悪の対話術 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061495173

作品紹介・あらすじ

第一印象を制する礼儀正しい生意気のすすめ、悪口、お世辞による観察眼の鍛え方、敬語の意外な役割など、舌鋒鋭く世を生き抜くための刺激的「話し方」講座

感想・レビュー・書評

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  • 「虚偽の助けを得られなければ、真実として輝かないのが、人間たちの世界なのですから。」(虚偽と韜晦)

    「大人であるということは、意識していないこと、意識したくないことについて、明確な認識をもとうと試みること、そのような意図のもとに、自己と他者と世間を見つめることです。無自覚であること、自分の立場や位置について認識が甘いということは、それだけで恥ずかしいことであると銘記する勇気と緊張こそが、大人である証し。」(敬語について)

    「対話術を身につけるということは、『素地そのままの無邪気な私』といったものを捨て去ること、諦めることであり、無意識の、自然の説得力といったものや、誠意があれば通じるといった怠惰さを断念することなのですから。」(多弁と無言)

    「好奇心は、人間にたいする絶望的な真実にも、耐えることが出来ます。それは美しくはないかもしれませんが、人間という卑小で俗にまみれた存在を、最終的には肯定する力をもっているのです。」(観察と刺激)


    不確定な世界においてつい絶対的なものを求めてしまう〈逃避〉から目を背けず、それにも関わらず、いやそうであるが故に対話に快楽を見出す。綺麗に纏まったものではなく、現実になんとか向き合っていこうとする姿勢に共感した。

    また全体的な印象として、特に(焦りと緊張)の章から、『暇と退屈の倫理学』と似たものを感じた。この本が気に入った方は合せて読んでみては。

  • ドラマチックな話を読みすぎた時は、
    ふと想像力ではなく吸収力を要する新書を読みたくなります。


    悪口、お世辞、敬語、自己紹介…
    様々な対話において必要となる緊張感、
    観察眼、礼儀とそれらの鍛え方を辛口だけど
    ユーモアのある語り口で刺激的に解説。

    辛辣だけど毒舌にならない悪例の上げ方など
    独自の語り口が面白く、すっと読めます。

    「分かり易い」じゃなく「相手に分かったと思わせる」言葉の大切さ、
    その部分だけ切り取ってみれば褒めに感じるが
    相手の立場・状態を鑑みるとピリッと効く悪口、
    敬意の表れでは無く立場を明確にする為の敬語、など
    対話とは常に「相手」を意識するもの、
    そして意識する為には「相手」の観察を怠らない事の
    大切さを教えてくれます。

    この意識・観察は本書を読む限り高度に感じるし、
    こんなんじゃ無意識にダラダラ話すことができない!
    と焦りを覚えるくらいですが、
    本書で上げられた点を網羅した対話が出来ればそれは単なる
    「対話の巧さ」だけじゃなく人間関係・社交の組み立て、
    自身の人間としての成熟に繋がっていく事にも気づかされます

    対話ひとつにも緊張感を持って、
    武器の一つにできる人になりたいものです。

  • 自分の会話を意識する、ということは普段無意識でやっていることだけに大切なことだと思う。それはひいては自分自身を客観視することにもつながるし。あと真っ向から闘わないということ。この手の本を読む度に思うのは、もっと戦略的に生きようということ。
    この著者とは基本的な価値観が似ている。残りの一冊も早目に読みたし。

  • 「愛も信頼もけして固着した誓いではないし、独白でもありませんそれは日々新たに語りだされなければならない対話に他ならないのです」。困った。ヘンなタイトルだからどうせ中身も変だろうと思っていたらそうではなかった。毒吐く文章が面白かった。三部作に1巻、2巻の恋愛術に続く。

  • 私は多分できないけれど面白いです。そんなふうにできる人をすごく尊敬します。純真であること、素直であること、無垢であることより、意識して生きることが大切なんですね。わかるようなわからないような。

  • 根底にあるのは「全ての対話に対して意識的であれ」ということ。
    イノセントで無垢であること(=みかけの善)を良しとする子供じみた価値観を卒業し、常に自分の言動に対して意識的になること(=みかけの悪)によって、人間的な成熟を図りよりよい対話術を身につけよう、というのが主題です。

    そして結局、対話に対して意識的になるということは、とりもなおさず他人に対して好奇心を持つということであり、それは人間社会で他人と関わりながら生きていく中で最も重要なことの一つである、と論じています。

    この新書は「意識的であること」を核としていますが、中身は具体的な笑える話がいっぱいで、気軽に読んでもかなり楽しめます。
    お世辞の仕方、悪口の言い方から、社交について、あるいは話題の作り方まで、盛りだくさんの内容となっています。

    知的に笑える新書をお求めの方、「悪の〜」シリーズはオススメですよ。(「悪の対話術」「悪の恋愛術」「悪の読書術」の三部作になってます)(佐々木貴教)

  • もっともらしい事が、軽妙な語り口で綴られ、思わず説得させられそうになる。《日本の政治において失言のほうが大きな意味を持つのは、あまりにも日本では政治家の発言が予定調和に終始していて無力化されているからでしょう。》の一節はなかなかの評論だと思う。

  • 2007年8月9日
    語り口:もったいぶり 内容の密度:濃い 役立度:高い 所要時間:3時間 お世辞や敬語をうまく使って楽しもうと思えた。

  • ただ話すという行動を計算で行い、より会話に深みを出したいと考えていた時見つけた一冊です。若干読みにくいかもしれませんが、対話術の向上に役立つと思いますよ。

  • 他人とのコミュニケーションは時に億劫で面倒で話題に困ることがある。特に初対面の人との会話は、相手の興味のありそうな話題探しや、話の糸口を切り開くための観察やらで思いの外、体力と神経を消耗する。
    自分が仕事上の立場で優位な場合、例えば発注者と受注者で言えば前者の様なケース(ビジネスの立場は対等だが、訪問される側(上位)になるのが一般的)では、訪問側が話題を準備してくれるから楽ではあるが、一方的にしゃべらせておくわけにはいかないので、適当な所で多少なりとも話の流れに乗った言葉を発していかなければならない。
    その逆に部下との1on1ミーティングなどは、その機会を言いづらかった相談をするといった自分に有利に使う(積極的に話してくる)ものもいれば、上司から何か話して欲しいと期待感をもって挑んでくる人も居る。上司は日常の仕事を見たりしているから、大抵は話題に事欠かないが、何も喋ってこないというのも寂しい。そんなに話したくないのかと悩む事も以前はあった。
    話すのも訓練ということで、何度かその様な場で、会話の切り口を待ったことがあったが、開始10秒で私が折れる。話さずには居られないというよりその緊張状態に耐えられない。
    コミュニケーション力や量は人それぞれであるが、必要なのは情報量や知識、教養であることは間違いない。決定的に不足していたら会話はすぐに途切れてしまうし、本書で言う様に一方的に自分の得意分野だけを話続けたら、それはもう双方向を基本とする対話=会話にならないし、自己満足に終わる。相手は延々と詰まらない時間を過ごすことになる。適度に相手の知見のある領域かつ触れてはならない領域を避け、尚且つ一定の距離感で双方向の対話を継続するのは、やはり疲れるのは仕方ない。勿論気の合う仲間同士ではそんな事はないのだが。
    本書はそうしたコミュニケーションに於いて、自分の発する発言で相手を屈服させる事を目的にしたものではないものの、そうしたやりとりを人間の本性や本音を基に独特の批判的な言葉で鋭く突いていくものだ。少し回りくどい言い方をしたが、読み始めは筆者がとんでもない捻くれ者であるかの様な印象を受ける。そして読み進めるうちにその独特なワールドが心地良くなり、気づいたら自分の会話も一定程度その様になってると言う共感を覚え始める。そうなってくると一気に読める。
    対話術と言いながらも、何か会話のテクニックや場の持たせ方を学ぶ様なものではなく、会話における人間の嫌な部分や本性を明らかにしていく内容になっている。それを逆手に取ると、確かに自分の思い通りに、相手とのその場の信頼関係を崩さず(その場においてのみ)、対話時間の支配者になる事も可能だ。
    まずはページを巡って三分の一程読み進める事をお勧めする。そこでも違和感が消えない様なら、恐らく読者と筆者の性格が合わないか、言い回しに抱く嫌悪感が拭い去れない状態にあると思う。その場合は閉じればよい。
    読了後、清々しいと言うよりは、自分のこれまでの会話の反省や、自分の性格の悪さに多少の嫌悪感、そして表情は半笑いになっている。
    それなりに沢山の本を読んできたが、なんだろうこの独特な精神状態は。読み終わった時点で筆者の狙い、術中にまんまと嵌った自分がいる。

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。批評家。慶應義塾大学名誉教授。『日本の家郷』で三島賞、『甘美な人生』で平林たい子賞、『地ひらく――石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。

「2023年 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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