教育と国家 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061497429

作品紹介・あらすじ

「愛国心」教育のウソを衝く!

戦後教育悪玉論
教育基本法を改正すれば教育がよくなると言う論者は、学校教育の意味をまったく問い直さず、かつてうまく機能していた(と彼らが思っている)学校制度をそのまま復活させれば子どもがよくなる、と思いこんでいる。しかし、今日ではむしろ近代の学校制度そのものが新たな社会環境、メディア環境によって問い直されているのです。そこにかつてなかった学校現場の現象も生じてきているのですから、教育基本法は学校教育制度を自明の前提としているという面では問い直されるべきですが、それは現在の改正論とはまったくレベルの違う問題なのです。――<本文より>

感想・レビュー・書評

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  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000000831

  • 教育は国家権力から自由でありえるのか?教育基本法がその砦であると捉え、教育基本法改正への懸念を左派系の哲学者として語りおろし、2004年に上梓された。が、著者の提言も空しく2年後の2006年に教育基本法は改正され、「伝統文化の尊重」や「国と郷土を愛する」といった文言が追加された。これを新国家主義的で戦前回帰だと否定的に評価するのか、普遍主義から脱却し左右のバランスが取れたと肯定的に評価するかは意見がわかれるところだろう。
    著者は哲学らしく旧教育基本法や戦後教育にもアポリアがあると論じる。「真理と正義を愛する」というのは「愛の法制化」である(ちなみに改正版では「真理と正義を希求する」に変更)とか、「つくる会」の国家主義的教科書の排除に向けて、国家権力作用に期待する家永裁判支持者の矛盾とか。この辺は哲学者の面目躍如である。
    しかしながら、総じて左派系のイデオロギー色が強いので、その辺は留意して読む必要はあるだろう。もう少し価値中立的で相対主義的に論じればよかったのにとも思うが、あくまでも語りおろしの新書であり学術書でもないし、これが著者の政治的スタンスなので、そこから離れられないのは仕方ないのかもしれないが。

  • 105円購入2012-04-09

  • 右派が「戦後教育で子供がおかしくなった」と言うのは戦後教育悪玉論者のレトリック。実際の統計は昔の方が少年犯罪は多く、逆の結果。事実ベースで議論しないから水掛け論となる。また右派の愛国心教育の狙いが、国の為に命を投げ出しても構わない日本人を生み出すことであれば、まさにそれは教育勅語の「一旦緩急あれば」の世界そのもの。命を捨てて天皇と国家に尽くしなさいということであり、個人の尊厳・価値をないがしろにするもの。

  • 2004年刊。著者は東京大学大学院総合文化研究科教授(哲学)。本書はシンプルな戦後教育擁護論。本書が言うように、公教育は自覚するか否かは別として権力作用の一例。権力側が強調する道徳や倫理がいかに綺麗事か、つまらぬ道徳の授業を受けさせられた学生経験者なら判ろうもの。すなわち、時の権力者がルールを作っている中で、内面への介入は余計なお世話で、本著者に共感。他者に迷惑にならない意見表明を教育機関が妨害する要なく、これは社会生活のルールは教えるべきこととは次元が違う。また、意見内容が左・右如何によらないのは勿論。

  • 最近わが国で勢力をのばしつつある<span style='color:#ff0000;'>「新国家主義」が、教育への介入を強めようとしている</span>。この動きに、東大で教鞭をとる哲学者が警鐘を鳴らす書。2004年の公刊であり、2006年の教育基本法改正の前に書かれたものだが、2012年の現時点でも提起される論点は変わらない。

    高橋いわく。
    敗戦以降、新憲法および教育基本法のもとにあっても、天皇をシステムとして組み入れた体制秩序に郷愁をもつ伝統は、連綿と生き残ってきた。そして彼らは、今回の教育基本法の改正に際して、
    (1)国民は<span style='color:#0000ff;'>「国家」という共同体にとりわけ愛を捧ぐべき</span>であること
    (2)<span style='color:#0000ff;'>伝統文化の尊重・回帰</span>(男女平等の見直しもありえる??)の呼掛け
    (3)個別宗教を超越した「何か」に<span style='color:#0000ff;'>恐れを感じ「ひれ伏す」ような国民</span>となるべきである
    という方向での主張をなしている。これによって教育の現場では例えば「君が代」斉唱の「強制」で、PTA/保護者までその自由を抑圧するような事態も出ている。
    これに対し高橋は、<span style='color:#ff0000;'>教育は個人の尊厳こそを教えるものであって、国家権力から自由でなくてはならない</span>。日本国民はもうこの前の戦争に至ったプロセスを忘れたのか、と慨嘆する。

    高橋の思想としては、アナーキズムにも一定の親近感を抱くような、かなりリベラルな論客のようなので、その語り口もやや警戒的に読んだ。一方で、東京都石原知事や大阪市橋本市長のような人が、パターナリズムで指導力を発揮し、「行動力があって信頼できそうだから」というような理由で多くの人が勢いで過大な支持を寄せてしまう場合の恐ろしさにも思い至る。

    そういうわけで、本書自体は批判的に読むべきだが、これを参考に自分の考え方を見つめ直す良い機会となった。

  • 著者は天皇制の否定。左派系。

    本文はAさんたちが~~すべき→いやそれはダメです。なぜなら~~という論調で進んでいく。
    読みやすいけれど、結局どうすべきなのか、書かれていないような気がした

    最後の歴史教科書を巡る議論は疑問点が多く残る。

    p200に近現代史に関する歴史認識についての著書の紹介があるので読んでみたい。

    公教育とは誰のためにあるのかな

  • 愛国教育が日本を滅ぼす
    その通りだろう
    憲法13条にある「個人の尊重」がないがしろにされる
    愛国にもとづく支配は楽で効率的
    行政国家にはもってこいだろう
    しかしそこに「人」が存在しない
    国家の三要素「国民」が消え去るのではないか
    『すばらしき新世界』を思い出す
    1人のエリートだけでいい
    効率を求めて、自ら人間をやめていく現状
    いつか現実のものになりそうで怖い
    教育と国家
    もう一度みんなが考えるべきだろう

  •  教育と国家の関係について、哲学を専門とする左派の著者が論じた本。

     「戦後教育が不登校、引きこもり、学級崩壊、学力低下などを招いた」という論には論理の飛躍が多いこと、愛国心を持つことと、愛国心教育を推進することは違うということ、戦時中でも礼儀や道徳を重んじず、国策に無関心な国民が多かったなど、主張は大体分かった。予想はできたが。

     面白いのは、教えて良いものは『心のノート』にあるような愛国的道徳ではなく、倫理思想であるというもの。これは「正しい道徳」を教えるのではなく、「正しいとはどういう状態なのか」、「道徳とは何か」、「どうして人を殺してはいけないのか」といったことを自分の頭で考えるというもの。

     ここまではいいけど、日の丸や君が代にかわる国旗と国歌の方がいいという論には賛同できない。式典での日の丸と君が代の強制と、法律で日の丸と君が代を正式な国旗と国歌として定めることとはまた別の話だと思う。

  • [ 内容 ]
    戦後教育は本当に間違っていたのか?
    国が推進する「愛国心」教育改革のウソを検証し、教育基本法改正の危険を衝く。
    いまこそ教育と国家権力を根本から考え直そう。

    [ 目次 ]
    第1章 戦後教育悪玉論―教育基本法をめぐって
    第2章 愛国心教育―私が何を愛するかは私が決める
    第3章 伝統文化の尊重―それは「お国のため」にあるのではない
    第4章 道徳心と宗教的情操の涵養―「不遜な言動」を慎めという新「修身」教育
    第5章 日の丸・君が代の強制―そもそもなぜ儀式でなければならないのか
    第6章 戦後教育のアポリア―権力なき教育はありうるか

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著者プロフィール

高橋 哲哉(たかはし・てつや):1956年生まれ。東京大学教養学部教養学科フランス科卒業。同大学院哲学専攻博士課程単位取得。東京大学名誉教授。著書:『逆光のロゴス』(未來社)、『記憶のエチカ』(岩波書店)、『デリダ』『戦後責任論』(以上、講談社)ほか。訳書:デリダ『他の岬』(共訳、みすず書房)、マラブー編『デリダと肯定の思考』(共監訳、未來社)ほか。


「2024年 『沖縄について私たちが知っておきたいこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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