- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061590823
作品紹介・あらすじ
毎日われわれの眼前に出ては消える事実のみによって、立派に歴史は書けるものだという著者が、明治大正の日本人の暮し方、生き方を、民俗学的方法によって描き出した画期的な世相史。著者は故意に固有名詞を掲げることを避け、国に遍満する常人という人々が眼を開き耳を傾ければ視聴しうるもののかぎり、そうしてただ少しく心を潜めるならば、必ず思い至るであろうところの意見だけを述べたという。
感想・レビュー・書評
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名著である。柳田56歳(昭和5年1930年)の執筆で、以後の研究が村落調査に偏っていくので、柳田の民俗学・社会学の集大成と言えるそうだ。全15章からなるが、『明治大正史』と銘打っていながら、西郷も岩倉も誰も出てこない。この本は「世相篇」であって、日本中の田舎や都市の生活の変化が、衣服の色、食物、家の建築、風景の推移、交通の変化、酒の飲み方、恋愛の仕方、葬式や相続、商工業、出稼ぎ、僻地医療、組合、選挙などから、語られている。ここに多量の博学が挿入されていて、読むのに大変時間がかかるが、味わいも深い。明治になるまで障子紙が一般には広まらず、戸板を閉めていたので暗かったが、子供が手習いを始めるようになって、その反故で障子を貼るようになり、家の中が明るくなったとか、現代の日本人が伝統食と考えているご飯と味噌汁、漬け物などは明治の新家庭がやっとこさえた形式であり、それまでは火を囲んだ暮らしで、一家の主婦は「カカ座」に坐り、食物分配を取り仕切る権力を握っていたとか、酒の製造は女性がやっており「杜氏」「刀自」はもと「母」の意味だとか、とにかく現在の生活につながっている伝統がどうしてそうなのかが分かります。また、柳田の学問は経世済民から出発しており、出稼ぎ問題や選挙方法などに、歴史を踏まえて改良するべきだとしています。現代日本の社会問題を考えるには必読だと思います。
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講談社学術文庫
柳田國男 明治大正史 世相篇
世相から日本文化を読み解き、将来の日本に提言した本。眼に見、耳に聞いた明治大正の世相のスケッチは見事
著者が世相から捉えた時代感覚は「人を不幸にする原因は自分の周囲にある」というもの。それは 共同団結により改善できるというメッセージを含んでいると思う
「眼に映ずる世相」の中で取り上げた 日本の色についての論考は新鮮
*色彩にも近代の解放があった
*色の存在は〜美しいものはすべて移り動くことを法則としていた
*日本の色彩文化に影響を与えたのは「あさがお」〜あらゆる色を出した
*色の歴史は〜文化の時代相を映している
「伴を慕う心」「群をぬく力」「生活改善の目標」の共通テーマである共同団結性が、著者の伝えたいことと解釈した
*団結は最初から共同の幸福がその目的であった
*多くの弊害を内包しているとはいえ、共同団結に拠る以外に、人の孤立貧には光明を得ることはできない
*群に核心がなければ団結は〜持続しない
生活改善の目標
*一人一人のすることは小さくても、今に集まったら何かになるということを感じて〜科学の成長に、大いなる期待をかけるようになった
*新たな発見をしようとすれば、問題を自分の周囲に求める方が便である
*改革は期して待つべきである。一番大きな誤解は人間の愚痴軽虜、それに原因を持つ闘争と窮苦が〜偶然に起きて防止できないと考えられていること
*いくつかの世相は、人を不幸にする原因は社会にあることを教えた〜われわれは公民として病みかつ貧しいのであった
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この本が、世相ということばが初めて使われたものだとか
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「女性が労働に携わると家庭が壊れはせぬかという心配はむしろ杞憂である。」
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柳田国男による、暮らしの世相史。「毎日われわれの眼前に出ては消える事実のみによって、立派に歴史は書けるものだ」。漠然と、「伝統」だと思っていたものの正体がわかります。
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[ 内容 ]
毎日われわれの眼前に出ては消える事実のみによって、立派に歴史は書けるものだという著者が、明治大正の日本人の暮し方、生き方を、民俗学的方法によって描き出した画期的な世相史。
著者は故意に固有名詞を掲げることを避け、国に遍満する常人という人々が眼を開き耳を傾ければ視聴しうるもののかぎり、そうしてただ少しく心を潜めるならば、必ず思い至るであろうところの意見だけを述べたという。
[ 目次 ]
第1章 眼に映ずる世相
第2章 食物の個人自由
第3章 家と住心地
第4章 風光推移
第5章 故郷異郷
第6章 新交通と文化輸送者
第7章 酒
第8章 恋愛技術の消長
第9章 家永続の願い
第10章 生産と商業
第11章 労力の配賦
第12章 貧と病
第13章 伴を慕う心
第14章 群を抜く力
第15章 生活改善の目標
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ] -
民俗学者 柳田國男の本を初めて手に取る。日本の近代史に興味があり、歴史的な出来事の裏側にある世相というか一般庶民の暮らしぶりを知りたいと思ったからだ。しかし当初の狙いは8割は外れたが、別の意味で新しい発見となった。江戸から明治という大きな変革が農村へどのようにもたらされたか、また一方で江戸以来続いて変わらないものとはなにかということが、小さな事柄ひとつひとつを追いかけていくうちに全体像がぼんやりと浮かんできた。衣服、食事、住居、、村の生活、街道の発展、交通、酒、恋愛、家督、商工業・・・。おそらく当時にいる人からすれば当たり前のことで気にも留めないことだったのに、将来というか現代の人から見れば、驚きに映る風習、思想がこんなにもあった。興味深いことばかりであった。
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