マホメット (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061588776

作品紹介・あらすじ

イスラームとは何か。マホメットとは誰か?根源的な謎に答えるため著者はマホメット出現以前のアラビアの異教的文化状況から説き起す。沙漠を吹暴する烈風、蒼天に縺れて光る星屑、厳しくも美しい自然に生きる剽悍不覇の男たちの人生像と世界像。魅力つきぬこの前イスラーム的文化パラダイムに解体を迫る激烈な意志としてマホメットは出現する。今なお世界史を揺がし続ける沙漠の宗教の誕生を、詩情豊かに描ききる名著の中の名著。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルの通り、マホメット(ムハンマド)は何者なのか、また何をしたのかを描いた本。
    突然歴史の表舞台に現れ、急速に勢力を拡大し、アジア・ヨーロッパ世界に絶大な影響を及ぼしたイスラーム。そのイスラームを生んだマホメットとは一体何者なのかと興味を持ち、この本を読んだ。マホメットの魅力を著者は抒情的に表現している。「渺たるアラビア砂漠の一点にこの人物が現れて手を一振りすると忽ちそれに応じて世界が動揺し、惑乱し、果ては東洋の歴史ばかり
    か西洋の歴史までも大きく旋回してその流れの方向を変えてしまう。善にせよ悪にせよ、ともかく史上の一大壮観ではないか。これを壮観とよばなかったら何をその名で呼べるだろう。そして、ここまで考えて来れば、こんな大きな一撃を人類の歴史に与え得たマホメットはそも何者であろうか、という疑問が自ら人々の胸に湧いてくるのも当然すぎるほど当然ではないだろうか。」

    本書の大半はマホメット登場前のジャーヒリーヤ時代の考察に裂かれている。ジャーヒリーヤ時代は、剽悍で果敢なベドウィンたちの時代であり、そこでは血のつながり、部族がすべてであり、過去が現在以上に尊いものとされた。一方で、根源的な不安、死に対する恐怖に囚われ、自暴自棄となり刹那的な快楽に溺れていた。そんな精神的状況下でマホメットが登場し、人々を救済しようとする。ここの考察が、当時の詩を引用しながら、手触り感をもって説明されており、様々なイメージを与えてくれる。

    内容もさることながら、それ以上に文章が素晴らしい。著者のムハンマドへの並々ならぬ情熱をのせて、当時のアラブ世界を抒情的に表現しており、読んでいて非常に気分が良い。爽快感すら感じる。著者は意識的に血の通った表現でマホメットを描いてる。「・・・自分の心臓の血が直接に流れ通わぬようなマホメット像は私には描けない。だからいっそ思いきって、胸中に群がり寄せてくる乱れ紛れた形象の誘いに身を委ねてみよう。・・・幻の導くままに数千里の海路の彼方、荒寥たるアラビアの沙漠に遥かな思いを馳せてみよう。底深き天空には炎炎と燃えさかる灼熱の太陽、地上には焼けただれた岩石、そして見はるかす砂また砂の広曠たる野。・・・」一語一句そのまま覚えたくなるような名文にあふれている。このような文章は、読むだけで生新の気が心に流れ込んでくる。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/739966

  • 名著の中の名著という。然り。

    ・アラビア騎士道の聖なるスンナを彼は狂愚迷妄と断言し、一挙に抹殺しようとした。この意味において、そしてこの意味においてのみ、マホメットの宗教運動は大胆無謀極まりない一の革命であった。

    ・元来マホメットは傲慢な超人的な人間ではなくて、むしろ臆病な、小心翼々たる人だった。その彼を一挙にして強靭な石腸に変貌させたものは突如として彼を襲ってきた終末観的感覚であった。

  • 粗野で傲岸、豪宕な砂漠のベドゥイン。かれらの素朴な多神教を純正な一神教にまとめたマホメットの宗教改革。一神教であるキリスト教よりも純正な一神教を標榜し誕生したイスラム教。これらの様子が生き生きと描かれる。

  • 読了

    100ページくらいなのですぐ読み終わる
    そして凄く面白い
    これ読んでイスラム教に興味もたないとかあるのかね?ってくらい面白い

    心と脳に一服の知の清涼感

    イスラム教以前の砂漠の民の無道の時代の部族社会の精神から、要らない伝説を削ぎ落として確からしさを基本に編集された人間らしいマホメットのつくる「人に差があるとしたら信仰のあつさだけ」という平等感と、焦りから出る暴力肯定などなど

    唯一、確かな歴史時代に産まれた宗教のはじまりにある政治や国のおこりは、思わずユダヤ、キリスト、ブッダのおこりももかくやあるらん、違うのはやっぱりジハードの感覚

    そしてそれは、無道時代の名残ぽく見える

    なんにしろ面白かった

  • イスラム教創始者のマホメット(ムハンマド)の生涯などについて書かれた本だと思っていたが、メインはそこではなかった。
    (もちろんマホメットの生涯についても書かれているけれど)
    イスラム教が生まれたその経緯、マホメットが生まれ育った当時のメッカ(マッカ)の情勢や、イスラム教が生まれる前のアラブ文化などから説明がされていて、なぜあの時代、あの場所でイスラム教が生まれたのか、ずっと不思議だったことが少し理解できた気がする。

    著者の井筒さんはベドウィン(砂漠の遊牧民)の詩がすごく好きなんだと思う。
    この本は全体を通して文体に熱がある。
    要所要所でベドウィンの詩が紹介されているけれど、その熱く情緒的な詩の温度がこの本全体に漂っている。
    砂漠の乾いた暑さが読んでいるだけで伝わってくるような気分になった。

    私が知識がないだけかもしれないが、知らない漢字や単語が多くて読み進めるのに少し苦労した。
    前後の文からなんとなく意味は分かるものの、正しく理解したくていちいち調べて読んでいたので。

    例えば・・・
    渺(びょう)たる→ 水面などが限りなく広がっているさま。 はるかにかすんでいるさま。

    爽昧(そうまい) →夜明け。 あかつき。 「爽」は明るい、「昧」は暗い意。

    剔抉(てつけつ)→① えぐり出すこと。 ほじくり出すこと。 ② 悪事や欠陥、矛盾などをあばき出すこと。

    など。


    それと、牧野 信也さんの解説も大変面白い。(本編が100Pほどなのに、解説が20P もある)
    著者の井筒さんは、禅者であるお父さんから、思考するな実践あるのみ。という観照的教えを受け、自身もそうであると信じていたらしいが、西欧神秘家たちの著作に接するにあたり、これらと正反対の事実がることを知った。
    しかし、さらにこれら西欧の哲学等に触れるうち、「このような哲学的思惟の源泉としての観照的体験の発見」をする。
    てっきり、最初からアラブ文学に対する興味関心が高く、その道に進んだ人だと思っていたので、驚きの経歴だった。

    解説には細かい経歴も載っている。
    最初は言語文化、言語哲学、イスラーム学などを専門にしていたらしい。
    「ロックフェラー財団の招きによって、中東、ヨーロッパ、アメリカを歴訪した」
    と書いてあるのも興味深い。
    イスラム文化に精通した人をユダヤの財団が招くとは。

    その後も井筒さんの経歴や過去の著作、その内容などについて16Pほど書かれ、ようやく最後にこの著作「マホメット」についての解説がされる。

  • 興味深かった。
    イスラム以前のアラビア世界なんて想像していなかったので、想像力をかきたてられた。戦士のようなベドウィンの世界。
    また、いかにマホメットが異端な男だったのかもわかった。
    やはり、国家も宗教も企業も創業者の意思が綿々と受け継がれるということだろう。

  • 本編117ページの薄い文庫本だが内容は濃い。イスラーム教成立以前の砂漠の民の考え方や原理を紐解く。マホメット自身の生涯については、どの時点でコーランのどの箇所を書いたかについて記録することで、クライシュ族、ユダヤ教徒、そしてキリスト教徒へと対立の矛先の変遷を解説。

  • ムハンマドの誕生した時代と社会、誕生後の軌跡について、熱をこめた筆致で綴られている。

    サイードの『オリエンタリズム』を読んだ後だっただけに、懐疑的に読み進めた。

    結果、イスラームの宗教性の根源にまでたどり着いた感じはしなかったが、今後、イスラームに接する際の参照点には十分なりうる著作であったとは思う。

  • 各種メディアで極めて表面的に日々伝えられてきた国際問題。ここに来てその機会が更に増えてきた。
    間もなく40を目前とする大人としては、そろそろ(今更?)自分なりに偏ることなくその問題の根底にあるものを知り、客観的な解釈が出来るようにならないといけない考えていた。
    今までもユダヤ教徒でもキリスト教徒でも、イスラム教徒でもない日本人が現在中東で起こっている諸問題を一面的に理解してしまおうというのはあまりに無謀であることは何となく分かっていたのだが、この機会に少し勉強してみようと思う。
    手始めにアマゾンのレビューを参考に評価の高かった本書を手に取った次第。
    本書はマホメット(ムハンマド)の登場以前の時代背景から分かり易く書かれており、この分野の導入の書としての選定は適当だったと考える。

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著者プロフィール

1914年、東京都生まれ。1949年、慶應義塾大学文学部で講義「言語学概論」を開始、他にもギリシャ語、ギリシャ哲学、ロシア文学などの授業を担当した。『アラビア思想史』『神秘哲学』や『コーラン』の翻訳、英文処女著作Language and Magic などを発表。
 1959年から海外に拠点を移しマギル大学やイラン王立哲学アカデミーで研究に従事、エラノス会議などで精力的に講演活動も行った。この時期は英文で研究書の執筆に専念し、God and Man in the Koran, The Concept of Belief in Islamic Theology, Sufism and Taoism などを刊行。
 1979年、日本に帰国してからは、日本語による著作や論文の執筆に勤しみ、『イスラーム文化』『意識と本質』などの代表作を発表した。93年、死去。『井筒俊彦全集』(全12巻、別巻1、2013年-2016年)。

「2019年 『スーフィズムと老荘思想 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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