夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘 (星海社新書)

著者 :
  • 星海社
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感想 : 53
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061385535

作品紹介・あらすじ

夢と自己実現の国、ニッポン
現在の日本は「夢」がやたらと優遇されすぎている。だが、夢を追い続けてきた結果、悲惨な目に遭った人々を私は散々見てきた。ミュージシャン、お笑い芸人、作家、司法浪人生、国家公務員試験受験生、学者、アーティスト、芸能人、起業したい人、フリーランスで自由に働きたい人―夢を簡単に煽って欲しくないのである。彼らがどんだけ「夢を持て」といったことばに騙されて悲惨な人生を送っているか! 本書で語るのは、そういったおとぎ話を真っ向から否定する、地に足の着いた仕事論である。さあ諸君、ワーク・ライフ・バランスに悩むのをやめ、「夢を諦める日付」を手帳に書き入れよう。仕事は元来、くだらないものなのだ。

感想・レビュー・書評

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  •  『ウェブはバカと暇人のもの』以来、ネットの負の側面に的を絞った著書を出しつづけてきた著者が、こんどは仕事の負の側面に光を当てた仕事論である。

     2010年に出た『凡人のための仕事プレイ事始め』(文藝春秋)を改題し、加筆したものだが、タイトルは今回のほうが断然いい(「夢、死ね!」は、元本でも章題の一つ)。
     てゆーか、元本のタイトルではなんの本だかさっぱりわからない。文春は書籍のタイトルづけがヘタで損をしている出版社だと思う。

     『ウェブはバカと暇人のもの』は、梅田望夫の『ウェブ進化論』への“アンサーブック”であり、ダーク・ヴァージョンであった。同様に、本書は世にあふれる“自己啓発系仕事礼賛書”に対するアンチテーゼの書であり、ダーク・ヴァージョンといえる。
     「がんばれば夢はかなう」「仕事を通じて自己実現できる」という、いわば「自己啓発書イデオロギー」に、思いっきり冷水をぶっかけ、仕事についてホンネで論じた書なのである。

     マスコミ、テレビ業界、広告業界など、華やかに見える業界であっても、仕事の現場というものがいかにクダラナイ力学で動いているかが、著者の経験をふまえた印象的なエピソードを通して明かされていく。
     とくに、ライター業界のトホホ話の数々は、同業者として大いに身につまされた。

     ライター、ミュージシャン、作家、アーティスト、お笑い芸人など、一般に「クリエイター」としてくくられがちな職業を目指す若者の多くが、「がんばれば夢はかなう」「仕事を通じて自己実現できる」という幻想に振り回され、人生をしくじっていく。そうした若者たちに、現実の厳しさを知らしめる良書である。

     私が身を置くライター業界について言えば、「自己表現をしよう」などと思ってライターになりたがる若者というのは、じつに困った存在である。

     たしかに、ライターの仕事にはクリエイティブな側面もないではない。だが、ライターというのはクリエイターである以前に一種の「サービス業」であって、クライアントの求めるサービスを提供できることが何よりも重要だ。「自己表現」をするのは作家センセイの仕事であって、ライターの仕事ではないのだ。

     「自己表現をしたい(=自分のことを書きたい)」と考えてライターになりたがる若者は、そのへんがまるでわかっていない。ゆえに、多くの場合「使えない」のである。
     本書に登場する、文章はすごくうまいのに「使えない」ライターの事例に、「あー、あるある」と大いにうなずいた。

    《才能よりも良好な人間関係を作れるか否かが仕事では重要》

     ……という本書の一節は、至言だと思う。

     私のようなオッサンには笑えて共感できる本だが、“夢を目指すプロセス真っ只中”の若者諸君にとっては、ショッキングで苦い本かもしれない。

  • 本書の構成は、2010年に出版された「凡人のための仕事プレイ事始め」を加筆し、著者の有料サイトで2013年ごろに発表したものを加えた内容だそうです。
    社会人となって夢と現実とは違うことに気づき、会社から給料をもらうということは往々にして自分の都合や正義感などは犠牲にしなければならないという悲しい現実に心身をすり減らしてきた結果、4年目で博報堂を退社・独立し、ネットニュースサイトの編集者となった中川氏。メインはその博報堂4年間の怨嗟の記録です。仕事の理不尽さに苦しみもがく姿に興味ある人にどうぞ。

  • 仕事はお金を得るための活動なのに夢や自己実現と絡めて語られすぎ、妄想のような夢の前に現実的な目標を持つことが重要、という冒頭のあたりは引きつけられた。
    仕事を取り巻くバカバカしい構造やしきたりを並べていくあたりはこっちは十分経験しているので読み飛ばしているうちに、いつの間にか最後の方は仕事賛歌みたいになってて戸惑った。
    もちろん仕事は単なる金稼ぎではなく社会との接点でもあるからいろいろ得ることはあると思うし、そのことに異論はないけど、話が一気に飛躍してついていけず。

  • 過激なタイトルと読書メーターでの評判の良さから購入。
    はじめは夢を持つことの害悪が説かれ、そうだそうだと同意しながら読んだ。一握りの天才の言う「夢を持つことの大切さ」に煽られ、猫も杓子も壮大な夢を持つようになった結果、30代前半になってもバンドデビューを目指してフリーター生活をする人がいる。壮大な夢はいらん、期限を決めた目標を持つべし、とのこと。

    中盤は自身の博報堂時代のエピソードを紹介し、仕事に関するやたらめったらキラキラした、やりがいやら自己成長やらのキーワードをぶった斬る。が、エピソードの内容が酷い。上に従えとばかりに白を黒とひっくり返し、下請けに無茶ぶりを言い、しかもそれが徒労だったという。マスコミ関係特有のことかと思うくらいひどかった。上下関係や力関係ががっちり決まっており、その場のノリでのらりくらりと責任を逃れながら出世に躍起になっているのは、老舗の大企業だからでは……?著者の見てきた世界はそうなのかもしれないが、それが社会人生活の全てだと思わないで欲しい。

    中盤のエピソードと結論とがうまく繋がらない。仕事のことを散々貶しておきながら、最後には仕事は尊いと言う。「カネを出す奴」に非合理に振り回される博報堂時代のエピソードと、仲間と楽しく仕事をしている博報堂時代の筆者の姿とフリーランスとして納得のいく仕事をしている筆者の姿が結びつかない。中盤のエピソードからすると「早く偉くなって人をこき使える立場になれ」という結論になりそうだが、筆者は博報堂を入社4年ほどで退職しフリーランスとなり、大企業の管理職というものを経験してないようなので、そこに繋がらなかったんだろうか。

    結論としては「いい仲間と主体的に仕事ができれば楽しいし、人間的に成長できるし、仕事っていいよね!」ということらしい。あれ、「人間的に成長したいんです!」という就活の定番台詞をバカにしてなかったか?冒頭の「むやみやたらに夢を持つな」という主張は良かったが、博報堂時代のうんざりする話と、ラストの「仕事はいいぞ」という話がスムーズに繋がらなかった。

    なお24才の誕生日をカラオケ店でおっさん達に祝われたことで筆者は「仕事っていいじゃん」と思ったらしい。私はそんなの嫌だわ。

  • 中川さんの大ファンなので(笑)、購入。
    『夢、死ね!』とはなんともすごいタイトルでしょう・・・
    さすがは中川さんという感じ。でも読み終わると、このタイトルに込められた中川さんの温かい?思いが伝わってくる。

    ちなみに、本書は『凡人のための仕事プレイ事始め』を加筆、修正したものらしい。

    でも、今の僕の心に非常にマッチした内容で、また読むことができて良かった。
    よく仕事は、自己実現のため~とか、社会の役に立つため~、とかキラキラした言葉で語られることがある。また、そこに一役買うキーワードがある。それが「夢」だ。本書は、夢がやたらと優遇されている日本に警鐘を鳴らすことから始まる。そこから、中川さんの今までのキャリアを通じての経験や感想として、非常に地に足の着いた仕事論が展開されていくという感じだ。

    たしかに日々の仕事は、「なんで俺が・・・」「こんな無駄なこと・・・」ということもあるが、これが人間の社会だよねと思わされる。仕事がないと、人生どうなるかわからない。つべこべ言わず、まずは目の前のことをしっかりやろうと思わせてくれる1冊でした。

    夢という呪縛から、今こそ解き放たれるべき。みんながみんなすごくなくてもいいよね。

  • 才能よりも良好な人間関係を作れるか否かが仕事では重要(p.50)とか、現場ではむしろ、「能力の向上」や「お客様の笑顔」なんかよりも、「怒られないこと」がすべての原動力になっていることが多い(p.73)などは、その通りで、社会人になったからこそ納得できる事なんだと思います。中川氏の著書は、エピソードがふんだんに盛り込まれていて、面白いです。

  • 最終的に夢と希望に溢れる本だった。私この著者好き。世の中は夢を叶えるという異常な自己実現に訴え過ぎている。夢は大抵叶わない、が、夢を身近な目標に変えた仕事という現実は、こんなに面白いんだ!大人を舐めるなよ!という本、好き。

  • 自己啓発本は嫌いなのだが、自分の夢に引導を渡すために読んだ。

    地に足のついた人、つまり、どうしようもなく平凡な才能を受容した人の仕事論。仕事とは基本的につまらないもので、でも生活のためにやっているということを述べる。

    「夢」といえば聞こえはいいが、バンドマン、お笑い芸人、小説家など、貴重な成長の時間を無為に過ごすという恐ろしさを啓発する。著者は品性がない(重要な部分のフォントサイズを大きくしてるのとかアホっぽい)ので嫌いだが、仕事をナメるなというだけあって社会に揉まれた人間の言葉の重さがある。あくまでもn1である点には気をつけなければならないが面白い。

    夢を求めるなら期限を決め、それ以降は諦めろ。大人数による合議制とは、「責任の所在を不明確にする」行為に他ならない。会社員の仕事は自分の好きでもないオッサンの出世のためにあるなど納得する言葉も多い。

    「個が輝く会社です!」に対し、会社員が実名でブログ書いてたり出版してたりを確認すれば良いというのは面白い。

    アニメキャラがCMで増えた理由面白かった。独身の清楚なお姉さん役の人のCMが急に妊娠したり覚醒剤使ってたりするとそのCMがお蔵入りになる可能性が高いからだとさ。商品がメインで独身の清楚なお姉さんは従なので、独身じゃなくなるとCMのイメージに合わなくなるかららしい。アニメキャラはその点不祥事が少ない。

    著者は「ワーク・ライフ・バランス」をどうでも良いと考えてらっしゃる。正直その時点で話が合わないのだが。まあ、仕事で会う人達と仲良くなって輪が広がるのが楽しいようだ。客商売で、客と過度に仲良くなってはならない医業や、仲良くなっても一緒に仕事するまでは行けない研究業ではあまり参考にならないなあ。ライターの仕事ってテーマが毎回変わるから賽の河原の仕事とは全然違うと思うし。

    仕事は尊いとか言われると苦笑いしてしまう。前半は非常に一般的な仕事の側面を述べていると感じる反面、後半は自分だけのn=1データで面白くはなかった。

  • 2014.9.8了読


    「検討だな」と言われた場合は「じゃあ今検討しましょう! 悪いところ、どんどんおっしゃってください!」とその場で言ってしまった方が良い。
    流行りもので何かをしたい。
    「どんな効果を狙っていますか?」とキチンと言い、「手段の目的化」を避ける提案をするべきである。
    突き抜けた才能よりも、確実性、信頼感の方がほとんどの仕事では重視されるのである。
    人間というものは、自分と少しだけ関係のある人々が自分の知らないところでコソコソと何かをやっていると腹が立つものである。
    ビジネスの世界で「聞いてない」を回避することはかなり重要。連絡はこまめに。そして、関係者全員が知っている状態を作るのが仕事では重要。
    仕事上では「知っている」「知らない」は実に重要。
    馬耳東風
    「能力」よりも「誰と会うか」

  • 2014.08.12購入。
    -------------------
    2014.09.03読了。
    最初読んだ時「思い切った事を書く人だな」と思いました。
    でも、最後まで読むと印象がだいぶ変わりました。
    一番印象に残った台詞は「他人のせいにするより、自分のせいにする方がいい。そうすれば、その後もう失敗をしないようになる。」でした。
    -------------------
    2014.09.16
    コメントありがとうございますm(_ _)m

    • denmameさん
      フォローありがとうございます。
      衝撃的なタイトルで興味を沸きました。

      「他人のせいにするより、自分のせいにする方がいい。そうすれば、...
      フォローありがとうございます。
      衝撃的なタイトルで興味を沸きました。

      「他人のせいにするより、自分のせいにする方がいい。そうすれば、その後もう失敗をしないようになる。」私もこの台詞に、共感しました。
      2014/09/16
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著者プロフィール

編集者、PRプランナー、ライター
1973年生まれ。東京都立川市出身。大学卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターとなり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々なネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、当時主流だったネット礼賛主義を真っ向から否定しベストセラーとなった『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』『内定童貞』(星海社新書)など。無遠慮だが本質を突いた鋭い物言いに定評がある。

「2020年 『意識の低い自炊のすすめ 巣ごもり時代の命と家計を守るために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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