マンガと「戦争」 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 155
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061493841

作品紹介・あらすじ

手塚治虫、水木しげるから宮崎駿、エヴァンゲリオンへ-マンガは「戦争」をいかに描いてきたか。日本人の戦争観に迫る画期的マンガ論。

感想・レビュー・書評

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  • 戦後の日本カルチャーを象徴する漫画を通じて、日本人にとっての戦争を俯瞰するという実験的作品。手塚治虫、ちばてつや、水木しげる、小沢さとる、白土三平、滝田ゆう、林静一、佐々木マキ、ダディグース、さいとうたかを、永井豪、松本零士、大友克洋、宮崎駿、かわぐちかいじ、庵野秀明などの名作がどんどん出てくる。
    楽しい読み物であることは確か。例えば、手塚治虫と水木しげるの戦争漫画に描かれる死は、どちらも愚かなことで生きることを肯定している共通点がある点を指摘しながら、手塚漫画では「(死に対する)不安は生きている証でそれ自体貴重」だと励まし、水木漫画は「戦争は愚かで戦争による死もつまらない」と優しく教えてくれる。
    とはいえ、「当時大学生だった私という青年読者についていえば」(P107)という様な作者の回りくどい気取った表現は邪魔でした。

  • 漫画を読んでこなかったことが少し勿体なく感じる。活字なら目には見えない世界を自分なりに自由に描けるから、その方が想像できる分楽しいのは間違いない。自分の作った世界に入り込み、自由な角度と距離感で物語を感じることができる。だからこれまでは映像や漫画には触れずにきてしまった。少し勿体無い。
    本書は漫画の中で語られてきた戦争像に迫り、漫画家たちが絵を通して伝えたかった真意を掘り起こしていく。筆者はマンガ・コラムニストとして、数多くの漫画に触れてきた人物だ。
    始まりは手塚治虫からだが、リアルな世代としては戦中や戦後間も無く生まれてきた人々がその読者だ。手塚治虫はその後の漫画に大きく影響を与えてきた人材として、やはりここから語り始める必要があったのだろう。その後間も無く戦記者が登場するが、戦後GHQ支配の元、日本人に刷り込まれた敗戦意識、アメリカよりも劣等な意識を覆すかの如く、戦中に活躍した戦闘機などが活躍する。これは静かなアメリカへの反抗として、読者の心を躍らせたに違いない。さらに水木しげるに代表される、体験者としての物語。実際の戦場にあってどの様な辛苦があったのかをリアルに伝えていく。戦争経験者は自虐史観や自分1人生き残ってしまった罪の意識の中で多くを語ることがなかった。その様な中で飢えや爆撃に晒されて、虫ケラの様に生き延びる日本兵の姿は強烈な印象であっただろう。
    そして東西冷戦期に入ると原子力も漫画に登場してくる。漫画は時代を映す鏡として、線のタッチや吹き出しを用いて人間や戦争の愚かさを読者に静かに伝えていく。時代が進むにつれ、戦争は局地戦から地球規模の災厄になっていく。そうして描かれたのがデビルマンや宇宙戦艦ヤマトだ。戦場を宇宙まで拡げただけでなく、精神世界の中の戦場を描いていく。そして、いよいよナウシカやアキラに描かれていくような、戦争よりも深刻な地球規模の破壊活動=環境破壊に続いていく。ナウシカは小学生の頃にはアニメとしてしか触れなかったが、毎年恒例行事のように繰り返しテレビ放映され、歳を重ねるたびに見方が変わってくる。深く見れば巨匠宮崎駿が漫画を通して伝えたかった事がより鮮明に見えてくる。
    漫画の世界は奥が深い。線の太さやコマ割り一つ一つに意味を持たせ、活字だけの世界よりも想像さする事は多いかもしれない。何より筆者の人生の背景を映し出す様に、何を伝えたかったのか、吹き出しや背景、コマ割りから想像していくのは楽しい。
    エヴァンゲリオンは大人になってから初めて見た。登場するキャラクターは敵味方を問わず、形や特徴に精神的な世界を映し出している。主人公の内面も複雑で、表情仕草を絵を通して見る事で活字には無い新しい想像の領域へと読者を誘ってくれる。これから漫画に触れる方にまずはおすすめしたい一冊である。

  • 具体的な「戦争」はしていなくとも、日々「戦争」に晒されている…

  • NFa

  • 夏目房之介さんの漫画関係の本はどれも面白かったんで期待してたんだけど。
    手塚治虫からエヴァンゲリオンに至るまで、戦争を漫画家がどう捉えて来たか、その時代背景も一緒に分析している。

    のだが。

    なんか今ひとつ。ご本人もあとがきで書いてる通り、上手く行ってない気がする。

  • 1997年刊行。著者はマンガコラムニスト。マンガで戦争が描かれることが多い一方、手塚治虫ほか戦争体験世代が漫画界を牽引し、あるいは水木しげるのごとく従軍経験を有する者も存した。そして、そんな流れは、戦争のリアリズムを喪失した戦後世代の描き手へ、さらには「戦争」を悲劇の象徴・抽象・記号としてしか認識できない受け手へと変わっていった。その模様を、代表的な作品・著名な作家を踏まえつつ解説する。ただ、戦後史の素描というよりは、時代時代で生み出された作家・作品解説が主テーマのようにも。

  • 新書文庫

  • 戦後漫画誌に描かれた戦争は何かしらのコンプレックスの反映であるとする論、いまやスタンダードか。

  • <閲覧スタッフより>
    近代以降、様々な戦争を経験してきた日本。手塚治虫や水木しげるなど戦争経験者から大友克洋や宮崎駿といった戦後マンガ家まで、日本における戦争観を様々な作品から分析しています。

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    所在記号:新書||726.1||ナツ
    資料番号:10211648
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  • 戦後日本漫画の著名な作品、作家を中心に「戦争」がどのように作品中に取り上げられているかを論じている。身体性への着目など、面白い指摘は多いのだが、戦争という大テーマに斬り込むには、やや迫力不足という感がある。180ページの新書では無理もないのだが。

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著者プロフィール

漫画コラムニスト、マンガ家、エッセイスト。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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