江戸の性風俗 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
3.28
  • (5)
  • (15)
  • (32)
  • (1)
  • (4)
本棚登録 : 200
感想 : 20
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061494329

作品紹介・あらすじ

猥談に興じ春画を愉しむおおらかな性。男色は輝きを失い恋は色へとうつろう。性愛のかたちから江戸精神史を読みかえる。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 江戸の性風俗と題してはいるが、性風俗というよりは江戸の人々(主に武士と町人)の間における性愛の理解の形とその受容が読みやすい美文で綴られる。(もちろんここで言う性風俗は現代における性産業のことではない)

    お堅いイメージで語られる武士階級においてさえ、家族間でも明け透けに性の話題をやり取りされ、(驚いたことに幕府の要職におる人間でさえ自らの母親に対して実に明け透けに自らの性生活を開陳する)、城の上層部では春画が贈答品として飛び交う。

    我が国において江戸初期や明治中盤に衆道(現在言われるところの同性愛と重なる部分もあるが、洋式として異なる思想も強く、その区分けは少しデリケートである)が一般的だったことは有名だが、その命をかけた情の美意識を代替できないまま愛情の対象が異性に変わった不幸を指摘した部分が興味深かった。

    江戸期における情死、性養生、肌を重ねるという文字感覚に対する意識の変遷、様々なトピックに飽きることなく読了した。

  • 105円購入2011-11-24

  • <目次>
    プロローグ―良寛さんと「ひとり遊び」
    第一章 川路家の猥談
     名奉行川路聖謨/家族で猥談/母上も猥談が好き/「みな飯をふきたり」/お白洲で「ヘノコ」論争/武士家庭の真実

    第二章 京都慕情―雅びとエロス
     皇女の感想/尊王の人なれど/惜しむべき御人/美しき京都の貴公子たち/貴種に期待されるもの/植木枝盛、皇后の夢をみる/セクシーで神秘的

    第三章 春画の効用
     春画の由来/性生活の友/様々な呪力/贈り物として、江戸土産として/知識人たちの愉しみ/人生最後の春画

    第四章 薬としての男と女
     徳富蘆花の日記から/絵印にこめられた意味/儒者の心配/健康と自己抑制/五月の禁欲/母に報告された「回数」/房中補益の術/健康法をめぐるディレンマ/老人健康法、肉屏風/宴席の趣向/女性のための房中術/佐藤一斎の見識/屋根の上で腰巻きを振る/月水の薬効/褌を焼いて飲む/汚れが薬になった時代/ケガレと和合

    第五章 男色の変容
     薩摩隼人/谷崎潤一郎拉致未遂事件/美少年騒ぎ/川路の笑い話/戦士の習俗としての男色/女性排除思想/命がけの恋/殿様が殿様に恋をした/失われた恋愛

    第六章 肌を許すということ
     本当の「不倫」/「密通」か「蜜通」か/正義の「痴漢」/江戸時代風求愛の作法/「肌を合わせる」ということ/「肌のゆるしがたき人」/「口の物を食い合う」仲/性愛のにおい/人の絆のかたちとしての性

    第七章 恋のゆくえ
     宗次郎の死/心中は武士の手本/慕いに群がる見物人/心中死体への眼差し/”情死の国”日本/少年愛の影響/恋のために死ぬ

    エピローグ―日本性愛史における江戸の可能性
    主要参考文献及び史料
    あとがき

    ***

    「性」の営みから語る江戸精神史
    (本書帯より)

    ***
    『武士道とエロス』の著者でもある氏家幹人氏の一冊。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    江戸時代の性の等身大の現実を照らし出し、近代以降もっぱら春画や川柳、軟文学の類を通して定着してきた”江戸時代の性”に対する漠然としたイメージに風穴をあげるためにも、私たちはこれまでと違う角度から、異なる種類の史料と取り組まなければならないのです。
    (p15-16)
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    として、幕末史では一度は名を聞く名奉行川路聖謨の日記『寧府紀事』を中心に、川路家で交わされていた猥談から当時の武家の性風俗を読み解いていっています。

    川路家ではこんなことがあった、そして似たような例としてこんな話もある、という感じで江戸から明治の色々な人の日記(徳富蘆花、植木枝盛、柴田収蔵、平沢旭山、押小路甫子など)なども紹介されており、とても面白かった。

    個人的には、心中死体に群がる人々というのが想像していた以上に本当にすごく群がっていて(船で見に行く絵が残っているとは…)驚きました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    史料に感じ、過去を覗き見る。思えば歴史学とは、本来とてもエロティックな学問なのである。
    (p220)
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    という締めにとても満足。
    最終章の最後に綴られる川路夫婦の描写には、不覚にもうるっときてしまいました。

    …ただ、そこに到達するまでには、会社の休み時間や電車で読むには過激なワードが踊っているので、読む場所によってはとてもスリリングな一冊です(会社のデスクでちまちま読んだ人)

  • 面白くて読み易かった。

    気持ち悪いのが、江戸では汚れた下着や月経をお互いの薬として用いられていた、っという内容。
    下着を煎じたり、焼粉にして飲んでたらしい。

    心中はあの世で結ばれる。来世で夫婦になれると信じられていて、1700年前後は心中事件が流行っていたとか。
    あと男色についても色々書かれていて面白かった。

  • この本を読んで「歪んだ性」とよく言われるけど、どう歪んでいるのだろうか?と疑問が湧いた。

    「歪んでいる」というくらいだから、そういう人たちの頭の中には歪んでいない正しい性の形があるのだろうが、果たしてそのようなものがあるのだろうか?時代が違えば考え方のみならず、行動だって違ってくるだろう。性への取り組み方もそうではないのか。

    結論めいたことは書かれていなくて、それでもいろいろ考えることのできる素材が十分に盛り込まれているのでいい本だと思った。特に、歳をとって精液を出し過ぎると寿命が縮むという説は実に身にしみた。気をつけよう。

    Mahalo

  • [内容・感想]
    下世話だが他人の秘め事の話は面白い。それが、ご先祖様のものなら尚のこと興味をそそられる。本書は、江戸時代に生きた我々のご先祖様の性事情を当時の資料を元に解説してくれる一冊である。

    本書で解説されている江戸時代における性交や色事の位置づけ、男女観、衆道(男の同性愛)、貞操観念、春画(昔のエロ本)の効用などの学校では“なぜか”絶対に教えてくれないようなご先祖様の様々の性事情はどれもこれも驚くような内容ばかりだ。

    考えてみると当たり前の話なのだが、価値観なんてものは時代ごとに、それも案外短いサイクルで移り変わっていくものなのだ。性という身近かつインパクトのある内容が書かれた本書を読んだことで感じたことである。

  • 文献の裏付け数がかなりにのぼっており、新書にしては読むのに時間がかかった。それだけ充実した本と言える。

  • 巻末の「主要参考文献及び史料」が、しっかりしてる。
    江戸時代のこの手の研究本はけっこう出版されているようです。
    一言でいえるのは「おおらか」であった、ということでしょうか。

  • タイトルから手に取りづらい本ではあるが、内容も構成も大変読みやすかった。
    江戸時代の性・恋愛・結婚観について、当時の文献を参照しながら解説している。
    当時の文献の引用とともに、その訳も掲載されており、ですます調でユーモアを交えながら書かれているので、専門知識がなくても理解しやすい。
    文献の引用があることで、実際にその情報の元に当たりたいと思ったときに探す手がかりになるのでとても便利である。

    殿様に恋する殿様の月を褒めるエピソードが印象に残った。

  • 江戸の性事情や心中などについて書いた本。

全20件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

氏家 幹人(うじいえ・みきと)
1954年福島県生まれ。東京教育大学文学部卒業。歴史学者(日本近世史)。江戸時代の性、老い、家族を中心テーマに、独自の切り口で研究を続けている。著書に『大名家の秘密』(草思社)、『かたき討ち』『江戸人の老い』『江戸人の性』(いずれも草思社文庫)、『増補版 江戸藩邸物語』(角川ソフィア文庫)、『武士道とエロス』(講談社現代新書)、『江戸の少年』『増補 大江戸死体考』(いずれも平凡社ライブラリー)、『不義密通』(洋泉社MC新書)、『サムライとヤクザ』(ちくま文庫)などがある。

「2021年 『文庫 江戸時代の罪と罰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

氏家幹人の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×