日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか? (星海社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061385320

作品紹介・あらすじ

若者が考えるべきは、「働き方」ではなく「労働」だ
いま、若者を食いつぶすブラック企業がはびこり、20代・30代の過労死や過労自殺が社会問題になりつつある。なぜ奴隷でもないのに死ぬまで働くことになるのか? 非正規雇用になるのも過労で鬱になるのも、すべては「自己責任」なのか? 経済成長ばかり叫ばれるが、どれだけ成長したら労働環境はマシになるのか?「日本には、過労死するほど仕事があって、自殺するほど仕事がない」と誰かが言ったが、本当にその通りだ。何かが、決定的におかしい。日本はいったいなぜ、こんな異常な国になってしまったのだろうか? 本書では、日本の苛酷労働・違法労働の発生原因を一から探り、どうすれば私たちの力で労働環境を良くすることができるのか、その可能性を提示していく。

感想・レビュー・書評

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  • 201305本屋。長時間労働の規制が、ブラック企業を減少させ、国民の健康を増進させ、税収を増やし、優良な企業が市場で有利になる。また、そのことは、学生、社員、非正規、官僚、まともな企業が共通して主張できる内容であり、「社会的なつながり」を構築できる回路であるという、著者の主張に賛同。

  • 実は、人生さまよい中の私。労働基準監督官(*)試験を受けるため、お勉強中の身でございます。本書のなかで、監督官の仕事内容とその限界について語られている部分があるので、そこを中心にレビューしましょう。

    ◆労働の大前提は契約にあり
    働く人はみな、入社時に労働契約を結んでいます。
    えっ!そんなの知らんぞ、という方…就業規則というパッケージ型の規則によって労働条件が決まっていることが多いでしょう。
    下手すると40年近く働くかもしれない企業との重要な契約さえ知らない、これが、日本人労働者の労働法意識の実態です。

    残業代が支払われない、ひどいパワハラを受けている等、労働問題が起こってようやく、労働法・労働契約という存在が前面に出てくるのです。

    ◆監督官のお仕事とその限界
    労働問題に関係するお役所、それが労働基準監督署(労基署)そんなマイナーなお役所の仕事は何なのでしょうか?
    実は、労働基準監督署は労働問題を解決する役所ではありません。
    労働基準法などの最低基準を守るために違法企業を罰すること、これが監督官の役目です。

    ・残業代を含む賃金未払い企業に強制力をもって支払わせる
    ・労働災害が発生しないように未然に防ぐ
    悪質な企業に対しては警察のように、逮捕・送検することもあります。

    でも、カバー範囲が意外に狭いのがネックです。
    ・労働基準法違反ではない、セクハラ・パワハラ等は管轄外。
    ・解雇問題の際に、未払い賃金支払い強制はできるが、解雇無効の訴えは裁判上でないとできない。

    そして、最大のネック。人が足りない。
    東京都内の事業場約3000に対して、現場監督官が139人。少ない人数で効果的な監督を行うにはどうしても大企業中心の監督にならざるを得ないという構造的悩みを抱えています。

    ◆まともな労働に向けて前進するには~労働お役人予備軍の立場から~
    監督官以外に、別の立場で労働者のサポーターとなり得る人は多くいます。
    NPO、労働専門弁護士、社労士、都道府県の労働相談窓口、労働組合。人によって能力・意欲の差はあるものの労働問題が顕在化している今、
    少しづつではあるものの、良心的なサポーターが増えているとのことです。

    ここで、気をつけたいのが、あくまで監督官などは「サポーター」であると いうことです。困っている労働者が「プレーヤー」。
    監督官の仕事場面で、サビ残問題について「勤務時間の記録をつけなさい!」 といったように監督官が労働者にお願いをする場面があります。
    そう、問題解決のために一義的に動くのは、労働者本人なのです。

    ここで、筆者も指摘していることですが、このような場面で自律的に動ける
    「強い」労働者を助けることは容易いが、そうではない「ふつうの」 労働者に対していかに助言し、絶妙なバランスで背中を押してあげることができるか。それこそが、労働サポーターとして真価が問われる場面だと感じました。

    また、労働法教育も重要です。労働問題になる前に、知識と対応方法を
    知っておくことが何より大切です。
    地方労働局によっては学生に対して、労働法セミナーを実施しているところもあると聞きます。少しだけ研修の仕事をかじった人間としては、私に出来ることがあるのではと思う分野です。

    と偉そうに言っていますが、試験に通らないとお話にならないので、あと1か月、必死に勉強しないとですね。  

    ◆おわりに
    今野さんとは直でお話しをさせていただいたこともありますが、彼のすごいところは、聡明なだけでなく、社会を変えることを最重要視している点だと思っています。
     「ワタミ叩きではブラック企業はなくならない。社会問題化しないとダメ」
     「ブラック企業撲滅のためには、共産党でも維新の会でも乗り込む所存」
     というのが、彼のスタンスです。清濁併せのむ研究者(兼)運動家です。

    そんな本書、はたらく人・はたらく準備中の人・はたらけなくなった人、
    日本の労働に関係する人にとって必読の書です。(誇張ではないです。)

  • 『このような労使の状況下では、労働市場は放っておくと商品である労働力の担い手である人間自身の心身を壊してしまうようなものになってしまうだろう。

    しかし、自由主義社会=市民社会の理念とは、関係を取り結ぶ相手を破壊してしまうようなものではなく、相手と対等な関係を自由に取り結べることであったはずだ。

    「対等な立場で、自由な意思によって取引きを行う」ことこそが、市民社会の原則である。
    自らの心身を破壊してしまうような契約は、本来はありえない。

    しかし実際は、社会と個人という圧倒的な力関係の格差のもとで契約を結ぶため、「対等な立場」など実現できるはずがない。市民社会の「対等」という原則は、現実の社会においては「建前=フィクション」にすぎないのである。』

    感覚的に正しいことを言っているような気がするし、非常にロジカルな説明をしているので納得できる。がしかし、これは厳しい。日本社会をいかにして変えることが可能となるのか、という壮大な社会実験が必要。

    夢見る社会思想家のように、「みんなが行動したら」と想像することは自由だが、みんなが行動できないこの日本社会をいかに変えていくか、その問いが必要かと思われる。

  • なんで働くことがしんどいんだろう?
    素朴な疑問から手にとった一冊。

    団結し権利を主張しなければ何も変わらない。だからつながって権利を主張しよう!という結論にたどり着くわけだが、正直日本人にとってそれってなかなか難しいんじゃないかなと思ったりする。
    会社のやり方がおかしいと思っていても、直属の上司はいい人だし、困らせたくない!とか、人との関係を重視して多くの人はなかなか大きい声を出せいないんじゃないかなと思った。
    何故日本の労働が今のようなブラック企業が跋扈しているのかということなども書かれており、労働問題に興味がある方は一読の一冊です。

    何かを得るためには戦わなければならない、自分の行動が社会に与える影響も考え、自己の利益と社会の利益をすりあわせて労働について声を上げる必要があることを知った。

  • 秀逸である。著者が大学院在学ということで、独特の学生くささな文章の書き方と物の見方はあるが、現状問題の把握と提起においてその特性がよい意味でプラスに如何なく発揮されている感がある。
    日本の労働相談の現状、法律下では個々人が意見をあげて主張していって権利を勝ち取らない限り守られないこと、経営者と労働者は非対称な力関係であること、日本の現在の労働状況が形成された歴史的背景(イギリス産業革命)、内容は多岐に渡るが他の類書では見られない視点から問題を浮かび上がらせ俯瞰できる。このように法律が機能のしているとは初めて知り驚いた。
    そして、現在日本の現状は、「日本型雇用の合意は、日本の労働力の「商品化」を著しく勧め、もはや労働者側も経営者側も、これをコントロールすることができなくなっている」(p214)。また、「富裕層にとってしか利益にならないことが、就職できない学生(その他、苦しい状況の人も含むであろう)と結びつき主張される」(p275)という矛盾すべき驚くべき姿を見せている。これを打破していくには、「普通の人たちの利益の分断」の解決が必要だというのが、著者の見方である。

  • 著者はブラック企業の問題を広く世間に知らしめた人ですが、この本はブラック企業や国家を糾弾する本ではありません。またブラック企業の見分け方にばかり注目が集まるのも本意ではないと書いてありました。
    この本を読むと、違法労働がなくならない理由がだんだんとわかってきます。では労働者はどうしたらいいのかというと、一人ではなく誰かとつながることによって社会や政治を変えていくよう著者は説いています。
    社会保険労務士として耳の痛い記述もありましたが、自分にできることを精一杯行動していこうと思いました。
    社労士はもちろんですが、労働に関係するすべての方におすすめの1冊です。

  • 日本の雇用システムが過酷な労働環境を生み出している。解決するためには、中間団体とつながりをもつことで政治に参加すること。
    いわゆるブラック企業に従事する者は自分のことで精いっぱいでその余裕が無いだろうから、比較的余裕のある者が行動に移していかないといけない。だが、政治参加というのは、なかなかハードルが高い。

  •  労働力を車や家などと同じ資本と捉えた場合、他の資本と異なり一般的に労働力の性能(能力)と使用量は正の相関がある。だからそこ、ひどくこき使われる事を受け入れる素地が生まれる。
     そして、労働力という資本は他の資本と異なり、その所有者から引き離すことができない。だからこそ、命を保護するために団結する必要がある。

     マルクスは資本論の中で労働と労働力を分け、労働力を無産階級が唯一保有する資産と捉え資本の搾取を論じた。これで資本主義というフィールドに労働者が参加できるようになった。
     その考えにならって労働力を資本と捉えると、雇用契約とは労働の売買ではなく、労働力のリースのようなものだと考えられる。コピー機リースとの違いは、資本とその所有者を引き離す事ができないという点であり、この点こそが社会保障の必要性を生んでいると言える。

     例えば、購入したマンションなら、痛まないように維持管理に精を出すけど、これが賃貸ならそれほどは頑張らないだろう。使用による摩耗は費用に含まれており、メンテナンスは所有者側が行う。その費用も上乗せされているので、賃借人は見栄えが悪くならない程度に価値を消尽すべく使いまくる。

     これを労働契約に置き換えると、雇用者は非雇用者を、当然に消尽すべく使用する。資本の所有者としての非雇用者は、自主的に食事や休息を取る事で労働力を絶えずメンテナンスしなければならない。突き詰めると、過剰労働の原因は雇われの者の怠慢であるといえる。

     とまぁ、論理的に考えると自己責任論的に落ち着いてしまうのが癪に障るけど、企業に人生を丸投げして楽をしていた労働者にも確かに問題はあると思う。でも、だからといって自己責任論で片付けてしまいたくはない何かがあって、その何かは労働力という資本の特異性に関係していると思う。
     雇用者には、労働力という資本の使用によって人権が削られるという意識が無い。だからこそ、労働力という素晴らしい資本を持つ労働者がそれを意識しなければならない。

  • それなりに良書であったが、不満な点が多々あった。まず、具体例が少ない。海外との比較を頻繁に用いるが、海外といってもどの国だとか海外での「普通」を詳述しない。日本における労働の現状と歴史の解説と、解決策が入り乱れているため、構成がつかみにくい。また、著者はこの本を「労使関係」の本であると謳っているが、「労働者」視点のみで論じているため、説得力が薄い。

  • 文春新書の『ブラック企業』で現状を語り、本書で「戦い方」を語る。特に第4章と第5章が非常に興味深かった。

    第4章は、現在の雇用システムが形成され、また崩壊した過程を描く。法律や司法システムに詳しくない僕からすると、民法が「争い」の中で慣習的な約束を規定していくという話が参考になった。
    第5章は具体的な戦い方を指南する。日本社会を未だに蝕むバブル崩壊後の負の遺産は、新たなパラダイムへの転換を強く求めている。日本の労働社会の最大の脆弱性は、労働者の利害を代表する中間支援団体が社会・政治基盤として確立できていない点だ。今こそ「団結」が求められている。

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著者プロフィール

POSSE代表

「2021年 『POSSE vol.49』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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