渤海国の謎: 知られざる東アジアの古代王国 (講談社現代新書 1104)

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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061491045

作品紹介・あらすじ

中国東北部、沿海州、朝鮮半島北部を版図に、2世紀以上、東アジアに君臨しながら、長く世界史の謎とされてきた「海東の盛国」。平安京の毛皮ブーム、菅原道真らによる宮廷外交など、多彩なエピソードをまじえつつ、渤海国の実像に迫る。

感想・レビュー・書評

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    世界史・日本史で名前を見るものの、その実態を全く知られていない“幻の国”渤海。
    しかし渤海と王朝文化華やかなりし日本との間には、約200年間にわたる平和で友好的な交流があった。

    「新しい日本海時代」「環日本海時代」の到来を前に、千年前にあった対岸の国との国際交流を見つめ直すこと。
    また東アジアの歴史を見る視界を東へ北へと広げ、そこに確かに存在した渤海国と、そこから日本へやって来た渤海使たちにスポットライトを当てること。
    これらが本書のテーマとなっている。

    中国東北部の荒涼たる草原地帯に成立して、唐の制度・文化を受容して豊かな文化国家を築き、ついには唐から「海東の盛国」とその繁栄を羨まれた国。
    後に契丹の侵攻により徹底的な破壊を受け、文書・構築物の一切が失われたため、その姿をうかがうには日本・中国に残された史書などの文書や少しずつ出始めている考古学の成果によるしかない。

    日本・渤海の交流は、まず渤海からの軍事同盟的提携の要請から始まる。それは対立していた新羅を牽制するための、遠交近攻策であった。
    しかし後には「渤海・毛皮⇔日本・繊維製品」という貿易を主眼とした交流に変わり、日本側の饗応の中で、双方の国選りすぐりの文人たちが互いに漢詩の出来栄えを競い合った。

    以前から渤海という国は気になっていた。
    中国から見て辺境とは言えかなりの版図を有しているにもかかわらず、ほとんどまともな説明がされていなかったからだ。
    そこで本書を読んでみたわけだが、日本側が「宗主国」として振る舞っていたとは言え、交流の平和さ、互いの信頼関係など、大袈裟に言えば一種の奇跡を見るような思いがする。

    季節風に乗って日本海を行き来する日渤の船と人々を知るためのいい入門書。
    この本が出たのが1992年。現在どこまで研究が進んでいるのか気になるところ。

  • あちこち読んだ記憶のある記述があったが「マイナーな分野だし、作者が同じなんだろう」と思っていたら、以前読んだ本の旧版だったらしい。そりゃ読んだ記憶もあるわけだ。渤海については、類書が少ないんだなあ。

  • この国は前から非常に気になっていた。
    8世紀頃の地図を眺めると、現在のウラジオストクあたりから中国の東北地方にかけて渤海国はあった。すべてが破壊され、強制移住させられ、語りつぐ人がいなくなってしまった国。そんな国の人々が日本人と漢詩を通じて、心の交流をしていた。

    【備忘録】
    1.滅亡した高句麗の再興国を自称
    2.唐の文化を吸収し、高句麗文化も残存。
    3.日本へは当初は新羅に対する遠交近攻策として、その後は貿易、文化交流として派遣。
    4.藤原仲麻呂が対新羅征討の協力を要請するが断る。
    5.平安貴族は渤海がもたらす毛皮を禁止令が出るほど珍重した。
    6.日本からの輸入品は繊維製品。
    7.文人官僚たちはお互い漢詩を通じて交流。
    8.渤海使の王孝廉は空海と唐留学時代の友人。会う機会がなく残念という手紙のやりとりがあった。
    9.菅原道真が渤海使との交流で活躍。渤海使ハイテイとあつい友情を結ぶ。
    10.遣唐使での帰国に失敗し、渤海経由で帰国した人々がいる。
    11.そのコースの創案者は阿部仲麻呂だが、自身は安禄山の変のため使えず。
    12.新羅や唐の民間の船が日本中国間の航路を運行するようになると、国を挙げての遣唐使の意義がなくなり、同時に渤海経由のコースも利用されなくなる。
    13.契丹によりあっけなく滅亡。住民は強制移住させられ、都市はあとかたもなく破壊される。

    現在はその支配圏を中国、北朝鮮、ロシアと三国が治めて研究は困難だろう。だが、確かに存在し日本と多くの交流をもったこの国の姿がより明らかになることを望みたい。
    そして、本書が仏教国であった渤海国の供養になることを願いたい。

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著者プロフィール

1931年生まれ。日本海事史学会、日本暦学会共に理事。
著書に『日本渤海交渉史 増補版』(共著、彩流社)、『渤海国―東アジア古代王国の使者たち』(講談社学術文庫)、『遣唐使全航海』(草思社)などがある。

「2016年 『文科系のための暦(こよみ)読本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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