竜魔神姫ヴァルアリスの敗北 ~魔界最強の姫が人類のグルメに負けるはずがない~ (電撃の新文芸)
- KADOKAWA (2019年1月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784049122701
作品紹介・あらすじ
「人類など、塵のようなもの。私が滅ぼしてくれる」
魔界最強の姫ヴァルアリスは、異界を滅ぼせという王族に課せられた試練を達成するため、東京に降り立った。
試練には、世界を滅亡させる前に、その世界が確かに存在した証となる文化物を一つ保存しなければならないという守るべき厳格なルールがあった。
そこで人類の料理を文化物として保存しようと考えるヴァルアリス。
しかし、そんなヴァルアリスを待ち構えていたのは、ハンバーガー、カレー、ラーメン、お寿司、パンケーキなどのあまりにも美味な人類の料理!
そして、お客様のために、凄まじいこだわりと熱量と愛情で調理する常軌を逸した最強の料理人たちだった!
「これ以上食べる訳にはいかないのだが……、お、美味しい!」
はたして、ヴァルアリスは食の誘惑に打ち勝ち、料理を食べきらずに保存して、人類を根絶せしめる事ができるのか!?
感想・レビュー・書評
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段々と積み重なった新食感、ミルフィーユでしょうか? サンドウィッチでしょうか? いいえ、お重に入ったお料理かもしれません。
カドカワのお膝下「カクヨム」発のまさかのグルメコメディノベルです。
副題でも、作中でもしつこいくらい強調されている魔界最強の姫君が本当に最強で万能なんです。
プロローグを皮切りにグルメパートと交互に挿入される魔界パートでは圧倒的な力を誇示します。
また、治世者としての覇気に満ちた彼女の魔手にかかり人類はなすすべなく滅亡してしまうというのか――!
だが――(以下テンプレ)。
お品書き……じゃなかった、目次の内容でご察しの通り、誇り高き竜魔神姫ヴァルアリスは自らの矜持と魔界の掟を堅持する律義さもあって、食への愛と執念をこじらせすぎた謎の料理人たちが繰り出す美味しい料理を前に敗走を重ねます。
「メンチカツ」を皮切りに繰り出される各話の流れは大体同じなんですが、美味しい食の描写もさることながら。
美食を提供する側と享受する側の精神性という王道ですが高次な精神のやり取りに至る流れが自然と形成されていきます。
ヴァルアリス様の決意によってよくわからないうちに一方的に成立してしまった戦いを、ほんわかさせつつ、第三者から冷やかせない素敵なものに昇華しています。
途中、完全に目的を見失い迷走しながらも王者としてさらなる成長を見せるヴァルアリス様を見るもよし。
そう、これは「覇道」が「食堂」を経由して「王道」に変化していく物語なのです!!!
構成上、一度完食した後なら読み返しがどこからでも効くというのも美味しいポイント。
存分に美味しい料理の描写を味わってください。ついでに食を分け合う者同士の美しい情景も愛でてください。
それと、この小説を一度でも読んだ方は確実に触れるというか、絶対に触れざる/ツッコミを入れざるを得ない要素としてルビ芸が挙げられます。
仰々しく実用的な漢字が振られた魔法や役職などの固有名詞に振られた当て字はものっそ機能がわかりやすく、そして毎回ズコーッ(古)ってズッコケざるを得ない最強のルビ芸です。そのまんまやないかい!?
こればかりは、読者各々お自ら目撃いただくとして、誰もツッコミを入れないからこそ完全に退路を断たれ無謀で孤独な戦いに挑まざるを得ないヴァルアリス様の勇姿(?)に見惚れてほしいですね。
ルビが出てきて連呼する度に面白すぎる上に、この小説も構成上「天丼ネタ」の宝庫ですからね。
※注:料理としての天丼にあらず。ここでいう天丼は同じネタやギャグを繰り返して笑いを取る手法である。
そんなわけで一体何度笑い過ぎて死にかけたことか、そして何度復活したことか。
この巻における本編最後の敵が「チーズバーガー」ってのも象徴的ですが、パンズとパンズの間にパティや様々な具材を挟んで多様な食感を感じ取り、舌を通してハーモニーを奏でるもよし。
あえてその合奏を切り分けて、個々に感じるもよし。
そして、紙の本が新書、ちょうど手に取ってかぶり付けるサイズといい……。
本作『竜魔神姫ヴァルアリスの敗北 ~魔界最強の姫が人類のグルメに負けるはずがない~』はお手軽ですが、実に奥が深いです。
遠足先でも読めるランチボックス、もしくは十一段重ねの手提げ重箱、そう言い換えてもいいかもしれません。
時に。
早くもコミカライズが決定したらしいですが、当然ですね。これは天下を取る器です。問答無用で星五つ。
ミシュランガイドは星三つなんてケチなこと言ってないで、あと星二つくらい増設してもいいんじゃないでしょうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
魔界最強の姫が、人間文化に勝利するために何故か孤独のグルメする話(で、タイトル通り毎回負ける)。
魔界パートはシリアスながら魔法や官職の名前で笑わせに来る。人間界パートでは普通のグルメ小説のようになるのでそこのギャップも楽しい。しかしたまに、狂人のような料理人が出てきたり、カレーの辛さのあまり店員を爆殺させてしまったり(その後あわてて蘇生)、突拍子もない描写が入ってきて読者を油断させない。しかしキワモノめいていて、根底を人情的な要素が支えていて妙な安定感もある。
カクヨムで連載を読んでいた時は「ヴァルアリスの一人相撲感、敗北を続けている後ろめたさ」のようなものが強い感があったけど、書籍版でキャラやエピソード等の視点が増えたこともあって、またちょっと別の…ポジティブな見方ができるようになってきました。
あと挿絵も良い。個人的にヴァルアリスはもうちょっとキツめイメージだったけどw