現代中国経営者列伝 (星海社新書)

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  • 星海社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061386136

作品紹介・あらすじ

傑物8人の列伝から読み解く、現代中国経済史!
トウ小平による改革開放政策の開始から30年あまり。中国経済は驚異的なスピードで成長を続け、ついには日本を追い抜き、世界第2位の経済体へと発展を遂げた。経済の近代化が遅れていた中国にとって、「明治維新と高度成長が一緒にやってきた」ような狂騒の時代――その中から「改革開放の風雲児」ともいうべき起業家たちが現れる。本書では、世界一のPCメーカーとなったレノボの柳傳志、孫正義からの伝説的資金調達でも知られるアリババの馬雲ら傑物8人の人生を通じて、現代中国経済の発展をたどっていく。風雲児たちの破天荒なエピソードの数々は、長期低迷にあえぐ日本人が忘れてしまった「経済成長の楽しさ」を教えてくれるだろう。

感想・レビュー・書評

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  • その書名通り、現代中国の産業の中核を担う企業の創始者たちの物語。ネット系企業に偏ることもなく、ハードウェア、ソフトウェア、食品、映画と適度に分散している。
    終章に書かれているよう次世代の経営者たちは、国内外の名門大学でMBAを取得したという時代になってきている。しかし、この本の中に出てくるような経営者たちは時代に翻弄されつつ、がむしゃらに突き進み、失敗を重ねながら成功してきているというイメージがある。レノボの柳氏が最初にPCのセッティングを商売としていた時、路上で大根を売ることまでやったと書かれているように。またハイアールが製品を開発するのではない、市場を開拓するのだという言葉がスタッフに叩き込まれているという。その好例が、四川省山岳部で洗濯機の排水口が詰まる故障が頻発していた時、調査によって現地の農民たちは洗濯機を使ってイモを洗っていたのだという。ハイアールはここにニーズがあるのではないかと判断し、イモを洗える洗濯機を開発したという。

    どの経営者も”第一桶金”と呼ばれる、最初の成功・金銭的なリターンがあり、そこから拡大していっている。また国によってだらだらと運営される事に慣れていた人たちを信賞必罰で組織を改変したり、一から作ったりしたと随分簡単に書いてあるが、そもそも簡単に出来るものとは思えず、かなり”ブラック”な感じでめちゃくちゃに強権を発動したりしたんじゃないかなとおも思った。

    P.3
    中国経済の高成長については日本のメディアもよく取り上げているが、ある重要な点を取り逃がしているのではないか。それは「成長は楽しい」という事実だ。今日より明日のほうが給料がよくなる、生活がよくなるという希望。新しいジャンルのマーケットが次々と立ち上がり拡大していくという熱気。低成長が続く日本では感じられない「楽しさ」がそこにはある。環境問題や無秩序な開発がもたらす混乱は確かに存在するが、それでも「成長は楽しい」という実感のほうがより強いのだ。

    P.40
    愛国主義、コストパフォーマンス、強力な販売網。この3点セットはPC市場だけではなく、家電や飲料品、スマホなどのさまざまな分野でも繰り返される、中国市場における勝ちパターンだ。

  •  各章の冒頭が素晴らしい。雑誌「表現者」か何かで、ある企業家か役人の局長みたいな人が、「いまの中国のお金持ちは大変なお金持ちです。日本のお金持ちなんて……」と言っていたのを思い出す。中国崩壊論がたまに叫ばれている中、こういう熱いレポートは、読んでいてめちゃくちゃ面白い。また、松下幸之助や渋沢栄一の自己修養的格言と比べて、中国企業人のどこか冷めた面白さがある。

    「企業経営とはすなわち人間経営だ。小企業は事業をなすが、大企業は人間を作らねばならない」柳傳志(レノボ)

    「毎日1%ずつ成長し続ければ、70日で仕事量は2倍となる」張瑞敏(ハイアール)

    「売り場は戦場である。戦場で命令違反があれば「殺す」しかない」宋慶後(ワハハ)

    「この10年間、日々失敗のことばかり考えてきた。成功には眼を向けないようにしてきたし、栄誉や誇りなどなかった。あるのは危機感だけだ。だからこそ、この10年を生き延びられたのかもしれない」任正非(ファーウェイ)

    「もし成功を望むならば、他社に先んじなければならない。誰も追いつけないようにしなければならない。イノベーションが必要だ。経営において最重要なことは運用モデル、ビジネスモデルのイノベーションだ。イノベーションがあって初めて、特色ある核心的競争能力を得ることができる」王健林(ワンダ・グループ)

    「今日は残酷だ。明日はより残酷だ。明後日は美しいが、ほとんどの企業は明日の夜には死んでいる」馬雲(アリババ)

    「人生は選択に満ちている。問題は取捨選択にロジックがあるかだ。冬はますます厳しくなり、リソースは減り、経済は悪化する。取捨選択の重要性はますます重要になってくる」古永锵(ヨーク)

    「強風が吹く場所ならば、ブタですら空を飛べる」雷軍(シャオミ)

  • これは面白い。「チャイニーズドリーム」の世界だ。
    「明治維新と高度成長が一緒にやってきた」ような激動の時代を一代でのし上がった8人の英雄たち。日本にもかつてそんな時代があったなぁとため息をついた。
    「ホンダ神話」や「あんぽん」も興味深かったが本書も負けず劣らずおもしろい。8人もの紹介のためやや駆け足となっている点は否めないが、中国経済界の紹介と考えれば充分だろう。
    さてしかし、今後彼らはどこまで行くのだろうか。日本のように成熟化老成化するのか、それとも世界企業として飛翔するのだろうか? 興味津々である。

    2017年7月読了。

  • 世界経済に興味がある人におすすめ。社会主義国家の中でどのようにBATのような巨大企業が生まれたのか分かる

  • 購入時に一回ざっと読んだものの、この頃の華為を中心とした米中貿易戦争の補助線を弾きたいと思って再読。驚いたことに、本書が書かれている段階で、現状の華為の状況を予想するようなことが書いてあった。

    公開情報だけでも丁寧に追うことで、かなりいいところまで将来が予測できるといういい例。

  • 中国通の筆者ならではの適材適所(書)な読み物です。
    最近の、米国からファーウェイへの露骨な販売規制は、米国の中国企業への対抗心や危機感と無関係ではありません。
    もちろん、昔の親方日の丸を背景に貿易摩擦を起こした日本企業同様、出る杭は打つのが米国式やり口。
    さらに、中国の場合はITやAIが国家戦略に組み込まれており、情報収集においてもやりたい放題という危険性は無視できません。
    そんな現在の状況以前に書かれた本書ですが、創業の流れが簡潔に書かれていて理解しやすい良書でした。

    レノボやハイアール、ワハハは愛国(共産党とのコネ)、コストパフォーマンス、販売網という3点セットで勝ち抜いた企業群ですが、ファーウェイは創業こそモノマネだったがその後は自社開発にこだわったイノベーション企業、ワンダグループは不動産、映画産業、商業施設などのコングロマリット、アリババのジャックマーは「今日は残酷だ。明日はより残酷だ。明後日は美しいが、ほとんどの企業は明日の夜には死んでいる」というような警句を語る、孫正義同様カリスマ性に富む経営者、動画サイト運営のヨーク、ハードウェアの無印良品と呼ばれるシャオミなど個性豊かな起業家たちの成功への階段が描かれています。
    これらの成功した企業は、中国一党独裁の庇護を受けて発展したのだろうと勘違いしがちですが、実態は(少なくとも創業期は)真逆です。
    共産党員のコネを利用すれば、政局が変われば連座して追放される危険性があり、また大きな政変(1958~1961年の大躍進、1966~1976年の文化大革命、1989年の天安門事件)が10年ごとに起こっており、商売が政治に翻弄されるというのも中国ならではです。

    紹介された経営者のほとんどが、実家が貧乏または親が政変の犠牲者となったという経験もアメリカンドリームならぬチャイニーズドリームを象徴しています。

  • 成功する企業家には才能と運と時代があった。高度成長期の日本で成功した企業家もきっとそうだったのだろう。
    一番面白かったのは、終章の最後に出ていたメイカーズと山寨王の話。中国の成長物語はそろそろ終わろうとしているように思える。これからは運と時代ではなく、自分の才能だけで戦っていかなければならない。そういう人たちの今後は、とてもおもしろそうだ。

  • 「売り場は戦場である。売り場で命令違反があれば殺すしかない」一番インパクトがあったのはこれですかね。

    話題のファーウェイですが、社長は文革時には出身成分で不遇の扱い。過去の軍との繋がりも、実はリストラされていたなど、苦労人的エピソードが。

    中国の大企業のCEOも、昔は土方的お仕事からスタートして外国企業のマネをしつつ破天荒に活躍したと思ったら大挫折し…というパターンが多かったようです。が、最近は大学で学んだエリートが起業し…というパターンになりつつある、と。

  • 現代中国の代表的な経営者8名、すなわち聯想(レノボ)の柳傳志、海爾(ハイアール)の張瑞敏、娃哈哈(ワハハ)の宗慶後、華為(ファーウェイ)の任正非、大連万達集団(ワンダ・グループ)の王健林、阿里巴巴(アリババ)の馬雲(ジャック・マー)、優酷(ヨーク)の古永鏘、小米(シャオミ)の雷軍を紹介した書。2017年発行。

    著者が言うように、ここ30年余りの中国は、まさに日本の明治維新と高度経済成長が一度に来たような状況だったのだろう。あちこちにビジネスチャンスが転がっていて、少しの知恵と旺盛なバイタリティ、そしてコネがあれば、かなりの確率でビジネスで成功を収めることができたようだ。ただ、社会が成熟するにつれて、新たにビジネスで成功し、その成功を持続させるのが難しくなって来ていることも間違いないようだ。

    著者は、多くの中国企業のこれまでの勝ちパターンは「愛国主義、コストパフォーマンス、強力な販売網」の三点セットだったとしている。さすがにこの戦略はもう通じなくなってきているかもしれない。中国企業も、先進国の普通の企業へと変容していくのかもしれない。

    あと10年もしたら、本書が取り上げた企業のうち何社が残っているだろうか。

  • 中国の経営者と言えど、多種多様だと当然ですが感じました。
    やはりスタートアップを起こし、国に大きなインパクトを与えた人物というだけあってどの人物も性格に激しさのようなものを持っていると感じました。ちょっと失敗でめげることなく、絶えず上を目指し続けるところはどの国においても大切ですよね。
    同時に政府も産業を上手に育てたと感じます。特にインターネットやコンテンツなどの産業の舵を上手にとったこと、そして多くの世界的インターネットスタートアップが(幸運にも?)生まれてきたことは中国にとって大きな強みとなったのではないかと。

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著者プロフィール

高口康太

ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。1976年千葉県生まれ。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中華人民共和国・南開大学に中国国費留学生として留学。中国の社会、中国経済・企業、ネット事情などに精通し、『月刊文藝春秋』『ニューズウィーク日本版』「ニューズピックス」などに寄稿している。著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書、共著)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、『プロトタイプシティ』(KADOKAWA、共著)など。

「2021年 『中国「コロナ封じ」の虚実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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