三木さんが画材をCGに変えて、うーん……と思っていたけれど、ここへ来て、ますます……そのつやつや感は、似合わないです……
三木さんもお年で、もうアナログ画材を使うのに体力が足りなくなられていたのかなあ
p66
月のたまごというタイトル冠が取れてからの月のたまごシリーズは、なんだかカメレオンのかっこよさが強調されている。
ナルマニマニと楽しくふざけたあと、気象長官のヒクイドリを呼びつけて、その理由を「アラエッサ、ストンストンをやる春良
地方の雪どけ予報を知りたいから」と、ナルマニマニには説明。
実は、脱走した重罪人たちがそちらの地方に逃げたから、その見張りを増やしたり気象情報を知りたいという意図もあった。
これ、ナルマニマニには隠す事柄でもないのに、そこまでは言わないんだもんなあ……カメレオン、かっこいい。とてもぎっくり腰で、三郎を困らせたあのおじいちゃんとは思えない。
ナルマニマニは、彼の機転が、クレヨン王国を救う一助になりそうで、とてもよかった! アクーリカの中に四土神の入った宝石箱を隠したときには、どうしようかと思った。
ストンストンが一目惚れしたポニーのお嬢さん、パッパカちゃん。将来の近衛兵候補なんだが。
ストンストン、おめでとう。遭難したふたりの距離は、ぐっと縮まりました。
p210
ストンストンは、のこる一本のうでをゆっくりまわして、かのじょのこしを抱きました。
パッパカは、火のような息をつきました。
ストンストンは、パッパカのたましいが、パッパカは、ストンストンのたましいが、どこまでもどこまでも浸透していくのを感じました。
ことばは、その機能をうしない、感情も死んだように、しずかです。表面に出ることをゆるされているのは、せいいっぱいの呼吸と、胸の動悸だけでした。ほかのすべての個性、ストンストン的なもの、パッパカ的なものは、このいのちの燃焼の前には、なんの主張もできませんでした。
官能的……! そして、感動的だ。たましいが結びつく相手を、得たんだね、ストンストン。
またしてもカメレオン総理、かっこいい。
p224
「総辞職は、ありません。だって、首相官邸を改築するという話を、とてもうれしそうにしていたんだから。」
「ほーら、だから、それすなわち総辞職だよ。」ルカは、手をあおぐように横ふりして、「自分のために改築するなんて、かれは、そんな人じゃないよ。かれは、引退すべく、サードをよびかえしたんだわ。」
「じゃあ、サードが首相に?」
「それ以外の人がいるの? かれは、それを前提に、サードを人間界へ送ったんだわ。いずれ、クレヨン王国は、人間と、より深刻に対立していく。人間事情に通じている人でなければ、とうてい、この国をまもっていくことはできない。ね、正解でしょ。」
あとがきより。より……全文。
希望というのは、たいていは、はずれるものです。最高の幸運をゆめみるのが、人間のくせなので、ある意味では、とうぜんというしかしかたありません。こうして、ほとんどの人が、道草を余儀なくされるのです。道草のない人生は、ないと思っていいでしょう。
でも、目標ひとすじにつきすすんだ人が、はたして、ゆたかな人生を得られたといえるのでしょうか。山あり、川あり、町あり、原ありで、はじめて万人が必要とする地図が生まれるのです。道草は、あなたをつくります。徹底的に、つくりなおします。……好奇心、計画性、疑念、嫉妬、憎悪、同情、趣味、友情、視野……。
ありとあらゆる微細な情念や、精緻な理論をきたえなおし、育てなおしてくれます。それは、くだものが太陽のめぐみをあびてじっくりと熟れていくのと同様に、人間という味をつくりあげるのに、欠かせない過程なのです。
――航路を、まちがえたのか。――まちがえたってかまいません。船は、洋上をすすんでこそ船なのです。どんな人生も、たった一つしかなりっぱな人生です。ほかのどんな人も、あなたになることはできません。あなたは、あなたであるだけで、かけがえのない人なのです。だから、あなたの道草に、「かんぱい!」です。
だれだって、自分の影とのふたり旅。それこそ、心臓がとまるまでつづく、生きるという行為なのです。いま、むだなように思えることも、何年か先には、りっぱな意味をもって、あなたを個性の結晶でかざることでしょう。そう信じたほうが、とくです。
人間には、成功もなければ、したがって失敗もありません。成功や失敗という小さなことばではつつみこめないものが、満天の星のように数かぎりなく広がっているのが、人生なのですから。
あなたは、自分の手を愛し、自分の胃ぶくろを愛し、自分の衣服を愛するように、あなたの道草を愛すればよいのです。
わたしもまた、道草をかさねてきました。たびたび、青雲の志に水をかけられ、かけられしながら、今日まで生きてきましたが、ここらで初心にかえり、再出発する覚悟です。それも新しい道草になるのかもしれませんが。荒野の旅人どうしとしていつか、どこかでお目にかかりましょう。
二○○二年 夏