屋の手伝いをし、ホロとロレンスの娘ミューリに振り回されることになる。ニョッヒラを出た後「薄明の枢機卿」とか呼ばれるようになったらしい。ミューリいわく「兄様は世の中の四分の一しか見てない」「兄様は人の良いところしか見ないからね」羊皮紙第一巻p.183
    【ジサーズ】陸の孤島のような北の鄙びた寒村。
    【商人の言葉】省略されたものがいっぱいある。
    【スヴェルネル】ニョッヒラの近くにある大きな街。
    【ステファン】アティフのデバウ商会でコルたちの世話係をしてくれることになった商人。
    【スフォン王】ウィーフィール王国の王。ちと頭が堅そう。
    【聖務停止】教皇が、クレームをつけてきたウィンフィール王国に対抗するため、王国内での教会の仕事を停止させた。いわば医師が治療費が高額すぎると訴える目の前の患者に治療を施さないような感じ。
    【聖典】教会が一般に対して内容を秘匿している。ゆえに好きなように解釈して伝えることが可能。コルたちはそれを一般に広めたい。難解な言葉で書かれているらしく宗教家でも読めない者が増えてきたので教会文字が発明された。それもまた一般には流布しておらず、ロレンスでも完全には読めない。第七章までが主要な教えで、後は神から言葉を賜る預言者の旅の模様や、弟子たちの現行録。
    【セリム】「狼と香辛料亭」従業員。実体は白狼。ミスが多かったのは眼が悪かったからだとわかりロレンスがメガネをプレゼントしてくれた。
    【総督】細身で風格のある老人。元ルウィック同盟の大幹部で遠隔地貿易船を率いていたので「総督」と呼ばれていた。隠居後はアティフの鰊の卵の先物取引なんかで楽しんでいる。
    【太陽銀貨】デバウ商会が独自に出す高品位の銀貨。太陽の図柄が描かれている。ロレンスたちが創設に関わった。
    【デバウ商会】大陸北部に勢力を広げる大商会。
    【ドイッチマン】ウィーフィール王国、テイラー商会の商人。
    【鶏】去勢した雄の鶏は、雌の鶏よりも旨いらしい。なんて話をしたばかりにロレンスは鶏を買わされることになる。
    【ニョッヒラ】湯屋「狼と香辛料亭」のある北の温泉郷。シーズンは雪深い冬。
    【ノーラ】ある町で苦労していた羊飼いの少女。狼と羊飼いは仲が悪い。
    【ハイランド】ウィンフィール王族の血脈。諦めないのがいいところ。コルはニョッヒラに湯治に来たハイランドに口説かれウィンフィール王国の力になりたいと思うようになった。つなぎはデバウ商会が担当しているようだ。商売上にも有利なようだ。ミューリはハイランドのことを信用していないし敵意を見せている。
    【ハスキンズ】ブロンデル大修道院の離れ的な場所の羊飼い。羊のことならば神よりもくわしいらしい。《旅の詩人が口にすれば単なる気障な台詞でも、ハスキンズが言えば真理の一言になる。》
    【パスロエ】ロレンスがホロと出会った村。ホロは長い間この村の守り神をしていた。
    【旅籠】アラムたちが営んでいる、聖女伝説のある修道院を宿泊施設にしたもの。その伝説の聖女はセリムのことらしい。
    【ハンス】エーブがフルールだった頃彼女をバカにしたような態度を取っていた商人。
    【ハンナ】「狼と香辛料亭」の炊事場を采配する女。実体は鳥。
    【ピアスキー】ラグ・ピアスキー。ルウィック同盟に所属する旅商人。
    【ビーベリー】近隣の領主。善人。
    【フルール・フォン・イーターゼンテル・マリエル・ボラン】エーブの本名。没落お嬢様。
    【故郷】わっちらには新しい故郷を作るなどという発想はありんせん。故郷は故郷。誰がいるかではなくどの土地かが重要なんじゃ。(byホロ)
    【ブロンデル大修道院】ウィーフィール王国にある有名な修道院。
    【ベルトラ】エーブがまだフルールだった頃の女中。エーブより一歳下。
    【ホロ】香辛料のヒロイン。人の姿のときは華奢な美少女、正体はかつてヨイツを治めていた巨大な賢狼。故郷に戻りたくてロレンスと旅している。麦の穂に宿る。後に湯屋「狼と香辛料亭」のおかみさん。人よりはるかに長い時を生きるのでロレンスが死んだ後は再び旅をするのかもしれない?
    【ホロとロレンス夫婦】《まさかずっと幸せでい続けられるだなんて、驚きをとおり越して笑うしかなかった。》byコル羊皮紙1巻p.26
    【ホロの機嫌】よく変わる。が、理由のあることが多い。賢狼だから。
    【味方】《少なくとも、自分はなにがあっても、ミューリの味方です。》羊皮紙1巻p.127
    【ミューリ】ホロとロレンスの娘。羊皮紙のヒロイン。名前はホロの古い仲間から取った。天真爛漫で図太く奔放。人の姿のままでも充分すぎるほどの野生児だが狼の耳と尻尾を持っている。巨大な狼に変身することは今のところできないようだ。銀色の髪の毛は油に濡れているようにしっとりしているのに触ると指のあいだをさらさら抜けていくようで彼女の自慢らしく、日々お手入れを欠かさない。コルが宗教の道を求めてニョッヒラを出ていったら「私も旅に連れていって!」。その後なにやら「聖女」と呼ばれるようになっているらしい。
    【ミリケ】スヴェルネルの顔役。悠久の時を生きる獣の化身。
    【ミルトン・ポースト】エーブがフルールだった頃取引相手となった、衣服を取り扱っていた商人。貴族出身でフルールは彼に少し惹かれた。
    【未練】丸顔の船頭が語る。《同じ川の流れには二度と入れない、未練がましいことも悪いわけじゃない》羊皮紙1巻p.23
    【無邪気】《自分が無邪気すぎるのだろうか? だが、信仰とは本来無邪気なものだ。》羊皮紙第一巻p.191
    【ヨイツ】ホロの故郷。
    【ルウィック同盟】大陸北部を根城にする商人の一団。30の貴族を後ろ盾にした十の大商会が統べている最強の経済同盟。月と盾の紋章旗を掲げている。ほとんど一国に等しい力を持っている。
    【ルワード】有名な傭兵団の長。
    【レイノルズ】ケルーベ「ジーン商会」の主。「狼の骨」について何か知っているらしい。ずっこい儲け方を実行していた。
    【レノス】コルが子どもの頃にはまだ教会がなかったが今や司教を任命する司教座が置かれ北の地の教会の中心地となっている。
    【ロレンス】クラフト・ロレンス。香辛料の主人公。狼娘に翻弄される幸せな毎日を送る行商人。とはいかないか。後に湯屋「狼と香辛料亭」主人。
    【若い司祭】アティフの鰊の卵取引所を閉鎖すると宣言した。どうやらコル(薄明の枢機卿)に感化されているらしい。
    【「我々の神の書」計画】ハイランドやコルが考えている計画。聖典の俗語翻訳版を作り、個人個人が考えていくことができるようにすること。教会は自分たちの矛盾を指摘されないように民衆を無知のままにしておきたいので当然反発すると思われる。また、内容の解釈も研究者の間でも異なるので困難があると思われる。

  • コルとミューリの冒険。
    親2人のコピー感もあるんやけど、やっぱ面白いなぁ

  • コルの旅にロレンスとホロの子、ミューリが付いてくる。ロレンスは経済の旅だったが、コルの旅は宗教と政治が中心で、すこし若者の旅という印象。グルメは相変わらず美味しそう。ホロ七光りで読まされた感あり。

  • 狼と香辛料の新シリーズ、ホロとロレンスの娘ミューリとコルの物語。

    コルの旅にミューリがついて行く形になるので、今度は経済と宗教改革の話になる様子。

    久しぶりにラノベを買ったけど、このシリーズは継続したい

  • 狼と香辛料シリーズの続編、コルとミューリの物語。
    面白かった!ほぼ一気読みでした。

  • タイトルの付け方が素敵だなぁ。
    ホロとロレンスの娘がヒロインの次世代のお話。
    ホロの娘だけあって賢い。いい女になるに違いない。

  • 経済から宗教へ

  • 「主人公とヒロインが結ばれてめでたしめでたし。二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。とっぴんぱらりのぷう。」から始まる物語。
    主人公とヒロインが結ばれるところまではっきり書き切れない作品がよく見られる中、主人公とヒロインの娘が新ヒロインになる新シリーズが始まるというのはなかなか壮大です。ドラゴンクエストVみたい。

    主人公役にはコル坊が抜擢されました。前シリーズは商人ロレンスとの行商の旅という大枠があり、助けた恩、孤独の支えなんて縛りもあった上での結びつきだったので、ホロとロレンスのお互いに対する思いのバランスが取れていたのだと思います。それが、コル坊主人公では互いの思いのバランスが取れない、または、互いの思いが深まらないのではないか(お互いがお互いを、もしくはヒロインが主人公を好きになる理由がないのではないか)と心配していたのですが、杞憂でした。
    というか、逆にミューリのコル坊に対する思いの方が大きいうえに、コル坊には聖職者としての縛りがあるので、「うる星やつら」的展開になりそうな予感がします。

    そんな事情もあって、とにかくミューリの天衣無縫な振る舞いが際立って好ましいです。後書きで作者が「作中の手紙の向こうに、すでにミューリがいるような気がした」と書いているとおり、舞台設定とキャラクターが決まった瞬間、どんどん一人で動き出してしまうタイプのキャラクターです。
    旅立ちの経緯から、ラストの立ち回り、そしてコル坊を嵌め損なったラスト近くまで、とにかく読んでいて楽しいです。手練手管でロレンスを振り回したホロとは違い、元気さとテンションでコル坊を振り回しまくってくれます。

    舞台はどうもカトリックからのプロテスタントの分離あたりが背景になっています。あ、コル坊がプロテスタントだったら、聖職者であっても結婚しても大丈夫ですね!いっそのこと、ラストは2人で新大陸に旅立ってはどうでしょう。

  • 外伝と思ったら新シリーズ。ホロとロレンスの一人娘ミューリと、聖職者志望コルの物語。ホロ達とはまた違う旅が楽しめそう。今回は宗教・信仰が軸になるのかな。幼いけど押しの強いミューリと、まだまだ経験値の足りない堅物なコル。二人とも危なっかしい。ロレンスが好きだったので、彼の目線でハラハラしながら見守ることにします。ニョッヒラでミューリの弟か妹でも生まれないだろうか・・・。そして相変わらず食事描写が美味しそう。

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著者プロフィール

第12回電撃小説大賞《銀賞》を受賞し、電撃文庫『狼と香辛料』にて2006年にデビュー。

「2023年 『新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙IX』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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