日本人のしつけは衰退したか (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061494480

作品紹介・あらすじ

礼儀正しく、子どもらしく、勉強好き。パーフェクト・チャイルド願望は何をもたらしたか。しつけの変遷から子育てを問い直す。

「パーフェクト・チャイルド」──しかしながら、大正・昭和の新中間層の教育関心を、単に童心主義・厳格主義・学歴主義の三者の相互の対立・矛盾という相でのみとらえるのは、まだ不十分である。第一に、多くの場合、彼らはそれら三者をすべて達成しようとしていた。子供たちを礼儀正しく道徳的にふるまう子供にしようとしながら、同時に、読書や遊びの領域で子供独自の世界を満喫させる。さらに、予習・復習にも注意を払って望ましい進学先に子供たちを送り込もうと努力する──。すなわち、童心主義・厳格主義・学歴主義の3つの目標をすべてわが子に実現しようとして、努力と注意を惜しまず払っていた。それは、「望ましい子供」像をあれもこれもとりこんだ、いわば「完璧な子供=パーフェクト・チャイルド」(perfect child)を作ろうとするものであった。──本書より

感想・レビュー・書評

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  • しつけは家庭でするもの,という信念が私にはある。家庭でいわゆるしつけが行われるならば,家庭の実態が異なればしつけも異なることを資料に基づいて歴史的変遷として解説する。家庭に暇な大人がいて,対処する子供の人数がすくなければ関与が多くなり,逆は関与が少ない放任型。孟母三遷の教えがあるが,孟母は直接関与したというよりも環境を選んだ(最後は裁断することで想いを伝えた)。子供は周囲から影響を受ける。家庭はもちろん社会(メディア),学校,友人,近所,等。全てをコントロールすることはできないし,子供時代できたとしてもそれを維持することはできない。子供に教育を受けさせる義務という憲法の呪縛が家庭に子供の行動の原因を帰属させるものかもしれない。「他者と自分の命や健康,財産を害さない,これを破るのは絶対に許さない」という釣りバカ浜ちゃんのしつけが最も穏健で妥当だと思う。

  • 379.91||Hi

  • 2 子どもを育てるのは誰か[川田学先生] 2

    【ブックガイドのコメント】
    「子ども観やしつけ観の歴史的変遷をたどり、現代における家庭教育言説の背景を分析。」
    (『ともに生きるための教育学へのレッスン40』128ページ)

    【北大ではここにあります(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000777730

  • 言わんとすること凄く良くわかるし、凄く大事な事だと思うんだけど、いかんせん(たぶん学者として誠実だからこそなんだろうけど)素人読者には「もうわかったからいいよ~」と言いたくなる瞬間が訪れてしまうこともあり…

  • 社会

  • 1 「昔のしつけはしっかりしていた」論→明治大正昭和初期の村の教育:親は子どもの家庭教育に関心がうすい、労働のしつけはきびしい、村の集団的教育も差別などを含む、アウトサイダーについては全く機能しない、学校は読書算だけ教えてくれればいい
    2 大正期以降都市部新中間層家庭において家庭教育の重要性が高まる→童心主義・厳格主義・学歴主義の対立と並存
    3 戦後期、都市部:教育投資型、能力過信型、心理ママ型、農漁村部:家庭教育重視型へ
    4 1970年代以降:学校と家庭の力関係の中で家庭が優勢に。「教育する家族」。パーフェクト・ペアレンツを目指す。

  •  青少年による凶悪事件が起きた際、必ずと言って良いほど家庭のしつけの問題が取り沙汰されます。1999年に起きた神戸連続児童殺傷事件(別名、酒鬼薔薇事件)で中学三年生の少年が逮捕された時には、「心の教育」の必要性が訴えられ、家庭のしつけの望ましいあり方が提示されました。しかし、「家庭の教育力が低下している」「父親の不在」といった〈家庭のしつけの衰退〉イメージは、果たして正しいのでしょうか。

     著者はこのような関心から、まず本書で問い直す教育力をめぐるイメージを次のように3つに分け、さらにそれに関連するイメージも細かく確認していきます。
    ・イメージ1――家庭の教育力は低下している。
    ・イメージ2――家庭の教育力の低下が、青少年の凶悪犯罪の増加を生み出している。
    ・イメージ3――家庭の教育力を高めることが、現在求められている方向である。

     その後、社会学における「社会階層」という分析概念や農村-都市の対比、また家族-学校関係、家族-地域関係を分析視点とすることを確認しながら、歴史をたどることによって「家庭のしつけの昔と今」を明らかにしていこうと試みます。特に、新中間層が現代家族の原型を作った大正期、家族や地域・学校のあり方が大きく変わった高度経済成長期、家族と学校との力関係が決定的に変化した高度成長期後の時期の3つに注目して、しつけの問題にとどまらず、現代の教育・家庭問題全般がどのように形成されてきたのかも描いていきます。

     本書は、家庭や教育に関する研究に触れたことがない方も非常に読みやすい著作になっています。それと同時に、イメージといった一見あいまいなものを分析する手法についてや、家庭を教育という観点から眺めること、歴史的視点を用いることの意味など、本書から発展的に考えてみることができる議題もたくさん盛り込まれています。ぜひ一読してみてください。
    (ラーニング・アドバイザー/国際公共政策 SATO)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1380944

  • いまでもよく自分が引用する良書。広田照幸の鋭い分析が光る。

  • 現代の家族関係の言説の正当性について、歴史的過程を踏まえつつ再考を迫る。つまり「昔はよかった」の如き単純思考を、過去の男女差別の常態、家長制、絶対的レベルでの貧困問題等の諸事情を無視するものとして、著者は排斥し、その上で、しつけ・子育ての最終責任を家族だけに押し付ける結果に陥っているのが現在と指摘。◆至極納得の内容だが、動機不分明な少年事件(一般刑事事件にも妥当)が、戦前戦後期、現代と同程度に存在したかは、やや不明瞭。この解決策の提示が学校・家庭・社会に求められている中、もう少し深めたい。◆1999年刊。著者は東京大学大学院教育学研究科助教授。

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著者プロフィール

1959年生まれ。現在、日本大学文理学部教育学科教授。研究領域は、近現代の教育を広く社会科学的な視点から考察する教育社会学。1997年、『陸軍将校の教育社会史』(世織書房)で第19回サントリー学芸賞受賞。著作に『教育は何をなすべきか――能力・職業・市民』(岩波書店)、編著に『歴史としての日教組』(名古屋大学出版会)など多数。

「2022年 『学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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