四つの終止符 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.93
  • (15)
  • (13)
  • (16)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 128
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061362123

作品紹介・あらすじ

下町のおもちゃ工場で働く晋一は耳の不自由な青年だった。ある日、心臓病で寝たきりの母が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な中で彼は無実を叫びつつ憤死する。そして馴染みのホステスも後を追う。彼をハメたのは誰? ヒューマニズムに裏打ちされた秀作。(講談社文庫)


下町のおもちゃ工場で働く晋一は耳の不自由な青年だった。ある日、心臓病で寝たきりの母が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な中で彼は無実を叫びつつ憤死する。そして馴染みのホステスも後を追う。彼をハメたのは誰? ヒューマニズムに裏打ちされた秀作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『聾学校』はあっても『聾唖学校』というものは存在しない。

    耳の聴こえない人が言葉を理解できないということはない。言葉を話すことが出来ないという訳ではない。我々が話しかけようとしないのだ。
    自分の中にもある偏見を炙り出される思いがした。

    下町の工場で働く耳の不自由な青年、晋一。ある日、病弱な彼の母が死亡するが、服用した栄養剤から砒素が検出されるや容疑者にされてしまう。彼は無実を訴えるが、信じてくれるのは場末のキャバレー『菊』の女給、幸子のみ。かくて幸子は晋一の容疑を晴らすため、素人ながら捜査を始める。

    最近、西村京太郎の初期の作品を何作か読んだが、その全てに普通に生きる人々、まじめに生きる人々、愚直に生きる人々への優しいまなざしを感じる。そして、なんらかの社会への歪みに対しての問題提起がある。しかし、それを生のままではなく、エンタテインメントの加工を丁寧に施して出すところに職人の心意気を感じる。

    捜査のバトンは手から手へと渡されていく。読了後、『四つの終止符』というタイトルが胸を打つ。ノンフィクションではなくミステリ、娯楽作品だからこそ伝わるということも確かにある。

  • 2021. 11. 2 読了 
    当時ブクロクで見つけられず、別途感想を載せたのでこちらに改めます。いいねして下さった方々、大変申し訳ございません。


    新人賞受賞後の初の長編書き下ろしで描いた推理長編である、昭和56年10月15日発行
    江東区の町工場で働く聾者の佐々木晋一、寝たきりの母、飲み屋の幸子、薬屋の樫村富子、其々の死の真相を幸子の同僚のお時さんと新聞社の古賀が追い求める。ろう者の立場が、社会から理解されず、理不尽な思いをしている様を徹底的に描き出し、障害者の歴史の授業の教材にもされる作品。

    「人は誰しも、言葉によって他人とコミュし、言葉で思考する。それは言葉にやって初めて人間は人間になることができる、ということ。ろう者が苦労して習得した言葉も使わなければ忘れてしまう。社会は話しかけず、使う機会も与えず、その孤独は人間性を失ってしまう危険性を伴っている」と話す聾学校の教師の言葉に、はっとさせられた。

  • ハンディキャップを持つ青年が自らの母を殺した罪を問われるが、その無実を証明するために立ち向かう飲み屋の女将の話。なぜ青年の母は死ななければならなかったのだろうか。青年が死亡前に購入したビタミン剤が引き金になっているというが、病気がちの母を安楽死させた?それとも別の理由なのか・・・
    新進気鋭、西村京太郎の初期作品のクオリティの高さ。鉄道については出てこないが、背景描写には定評があると言わざるをえない。当時の社会の障碍者に対する見方への問題提起も含まれて、読みがいのある作品。

  • 西村京太郎さんといえば、今や「トラベルミステリー 十津川警部」のイメージが強いですが、本書は氏の初の長編書き下ろし社会小説です。
    残念ながら今では絶版になっており、書店で購入することが出来ませんが、このような小説は是非とも再販してもらいたいです。

  • トラベルミステリーで有名な西村京太郎による長編ミステリー第1作「四つの終止符」です。

    この作品は、聾者の置かれた厳しい現実、理解のない社会に対する痛烈な批判が、荒っぽい言葉ではなく、淡々と語られています。ミステリーとしては、いったい誰が犯人なんだろう?と、最後の方まで分からず、う~ん?と悩みますが、そのこと以上に、聾者に対する世間の冷たい扱いを改めて知り、自らへの反省も含めて、大いに考えさせられる作品でした。

    下町の玩具工場で働く晋一は耳の不自由な青年だった。ある日、心臓病で寝たきりの母が怪死する。母のためにと晋一が渡したという栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な中で彼は無実を叫びつつ自死してしまう。

    晋一がたまに行っていた飲み屋「菊」のホステス幸子は、ある理由から晋一と懇意になっていたが、彼の無実を信じ、無実を晴らそうと動く中で、彼の自死を知り、自らも後を追ってしまう。

    同じ店のホステス仲間の時枝は幸子の無念を晴らしたいと考え、新聞記者の古賀とともに、真犯人を探しはじめる。

    貧しく、誰にも恨まれることのない晋一の母、晋一が殺したのではないとしたら、一体誰が彼をハメたのか?

    作品の中で、何度か聾学校が描かれていますが、子供たちは聾学校で一所懸命に言葉を覚え、社会に出ていくものの、社会の仕打ちはとても厳しいものでした。聾学校の中で、あんなに明るかった子供たちが、社会に出て、周りの無理解にさらし者にされ、笑顔を失っていく...。ただ、耳が聞こえないというだけで、どれだけの差別を受けるか....。

    そうして、彼らは自分たちの殻に引きこもっていってしまう....
    いや、そうさせてしまっているのが社会なのだ....

    最後に分かる真犯人ですが、何故、彼がそんなことをしたのかについては、やや釈然としないものもあります。ただ、その時点では、真犯人のことよりも、障がい者の置かれる現実の厳しさの方が重くなってしまっていました。

    本作は、1965年に松竹から「この声なき叫び」というタイトルで映画化され、また1990年には劇団GMGというところが自主映画として「四つの終止符」と同じタイトルで映画化しています。

    さらに、テレビ東京系列『女と愛とミステリー』枠でテレビドラマ化もされ、2001年1月17日に放映されています。

  • 出版年上
    一部表現に差別とみなされる
    表現が含まれるので注意してください。

    間違っても口にしてはいけない言葉です。

    聴覚障碍者の男性が巻き込まれてしまった
    母親殺しの容疑、
    彼はもちろんやってはいないものの
    状況は彼に圧倒的に不利なものに
    なってしまいます。

    本当の真相は
    最後の最後に幸子の同僚でもあった
    時枝が事件のもととなったものの
    販路を調べた結果判明するわけで…

    ただし残るのは悲しみのみなのよね…

  • 内容(ブックデータベースより)

    下町のおもちゃ工場で働く晋一は耳の不自由な青年だった。ある日、心臓病で寝たきりの母が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な中で彼は無実を叫びつつ憤死する。そして馴染みのホステスも後を追う。彼をハメたのは誰? ヒューマニズムに裏打ちされた秀作。(講談社文庫)

    令和4年9月11日~18日

  • この本(単行本)の初版が1964年で、それがろう歴史の中で大きな「蛇の目寿司事件」より1年前。
    作者は元々聴覚障害者が差別の目にさらされていることに何かしら思っていたからこその話なのだなと思います。

    この本の出版当時の聾学校でさえ「日本語>手話」の考えだったのですし、無理はないですが、手話の重要性までは踏み込まれていません。ですが、「ツンボ」という言葉が当たり前のように使われていた時代の中では、聾児教育や聾者の雇用について問題提起されている話です(当時では、最先端なんじゃないかと!!)。

    今とは時代が違い、考え方も更新されたためか、本も絶版になってしまってます。けれど、聾者を取り巻く差別の歴史に触れるにはとても良いと思います。当時の聴覚障害者の差別に関する時代背景や江東区の街の様子、女性の見られ方についても平行して調べて読むと面白いかもです。
    勿論、ミステリーとしても充分面白かったです。

    絶版なのが勿体無い……!

  • 聾人である晋一は、彼の母親を毒殺した容疑で逮捕されるが、拘留中に自殺します。彼の知り合いの女性が「聾者にとって唯一の支えである肉親を殺すはずがない」と考え、真相究明に乗り出します。
    特に大掛かりなトリックがあるわけではないのですが、伏線がきちんとちりばめられており、本格推理としての骨格がしっかりしています。十分に楽しめました。
    欲を言えば、自殺したホステスの真意がうやむやだったことです。もっとはっきりとした動機が欲しかったです。

  • 身体障害者の問題を非常に上手く取り扱かった推理小説です。
    推理を楽しみながら、社会問題も考えさせられる作品。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九三〇(昭和五)年、東京生れ。鉄道ミステリ、トラベルミステリの立役者で、二〇二二年に亡くなるまで六〇〇冊以上の書籍が刊行されている。オール讀物推理小説新人賞、江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞など、数多くの賞を受賞。

「2022年 『十津川警部と七枚の切符』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西村京太郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×