常世論: 日本人の魂のゆくえ (講談社学術文庫 897)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061588974

作品紹介・あらすじ

常世は、水平線の彼方に対する憧憬と死がまじり合ったもの。しかし常世は、祖霊の在す幽界や黄泉の国、そして沖縄のニライカナイともつながら。著者は、そうした世界が観念化される以前の原風景を求めて、補陀落渡海や浦島伝説、また産小屋の問題などに立ち向かう。新しい発見の感動に支えられて、柳田・折口両先学らの論を一歩進めようと、日本人の原郷意識に挑んだ谷川民俗学の代表作の一つ。

感想・レビュー・書評

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  • ここのところ夏休みは毎年沖縄に行っている。えも言われぬなつかしさがハマる原因、思っていたが、そもそもなんでなつかしく感じるのかがよくわからない。
    と、思っていたら民俗学者である著者が80年代初頭のこの本ですでに説得力のある仮説を提示していた。

    日本人の祖先は、はるか南方の島々から黒潮に乗ってまず沖縄にたどりついた。当時の航海術では潮に乗ることはできても戻ることは不可能。こうして「海のかなた」は「死後に戻る場所」、同時に「神のおわす憧憬の地」、すなわち「常世(とこよ)」となった。「沖縄の海を眺めるときの感動は、日常的な空間と非日常的な空間、現世と他界とが一望に見渡せるときのそれである。」(P14)

    著者は全国の地名やとくに埋葬の習俗を丹念に調査することによって、そこに沖縄の古語や言い伝えとの共通点を多く発見していく。仏教やキリスト教の影響を受ける前の古代日本人の死生観があらわになっていく。
    (例えば、海沿いの洞窟に風葬する習慣が古代日本の各地にあったらしい。霊魂が懐かしい海の音を聞いて風に揺られていられるように、という考察には胸を打たれるものがある)。

    「日本人の民族体験についての記憶の総和は、・・・『集合的無意識』として日本人のなかに流れ、沈殿している。」(P.61)なつかしいのもむべなるかな、ということか・・・

    民俗学の論証はいわばフィールドワークによる「状況証拠」の積み上げだから、どこまで納得するかは読み手次第と感じる部分もあるが、それでもそのち密さには圧倒される。沖縄好きにとってもたまらない本。

  • 1322夜

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著者プロフィール

1921年、熊本県水俣市生まれ。東京大学文学部卒業。 「風土記日本」「日本残酷物語」、雑誌「太陽」の初代編集長を経て、文筆活動に入る。「南島文学発生論」で芸術選奨文部大臣賞・第2回南方熊楠賞受賞。「海霊・水の女」で短歌研究賞受賞。 1981年以来、日本地名研究所所長として現在に至る。文化功労者。 冨山房インターナショナルより「谷川健一全集」(全24巻)を刊行した。

「2013年 『谷川健一全集 全二十四巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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