アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061490857

作品紹介・あらすじ

宿命の地=カナン(パレスチナ)を舞台にくり返された、長く根深い歴史。流血の抗争はなぜ起こったのか?宗教や民族紛争、石油資源をめぐる思惑、難民問題など、複雑にもつれた中東問題を、国際政治のダイナミズムの中に位置づけ、解明する。

感想・レビュー・書評

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  • 1992の出版なので当然状況はそこまで。
    冒頭に1991年のイスラエル地図と、1942から1991までの欧米諸国、イスラエル、アラブ諸国の相関図年表がある。これはこの本を読むまで何冊かイスラエル関係の本を読んだので、やっとわかる。こういった図示はある程度事実を知ってながめると、より理解が深まると感じた。

    メモ
    〇シオニズムと帝国主義
    「国のない民へ、民のいない国を」というキャッチフレーズでパレスチナへの流れが増す。だがそこは「民のいない国」などではなかった。イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が長年にわたって共存してきた地域だった。移住前のユダヤ教徒は25000人程度。・・そこにヨーロッパのユダヤ人がやってきて自分たちの国を建てるなど土台無理な話であった。・・しかしその無茶が無茶とも思われないような知的雰囲気が当時のヨーロッパに充満していた。
     19世紀末から20世紀初頭は、民族主義の高まった時期であったのと同時に、帝国主義の時代でもあった。~圧倒的な軍事力でアジアとアフリカをヨーロッパが制圧した時期。そのためアジアやアフリカなどヨーロッパが望めばどうにでもなるとの思考が強かった。シオニズムもこうした時代精神の落とし子だった。
     なるほど・・ヨーロッパに渡ったユダヤ人は思考がヨーロッパ人化していたと言えるのか? 
     →ヨーロッパからやってきた人間が成立させたユダヤ社会は、パレスチナにおけるヨーロッパの飛び地であり、現地社会とのあいだには埋めがたい隔絶があった。

    〇1900年の人口比率、
    ユダヤ人はパレスチナの総人口の一割弱。
    1914年
    ユダヤ人85000人、パレスチナ人70万人。ユダヤ人の所有する土地はパレスチナの2%。

    〇土地を売り渡したパレスチナ人
    ユダヤ人のパレスチナへの流入は土地の買収を通じて行われた。パレスチナに土地を持つ不在地主たちがシオニストに土地を売却した。パレスチナ人の政治家や有力者の中には、口ではシオニストに反対しながら、実際には金のために土地を手放した者もいた。シオニスト組織は、世界のユダヤ人から寄付を募り、その資金をパレスチナでの土地購入にあてた。
     →パレスチナ人以外のアラブ人の「アラブの大儀」を口にしながらも、「シオニストに土地を売り渡しあげくのはてに国を奪われてしまったお馬鹿さんにはとてもつきあいきれない」との感情につながっている。
     1937までに、パレスチナの5.7%の土地がシオニストの手に渡る。・・これがシオニストが、パレスチナへの移住は正当な手段で移住したのだと主張する根拠の一つをなしている。

    高橋和夫:1951生。1974大阪外国語大学ペルシア語科卒業。1976コロンビア大学で国際関係論修士号取得。1982よりクウェート大使館客員研究員。現在1992放送大学助教授。

    1992.1.20第1刷 1993.10.28第5刷 図書館

  • ちょっと古い本だけど、アラブ・イスラエル問題がすっきり整理されている。
    UAEやバーレーンがイスラエルと国交正常化に動くなど、中東の動きから目が離せない中、この本はいろいろこの地域の歴史的背景を教えてくれる。
    イラン・イラク戦争がイスラエルにとっては時間的猶予を得られたこと、クウェートという国がパレスチナ人の労働によって支えられていたことなど、知らなかったことが多い。
    エネルギーを中東から依存している日本にとって、この地域の動向と歴史的背景を知っておくことが極めて大事であるので、こういう分かりやすい本はぜひ広く読まれてほしい。

  • 1992年出版のパレスチナ問題を扱った本。
    まだ2000年前なんで時事的な内容に関しては少し足りないです。

    ただそれ以前の事柄では中々面白いです。
    特にユダヤ人の流入などで図表を扱っているので
    参考資料としては助かります。

    最後に「索引」がついているのもGood

  • ややこしそうであえて避けていたテーマだが、とても好きな高橋和夫が書いている、ということで手を出してみた。古い新書ではあるが、パレスチナ問題の源は時間が経って変わるものではない。
    ユーモアのきいた最初の一行目で肩をポンと押されたように読み始めた。

    ユダヤ人というとナチスの犠牲者というイメージが強く、弱者を見る目でとらえがちだが、パレスチナをはじめ、アラブ、アメリカ、ソ連を相手にけっこうすごいことをしてきている。
    国防力が半端でないのは、ナチスの過去だけを理由にするようなものではない。アメリカに移住したユダヤ人もお手上げの目に余る行為が目立つようになる。
    パレスチナをとりまく中東では敵と味方が入れ替わり立ち代り、様々な問題が交差しまくっており、一度読んだくらいで理解できるような状況でない。

    わかりやすいながらもその情報の多さに全部頭に入らない。
    近くに置いて何度も手に取りたい一冊。

  • 第一次中東戦争から湾岸戦争にかけて、背景としての冷戦もふまえた通史。
    91年刊行ですが、今まさに読みたかった内容ドンピシャでした。
    アメリカのユダヤ人のイスラエルに対する微妙な心理についての解説が特に興味深かったです。

  • 今の世界に起こっている様々な出来事は過去の歴史の積み上げからなる。歴史は1人や2人の馬鹿げた指導者の気の迷いから成り立つわけではなく(時にはそう考えたい事もあるだろうが)、地域や民族や宗教、因縁などが複雑に絡み合って、解くに解けない糸を皆んなで引っ張り合っているようなものだとつくづく感じる。今ガザからのハマスのミサイル攻撃に端を発してイスラエルが報復的な攻撃を仕掛けている。今日のニュースではガザ地区の病院が破壊されて五百人以上死者が出たとの事である。イスラエルが爆撃したのかハマスの自作自演もしくは武器管理の不手際による誤爆なのかは判らないが、多くの民間人が巻き込まれて亡くなったのは間違いないだろう。こうした報道を見ているといつ誰がこの状況を打開できるのか、終わらせる事ができるのかと考えてしまうが、完全な終結などは誰にも成し遂げられないだろうと、諦めの気持ちが湧いてくる。
    いつも虐げられるのは弱い市民、特に病人、老人、婦女子であり今回の件でも成すすべなくそうした弱者が被害を受けたに違いない。
    日本は遠く離れた島国であり、中々自分ごととして捉える事は出来ないが、中東情勢は日本のエネルギー政策に大きく影響するし、そうした経済的な不安以上にインターネットなどで流れる血を見たくないと誰もが心を痛めているだろう。では何故今、パレスチナでこの様な闘いが起こっているのか。何処となくいつも争っている感があるものの、攻撃を仕掛けたパレスチナが悪で、反撃(報復)するイスラエルが正義なのかと言えば、大半の人は判断に迷うだろう。何故なら少し歴史を勉強すれば、そもそも外の世界からユダヤの理想を謳いこの地を占領したのはイスラエル側だし、元々暮らしていた平和を壊したのは言うまでもない西側諸国の共同責任である。特にイギリスの三枚舌外交は諸悪の根源の様に言われるが、そこに至る世界情勢やその他の国の動き方にしても、凡そ自国利益優先でユダヤ人以外にユダヤの幸福を、パレスチナ人以外にパレスチナの平和を本気で求めた国があったであろうか。
    イスラエルもパレスチナも皆被害者であり、時に加害者であり更には諸外国も自国利益を追い求めた加害者の責任の一端を担う。よくある代理戦争的な意味合いも、単なる宗教戦争も、民族紛争も、土地をめぐる争いも、何もかもがごちゃ混ぜになっている場所、それがパレスチナである。
    こうして書いていながらも終わり方が見えてくるわけではないが、少なくとも本書の様な書籍でその背後にある様々な事情を知る事は重要だ。一人一人が考えなければ答えは見つからない。しっかりとした考えを持つ世界の中の1人として意見を持つべきだと感じる。
    ニュースから何を感じ取るか、正しさがどちらにあるのか、どの様に解決するのか、本書は基礎知識として役に立つ本ではないだろうか。

  • パレスチナ問題の1992年時点までの経緯等について、国際政治の観点を中心に解説。
    2023年10月のパレスチナの武装勢力・ハマスによるイスラエルへの攻撃から始まったパレスチナ・イスラエル戦争ともいえる状況を受け、パレスチナ問題の歴史を紐解こうと本書を読んだ。本書の発刊は1992年でオスロ合意より前であるが、それまでのパレスチナ問題の背景や経緯がよく整理されていて、理解が深まった。単にパレスチナとイスラエルの関係だけでなく、周辺のアラブ諸国やアメリカ、当時のソ連など、様々な国際政治のアクターのせめぎ合いの中で、パレスチナ問題が形成され、深刻化していったということがよくわかった。問題の解決に向けた道筋は見出しがたいが、現状に至るまでの歴史をきちんと知ることは、その前提として重要と思われる。

  •  ウクライナ戦争に続き、勃発したイスラエル・ガザ戦争。この地域は複雑な歴史があることは認識しつつも、詳しくは理解していなかったため、古い本ではあるが「アラブとイスラエル」で今さらながら勉強した。イスラエル・ガザ戦争だけではなく、イスラエルとUAEやバーレーンが国交正常化に動くなど、中東の動きから目が離せない中、この地域の歴史的背景を教えてくれる。現在の戦争のみならず、エネルギーを中東から依存している日本にとって、この地域の動向と歴史的背景を知っておくことは極めて重要ではないか。

  • ===qte===
    2023年を振り返る1冊
    中東問題で歴史を探る/日本担う人づくり急務 編集委員 倉品武文
    2023/12/18付日本経済新聞 朝刊

    2023年、様々な分野で大きなニュースが駆け巡った。その背景を知り、理解を深める上で、長年の研究を重ねた専門家の解説はヒントになるだろう。担当した大学の授業で寄せられた学生の関心を踏まえ、高校生にも手に取りやすい新旧の新書、文庫を選んだ。

    学生はパレスチナ危機に最も関心を寄せた。高橋和夫著『アラブとイスラエル』は現代につながる中東問題の歴史的経緯や危機の構図を知る一冊である。

    20世紀、戦争が繰り返される過程でパレスチナは混乱し、難民が生まれた。著者は「対立する諸見解を努めて公平に解説することを試みた」とその難しさを語る。そして「ユダヤ人国家建設というシオニストの夢が成就し、故郷の喪失というパレスチナ人の悪夢が始まった」と記している。

    パレスチナはかつて「パレスチナ人の居住地であり、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が長年にわたって共存してきた地域であった」という解説が印象深い。時代や民族を超え、共存するという言葉の重みが伝わってくる。

    人工知能(AI)の出現に学生は期待と不安を抱く。郭四志著『産業革命史』は国際政治経済の動きを産業革命史の視点で捉え直す。近年はIT(情報技術)、AI、新エネルギーなどの分野で第4次産業革命が起こり始め、「人間の価値観に大きな影響を与えつつある」と分析する。

    さらに「科学技術・イノベーションは、激化する国家間の覇権争いの中核」と強調。米国と中国の覇権争いの下で日本は「日本ならではの文化・ソフトパワー」を活用した長期的戦略が求められると提起する。技術革新が国家の未来を左右するカギになることを気づかせてくれる。

    日本の名目GDP(国内総生産)がドイツに抜かれ、世界第4位になると報じられた。森嶋通夫著『なぜ日本は没落するか』は1990年代末に書かれた。バブル崩壊後から停滞する2050年の日本がテーマである。近隣諸国との新たな関係づくりを目指す「東北アジア共同体」構想や、日本を担う人材の重要性を力説している点が興味深い。

    「マルクスは経済が社会の土台であると考えるが、私は人間が土台だと考える」、日本に必要なのは「自分で問題をつくり、それを解きほぐすための論理を考え出す能力を持った人である」。AI時代を生きる学生へのヒントである。

    今夏、記録的な猛暑に見舞われた。鬼頭昭雄著『異常気象と地球温暖化』は異常気象の捉え方や気候の仕組みを学生にもわかりやすく解説する。著者は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書執筆に携わった専門家だ。

    今後、地球の平均気温の上昇が避けられないことを想定し「適応策などの対策を立てておくべき」と指摘する。現実的な分析は地球温暖化がすべての人々に共通した厳しい課題であることを突きつけている。

    師走を迎え、大谷翔平選手が米大リーグのドジャースと総額7億ドル(約1015億円)のメジャー史上最高の大型契約を結んだというニュースが飛び込んできた。

    鈴木透著『スポーツ国家アメリカ』は米プロスポーツが巨大なビジネスへと変貌した歩みを描いている。その背景には地道な経営努力があったという。

    ファンサービスで顧客満足度を上げ、経営資源を多角化するために「入場料収入の他に、放映権料、関連商品の独自販売やライセンスの付与」などを事業に育ててきた。そしてスポーツは「この国の文化や社会の特質を明らかにする格好の素材」と意義づける。

    時代は刻々と変化している。読書で得た時代への視点は新たな学びや就職活動にも生きてくるだろう。

     【さらにオススメの3冊】
    (1)『歴史人口学で見た日本』(速水融)…人口学の手法を知る
    (2)『国家は巨大ITに勝てるのか』(小林泰明)…GAFAなど企業群と各国政府の攻防を描く
    (3)『2050年の世界』(ヘイミシュ・マクレイ、遠藤真美訳)…経済や歴史の視点から未来を予測

    ===unqte===

  • あらすじ(講談社より)宿命の地=カナン(パレスチナ)を舞台にくり返された、長く根深い対立の歴史。流血の抗争はなぜ起こったのか? 宗教や民俗紛争、石油資源をめぐる思惑、難民問題など、複雑にもつれた中東問題を、国際政治のダイナミズムの中に位置づけ、解明する。

    パレスチナ人とは?――パレスチナ人は、国を持たず、アラブ世界で常に差別されてきた。表面上はアラブの大義という看板の下で受け入れられても、内心ではけっして仲間うちとしては扱われてこなかった。またパレスチナ人は、国による保護を得られないため、個人の努力、そしてパレスチナ人同士の団結によって人生を切り開いてきた。ある国から追放されるようなことがあっても、命ある限りけっして奪われることのないものに投資してきた。つまり教育であった。
    パレスチナ人の勉強熱心はアラブ社会では際立っている。パレスチナ人は、医者であり、作家であり、画家であり、弁護士であり、大学教員であり、ジャーナリストであり、研究者である。――本書より(https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000146547

    パレスチナとイスラエルの対立は何から始まったのか。
    なぜアメリカは何があってもイスラエルの肩を持つのか。
    パレスチナに関する歴史、様々な問題をできる限り客観的に書かれている印象。
    それに加えて、イスラエル国民の「まるで自分たちの姿を見ているような」パレスチナ人への複雑な感情などもわかりやすく解説されている。

    政治周りがやや難しいところもあったけど、まず概要を知るために適切な本だった。

    SNSが普及した今、電気を奪うことで、パレスチナの人々の痛みや悲しみが隠し通せるわけがないのに。
    連日続くあまりにも非道で残酷な仕打ちに言葉にならない。
    それぞれができることをして、真実を知って、祈ることしかできない。あまりにも辛い。

    以下、引用


    聖書に出てくる巨人ゴリアテと勇敢な若者ダビデの対決そのものであった。しかもダビデの王国の子孫を自認するイスラエルがゴリアテであった。イスラエル支持のアメリカのユダヤ人さえもが、占領という醜い事実から目を背けることができなくなった。メディア操作に長けているといわれたイスラエルでさえも、そのイメージを守ることができなかった。(p.~~)

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著者プロフィール

放送大学名誉教授。福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『中東の政治』(放送大学教育振興会)、『最終決戦トランプvs民主党』(ワニブックス)、『パレスチナ問題の展開』(左右社)など、多数。

「2022年 『イスラエル vs. ユダヤ人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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