未知との遭遇【完全版】 (星海社新書)

著者 :
  • 星海社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061386037

感想・レビュー・書評

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  •  人生論のようなものなのだが、分厚いので興味深いところがいくつかあった。

     九鬼周造の偶然についての理論が取り上げられている。
     偶然とは何かの定義だが、「偶然とは必然の否定である」と述べる。
     その上で、九鬼は「偶然」を、三つのカテゴリーに分ける。一つは「定言的偶然」。もう一つは「仮説的偶然」。最後に「離接的偶然」だ。
     「定言的偶然」とは、Aであるか非Aであるかのどちらか。ギャンブルがあたるかのような、「偶然あたる」ある範囲のもの。
     「仮説的偶然」とは、出来事としての偶然。病院に見舞いに行くとして、誰かと偶然出会う。それは会うことも会わなかったこともありえた。必ず会うに決まっていない偶然。
     「離接的偶然」はこの二つ以外の偶然。極めてまれな、大きな偶然。つまり、宇宙があって、地球ができたことなど。
     そして、「運命とは偶然の内面化されたものである」と定義している。
     で、僕らの抱えている問題の本質とは、「人間は偶然の偶然性に耐えられない」ということだそうだ。サルトルの問題である。嘔吐読めばええやんと思うのだが、それはおいておく。
     この本のテーマについて考える際、最も哲学的だったのが、これ。
    【ある部族で青年が成人するにはライオン狩りでその力を証明せねばならないので、狩り場に二日かけて行き、狩りの後二日かけてもどる。酋長は彼らの成功を祈ってその間踊り続けるが、問題は、狩りが終わった日から青年たちが帰路にある間も踊り続けるというのである。そのとき狩りはすでに終わって事の成否は定まっているのに、その幸運を祈るとはどうしてだ、というのがダメットの問いである。】
     あと、モンティ・ホール問題とからめて、選択肢を変えることが良い方向につながると言っていたのは、わけのわからない勇気をもらった。

     オタクへのメッセージが中心にあるのだが、それよりも、いろんな本を読んで、自分の結論に結び付けていくためのアクロバティックな感じが読んでいて面白かった。あと、この「部族のエピソード」は、「未知と遭遇する道が塞がれている人はどうするのか?」という疑問について考えるためのヒントであると思うし、この本のなかで唯一未解決で取り残されているエピソードだと思う。なぜ、人は結果が決まっている後も踊るのか? めっちゃくちゃ深い。

  • インターネット空間にあふれる広大な情報を前にして立ちすくんでしまう現代の若者たちの状況について考察することから議論を開始し、そうした現代を生きていくための作法について語っている本です。

    ゼロ年代のサブカルチャー批評において浮上してきたテーマを巧みに切り分けつつ、その中心にある問題をとりだしてくる手法は見事だと感じました。直接言及されているわけではありませんが、宇野常寛の『ゼロ年代の想像力』(ハヤカワ文庫)に代表される「セカイ系」批判を射程に入れつつ、セカイ系批判こそがセカイ系にほかならないと指摘されているところは、個人的には妥当なものだと考えています。

    ただ残念なのは、とくに「二日目」における偶然性や可能世界論をめぐる議論がじゅうぶんにこなれておらず、著者が本書においてとりくんでいる中心的なテーマにこれらの議論がどのように寄与するのかということが見えにくくなっていることです。わたくしの見るところでは、実在論/反実在論の対立と、論理的/認知的な対立が混同されてしまっていることが原因のように思われます。そのため、「三日目」に著者が提唱する「最強の運命論」が実質的にはなにを意味しているのか明瞭になっていないように感じてしまいました。

    また、こういった問題をあつかうのであれば、小森健太郎のミステリ批評に話をつなげていくことが適切だと思われるのですが、そのような方向に議論が進められていないこともすこし不思議に思えます。可能世界論についても触れられており、その文脈で歌野晶午のミステリ作品にも言及されているのですから、著者の視界に入っていないはずはないと思われるのですが。

著者プロフィール

佐々木 敦(ささき・あつし):1964年生まれ。思考家/批評家/文筆家。音楽レーベルHEADZ主宰。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。芸術文化の諸領域で活動を展開。著書に『増補・決定版 ニッポンの音楽』(扶桑社文庫)、『未知との遭遇【完全版】』(星海社新書)、『あなたは今、この文章を読んでいる。』(慶應義塾大学出版会)、『ゴダール原論』(新潮社)、『ニッポンの文学』(講談社)、小説『半睡』(書肆侃侃房)ほか多数。


「2024年 『「教授」と呼ばれた男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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