今こそマルクスを読み返す (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061490017

作品紹介・あらすじ

マルクスは人間や社会や歴史をどうとらえ、『資本論』で何を語り、近代資本主義社会の未来をどのように予見したのか?今やマルクス主義は本当にもう無効になってしまったのだろうか?20世紀世界の根幹的思想を、独自の視点と平明な言葉で掘り返し、脱近代への発展的継承を試みる。

感想・レビュー・書評

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    134/ヒ

  • アーレントの解説本を3冊読んだ上で『人間の条件』に取り掛かったけれど「どうしてもマルクスが前提知識として必要らしい」と悟り、本書を頼ることにした。

    本書はソ連・東欧が資本主義経済に舵を切った直後の1990年に出版された。20世紀を通して“主流派”であったレーニン主義的解釈を削ぎ落とし、より純粋な形でマルクス思想の“核”を見てみよう、というのが本書のねらいだ。ちなみに、著者によれば、社会主義国家の失敗とマルクス思想の破綻はイコールでは結ばれない。

    第1章では、マルクスが打ち出した新しい「人間観」「社会観」「歴史観」について説明される。

    マルクスは、理性的側面を重視する伝統的な人間観を顛倒させ、「生存のために生産活動を行う動物」としての、より本来的な人間観を基礎に据えた。そして「生活手段の生産=労働」こそ、人間を他の動物から弁別する特徴であるとした。

    またマルクスは、社会が実体的に存在するとする「社会実在論」も、アトム的個人の実在だけを認める「社会唯名論」も斥け、社会を「諸個人が相互に関わり合っている諸関連、諸関係の総体」と定義する。
    そのように定義された社会は、経済の論理に基づく“支配と隷属”に特徴づけられる「市民社会」と、市民社会の階級的利害対立を“調停する”「政治国家」という層をなしている。政治国家は、“市民社会の秩序を維持する”という建前のもとに、市民社会の階級間対立を固定化する傾向をもつ。
    こうした現状を追認しようとする人間一般の傾向もまた社会の特徴の一つとされる。

    マルクスが提示した歴史観は、自然史と人間史を切り離さないというものである。これは人間の生産活動が、自然の制約を受けているということに関係している。
    しかし、人間の歴史を作るのは、やはり自由意志をもった人間である。が、人間の歴史にも一定の法則性がある(ように見える)のはなぜか?それはすべての人間を動かす究極の起動因(=生存のための生産)が存在するから、というのがマルクスの回答だ。

    第2章では『資本論』のエッセンスを概観する。

    マルクスは、商品の価値がその商品の生産に要した労働量の価値(=労働者の生活費)によって決定されるとする「労働価値説」を採った。

    資本家は、賃金を支払って手に入れた生産手段(=労働力)を“所有権”に基づいてフル活用しようとする。結果、労働者は契約以上に酷使されることとなる。ここでは、労働者は自らの「労働」を売るが、資本家は労働者の「労働力」を買う、という不一致が生じている。

    さらに、労働力売買の場においては、買い手である資本家のほうが有利であり、また他方で、労働者は他の労働者との雇用競争にさらされている(のみならず、資本家も他の資本家との競争にさらされているので容易に賃金を上げられない)。結果として労働者は、生きていくために不可避的に資本家にからめとられることとなる(実質的包摂)。

    これらのことから、マルクスは労資関係を「賃金奴隷制」と呼んだ。

    第3章では資本主義から共産主義にどのように移行できるとマルクスが考えていたかが説明される。

    「各人は能力に応じて(労働し)、必要に応じて(給付される)」という新しい消費手段の給付方法の理念型が示されるが、具体的なことはマルクスは述べていないという。
    ただマルクスは、生産手段を国有化しただけでは資本家が国家という法人になっただけで賃金奴隷制は解消されないと考えていた。
    「プロレタリアート独裁」という“過渡期”の必要性を措定せざるを得なかったが、具体的にどのような体制をとるべきかについてもまた、マルクスは何も述べていないという。マルクスはむしろ、貨幣制度の廃止など急進的な制度改革を戒めていたのだそうだ。
    20世紀の社会主義国家の失敗は、1世代ないし2世代で共産主義革命を成し遂げようとしたところと、マルクス自身の理論が貧弱であった(恣意的な解釈を挟む余地が大きい)ところに原因があったのではないか?

    本書を読む前はマルクスに関する知識はほぼゼロだったが、マルクスが展開した思想の概略はつかめたと思う。
    『人間の条件』でつまづいた箇所を再読すると、初回よりも理解できるようになったので一応の目的は果たせたことになる。

    マルクスの思想が現代の資本主義を批判する道具となるのではないかと、密かに期待してもいたのだが、いかんせん本書は古い。現代の資本主義経済をマルクス思想のもとにどのように理解が可能か、という問題については、もっと最近の研究を俟たねばならないのだろう。

    著者には申し訳ないが、著者が共産主義の将来を語れば語るほど空しい気持ちになってしまった。
    むしろ現代の資本主義は、依然として多くの問題を抱えてはいるが、労働法規の発達や福祉制度の充実によって、今さら共産主義を志向するまでもない程度には、一応健全に機能している(マルクスの時代の資本主義の問題をある程度克服している)といえるのだろう、という考えに至った。

  • 最近衰退の一歩をたどる「マルクス経」をもう一度考え直す一冊。

  •   マルクスが編み出した思想、『資本論』の要点、資本主義の行く末と共産主義の実現に関する考察と、内容を大きく3つに分けて、それを1冊にまとめた本。
     マルクスといえば、「唯物史観」が有名であるが、これは自然界の歴史と人間界の歴史を腑分けすることなく一つの歴史観としてまとめたこと、また、人間がこれまで有してきた生産手段に着目したことが画期的であった。
     また著者は『資本論』の内容を要約し、その内容の意図を語るが、一言で言うと、近代市民主義の欺瞞を暴く、つまり人間は一見すると自由で対等な関係を築いたように思われたが、実は労働者と資本関係というの新しい奴隷制(賃金奴隷制)が誕生したことを明かした。それが近代に誕生した資本主義社会の本質である。
     さらに現状の資本主義社会と共産主義の実現条件についても語る。先ほど述べたように、近代以降に誕生した資本主義社会は、資本家が優位で労働者が不利な賃金奴隷制といった。近代以前と比べて、確かに多くの人間がこれまで足枷となったことから解放され、自由の身となった。その代わり、資本家の下で、本来貰えるお金より少ない中で労働をせざるを得ない。その価値(剰余価値、利潤)は資本家の懐に入る。このように、労働者が見えない所で、資本家がその価値を得るのが資本主義社会の実態である。とはいえ、必ずしも資本主義が悪だとは断言できない。事実、資本主義が発展する分、多くの労働者(大衆)の消費生活の水準は向上する。それでも、資本主義は剰余価値、利潤を得るために、どんなものでも価値づけしてしまうので、たとえ環境破壊に寄与するものでも、極論価値を見出せるのであれば問題にない。このように、資本主義社会には自主規制という性質を備えておらず、ゆえに問題となっている。
     そこで、共産主義の話となるが、そこで鍵となる労働力の商品化と賃金奴隷制を完全になくすことである。そのためには生産手段の私的所有の廃止が必要となる。ただし、私的所有の廃止とは、消費手段(生活財)を廃止することではない。あくまでも他人を搾取するような生産手段をなくすことが本質である。

  •  読み初め、まずは著者の学理的な緻密な言葉遣いに驚かされる、というか出鼻をくじかれるといった方が正確か。
     マルクスに対してこびへつらうことなく、著者の理路に引き込んでいく牽引力が相当強い。とは言え、独善的にマルクスを語っているわけではなく、あくまでも学者としてひとりの人間としてマルクスと対峙している気概を感じる。
     マルクスの解説ではないことをこころして手に取る本だ。 
     

  • 素人には非常に難解。
    専門用語も多く、概念を理解することも難しかった。

  • 経済
    哲学

  • ☆まさに、そうかもな

  • とてつもなく難易度の高い本。
    あまりにも有名な人だけれども、
    どうやら国家レベルで都合のいいように使われていたようで
    本当の意味ではなかなか知りえない人かと。

    本当は労働を対価にすることが
    えてして不条理とも取れるかもしれませんね。
    結局のところ、搾取はやまないわけで。
    だけれども、最近はその搾取に異を唱えている人が
    出てきてはいますね。

    後半が見どころかな。
    どうすれば人間は理想の地へ下り立てるのか。
    そこにお金の概念をなくすには
    どうすればいいのか。

    途方もないでしょ?
    でも、この世界で生き抜くためには
    無駄な摩耗は無くすべきなのよね。
    あらゆる面の無知をね。

  • 2017年にマルクスを読み直ししてみた。
    色々な意味で「わかりやすい」。

    とはいえ「歌ってみた」「踊ってみた」みたいなネタのノリでしかない気がした。

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