洛中洛外画狂伝: 狩野永徳

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  • Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784054056381

作品紹介・あらすじ

わしは、狩野を越える。戦国末期の天才絵師・狩野永徳の狩野家の中での苦悩や、政治、戦争に翻弄されながらも強く生き抜く姿を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 狩野永徳が「洛中洛外図屏風」を描くまでの話。

    狩野派の中でもずば抜けた才があったという永徳を描くのだから如何にもな天才絵師の姿…型破りで傲岸で…というキャラクターが描かれるのかと思っていたら、狩野派を率いる若総領でありながら狩野派の絵からはみ出す苦悩との闘いの物語だった。

    作中では終始源四郎と名乗っている後の永徳は、祖父元信が作り上げた紛本(絵の手本)通りの絵を描くことに抵抗を感じる。しかし版元から求められる扇絵は紛本通りの絵であり、源四郎が描く源四郎の絵は売れないので要らないと言われる。
    しかし時の将軍・足利義輝からはその源四郎の絵が求められ、注文を受けるようになる。

    源四郎と義輝の関係は義輝が暗殺されるまで続く。ここに描かれる義輝は理想の高い人物で、源四郎を厳しくも親しみある視点で彼の才とやる気を引き出して行く。同時に源四郎の絵に刺激を受けて義輝も理想の道を行こうとする。地位も立場も超えた二人の関係が良い。

    一方で源四郎と父・松栄との関係はいびつだ。
    松栄は父・元信から引き継いだ紛本による狩野派らしい絵を守ることに生涯を掛けている。
    そのため紛本通りの絵を描かない源四郎とは度々衝突し、結局その道は別れていく。それは同時に才のあるものと無いものとの分かれ道のようで切ない。

    天才というのは生まれもって特別な才がある者ではなく、その才のためにしか生きられない者ということを改めて感じさせられた作品だった。
    その分、妻や弟、弟子の平次など周囲にいる者の苦労は大変だったろう。それでも妻のようにやはり源四郎の絵に魅せられた者は離れられない。

    だが才のために狂うほどの域には達していない。義輝を弑奉った松永弾正との違いが描かれるシーンは印象的。そしてエピローグでの信長との対面シーンでもその違いは描かれる。
    絵の才はあるが、最後まで彼の絵は将軍義輝のためにあった。義輝の理想の世界、それを形にすることで義輝の思いを世に残したとすれば「洛中洛外図屏風」が新たな視点で見えてくる。

  • 知らない作家さんだと思ったらデビュー作ですって!

    ゲンダイネット書評
    http://gendai.net/articles/view/book/141783

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    「戦国末期の稀代の絵師・狩野永徳が、時の将軍・足利義輝や、松永久秀、織田信長らとの関わりの中で、どのように成長してきたかを描く一代記。若き天才である永徳の狩野家の中での苦悩や、政治・戦争に翻弄されながらも強く生き抜く姿を描く。」

  •  安土桃山時代に活躍した天才絵師・狩野永徳を主人公にした歴史小説。祖父にあたる二代目・狩野元信が完成させた画風を手本とし、すべての絵を見本帖のとおり忠実に描くことが求められていた一派の中で、それでは絵に魂がこもらぬと直感し、あくまで己の心と手の命ずるままに描くことにこだわった永徳。若くしてその才を認められながらも、あくまで先代の絵に忠実であることにこだわった父親からは疎まれ、才を発揮すればするほど身近な人々を苦しめ、数少ない理解者は世を去ってゆく。できることならば普通の絵師、他の絵師たちと同じような者として生まれたかったといいながら、それでも永徳は己の道を通すと決める……
     面白かった! 無心に絵にのぞむ狩野永徳(源四郎)の姿がすがすがしい。そして嫁が可愛い……。主人公だけでなく脇役がそれぞれに味があって魅力的。個人的には主を討った松永弾正の姿が非常に印象深かった。
     歴史に詳しくなくてもするする読めるという前評判を目にしていたけれど、そのお言葉のとおり、ノンストレスで展開を追えます。

  • 狩野永徳が、永徳になる前の話。
    デビュー作でこの題材を選ぶところがなかなか。
    文章は全然ながら、読ませるものがある。
    足利義輝。あまり認識のなかった将軍だったけど、重要人物だったのだと近年再認識。その流れもあって面白かった。
    『花鳥の夢』とは全く違う造形なのに、どこか通じるものがあるのも良かった。

  • 狩野永徳の一代記。足利義輝や、松永久秀、織田信長らとの関わり、絵師として成長していく。
    谷津矢車氏のデビュー作。
    素晴らしい。どんどん引き込まれていきます。

  • 狩野永徳が若い時洛中洛外図を完成させるまでの物語。狩野家には祖父の代から粉本と呼ばれる見本がありそれを見て寸分違わずコピーを作ることで生業にしてきた。しかし永徳は並外れた感性を持ち作品を描く事で狩野家の異端児となる。小説の内側に本物の洛外洛外図がプリントされており御所の前で闘鶏を眺めている少年を幼き日の永徳としてストーリーを膨らませているところが素晴らしい。

  • H30/11/3

  • なかなか面白かった

  • 舞台は戦国末期の京都。物語は信長上洛で幕を開ける。
    狩野工房の嫡男ながら粉本を嫌って苦悩する、後の狩野永徳の、若かりし頃の公方・足利義輝との交流が本筋。信長との謁見の枠構造は要らないなあ。
    兵卒を持たない将軍・足利義輝が、己が手腕だけを頼みに天下平定に足掻いているのをおくびにも出さず、源四郎を支え導く…のが器の違いってもんか。
    かたや、狂言回しの朝山日乗のキャラ設定は微妙だし、松永弾正や近衛前久との絡み方も半端でスッキリしない。
    狩野元信の「錆びついても動く魂」は忘れ難いフレーズだったな。

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著者プロフィール

1986年東京都生まれ。2012年『蒲生の記』で第18回歴史群像大賞優秀賞を受賞。2013年『洛中洛外画狂伝』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』で第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。演劇の原案提供も手がけている。他の著書に『吉宗の星』『ええじゃないか』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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